No.652371

IS~ワンサマーの親友ep33

piguzam]さん

嵐を呼ぶ転校生その2

2014-01-06 22:05:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5127   閲覧ユーザー数:4497

 

 

 

前書き

 

 

皆様、新年明けまして御目出度う御座います。

 

 

遅くなりましたが、今年初投稿となります。

 

今年もワンサマー並びに他2作もよろしくお願い致します。

 

 

そして作者ことワタクシpiguzam}は、現在ACVDに出没していますwww

 

 

機体の何処かにpiguzam}というデカールを貼った狂気な仕様。

 

 

もし共にミッション行く事があればよろしくお願いしますwww

 

 

時代はガトリングやでぇ……だなだなだなだなだなだなだなぁっと!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて、どうすっかなぁ……もう残り時間……13分ちょっとってトコか……食堂は無理だな、チクショォ」

 

ISスーツの下だけ着替え、上は中に着込んだまま、俺は更衣室から出てボヤく。

今から食堂に向かって飯を食べるには全く持って心許無い残り時間だ。

かと言って実習をサボる訳には絶対にいかない……昔は良く授業サボった事もあるが、今サボったらぬっ殺されちゃう。

雪片装備の千冬さんによって……か弱い俺にはとても逆らえないのです。

 

「仕方ねぇ。今日の昼は飲み物だけで済ますか……ハァ」

 

更衣室の直ぐ傍にある自販機を目指して、俺は食堂とは反対の方向へと足を進める。

ベンチも傍にあったし、適当に炭酸とかで腹を誤魔化すしかねぇだろう。

 

「げ、元次君!!待って!!」

 

「ゲンチ~!!そこで止まって~!!ストップ~!!」

 

「え?」

 

そう考えて午後からの地獄の空腹をどうにか耐え忍ぼうと覚悟を決めた俺の耳に、俺を呼び止める声が聞こえた。

後ろから聞こえてきた声に振り返ると、其処には廊下の先から焦った様に走ってくる本音ちゃんとさゆかの姿があるではないか。

 

「ハァ、ハァ……ま、間に合ったね、本音ちゃん」

 

「ふひぃ~。どうにかなったよ~さゆりん~」

 

「ど、どうしたんだ二人共?そんなに息切らして、何かあったのか?」

 

「ハァ、ハァ……こ、これ。良かったら食べて?」

 

俺の目の前に着くや否や、かなり疲れた表情で息を吐く二人に困惑しながら問い掛けると、さゆかが俺にちょっと大きめの巾着袋を手渡した。

受け取ってみると、少し重みがあってほのかに暖かい……ってちょっと待て?『良かったら食べて』ですと?……も、もしや!?

さゆかの言葉に一縷の希望を感じ、俺は慌てながら巾着の袋を開ける。

 

「お――おぉぉぉおお!?こ、これはぁああ!?O・NI・GI・RIでは御座いませんかぁああ!?」

 

すると、中に入っていたのは淡い白色の輝きを放つ三角形のお握りご飯の群れだった。

何故か形は大小様々ではあるが、紛う事無きおむすび様です。

そしてさゆかの『良かったら食べて』という台詞から分かる通り、どうやら二人は俺に差し入れを持って来てくれた様だ。

やおら感激の叫びを挙げてしまうが、息を整えた二人はそれを気にする様子も無く、寧ろ申し訳なさそうな表情だった。

え?何故にそんな顔をしてるんだ二人は?

 

「ふ、二人共どうしてそんな顔してるんだよ?態々おにぎりまで届けてくれて、俺は二人に凄え感謝してるんだぜ?」

 

二人の申し訳無さそうな表情の理由が分からずにそう問い掛けると、二人はオズオズと俺に視線を合わせてくる。

まるで叱られるのを理解してシュンとしてる子供の様で微笑ましかったのは秘密だ。

 

「だって……元はと言えば、元次君は私達の所為でお昼ご飯食べ損ねちゃったから……本当にごめんなさい」

 

「ごめんね~ゲンチ~……織斑先生の授業であんな事しちゃったら、怒られるのは当たり前なのに、あんな事頼んじゃって……」

 

「い、良いってそんな事。こうやって飯を持ってきてくれただけでも、俺にとっては迷い込んだジャングルで高級ディナーを見つけた事と同じくらい嬉しいんだからよ」

 

