ドクロ少佐との騒動の後、リト達は呉入りした。
とりあえずリトは仮面隊の訓練でもするかと思ったのだが、祭にここでの訓練は自分の主流だと言われ週に一回か二回程度しか働けない。
だからリトはと言うと…
「あー…暇だー」
リトは建業にある城の廊下を歩いていた。
恋と音々音は城下で食べ歩きに出掛けている。
ちなみに食べ歩きの費用は親切な呉の皆さま方が出してくれた。
それはそれでありがたい。
何せ、リトはこの世界…むしろこの時代の金銭は持っていないのだから。
暇だ、暇だと庭に出る通路を歩いていくと…どこからか楽器の音がする。
弦楽器のようだ…リトは少し気になったのでその音がする方向に歩いて行った。
「…なるほど、納得」
進んだ先に居たのはニ胡を弾いている周瑜、それを聴いている孫策だった。
確か周瑜は音楽に長けていた…結構前にリトが行った三国志を題材にした世界でも聞いたことがある。
かなりのものだ…リトはその演奏が終わるまでその場に立ち続けていた。
「……平沢、お前も来ていたのか?」
「ん?ああ…ついさっきな」
「あ、魔神君来てたんだ♪」
「ちょ、おい孫策!?」
演奏が終わり、周瑜が声をかけるとそれに応じてか孫策がリトの腕に抱きついてきた。
そういうことには慣れておらず、ましてや年上の美人に抱きつかれたので顔を赤くする。
それを知って孫策はニヤニヤしていた。
「あ~、顔赤~い♪照れてるんだ…可愛い♪」
「そりゃあ…美人に抱きつかれると、さ…うん…」
「こら、雪蓮。平沢が困っているだろう?」
「えー!いいじゃない、冥琳のけちんぼ!」
「……今度、政務を抜け出したらただでは済まさんぞ…」
「うっ……ぶーぶー…」
ーεー;といった顔で渋々離れる孫策。
…そういや、孫策サボりの常習犯だっけ?
リトは前に暗躍していた呉√の世界の孫策を思い出していた。
どんだけ嫌なのだろうか。
「まあ、そんなことよりさ…上手いんだな、演奏」
「昔から弾いていたからな。この年まで来ると上達するのも当たり前だ」
「それだとしてもさ、やっぱ凄いよ」
「そう言う魔神君は歌上手いじゃない?あれも一種の才能じゃない」
「歌は……まあ、特に練習している訳じゃないし。むしろ俺は楽器を弾く努力には共感できるな」
「え、魔神君楽器が弾けるの?」
まあな、と少し照れくさそうに頭を掻くリト。
すると子供のように弾いてと孫策がねだってくる。
リトは周瑜に助けを求めようとするが、興味がある、とだけ言われて却下された。
もういいや、と四次元匣の中からこの国の知らない楽器を取り出す。
「わ、なにそれ?ニ胡…みたいな弦があるけど…」
「ほぉ…興味深いな」
「バイオリンって言うんだ。…元引きこもりの仮面ライダーから餞別にもらったんだよ。ま、弾き方を教えてくれたのは海賊なんだよな……スカルジョークかます自称紳士だけど」
そういいながらバイオリンで弾く準備をするリト。
孫策と周瑜はどんな音が出るのか、どんな曲なのか期待して待っている。
そして、準備ができたリトが引き出したのは…バイオリンに合うように曲調を変えた『butter-fly』
それが終わった次は、『fallen down』、『snow rain』、『ビンクスの酒』
ニ胡とは違う聞いたことがない音を聴き、孫策と周瑜はつい聞き入ってしまった。
それだけではなく、リトの演奏する姿にも見惚れてしまう。
(わぁ…すごっ……)
(心地いいな…)
「……どうだった?結構頑張ったんだぜ?」
「うむ、素晴らしいものだったぞ。特に三番目の曲がな」
「美周郎にそう言われるとはな。光栄だ」
「む…あたしだって誉めてあげるもーん。魔神君偉い偉い♪」
「は…ははは…」
周瑜に賞賛され、孫策からは頭を撫でられる。
撫でられること事態は別にいいのだが、なんだか子供っぽい。
つい苦笑いしてしまうほどだ。
「それで雪蓮。いい加減平沢の名前をちゃんと呼んだらどうだ?」
「え、えーと…それはまた今度ってことで…」
「?理由か何かあるのか?」
