No.65320

『真・恋姫†無双』 第5章「賈駆の手腕(後編)」

山河さん

PCゲーム『真・恋姫†無双』の二次創作となります。

設定としましては、もし一刀が董卓と共に行動することになったらというものを主題にしております。

よろしければ、お付き合いくださいませ。

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2009-03-26 03:37:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:9427   閲覧ユーザー数:7522

洛陽、董卓の屋敷外。

 

「……恋殿」

ねねは躊躇いを秘めた目で自らの主を見る。

……あまりに不条理な命令。

……しかし従わなければならない宮仕えの悲哀。

もしここで董卓を討たなければ、今度は自分たちの命が危ぶまれる……。

ねねは決意し、再び主に告げた。

「……恋殿、突入の準備が整ったのです」

配下の兵達は董卓の屋敷を取り囲み、後は号令を待つばかりである。

-だが-

肝心の号令を下すべき恋は躊躇いを見せる。

「………………………………ねね」

「……恋殿、そんな目を見せないでください。ねねは困ってしまうのです……」

-逆臣董卓を討て-

詔勅である。

もちろん、恋もねねも馬鹿ではない。

この裏には十常侍の影があることはわかっている。

反董卓の動きを活発化させる諸侯に董卓の首を贄として捧げ、自らの身の安寧を画策する悪辣な思考が透けて見える。

それに、董卓が上洛して以降、洛陽は目に見えて治安がよくなった。

賄賂を要求するような下劣な官吏は減り、民衆の生活も向上しつつある。

-董卓は諸侯が言うような暴君ではない-

……しかしそれでも……それでも従わなければならないのだ。

もしここで十常侍の意向に逆らえば、今度は恋にその刃が向くことになる……。

「……恋殿、お優しさはお捨てください……」

今度は目を見ずに言った。

同時刻。

洛陽、董卓の屋敷内。

 

「やはり来たわね」

詠は苦々しげに呟く。

詠が急進的に行った綱紀引き締め政策が十常侍の反感を買ってしまったのだ。

しかし幸いというべきか、この屋敷に月の姿はない。

万が一に備え、華雄と共に洛外に身を隠しているのだ。

「アンタは早くこの部屋から出なさい。張譲が欲しいのは月の首だけ。アンタの首じゃないわ」

詠はそう言うと、月がいつも腰掛けている椅子に座った。

この部屋には油が撒いてある。

顔を焼けば、誰かなんて見分けがつかないだろう。いざとなったら、詠は月の身代わりとして死ぬつもりなのだ。

「そうはいかないよ」

詠の計画では、俺と月の二人を逃がす予定だったらしい。

しかし詠一人を死なすわけにはいかない。

だから俺も屋敷に残ったのだ。

詠のためにも……そして月のためにも……。

「……アンタが死んだら、月が悲しむのよ……」

「だからって詠が死んだら、月はもっと悲しむだろ? だから出て行かない」

俺がそう言うと、詠は「ふんっ」と鼻を鳴らしてぷいっとあっちを向いてしまった。

……さて、どうしたものか……。

だが、詠すらも自ら犠牲になる方策しか思い浮かばなかった状況なのだ。

それを凡人の俺に……。

と、俺が弱気になっていると、門の方から悲鳴が聞こえてきた。

「いよいよ突入してきたか!?」

俺と詠が身構えていると、一人の兵が駆け込んでくる。

「申し上げます! 門の外にバ、バケモノがっ!」

バケモノだって? 確かに呂布は強い。

だが俺は一度宮中で呂布に会ったことがあるのだ。

-人中に呂布あり-

そう評されるぐらいの武将だから、よっぽどだろうと思っていたら、これが意外や意外。

可愛らしい女の子だったのだ。

まぁ、月があの董卓なのだし、ある程度予想はしていたが、これは正直驚きだった。

バケモノなどでは断じてない。

俺がそう訝しんでいると、兵士が続けて、

「貂蝉という踊り子と名乗り、董卓様に面会を求めておりますが……」

と、驚愕の単語を口にした。

!? 貂蝉だって!?

