「天の御遣い、か。それにしても運命的な出会いだよなぁ」
白蓮は咲き乱れる桜のもと、そう桃香に話しかけた。
しかし桃香は、恥ずかしそうに頬を赤らめ、
「もう、本当にいいよぅ、白蓮ちゃん」
と、俯きながらに照れ隠しをする。
「なに言ってるんだよ、古い付き合いじゃないか。私も協力するって」
友人である白蓮にこう言われ、まだ恥ずかしそうではあったが桃香は嬉しそうな顔を浮かべた。
-白蓮私室にて-
「協力する……か」
白蓮は寝台に四体を投げ出した。
「……いつから……いつからこうなったんだろうな……」
先ほど眼前に突きつけられた、一刀と天和の口付けを思い出すように呟く。
すると、白蓮の視界が突然暗転した。
つい今まで身体を預けていた寝台もない。
「!? え? え!?」
あまりに唐突すぎるこの出来事に、白蓮は自らの状況を把握すべく、忙しなく首を左右へと動かし周囲の様子を確認する。
そして目の前だけが、ぼぉっと明るくなった。
現れたのは仮面の女だ。
仮面の女は白蓮を直視し、静かな調子でこう言った。
「協力するって言ったのに、あなたは人に差し出すつもりだったその花が惜しくなった。そして……」
仮面の女は一拍置く。
だがすぐに、責めるような調子で、
「……彼の時は、自分を褒めてもらいたかったから花を差し出した。……そして花を口実に近づいた。……偽善者め」
と、言い放った。
仮面の女の言葉に動揺した白蓮は、耳を塞ぎ必死に首を振り否定する。
「違う……違う! 桃香の時も私は協力するつもりだったんだ……。それに……それに北郷が張角のことを紹介して欲しいって言うから……」
しかし仮面の女は冷徹にこう続けた。
「じゃあ、白蓮ちゃんは何であんなことしたの? 何もしないなら子供なんて……」
そして、被っていた仮面に指を掛ける。
「……それに……白蓮ちゃんがご主人様に張角ちゃんを紹介しなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに……」
「……え……?」
白蓮は顕になった女の素顔に息を呑んだ。
視線の先に現れたのは、悲しそうな眸で見つめる桃香の姿だった。
-夜半・白蓮私室にて-
「……違う……。だって北郷はそれで良いって言ってくれた……。私が良いって、他の誰でもない、私を良いって……!」
そこで突然、扉を敲く音が白蓮の耳に入ってきた。
白蓮は、はっとして目を覚ます。
「……そうか……夢、か」
一刀と天和のもとから逃げるようにして飛び出してきて、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
白蓮はだるい身体を寝台から起こし、涙で滲んだ眸を手の甲で拭った。
そして扉に出る。
「北郷様よりの書簡です」
そう言った侍女から、一通の文を手渡された。
白蓮は侍女への簡単な礼もそこそこに、一瞬でも早くとそれを開く。
あんなことがあったばかりだ。一刀からの連絡に、自然と表情にも喜色が浮かぶ。
だがすぐに白蓮の表情は沈んだ。
「天和が知り合いの医者を紹介してくれるって言ってる。早い時期のほうが体の負担が少なくていいって話だか……」
そこまで読むうちには、白蓮の頭は真っ白になっていた。
そして白蓮は、震える手をお腹に当てた。
-翌日昼間・城の前庭にて-
「そう、公孫賛さん、華佗さんに診てもらうんだ」
天和は一刀にお茶を差し出しながら言った。
そして一刀は、そのお茶を受け取り、
「うん、たぶん。これも天和のおかげだよ」
と言って、姿勢を正し天和に向き直る。
そして一瞬だけ先ほどまで食べていた天和の特製弁当に目を向け、今度はしっかりとした口調でこう言った。
「俺、これからはずっと、天和とこんな時間を過ごしたい。……俺、流されやすくて、ホント天和には悪いことしたと思ってるけど……もう……天和しか見えないから」
天和の眸に涙が浮かぶ。
「……一刀」
そして二人は永遠を誓い合うように口付けを交わした。
-同日夕刻・一刀私室にて-
白蓮に二人だけで話したいからと言われた一刀は、自室で待っていた。
間もなく天和が夕飯を作りに来てくれることになっている。
白蓮との話し合いは早めに終わらせたい。
一刀がそう思っていると、白蓮がやって来た。
「まぁ、座って」
一刀はそう言って椅子に座るよう促す。
そして少しの沈黙の後、一刀が口を開く。
「……それで、どうだった?」
しかし、白蓮は黙ったまま。
てっきり堕胎の話をしに来たものだとばかり思っていた一刀は、意表をつかれるように気まずさを覚え、
「……お茶でも淹れるよ」
と、立ち上がろうとした。
しかし白蓮はそれを制するように立ち上がり、
「私が淹れる」
と、奥にある簡易の調理場へと向かった。
