「フゥ…」
成都『玉座の間』
そこでため息をつく金髪の小柄な少女。
彼女こそ、魏の国王にして、『乱世の奸雄』と謳われている曹孟徳である。
「「………」」
それを見て沈黙しているのは、かたや、『江東の小覇王』と謳われてる孫伯符。
方や『天の御遣い』と言われている俺、北郷一刀。
そして…
ぐうぅぅぅ。
「あぅ…///」
この空気に場違いな音を発した彼女が、俺の仲間、蜀の国王劉玄徳。
「「「桃香…」」」
三人の呆れた視線に
「ア、アハハ…ごめんなさい。///」
頬を少し朱く染めながら謝った。
「でも、本当にどうするの?」
不意に孫策・・・雪蓮が聞いてきた。
「恋や華雄が殺られるような相手となると…」
「やっぱり軍を率いた方がいいのかなぁ?」
そう言う桃香の意見に曹操・・・華琳と雪蓮が首を横に振った。
「忘れたのかしら?今はその賊以外にも五胡の連中もまだ攻めて来ている。」
「そんな時に軍を率いて賊退治!…なぁんてしてられないわよ。」
「だよな…そういえばさぁ。」
そう言って俺は華琳に向き直る。
「なにかしら?」
「いや、偵察にいった…えっと、楽進ちゃん達はどうしたのかなぁ…と。」
「そういえば…変ねあの子達ならもう戻っていてもおかしくないのだけど…」
華琳はそう言った。
その時――――ッ!
バタン!
「「華琳様!?」」
そこに二人の少女が駆け込んできた。
一人は腰の辺りまで伸びた黒髪で、左目に眼帯をしている。
もう一人は水色の短髪で少し右目が隠れている。
そして、この二人こそ、曹魏の両翼にして曹操の従姉妹。
前者が、姓は夏侯、名は惇、字は元譲。
後者が、姓は夏侯、名は淵、字は妙才。
「春蘭、秋蘭!今は軍議の――「それどころではありませぬ!」――…??どういうことかしら?」
夏侯惇の慌てぶりから何かを感じ取ったのか、華琳の表情が深刻な物になった。
「消されたのです!」
「「「「………」」」」
えっと?誰かわかる人は…いないか。
「春蘭。もう一度説明してもらえるかしら?」
「ですから消されたのです!」
「秋蘭。」
結局夏侯惇の意図を謀り兼ねた華琳は、隣に居た夏侯淵に説明を求めた。
「華琳様…ご理解頂けないかと思われますが、ほぼ姉者の言う通りなのです。」
「…ほぼ?では、どこか間違いが?」
「間違い…というより、欠落の方が正しいですな。姉者は結果しか言ってませんから…」
「御託はいいから早くしてよ…」
退屈そうな顔をして雪蓮が言った。
「うむ。実は…」
深刻な顔をして告げた内容は、俺達を悲しみへ突き落とすものだった。
「凪、真桜、沙和の三人が消された様なのです。」
そう告げられた俺達は驚愕した。
だってそうだろ?
楽進達は夏侯惇程じゃなくても、賊に負けるような人ではないし、そもそも今回は、二万程の軍勢で当たったんだ。
なのに敗北だって?
ありえないだろ!?
