「袁術殿、それでは我等はこれにて失礼致します」
孫権達が帰国する。
本来は人質として来ておったのじゃが、一刀が帰国させるといったので妾は了承して七乃も何も言わなかったのじゃ。
妾は孫権達が来てから、ずっと気になっておった事を孫権たちに言う。
「孫権、今まで意地悪な事をしてすまなかったのじゃ」
妾は頭を下げる、してた事を思えば許して貰えるとは思わぬが、せめて謝りたかったのじゃ。
下げた頭の上から声が掛けられた。
「どうぞお顔を上げてください。その御言葉、確かに国に伝えます。私の真名は蓮華です」
「思春と申します」
「わ、私は亞莎です、そうお呼びください」
孫権達の表情は、一刀と話していた時と同じ笑顔。
「妾は美羽、美羽と呼んでほしいのじゃ」
「真・恋姫無双 君の隣に」 第9話
黄巾を討っても、俺の心には何一つ晴れるものは無い。
賊討伐では投降を呼びかけたが、黄巾には呼びかけずに逃げるに任せている。
現実的に捕虜とするのは無理があるんだ。
街や村を襲っていた時は容赦しない。
でも抵抗している時の彼らの姿は、あまりにも哀れに見えた。
碌な装備もしておらず、敗走するも逃げたところでどこに行くっていうんだ。
元はただの民なのに、それでも民の為に民を討つ、最悪だ。
厭戦気分のまま凪達を連れて転戦を続ける途中、義勇軍が接触してきた。
劉の旗、劉玄徳だ。
華琳の下にいる頃の劉備の印象は良く言えば強か、悪く言えば何考えてんだ?が俺の感想だ。
華琳が言った事とはいえ、実質無償で恩を受けておきながら攻めてくるか、普通。
ただ成都の決戦で華琳との一騎打ちから、おそらくは王になりたくなかったと思われる劉備の本心。
最後まで口には出さなかったが、あの悲痛な訴えは逆に王なんだなと思った。
優しい女の子だった、そこには人の気持ちを受け止める器がとても大きい、重荷から逃げなかった王足りえる娘だった。
まあ、劉備の言う事は勝手な事を言ってるなとも思ったし、もう少し足元を見ようよとも思ったが。
今考えると、華琳がいなかったら逆に蜀なんて無かったんじゃないか。
非常に酷い言い方だが、あれは敗者の寄せ集めで国では無かったと思う。
劉備に縋っていただけの集団だ。
追い討ちをかけるようだが、華琳の気質では無理な話だけど、赤壁の戦いを勝利した後は放って置いたら勝手に廃れていたように思える。
例えば此方は守り一辺倒で相手をしなかったら、向こうは無理やり攻めてきて国力を弱めるだけだったんじゃないか、元々国力の差は比べるまでもないし。
ハッ、いかんいかん、これから会うのに先入観を持ってどうする。
仮にも三国志の代表に連ねる英雄にその首脳陣、俺には及びもつかない深い考えがあるんだろう。
私達は遭遇した袁術軍にお願いをして、天の御遣い様の天幕に来て話をしてます。
「成程、共闘して北に対陣してる黄巾を討とうという訳だね」
「はい」
朱里ちゃんに言われた通りに私は御遣い様に伝えました。
私は噂でしか聞いた事がなかったけど、朱里ちゃん雛里ちゃんは御遣い様のいる領地に行ったことがあって、内容はよく分からなかったけど頭のいい朱里ちゃん達が凄い褒めてた。
きっと、とっても凄いんだね。
どんな人なのかなって色々想像してたけど、優しそうなお兄さんだった。
「それとごめんなさい、実は私達の食料が残り少ないんです。頑張って働きますんで食料を分けて欲しいんです」
「そうか、確かに義勇軍の立場では食料を調達するのも大変だろうしね」
うん、正直に言って正解だったよ、だって同じように民の為に戦ってるんだもん。
民の為に良い政をしている御遣い様なら、きっと分かってくれると思ってたんだ。
「一つ聞いていいかな、劉備さん達は何を目指して戦ってるんだい?」
「はい、皆が笑ってすごせる世の中にしたいんです」
「それは素敵だね、実際どうやって成就するのかな」
「えへへ、私は頭が良くないですけど朱里ちゃん雛里ちゃんはとっても賢いですし、力も弱いけど愛紗ちゃんや鈴々ちゃんはとっても強いんです。だから皆で協力すればきっと出来ると思います」
「皆で協力するって大事だよね、それで関羽さん達も劉備さんの理想に共感したんだ」