「そう言う訳じゃ無いけどぉ…」
両手の指をつんつんと合わせて後ろを向く孫策。
それもそうだろう…彼女はリトとの再戦、つまりは宴の模擬戦の時に彼に恋をしてしまったからだ。
自分の本気を只の威嚇でねじ伏せ、さらには女の子全般の夢とも言えるお姫さま抱っこもされた。
人の見方にによればつり橋効果とも言えるが、その後のリトの歌唱がきっかけで完全に恋をしたことに自覚。
以後、真名を預けたいのだが照れくさく、リトを名前で呼びたいのだが恥ずかしくて呼べていない。
だからこそいつもの調子で接しているのだ。
「そうだな…俺も孫策に名前で呼んでほしい」
「えっ…そ…そうなの?」
「うん。まあ、俺の事を魔神って呼ぶのはかまわないけどさ、町に出たときに言ってみろよ?周りの視線がいたいんだよ」
「それもそうだな…」
「それに、名前があるのに呼ばれないのは嫌なんだ。自分がここに居ないみたいで…」
「あ…ごめんなさい、気を悪くしちゃった…?」
「うんにゃ?気にしなーい、気にしなーい」
「…雪蓮」
「う…うん。…魔神君、あたしの真名は…」
そういいかけたその時だった…リトの異常な聴覚から何かが走ってくる音が聞こえる。
孫策の方もいつもの鋭い勘が何かの危険を察知させた。
そして、
茂みの向こうから現れたのは、狼の群れだった。
「な…狼だと!?」
「何でこんなところに…!?」
「いや…こいつら普通の狼じゃない、ってことは!…ッ!」
驚く三人の元へ、茂みの奥から青い稲妻が走る。
リトは周瑜を抱き抱えて避け、孫策は地面に伏せて攻撃を避けた。
ガシャ、ガシャと鎧のようなものを身に付けた謎の男がやって来る。
さらには、その後ろからは別の人物が。
「―――ククク…やはり人間は我らと比べる程もなく劣っているな。その脆弱な足、牙、そしてその存在!」
「おいおい、できて最初に言うのがそれかよ。相変わらず人間嫌いだな」
最初に出てきたのはガランダー帝国の支配者…ゼロ大帝。
恐らく先程の稲妻はゼロ大帝がやったものだろう。
そして、人間を罵倒したのは狼の頭部を持つ改造魔人、狼長官。
指揮棒を手の上で転がしながらゆっくりと近づいてくる。
「平沢…奴もデルザー軍団…の?」
「狼長官…軍団一の人間嫌いだ…」
「それで、狼が何の用かしら?招いた覚えが無いんだけど…?」
「招く?偉大なる狼男の子孫であるこの狼長官をか?…笑わせるな人間風情が…!」
「あまり挑発するなよ、アイツはプライド…誇り高いんだからな…」
挑発する孫策に止めるように言うリト。
たしかに狼長官は人間嫌いだ、同じデルザー軍団の内の一人を嫌悪する位には。
唸って威嚇する狼達をその場に留めさせ、少し頭の冷えた狼長官はリトにいい放つ。
「…ふぅ…用があるのはそこの男だ」
「何…?」
「我らデルザー軍団はこの世界に再び生を受けた!人間共を支配するのが目的…だが、そこに思わぬ例外が現れた!」
「まさか、平沢か?」
「我らを葬りし者は仮面ライダーストロンガー…そして六人の仮面ライダー達。故に危険性があるのはその男。我らの知らぬ仮面ライダーとなり、さらには別の仮面ライダーも産み出した…」
演説するように話す狼長官。
その間に狼達はリト達の周りに移動している。
リトと孫策は周瑜を守るように周囲に目を配らせていた。
「…それで?俺が脅威だから潰そうってか?」
「ふっ…キサマ等何時でも倒せる。キサマを倒す理由は、我がデルザー軍団の主導権を握るため!」
「おいおい、それ生前にもやったよな?」
「生前は他の改造魔人が邪魔をした事が原因だ!誇り高き狼男の子孫である私の邪魔をしなければ、憎きストロンガーを倒せたはず…だが、今は他の連中はいない」
「だからって今俺を倒すって?…出直してこい。お前じゃ俺を倒せねぇよ」
「何だと…ッ!」
「だってお前一人じゃないし、第一チームワークが最悪だったから負けたんだろ?原因はお前にもある。それに、実権を握るとか猿の一つ覚えじゃん」
「ぬ…ググ…ッ!」