貂蝉と言えば、中国四大美人に数えられるくらいの超絶美人じゃないか。

それがバケモノって……。

が、俺の期待は見事に裏切られることになった。

「ああ、本当にバケモノだ……」

門へ出て行くと、筋骨隆々で(まあこれはいい、しかし問題は)禿頭に三つ編み、しかも下に紐パンを穿いただけのおっさんがそこにいた。

「バケモノ? バケモノって誰? バケモノってどこ?」

自称貂蝉のおっさんは、屋敷を取り囲んでいる兵達には物怖じすらせず、あたりをきょろきょろと見回す。

俺は身の危険を感じ、「いや、あんたのことだよ」という言葉を呑んでいると、

「これは相国殿」

と呼びかける声があった。

この間、勅使として来た陳宮である。

陳宮は貂蝉を視界に捉えることがないようにしながら言葉を続ける。

「このたび、逆臣董卓を誅滅せよとの勅が下ったのです。おとなしく董卓を差し出さなければ、相国殿といえども容赦はしないのですぞ」

すると貂蝉が言葉を挟んできた。

「董卓ちゃんが逆臣ですって? 董卓ちゃんは職を失ったわたしを踊り子として雇ってくれるっていう、とってもいい子なのよ」

「バケモノは黙るのです!」

「ムキーーーーーーーっ! 漢女に向かってバケモノなんて失礼しちゃうわ!」

「あわわわわ、恋殿ー!」

貂蝉のあまりの迫力におびえた陳宮は、隣にいた呂布に抱きつく。

しかし……。

「………………………………(ガタガタ)」

呂布もどうやらおびえているようだ。

俺の知っている『三国志』では、呂布と董卓が貂蝉を取り合い、その結果呂布が董卓を討つことになっているが、今のところこの世界ではどうやらその可能性はないらしい。

だが貂蝉の話だと、月が貂蝉を踊り子として雇うって……。

月はこんなのが好みなのだろうか……?