しっかりと頭を下げて謝ってくる二人に、俺は冗談を交えながら問題ないと答えた。

事実、俺が本音ちゃん達の要求を無理矢理にでも突っぱねて実習をすれば良かっただけの事なんだしな。

只、俺だけが罰やってシャルルと一夏は何もしてねーってのが少々気に食わんが……どっかであいつ等二人に天罰でも落ちねーかなぁ(フラグ)。

少し遠い目をしながら同じ罪を背負う二人に思いを馳せていたが、さゆかと本音ちゃんはまだ納得がいっていないらしい。

二人して頭を上げても表情は余り変わって無いから直ぐ分かった。

 

「本当にごめんね?お握りも本当は買ってこれたら良かったんだけど、購買も他の人で溢れかえってたから……」

 

「二人でさゆりんの部屋に戻って~、急いで作ってきたの~。でも、その代わり~おかずをい~っぱい入れたから~♪」

 

女の子の手作り料理キターーーーーーーーーーーーーーッ!!

おいおい2日連続で何たる幸運でしょうかねコレはうひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!(錯乱)

思わぬ天から降り注いだ幸運に狂喜乱舞しそうになる心を抑え付けつつ、俺は表情筋をフル活用して笑顔を浮かべる。

 

「い、いやもう充分過ぎるって、本当にありがとうな。昼飯抜きも覚悟してたから凄え嬉しいし、手作りの方が俺的にはありがたい」

 

「そ、そうなんだ……作ってきて良かった……♪(ぼそ)」

 

「にへへ♪私もさゆりんと一緒に作ったからね~♪美味しく出来たから、早く食べて食べて~♪」

 

「なん……だと……?」

 

嬉しそうに照れた表情を見せるさゆかと楽しそうな笑顔を浮かべる本音ちゃんの二人がとても可愛く見えます。

だがしかし!!俺は本音ちゃんの言った台詞を聞いて、体中に電撃が奔った。

ほ、本音ちゃんが料理、だと?今まで俺に作って貰ってばかりで、料理スキルの片鱗すら見せた事の無い本音ちゃんが?

心無しか、巾着の中に入ってる御握り様が鬼斬り様に見えてきました。

本音ちゃんの御握り……ゴクッ……だ、大丈夫だろ。さゆかと一緒に作ったなら、さゆかがちゃんと見てる筈。

あの料理上手なさゆかが、もし、万が一、いや億が一にでも本音ちゃんが変な物を入れようとしたら止めてるだろう。

 

「それじゃあ、私達は行くね~。バイバ~イ♪」

 

「元次君、また後で整備室で会おうね」

 

「おう、何から何までサンキューな、二人共。必ず何かでお礼するからよ」

 

とりあえず時間も残り少ないという事で、二人は実習の場所である整備室に向かう事にしたそうだ。

俺も去っていく二人にお礼を言ってから別れ、自販機でお茶だけ買いこんで更衣室へと戻った。

そこで直ぐにISスーツのズボンを履き、次の実習の用意を終えてからベンチの上で巾着袋を改めて開く。

 

「さあて、何が出るかな?」

 

開いた巾着の中身は全て白米オンリーなので見た目では何か分からない。

まぁまずは手堅くさゆかのであろう綺麗に三角に握られた小さいおむすびのラップを外して一口。

 

「……ッ!?う、美味ぇ……ッ!?これは、卵焼きか!?」

 

口の中に広がったのは幸福、美味な上にさゆかのお弁当を食べた時とは少し違う味だった。

何と中に具材として入れてあったのは塩味の卵焼きに醤油を少々という意外な具のチョイス。

これがまた白米と絶妙にマッチしてて美味い。

それを食べ終えてもう1つのおむすびを半分だけ齧ってみると、今度は淡白な味わいの白い肉が出てくる。

 

「ん?……マヨと塩が和えてあるけど、ツナマヨじゃねぇ……あっ!?ささみかコレ!?ヤベ普通に美味いんですけど!?」

 

口をモゴモゴ動かしながら見慣れない具材を考察すると、鳥のささみのマヨネーズ和えだと判明。

おにぎりの具材としては意表を付かれたって感じだがこれは美味い。

他のおにぎりは具材が一緒だったけど、卵焼きもささみも美味いから直ぐに無くなっちまった。

どれもこれも具材としてはNOT定番なのに美味い物ばっかり、さすがさゆかさんです。

最後の具材である紫蘇梅の御握りまであっという間に食べつくし、俺はお茶を飲んで一息付く。

 

「あぁ……弁当に続いてこんなに美味え飯、本当にありがとよさゆか……さて、次は本音ちゃんの御握りですが……こ、これは斬新な形をしておりますねぇ」

 

若干料理のレポーターみたいな事を言いながら、巾着の中を覗く俺の表情は少し引き攣っている。

いやね?まだ丸いおにぎりとかは別に良いんだよ?丸むすびも普通の形だし?