「それに、仲間がいない時に来るとか…お前、狼長官から“鬼の居ぬ間に洗濯”長官に改名すれば?」
「キサマ、我が闇の血筋を侮辱するかぁッッ!!」
その叫びと共に、狼達はリトに向かって走ってくる。
孫策達から遠ざかるように移動したリトはハイエナ達をブレストリガーで撃つ。
それでも避けてくる狼の一匹はリトの腕に噛みつく。
すぐにその狼を蹴り飛ばし体勢を整えようとするが、別の狼がリトの背中に飛び付き背中を引っ掻きリトは顔をしかめた。
いつも身に付けている超合金Zのマントがない今、彼の防御力は最低レベルになっている。
「ぐっ…!」
「さあ、その男を苦しめろ!我が祖先、狼男を侮辱した罰を与えるのだ!!」
「…調子に乗るな、犬がっ!」
少しイラついたリトはブレストリガーをゲッタートマホークに変化させ狼達の大半を凪ぎ払う。
大きな隙をついた狼長官はすぐさま戦闘に入ろうとするが、リトがゴルディオンハンマーを叩きつけた時に舞った土煙によって阻まれる。
狼だけに鼻も使えないので少しの間は身動きがとれないだろう。
「魔神君、大丈夫なの!?…もう、あたしに威嚇するなって言った癖に」
「いって…いっちった…」
「傷の手当てを…ッ傷が…ない…!?」
周瑜は先程噛まれた場所や引っ掛かれた場所を見る。
だが、そこには傷がない……あるのは破れた衣服とそれについた少しの血。
驚く周瑜にリトは軽く問題ないと言う。
「クウガになってから、俺自然治癒力が半端ないんだよね。だから問題ないよ」
「そうか……良かった…」
「魔神君、あたしにも何か変身できるのないの!?ほら…こう、ぴかーとか、びゅーんとか!」
「変身ねぇ…まあ、あるけどおすすめしないぞ?」
「いいから早く!」
へいへい、と真ボンゴレリングから造り出したのは門のような形状をしたバックルと一つのリング。
それらを受け取った孫策はバックルを腰につけ、指輪を左手に嵌める。
リトはオードライバーとメダルをつけて一定のポーズをとった。
「魔神君、あたしの真名は雪蓮よ」
「今言うことかよ…」
「だってさっき言えなかったんだもーん」
「そうかい…俺はリトでいいよ、雪蓮」
「うん。行きましょ、リト」
「アァーマァー!…ゾォォーンッ!!」
「変んん…身ッ!!」
〈セット!オープン! L・I・O・N! ライオーン!〉
瞬間…リトの体は赤と緑を主体としたオオトカゲのようなものに変わる。
それと同時に雪蓮の腰につけたベルトが展開し、黄金の魔方陣が前に現れた。
それは自動的に雪蓮の方向へ移動し、魔方陣が通った雪蓮を黄金の戦士に変える。
左肩にライオンのようなアーマーをつけた、獅子の戦士。
「ぬぅ…こんなもので!…!!き、キサマは!?」
「――アーマーゾォォン!!」
「――さあ、じゃれあう準備はできたかしら!?」
煙を突破して来た狼長官の目に写ったのは二人の戦士。
古代インカの戦士…仮面ライダーアマゾン。
古の魔法使い…仮面ライダービースト。
獣の戦士が揃いでた。
雪蓮が変身する事を進めないのは二つ理由がある。
一つは適合率の低さ。
これはリトの造り出す仮面ライダーの変身アイテムにも関係するのだが、雪蓮の場合はビーストにギリギリ変身できる程度。
そのために最終形態にはなれない。
二つ目は…これは戦闘に関係ないのだが、ビーストと言う仮面ライダーのモチーフ。
見た通りビーストのモチーフはライオン…つまりは獅子だ。
江東の虎の娘なのに変身するのは獅子の戦士。
同じネコ科でもイメージ的に嫌だったのだ。
「それじゃっ!行ってくるわよッ!!」
「ガルルルルッ!!」
「ちぃ!行け、我が狼達!そしてゼロ大帝よ!」
ダイスサーベルと南海覇王の二刀流でゼロ大帝に向かうビーストと唸りながら狼達の相手をするアマゾン。
低姿勢で狼達の首元を確実に噛みちぎり、腹部に鋭い爪を刺す。
さらに四足歩行になって狼の一匹に飛び交うアマゾンはまさに獣だ。
「そらそら、遅いわよ!」
「ヌゥ…!」
ビーストは身軽な動きでゼロ大帝を翻弄しながら戦っていた。
南海覇王で槍の一撃を防ぎ、ダイスサーベルで斬る戦法。
