No.656950

暁光のタイドライン~1~ 第三章 喪失艦

ゆいゆいさん

艦隊これくしょん~艦これ~キャラクターによる架空戦記です。
新任提督と秘書艦榛名がエピソード毎の主役艦娘と絡んでいく構成になっています。

艦隊発足エピソードの完結編です。次回は金剛着任エピソードとなります。今回に比べると少しラブコメ要素多めになりそうです。
※更新:長…八十八姉妹の名前がアレと全くの同名なのは作劇上よろしくないので字を変えました。

2014-01-23 16:49:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:968   閲覧ユーザー数:941

第三章 喪失艦~友ヶ島泊地~

 

 

和歌山県加太沖。加太と兵庫県淡路島洲本とを結ぶ、紀淡海峡にある無人島群を友ヶ島と呼ぶ。

明治時代、沖ノ島を中心として旧日本軍によって砲台が設置され、要塞化された。それらの施設を改修し、船越艦隊の基地としたのである。

港や司令部、宿舎等の施設は北岸に配置され、南側は鬱蒼と茂る木々に隠れるように観測所や後者砲台が設置されていた。

とはいえ、本来巨大な建造物である戦闘艦が多数停泊できるような立地ではなかったことは我々の知る史実が証明するところである。つまりはここを前線基地とできたのは他でもない、その巨大な船体を人力で持ち運べる程度にまでコンパクト化した艦娘システムの恩恵ともいえよう。

余談ではあるが改修は呉海軍工廠、大規模修理は神戸と大阪の民間造船所で行われる手はずとなっていた。そのため、友ヶ島泊地には簡素なドックしか設置されていない。

 

司令部庁舎内、執務室。

船越は島風の事情聴取を行っていた。

無断出撃について散々説教を食らったせいで髪飾りがすっかりしおれてしまっている。

 

「ところで…だ。駆逐艦島風、お前は一体誰に助けられたのだ?」

「…わかりません。でも、それまでは近くに艦影は見えませんでした。本当…です。」

 

「提督、よろしいでしょうか?」

榛名が口を挟む。

「察するに島風が敵艦隊と接触する以前から海域を航行していたのなら、島風も気づくはずです。いえ、戦闘中であっても敵味方双方が接近に気づくこともなく、敵戦艦ですら為す術もなく一方的に撃沈された。状況から導き出される結論は…大口径砲によるアウトレンジからの艦砲射撃。それ以外に考えられません。」

神妙な面持ちで榛名は続ける。

「敵戦艦の16インチ主砲の射程外から水線下を狙い砲撃することは私達金剛型にも不可能です。旧帝国海軍艦艇ですと大和型の46センチ砲か、長門型の41センチ九一式徹甲弾だけですが…新型艦はもとより大和も武蔵も現在日本近海にはいないはずですので…。」

 

「ということは、消去法で長門か陸奥…ということになるが…。」

「ですが、大東亜戦争以後の長門型の去就については提督もご存知の通りです。」

「長門型戦艦娘が現存するはずがない、か…。事件は迷宮入り…というヤツだな。」

 

艦娘が引き継ぐ「戦闘艦の記憶」とはオリンピックの聖火のようなものであるという。種火がある限り引き継ぐことができるが、一度消えてしまうと永遠に失われてしまう。

長門型戦艦は海軍内でも人気が高く、艦娘システムが実用化されるや否や艤装体本体へ記憶の引き継ぎが行われた。

現在「戦闘艦の記憶」は海軍管理下で厳重に保管されていて、現行の艤装体にはオリジナルから写し取ったいわばコピーされた記憶が用いられている。だが、長門を含め最初期に生産された艤装体にはオリジナルがそのまま移植されていたのだ。

金剛型も同じく最初期から存在する艤装体であったが、轟沈を免れたため、現行方式への移行に成功していた。

長門型、つまり長門と陸奥の二隻は運用実験中に喪失したため、「戦闘艦の記憶」は永遠に失われてしまったのだ。

 