白蓮は薬缶を火にかける。
しかし視線だけは一箇所に固定されたまま動かない。
白蓮の見つめた先には、昨日一刀と食べるために作った料理が冷えて固まり、無残な姿で捨てられていた。
だが、一刀の位置からでは白蓮が普通にお茶を淹れているようにしか見えない。
一刀はゆっくりと腰を下ろし、一つため息をつく。
すると、視線の先に見覚えのない紙片が落ちていることに気づいた。
一刀は再び立ち上がると、その紙を手に取る。
折りたたまれたその紙を、何だろうと思い開くと、そこには白蓮の署名と「ごめん」という文字、そしてしばらくの空白の後「さよなら」と書かれてた。
「……白蓮」
そう呟いた一刀は、背後に気配を感じ振り返った。
しかし遅かった。
白蓮の握った包丁が、一刀の腹部に深くその刃を沈める。
「ひどいよ! 自分だけ張角と幸せになろうとするなんて!」
そう叫ぶように言った白蓮は、苦痛に倒れた一刀に馬乗りになるようなかたちで伸し掛かると、さらに刃を腹に突き刺した。
何度も。
何度も。
しかし、
「…………ぱいれ………」
との、一刀の振り絞るように出した最期の声を聞き、白蓮は包丁を振りかぶったまま動きを止める。
そしていつの間にか自分の胸に当てられていた一刀の手から力が抜けてゆくのを見て、ようやく我に返った。
しかし時が止まることのないように、床には一刀の鮮血が止処なく広がってゆく。
-同日夜半・城壁にて-
今となっては絶対にあり得ない一刀の名の入った「城壁で待ってる」との書簡が白蓮のもとに届き、驚愕と警戒を抱きここまでやって来た。
しかし城壁に人影はなく、包みが一つぽつんと置いてあるだけ。
白蓮は服の中に隠し持った包丁を握る手に力をこめ、その包みに近づく。
すると、包みに近づいたところで背後から声がした。
「……観て、もらった? いいお医者さんなんだよ」
振り返ると、そこには天和の姿があった。
そして白蓮ははっきりと言った。
「行ってない」
「どうして?」
「おまえに紹介された医者なんか行かない!」
ずっと下を向いていた天和が顔をあげ、白蓮をしっかりと見据え話を続ける。
「嘘……だからだよね? 一刀の気を引くために、赤ちゃんができたなんて嘘をついたんだもんね……」
「違う!」
「何が違うの?」
この天和の問いに、白蓮はさらに語気を強める。
「違う! 私はちゃんと医者に……!」
だが、天和は淡々と話しを続けた。
「だったらちゃんと医者に診せられるはずだよね? それに……公孫賛さんが彼の子供を産めるわけ、ないじゃない。……だって……」
そこで天和は一拍おき、淡々とではあったが、かえってそれが説得力を持たせるように言い切った。
「一刀の彼女は、私なんだから」
白蓮はダメ押しとも言える「そうでしょ?」との天和の言葉に悔し涙を浮かべる。
「……私だって……私だって北郷の彼女になりたかったっ! ……それだけなのにっ……。……ずっと我慢して北郷のしたいことしてあげたのにっ。……なのに……なのにどうして!?」
白蓮のこの悲痛な叫びを聞き流すように、天和は置いてあった包みに視線を移すとこう言った。
「一刀なら……一刀ならそこにいるよ。……聞いてみたら?」
白蓮は、この天和の言うことの意味が理解できずにいた。
しかしすぐに、天和の視線を手繰り包みに目を向ける。
そして包みを開くと、異臭と、そしてなによりその中身のもたらす不快感に思わず口を覆ってしまった。
「うぇ、う、げぇ、げほっ……げほっ」
そして膝をつき、胃の内容物を全て吐き出す。
そんな白蓮の様子を見ていた天和は赤黒い血の付いた鋸を握り締めた。
「……公孫賛さんの言うこと……確かめさせて」
この天和の言葉を聞くと同時ぐらいだろうか。
服に隠していた包丁に手を伸ばしたところで、白蓮の世界が暗転した。
白蓮の腹部から出た鮮血が、冬の冴え渡る夜空に舞う。
そして天和は仰向けに倒れた白蓮の腹部を見下ろし、
「やっぱり……。嘘だったんだね」
と、月光に照らし出された空の胎内に冷え切った目を向けた。
「胎に誰もいませんよ」
-翌朝・船上にて-
水面には、半分昇った朝日が揺れていた。
甲板で横になった天和は愛おしそうに一刀を抱きしめる。
そして言った。
「やっと、二人きりだね。……一刀」
舟は波に揺られ、ゆっくりとその舳先を朝日の方角へと進めた。
Nice boat.
〔出演〕
北郷一刀 北郷一刀
天和 張角
白蓮 公孫賛
桃香 劉備(友情出演)
侍女 鳳統(新人)
〔企画〕
趙雲
〔脚本〕
趙雲
〔演出〕
趙雲
〔その他雑用〕
蜀兵の皆さん
〔制作〕
蜀
〔特別協力〕
曹操
〔監督〕
趙雲
【続】
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