だがそれではゼロ大帝の鋼の鎧に傷をつけることはできない。
どうしようかと迷っていると、ゼロ大帝は槍から先程の稲妻を全方位に発射させる。
ビーストはそれを受けて地面を転がった。
「きゃんッ!…いったぁ…!このぉ…」
〈カメレオ!ゴー! カカッカカッ、カメレオ!〉
「…ッ!…ぐあ!」
「あ、これ便利~♪」
ビーストはカメレオマントを呼び出し、姿を消しながらゼロ大帝を攻撃。
ゼロ大帝は先程と同じように稲妻を走らせるが、その間にビーストは距離をとりカメレオマントの舌で攻撃していた。
だが…そこに狼長官の指揮棒がブーメランのように飛んできてビーストを襲う。
それをやった狼長官の嗅覚によるものだろう。
指揮棒をもう一度投げつけようとした狼長官だが、その腕にアマゾンが噛みつく。
「このッ!放せ!」
「グルル…!」
「「「ガァアアアアアア!!」」」
「リト!…はぁあああ!!」
〈ファイブ!カメレオ、セイバーストライク!〉
噛みついているアマゾンを襲おうとしている狼達に向けて、五匹のカメレオンの幻影が放たれる。
【セイバーストライク】は全て狼に命中…アマゾンは狼長官の狼狽えた様子を見て、必殺の体制に。
ビーストはカメレオの舌を使い木々に飛びうつりながら必殺の体制に入る。
「喰らえ…!大ッ切ッ断ッ!!!」
「く…くそぉ…!」
〈キックストライク! カメレオ、ミックス!〉
「行けぇぇぇぇ!!」
「ぐ…ぬ…ぐぁぁぁあああー!!」
アマゾンの【大切断】は狼長官の左腕を文字通り切断させる。
だが、それだけでは狼長官を倒すことができず、狼長官は逃走。
一方のビーストが繰り出した【ストライクビースト】は回転を加え、とうとうゼロ大帝の鋼の鎧を貫き勝利した。
周りに敵がいないことを確認すると、アマゾンとビーストは元に戻る。
「おー、早いね。流石犬」
「いや、狼って言ってたでしょ」
「冗談だよ、でも負け犬だけどな」
「そうね♪……きゃっ!?」
軽口を言いながら周瑜の元に戻る二人。
だが、雪蓮は初変身だけあって体に少々力が入らず躓く。
リトはすかさず雪蓮を受け止める。
ありがとう、と言う雪蓮だったが…何を思ったのか細く笑うとリトを押し倒した。
「え…あの……雪蓮…さん…?」
「んふふ~♪ねぇ、リト。このまま私の部屋に行かない?」
「雪蓮!?」
「あの…どったの…急に…?」
「そんなのどうでもいいから、行こう?ね?イイこと…してあげるからぁ…」
そう言ってリトの首筋をなめる雪蓮。
その瞬間、リトは悟った…あ、これ曹操の時と同じ位ヤバイ。
「遠慮しときま…」
「む~…かぷ♪」
「~~~ッ!?」
危険を察知したリトは逃げようとするが、顔を両手で固定され、なぜか唇を甘噛みされる。
え…何これ、何されてんの俺!?とパニクってるが息が口の隙間から漏れてるだけ。
むぐむぐとされて数十秒…ようやく放した雪蓮は…なんか目が逝ってる。
「――ふふ…リトの汗も唇もおいし♪」
「ゥェアアアア…!!」
「獣と獣なんだし相性もいいわよね…?じゃあ早速…」
「雪蓮、いい加減にしろ」
と、その時雪蓮の襟元を掴むものがいた。
それは……青筋を立てた周瑜。
そのことに気づいた雪蓮は顔がだんだん青ざめ、リトの拘束を解く。
「あ、あははは…めーりん顔こわーい…」
「そうだな、何せ怒っているからな…!」
「あんまり怒ると小皺が増えるわよ…」
「誰のせいだと思っている!まったく、一国の王が客人を襲うなど…!」
ぶつぶつと言いながら周瑜は雪蓮を引きずっていく。
うわ、大変そうだな…とリトは噛まれた場所を擦っていると、周瑜が振り返る。
「平沢、私の真名は冥琳だ」
「え…何で今?」
「ふふ……私も少しむきになって見ようと思ってな」
見惚れるような笑みを浮かべると、冥琳は雪蓮を連れて行った。
その後、とある部屋から悲鳴のようなものが聞こえたとか。
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