少なくとも、公式の記録では…。

 

「榛名、呉への報告書には未確認艦からの砲撃により…とでも書いておいてくれ。誰一人視認はしていないんだ。嘘はついていない。」

頷く榛名。

「よし、これで事情聴取は終わりだ。行っていいぞ、島風。」

「…はい、失礼します…。」

 

「…そうとう凹んでますね。」

「死にかけたんだ、当然だ。」

榛名は不安げに船越の顔をのぞき込むとひとつ大きく息を吸って、努めて明るい口調で提案を切り出した。

「提督も少し外の空気を吸って気分転換されてはいかがですか?報告書の作成は榛名にお任せください。播磨灘からこっち、ずっと気を張りっぱなしだったではありませんか。」

「それは榛名も同じ…いや、そうだな。そうさせてもらおう。すまんがよろしく頼む。」

「はい、承りました。」

 

執務室を榛名に預け、船越は外へと出た。

艦娘用の宿舎は司令部庁舎から5分ほど歩いたところにある。宿舎の方に目を向けると走っていく島風の後ろ姿が見えた。艤装を外していてもせっかちな性格は変わらないようだ。

優しい声の一つでもかけてやりたいところだが、宿舎に帰れば電達がいる。彼女らに任せておけば間違いは無いだろう、と船越は考えただ見送るだけにとどめた。

港の方へ向かってしばらく歩くと、その他整備や通信を担当する兵員達の宿舎があった。

元々が小さな無人島なので平坦且つ潮を被らない地形は少ない。建造物は用途別バラバラに建てることで対応していた。

 

 ザッ、ザッ。

 

軍港の手前にある連絡船用に設けられた桟橋と、兵員宿舎の間はちょっとした広場になっている。

そこで掃き掃除をしている女性がいた。

女性が船越の存在に気づき、手を止め、深々と頭を下げる。釣られて船越も会釈してしまった。

 

「提督、気づかず大変失礼いたしました。」

 

穏やかな、それでいてどこか凛とした力強さを感じる声だった。

長身に長い黒髪がよく映える。船越はその姿をとても美しいと感じた。

 

「いや、こちらこそ仕事の手を止めてしまってすまないことをした。君は確か…?」

「この島の管理雑務をやっております八十八(やそや)桜歌と申します。私と、それともう一人そろそろ帰ってくるかと思いますが…」

 

桟橋に船が着いた。中から女性が現れ、手際よく船を係留させると、桜歌に向けて手を振った。

 

「姉さん、ただいま!」

桜歌を姉と呼ぶ女性はなるほど端整な顔立ちは桜歌に似た面持ちを持つが、こちらは茶色がかった短髪が外に向かって跳ね上がっており、姉に比べ活発そうなイメージを受ける。

 

「…あれが妹の菊歌です。妹は食料調達や人員搬送などで一日に二回、ああして船で本土とこの島を往復しているのです。」

「姉妹して桜と菊ですか、よい名だ。」

「もし何かございましたら、何でもお申し付けください。戦争のことはよく分かりませんが、島のことでしたら色々とお手伝いできると思いますので…。」

「ありがとう、これから世話になります。」

 

「提督、提督ー!」

「島風、どうした?」

「榛名…さんが提督呼んできてって。」

「そうか、報告書ができたからかな。」

「はーやーくー!」

 

駆け寄ってきた島風に手を引かれ、今度は司令部庁舎の方へ引きずられていく。

 

「姉さん、”荷物”は運び終えたよ。」

「ああ、ご苦労だったな。」

「あの人がここの提督?」

「そうだ。なかなかの好青年だ、気に入った。」

「へえ…姉さん、ああいうのが好みなんだ。」

「知っているだろう?私はその手の冗談が嫌いだと。」

「はいはい、そういうことにしておきます。…それはそうとさ、アタシらが何者か言わなくてよかったの?」

「ああ、船越提督に要らぬ気苦労を背負わせたくない。我々の正体を明かせば我々の意思に関わりなく彼とて軍に報告せざるを得ないだろう。そうなったら我々はまた軍の管理下に置かれることになる。私は今度こそ攻めるための剣ではなく、護るための盾として生きたいのだ。」