「はい、桃香様の理想の為、この関雲長、力を振るうと誓いました」
「鈴々はお姉ちゃんと愛紗に付いていくのだ」
「はわわ、はい、桃香様の理想に私の学んだ事を生かしたいと思いました」
「あわわ、朱里ちゃんと一緒に支えたいと思いました」
うん、いい仲間を持って私、幸せだよ。
御遣い様が少し考えたいから四刻後にもう一度来て欲しいという事で、私達は自分達の天幕に戻りました。(*注:一刻は約15分)
「いい人だったねえ、愛紗ちゃん」
「はい、義勇軍という事で見下す事もなく、桃香様の理想にも共感してくださってました。流石は天の御遣いと言われているだけの方かと」
普段は厳しい愛紗ちゃんも御遣い様を褒めてる。
「御遣い様が私達のご主人様になってくれたらいいのになあ」
「はわわ、袁術軍の宰相ですから難しいかと」
「う~ん、残念だなあ」
そんな会話が繰り広げられてるとも知らず、俺は一人呟いていた。
「認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを」
俺は好きだったアニメの名セリフを今の自分に置き換える。
何とか落ち着こうと必死だけど、も、う、限、界。
いや~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい・・・・・・・・・・・・・。
俺は天幕の中でのたうちまわる。
あれは俺だ、以前この世界に来た頃の俺だ。
目の前にある事をちゃんと見ずに、都合のいい理想だけを語ってた俺だ。
華琳、こんな俺を見捨てずにいてくれて本当にありがとう。
秋蘭、こんな俺を嫌な顔せずフォローしてくれて本当にありがとう。
春蘭、桂花、馬鹿にされてむかついてごめん、馬鹿にして当然ですよね。
羞恥心が際限なく湧き上がって、どうにもならなかった。
あれから四刻が経ち、私達は御遣い様の下に再度赴きました。
桃香様達は御遣い様が協力してくれると確信しているみたいでニコニコしてます。
でも、私はそうは思えませんでした。
御遣い様の質問。
返答は柔らかいものでしたけど、求めていた答えとは違うと言われていた気がします。
桃香様の事は尊敬していますし、理想もとても素晴らしいと思います。
でも私は軍師です、他の皆さんがどんな状態でも冷静に状況を把握しなければいけません。
朱里ちゃんも心掛けてはいるのでしょうが、桃香様への心酔が感情を優先させてる節があります。
御遣い様は劉備軍の歪みに気付いてる。
朱里ちゃん、朱里ちゃんだって気付いてる筈だよ、このままでいいの?
「結論から先に言う、君達と共闘は出来ない」
「な、何故ですか、桃香様の理想を理解していたではありませんか」
先程の言葉は偽りだったというのか。
「勿論、理由は話すよ。俺としては民の事を思うなら自分達で気付いて欲しいのが本音だが、関羽殿、この乱の元凶は何だ?」
「決まっています、首魁の張角、張宝、張梁です」
「違う!元凶は漢帝国だ」
「なっ!」
「張角達は切っ掛けに過ぎない。腐敗した漢帝国の政が乱を引き起した、この乱は民の悲鳴だ」
御遣いの言葉は漢帝国への強烈な批判だ。
「俺にとって黄巾との戦いは戦とも思っていない。訓練もせず、陣形はおろか隊列も組まず、碌な装備もしていない、ただ数に任せるだけ。そして本来なら守るべき民がほとんどだ。盗賊紛いの連中も当然居るが、そんな奴らは全体から見れば小数だ」
「それじゃ、どうして御遣い様は戦うんですか!」
桃香様が悲鳴のように問いかける、以前桃香様は賊が相手でも倒して良いのかと悩まれていた。
「この乱は一刻も早く終わらせないと泣く人達が増え続けるだけだからだよ」
その言葉に力はなかった、御遣いも悩んでいるのだろうか。
「だから俺は極力双方に被害が少なくなるように戦ってる。幸か不幸か黄巾は指揮官さえ倒せば壊走する、その為には練度の高い兵の連携が最も大事なんだ」
「そ、そこに劉備軍が入れば、かえって足を引っぱってしまうという訳ですね」
雛里が御遣いに応えている、普段の人見知りが激しい雛里とは思えない程に。