俺達がそんなことを考えていると…
「報告!夏侯淵将軍の命により、先程戻って来た伝令を連れて参りました。」
そう言って一人の兵士が、ボロボロの兵士を連れて入ってきた。
「ご苦労。下がって良い。」
「はっ!」
タッタッタッ…
兵が走り去って行ったのを見送り、夏侯淵は残った兵を見据えた。
「では、話してくれ。」
「御意。実は…」
伝令の話を要約すると…
敵は噂通り二人だけだということ。
その内の一人はおかしな武器を使っていたこと。
もう一人が何か呟いた瞬間に楽進達が消えたこと。
…以上の四点だ。
しかし、それを聞いた俺は、また驚愕した。
信じたくない。だけどそれぐらいしか思い当たらない。
「一つ良いかな。」
「はっ!なんなりと!」
「ありがとう。じゃあさ、その変わった武器って…もしかして弓とか薙刀とか鎖鎌とかになってなかった?」
「え!?ご存知だったのですか、御遣い様!」
兵士が驚いて聞き返してきた。
くそ…
「マジかよ…!」
「…大丈夫、ご主人様?」
心配そうに桃香が覗き込んできた。
「大丈夫だよ…ありがとう桃香。」
そう言って俺は桃香の頭を撫でた。
「お楽しみのところ悪いけれど…」
そう言いながら、華琳が俺に近づいて来た。
「あぁ、わかっている。」
そう言って俺は皆の方に向き直った。
「最初は信じられなかった。でも、今の兵士の発言で悲しいけど確信になった。」
そこまで言って俺は一息ついた。
そして続ける。
「恐らく、そいつらは―――――――」
「俺の…仲間だ。」
その後はとても大変だった。
華琳と夏侯惇が食ってかかって来て…
それを雪蓮と夏侯淵が必死に宥めて…
でも、その場に居た皆が、俺を見る目に大きな怒りと不信を抱いていて…
結局、華琳達は部屋を飛び出し、それをみた雪蓮は「元気出して」とだけ言って部屋を後にした。
「ご主人様…今日はもう、自分の部屋で休もう。」
桃香に促され、俺は黙って頷いた。
「どうしてなんだ…鋼牙…大河…!」
こうして軍議は終わった。
――所変わって――
「フゥ…」
「……。」
皆が寝静まった漆黒のなか…
鋼牙と大河の二人は夜空の星を見上げていた。
「綺麗ですね、兄上。」
「まったくだ。日本の空も、このくらい綺麗ならば良かったのだが…」
そう言って鋼牙は、どこか淋しげに語った。
「クスッ…ホントですね。」
そんな風に二人が話していると…
「た、助けてくだせぇ!」
「「…ッ!?」」
突然、一人の村人が助けを求めてきた。
「どうかしたのですか?」
「実は、オラ達の村に魏の人が攻めてきたのですだ…」
「なに?!」
そう言って鋼牙は露骨に怒りを表した。
その直後―――――
「…っ!!兄上、あそこに人影が!」
「どこだ!人数は!?」
「前方十メートル!人数は二人です!」
「わかった!」
言うや否や走り去って行く鋼牙。
「しかし、どうして魏が…」
走り去って行く鋼牙を見送りながら、大河は思った。…と、
「大河!」
「ぅおわ!あ、兄上ビックリさせないでくださいよ!」
「そんなことより、こやつら、蜀と呉に襲われたらしい。」
「なっ!?…魏のみならず、蜀呉までもが…どうなっているのだ?」
大河がそう呟いた。
「どうもこうも無い!この様な悪虐非道を働く者など、我が武で打ち砕いてくれるわ!」
「兄上…フッ、そうでした…。僕達は、二人で誓ったのでしたね。」
二人の誓い。
鋼牙の武は、殿下を守り、官匪匪賊を打ち砕くため…
大河の智は、同じく殿下を守り、苦しむ者を救うため…
「しかし…楽進将軍達にはどう伝えますか?」
「…残念だが、一応降伏した身だ。いやがおうでも協力してもらおう。」
「…わかりました。では明日より行動を開始しましょう。」
「あぁ。…お休み大河。」
「クスッ、おやすみなさい、兄上。」
そう言って、二人は天幕に戻った。
「…まずは計画通りですね。」
「チッ!おい、于吉!こんな回りくどいことをしなくてもこの俺が奴を…!」
夜空に浮かぶ二人の男…
一人は眼鏡をかけており、もう一人は茶色がかった髪色の少年。
「イケませんよ、左慈。もう少しの辛抱です。」
于吉と呼ばれた男はため息混じりに言った。
「チッ!…まぁ良いさ。」
左慈と呼ばれた少年は悪態をつきながらも、確かに笑っていた。
「もう少しであいつを…北郷の野郎を葬ることができるのだからな。ククク…クハハハハハハハハ!」
そう言って、左慈は音もなく消えた。
「さて…この外史はどのように終焉を迎えるのでしょうか…フフッ…。」
そう言って于吉も消え去り、残ったのは不気味な程の静寂だけ…
皮肉にも、一刀達のもとに伝令が到達する少し前の話であった。
于吉達の陰謀によりぶつかることとなってしまった一刀達と鋼牙達。
一刀は鋼牙達を止められるのか――――
鋼牙達は于吉の陰謀に気づけるのか――
于吉達が一刀を殺す理由とは―――――
次回へ続けよ!
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えっと…前半は、一応三羽烏戦の後の三国Sideです。
ただ、後半はまた鋼牙達の話になってます。
稚文・乱文になってると思いますが、ご容赦を…