明るい話
世界は薄暗かった。太陽が小さいためだと言われている。
昔は今よりも遥かに大きくて、明るかったという。
生まれたて眼が悪い君は、今の世界の暗さよりも一層暗い世界で生きていた。
時折、ストレスが溜った君は暴れたりもした。
そうすると俺はいつもそばにいて「大丈夫だ」。と、抱きしめる。
震える肩が治まるまで、ずっと、ずっと。
ペタペタと俺の顔に触れ、何かを確かめる君はいつも楽しそうで、たまに不安そうだった。
「くすぐったいよ」。というと触れている手が熱くなるのを感じた。
いつも君が隣にいて、僕の手を優しく握り返してくれた。
世界が少し明るくなった。太陽が大きくなったらしい。
そのせいなのか、君の視界が良くなって、気付いたら一人で歩いていた。
あぁ、君はもう大丈夫なのだな。初めて見る景色はどうだい?―――君は何処にいくんだい?
顔にかかる太陽の暖かさが憎く思った。
パーティを開いた。
キラキラと輝くご馳走に、パチパチと弾ける飲み物。
チン
恥ずかしそうに笑う君が可愛くて、その飲み物を飲んだ姿までにも見惚れてしまう。
君の為に用意したものだから、見ているだけで十分なんだ。俺が飲む必要は無い。
パーティが終わるころ、君の眼はまた暗い世界へと行こうとしていた。
「あ…?」
君が両手で顔を覆い、俯く。
「大丈夫だよ」。
同時に君がフッと顔を挙げた。
それは今まで見たことない、綺麗な笑顔だった。
(あぁ、君はまた俺のそばにいなきゃいけないんだね)
「…ごめんね」。
帰り道。握られた手はいつもより少し弱くて、俺は離れないように強く握る。
日差しはより一層強く、俺たちを照らしているのに。
君の手は冷たかった。
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前作「暗い話」のもう1人の話。
当初は書く予定はなかったのですが、「暗い話があれば明るい話が
あってもいいじゃないか」。と、思い書きました。