「どうせ月のことだから、職を失って可哀想だとでも思って雇うことにしたんでしょう。こんなバケモノの踊りを見たいなんて物好きがいるなんて思えないしね」

なるほど、確かに貂蝉の踊りが見たいなんて奴はそうそういないだろう。

「って詠!?」

いつの間にか奥にいたはずの詠が門前に出て来ていた。

「まぁでも、このバケモノのおかげで時間稼ぎができたから一応感謝はするわ」

確かに貂蝉が現れず、あのまま突入されていたらこうして呂布達と言葉を交わす機会はなかっただろう。

それに、いつの間にか呂布の軍勢を取り囲むように援軍として現れた董卓軍の兵士が屋敷のさらに外周を固めていた。

詠はこのあたり抜け目ない。俺の知らないうちに、援軍を手配していたのだ。

「ぐぬぬ……やられたのです……」

陳宮が武装解除させられた自軍の兵達を見ながら、悔しそうに呟く。

……しかし肝心の貂蝉はといえば……。

禿頭から湯気が出るほどに怒っていた。

確かに、こんなにみんなからバケモノバケモノと言われれば、いくら貂蝉でも不憫に思えてくる。

俺が貂蝉を慰めると、

「あら? あなたってばわたし好みだし、お姉さん今回は特別に許してあげちゃうわ」

と、生ぬるい息と気色の悪い台詞が耳に入ってきた……。うぇ……吐きそう……。

そんな俺と貂蝉の様子から意識的に視線をそらしていた詠が口を開く。

「飛将軍・呂布に問う! 此度の勅、大義はあるのか」

『三国志』中の呂布は己の欲望のままに突き進み、自滅するようにしてその最期をむかえた。

だが、今目の前にしている呂布はとてもそうは見えない。

「………………………………」

呂布が押し黙っていると詠が、

「頭の中まで獣並みなのかしら」

と、挑発するような笑みを浮かべた。

「な、何ですとー! 恋殿を侮辱するような発言、絶対に許さないのです!」

陳宮が怒りをあらわにするなか、詠は鼻を鳴らして、

「この状況が見えないのかしら? やっぱりお子様ね。直情的で向こう見ず」

と、ぐるりとあたりを見渡し、さらに挑発を加える。

もっとも、詠は口ではこう言っているが、本当は呂布と陳宮の手腕を買っているのだ。

その証拠に、左遷されていた二人に然るべき地位を与えるように働きかけていたのを俺は知っている。

詠はこのあたりの表現が下手なのだ。

そこで俺が代わりに、

「二人に、俺たちの仲間になって欲しいんだ」

と、伝える。

しかし陳宮は、包囲したつもりがいつの間にか自分たちが包囲されていた現在の状況が悔しかったのか、

「今度はそう言ってねね達を油断させる手口ですか!? もう引っかからないのです!」

と言って、詠を睨んだ。

確かに、屋敷の内にありながら、外と連携してこの状況を築いた詠の手腕には舌を巻くものがある。

陳宮がその詠の言葉に警戒するのももっともだろう。

「確かに今ここでアンタたちを殺して、ボクたちに逆らったらどうなるか十常侍への見せしめにするのもいいわね。でも今は、四海に飛将軍として名を轟かす呂布を取り込んだ方が利するところが多い」

……詠の奴、意識的に陳宮の名を省いたな。本当は陳宮の智謀も買ってるくせに……。

しかしその陳宮は自分の名前が省かれたことよりも、自らの主人が戦のための道具として扱われたことがどうしても許せなかったらしい。

「恋殿は天下の飛将軍! もう誰にも従わないのですぞ! 殺すならここで殺せばいいのです!」

すると詠は、

「そう」

と言って、兵たちに指示を出す。

俺は反射的に、詠に呂布たちを殺さないように詰め寄った。

……しかし……。

呂布と陳宮の二人を囲んでいた兵が、今は二人を開放するようにして道を開けているではないか。俺の隣から「キャァーーーーーー!」という貂蝉の奇声が聞こえた気がしなくもないが、それは無視することにする……。

それに、殺されると思い目をつぶっていた陳宮も恐る恐る目を開く。

そして現状を確認すると、

「こ、これは何のマネなのです!?」

と、叫んだ。

「何のマネも何も、もうアンタたちに用はないわ。さっさと帰りなさい。……ただし、二度目はない」

詠はそれだけ言うと、奥に戻ろうとした。

「………………………………ねね」

呂布は陳宮と視線を交わす。

そして陳宮も呂布と視線を交わした。

「……恋殿……」

おそらく二人にも、詠が十常侍のように呂布の武勇を利用するだけではないということが伝わったのだろう。

「わかったのです。おまえたちに下ってやるのです」

陳宮がそう告げると、呂布も俺に向かって、

「………………………………恋、真名」

と言ってくれる。

しかし陳宮は納得がいかない様子。

「恋殿!? こんな奴らに真名をお許しになるのですか!?」

「………………………………友達になったら当然。ほら、ねねも」

「ね、ねねもですか!?」

恋に言われて仕方ないといった様子ではあったが、陳宮も口ごもりながらではあったが真名を教えてくれる。

「……音々音……」

「ねねねねね?」

しかし俺が聞き取れずにいると、ねねねねね(仮称)は憤慨してしまった。

そして今度ははっきりと告げる。

「真名を間違うとは失礼にも程がありますぞ! 音! 々! 音! 音々音!」

なるほど、音々音だから「ねね」か。

そして俺は背を向けたままの詠に向かって、

「ほら、詠も」

と言うと、相変わらず背を向けたまま、

「……ボクは賈文和。真名は詠……」

とだけ告げて、さっさと奥へと引っ込んでしまう。

本当に詠はツンツンツン子だなぁ、と呆れ半分・可愛さ半分でその後姿を見送ると、恋とねねの二人に向かって、

「俺は北郷一刀。これからよろしくな」

と手を差し出した。

「………………………………よろしく」

「まぁ、よろしくしてやってもよいのです」

俺たちは固く握手を交わした……。

……………………………………………………………………………………。

あれ、誰か忘れているような……?

………………………………………………………………。

………………………………。

………。

あっ、貂蝉だ!

俺はずっと放置していた貂蝉の方を向く。

すると、次は自分の番かと、ピンクの紐パンに手をかけ、三本目の手を用意しようとする貂蝉の姿が……!

後悔がほんの少し遅かった。

「うふ、ご主人様ったら」

と、奇声を発する貂蝉の姿を、俺は二度と忘れることはないだろう。

……もちろん悪い意味で。【続】


 
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