「そのことについては停泊中に事故で爆沈したアタシがどうこう言える立場じゃないけどね。アタシは今度こそ姉さんと最期まで一緒に戦いたい、ただそれだけ。…ま、ここなら姉さんの大好きな庭木弄りが思う存分できるしね。いいんじゃない?」

「フッ、そういうことだ。」

 

一方船越はというと、島風に引きずられるまま広場から道へと入ったあたりで第六駆逐隊の四人と鉢合わせた。

 

「し、司令官!…ご機嫌よう…です!」

軍帽を被った黒髪の方、第六駆逐隊のリーダー格である、暁。先ほどまで息を切らしていたのに船越の姿を認めるや姿勢を改めたのは「一人前のレディたる物、殿方の前で取り乱すことははしたないことだ」と考えているからだろう。

船越はそんな暁を気遣って敢えて知らぬふりで、膝を折り、目線を彼女に合わせてやる。

「暁、第六駆逐隊総出での出迎え、ご苦労だな。有能な艦娘を持って私も鼻が高い。」

「えへへ…どういたしまして、なのです。」

褒めてやるとたちまち表情が崩れるところなどまだまだ子供なのだが、そこには触れないのが優しさというものだ。

 

「あんた、本当に足だけは速いわね…。」

息切れを隠そうともせず、島風の俊足をぼやくのは雷だ。言いたいことは言うタイプだが、それだけに表裏がなく、常に前向きで相手の長所を見抜くのが得意であり、面倒見も良い。

 

「さすがに少し…がんばりすぎた。」

銀髪と涼やかな眼差しが印象的なのは響。言動も見た目通りクールだが、内面はとても優しく、さりげない気遣いのできる娘だ。

 

この三人と電を加えた四人が第六駆逐隊である。

会話の流れを聞いていると島風を元気づけるために「かけっこで提督を呼びに行こう」と雷か電あたりが提案したようだ、と推察できた。

 

「皆、ありがとう。」

船越はそれだけ言うと五人の頭を撫でてやったのだった。

暁だけは不満そうだったが、じゃあ暁だけやめとくか?と訊ねると、不公平なのはよくないと言って頭を差し出してきた。

 

司令部庁舎に戻ると榛名が待っていた。

「お帰りなさいませ、提督。報告書が出来上がりましたのでご確認の上、承認いただけますでしょうか?」

 

船越は一通り、報告書に目を通すと承認のサインをした。

「…あ、そうでした。先ほど連絡があったのですが、姉の金剛も明日には合流できるようです。」

「わかった。ところで榛名、君に頼みがあるんだが…。」

「はい、何なりと。」

「その、なんだ。行きがかり上で書類作成などを押しつけてしまったわけだが…君さえよければこのまま私の秘書艦になってはもらえないか?」

「えっ?」

「戦闘でも中核を担ってもらわなくてはならない君に余計な仕事を増やすことになるのは忍びないのだが、駄目だろうか?」

「駄目だなんてそんな!」

顔を真っ赤にしてかぶりを振る榛名だったが、息を整えると真剣な眼差しで船越を見据えた。

「島風を救う術がないと知ったときの提督を見て榛名は心に決めておりました。提督は本当にお優しい方。それでいて事態を大局的に認識し、公平な判断のできる方です。この命賭けて榛名は提督の剣となり、盾となりましょう。榛名でよろしければ秘書艦の大役、喜んでお引き受けいたしましょう。」

「ありがとう、榛名。これからよろしく頼む。」

「Yes,my admiral.」


 
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