「そう、個人の武勇より兵の固まりとしての力が必要なんだ」
そして御遣いの言う事は理にかなってる。
口惜しいが私達は軍として見れば強くない、戦いの経験を多少は積んでいるが高度な連携は無理だ。
「これが理由の一つ。もう一つあるんだが此方の方が重要といっていい。劉備殿、今の君とは組めない」
「何だと、貴様っ!」
「待ってください、愛紗さん!」
「朱里?」
「・・愛紗さん、このまま聞いて下さい。私達にとって大事な事なんです」
震えながら訴える朱里がいた。
固まった私の横を通り過ぎ、御遣いが朱里の頭を撫でる。
「今まで、よく頑張ったね」
優しい声だった。
最初驚いていた朱里が、大きな声で泣き出した。
雛里が朱里を抱きしめる。
訳が分からず、御遣いが桃香様に振り返った。
「劉備殿、貴女の理想はとても尊い。でも今の君はその理想の為の努力をしていない、人任せだ」
「で、でも、私一人じゃ何も出来ないから」
「そんな事はない、君は自分で出来ないようにしている。おそらくは関羽殿や諸葛亮殿の言う事に疑問を持ちながら、無理に自分を納得させている」
「ど、どういう事ですか!私は桃香様の為に言ってるのであって、何も間違った事は言ってません」
聞き捨てならない言葉に私は反論する。
「関羽殿、それは関羽殿の心の中の劉備殿の為だよ」
「いい加減にしてください、貴方に何が分かるというのだ」
何故、そんな哀れみの眼で私を見る。
「今は聞いていて欲しい、大事な事なんだ」
「黙れ!それ以上口を開けば」
「愛紗ちゃん、黙ってて!」
桃香様が、私に、何故。
「劉備殿、何も出来ないなんて事は無い。笑ってる民が見たいのなら、考えている事はたくさんあるはずだよ」
「でも現実的じゃ無いって、仕方ないって、そんな事しちゃいけないって、私より賢い人が言うんだよ。誰も私の言う事を本気で聞いてくれない。私は戦なんてしたくないのに、偉い立場の人になりたい訳じゃないのにっ!」
その言葉に、いや、悲鳴に私の大事なものが崩れていく。
しまった、ここまで否定するとは思わなかった。
俺は以前の劉備軍は、劉備自身と重臣との温度差が統合性のない行動になっていると踏んで気付いてもらおうと思っただけだったが、劉備は全てを否定してしまった。
遅まきながら気付く。
成都の時の劉備は戦乱を乗り越えてきた劉備だからこそ、本心はともかく言葉に出す事はなかった。
現在の劉備にそれが出来ると誰がいえる。
王の、決定する立場の者の重圧を、俺はいま身をもって知っているじゃないか。
その立場に立つ為に御遣いになったのに。
俺は何も言えず立ち尽くしてしまう。
そして、場の沈黙を関羽が破る。
「桃香様、いえ、劉備殿、私はお暇をいただきます。後、義勇軍は私が引き継ぎます」
「愛紗ちゃんっ!」
「その名は返していただく、失礼する」
関羽は俺を憎悪の眼を向けた後、天幕を去った。
張飛が劉備に話しかける。
「お姉ちゃん、今まで無理に戦わせて悪かったのだ。鈴々は戦う事しか出来ないから愛紗に付いていくのだ」
「鈴々ちゃん」
「元気でなのだ」
張飛も出て行った。
「桃香様、私も失礼します」
「雛里ちゃん」
劉備に挨拶して鳳統は諸葛亮に声を掛ける。
「朱里ちゃん、私は愛紗さんに付いて行くよ。私の頭の中の化け物は戦を求めてるんだ。桃香様をお願い。待ってるから、帰ってくるまで、私が居場所を護ってるから」
去ろうとする鳳統に、俺は言葉を発する。
「北にいる黄巾二万五千は、西の十里先にある砦に向かう気だ。そこには五千の兵が三万の兵を一ヶ月養える食料を守っている」(*注:一里は約4km)
俺が劉備軍に提供しようと思っていた情報だ。
鳳統は一礼して、天幕を去った。
座り込んだ劉備を、諸葛亮が手をとっている。
「劉備殿、諸葛亮殿、俺は北にいる黄巾を討ってくる。心が定まるまで此処に居てくれていいから」
諸葛亮が礼を述べるが、劉備に俺の声は届いていないようだった。
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蓮華たちが帰国し、黄巾討伐に赴く一刀
華琳、雪蓮、蓮華と異なる王の器を持つものと出会う