 

「ただ……四角いおむすびってのはちょっと……いやホントどうやって握ったのコレ?」

 

戦慄しながら呟く俺の手の上には、定規でも使った?と疑いたくなる様な四角い正方形のおむすびが乗ってます。

何コレ?何でラップに包まれてるのに角がしっかり鋭角になってるんだ?物理保存の法則はどうしたオイ。

恐らく、いや十中八九これは本音ちゃんの手作りだと確信出来る代物だ。

何故にこんな形でこの世界に形を成してしまったのかは不明だが……食べなきゃ駄目、だよな?

 

「本音ちゃんが俺の為に作ってくれたおにぎり……いやしかしこれは……」

 

少し、いやかーなーり怖いぞ……こ、これはちょっと……遠慮しとこうか。

ちょっとラップを取る事に戸惑いを見せ、俺はそのおにぎりをそっと巾着の中に戻そうとした――。

 

『ひっく、ぐじゅ!!う、うわぁあ~~ん!!ゲンチ~の為に、が、がんっ、頑張って、作ったのにぃ~!!うわぁあああ~~ん!!』

 

「ほぶぼぁっ!!?ち、違うんだ本音ちゃん!!許してくれぇえええええ!!?」

 

瞬間、本音ちゃんが両手で目を抑えながら号泣する姿が脳裏を過ぎり、俺は誰も居ない更衣室で土下座してしまう。

な、何最低な事しようとしてんだよ俺は!!本音ちゃんが俺の為に態々作ってくれたんだぞ!?

それを食べずに送り返すだなんてどれだけ失礼な事だと思ってるんだよボケ!!

例え中身がマズかろうが変な物が入ってようが――。

 

「善意で出された物を食わねぇなんて、男じゃねぇ!!――南無三!!(バクッ!!)」

 

覚悟を決め、自分を叱責しながらラップを捲り、謎の物体Xを口の中に放り込む。

そのままゆっくりと、恐る恐る口をモグモグ動かすと――。

 

「……あれ?……塩味のみ?っていうか具材が入ってない?あっるえー?」

 

どうやら1つ目のおにぎりは具材の無い塩むすびだったご様子、俺の覚悟はどうすれば?

アッサリとクリアしてしまった謎の四角いおにぎりに拍子抜けするも、まぁ美味いからいっかと考え直す。

外れて不味い物を食わされるよりかは百倍マシだ。

最初の試練をクリアして幾分か楽な気持ちになりながら、俺は二つ目のキューブ飯を口に放り込む。

と、今度はちゃんと具が入っていた。

 

「お?こりゃツナマヨ……と、おかかが一緒に混ぜてあるのか……やるな、本音ちゃん」

 

仄かに口に広がる醤油と鰹の味がこれまた白米と良いハーモニーを奏でてくれている。

この味は慣れ親しんだ具材が混ざってるだけに、余計に美味いと感じさせられるな。

そして最後のまるい御握り二つには電子レンジで暖めた感じのウインナーが混入されていた。

これも勿論美味しく頂いたけど……疑ってゴメンよ、本音ちゃん。

 

「フゥ~…………さゆか、本音ちゃん。美味え握り飯をありがとう……ご馳走様でした(パンッ)」

 

二人に万感の想いを籠めてお礼を言いながら手を合わせ、俺は巾着袋をロッカーに仕舞う。

絶対にこのお礼はしようと忘れないように心掛けながら時計に目を向ける。

時間はもう直ぐ実習が始まる5分前に差し掛かろうとしていた。

 

「っとと。そろそろ俺も出ねぇとな……あれ?そういえばアイツ等どうしたんだ?」

 

ここで言うあいつ等とは同じ男子である一夏とシャルルの事だ。

アイツ等も実習に行くならここ(更衣室)に来て着替えてからいかないといけないんだが、一向に姿を現していない。

もしかしてISスーツを着たままにしていたのかとも考えたが、それでも制服は脱がないと駄目な筈だ。

俺より先に出たのにこんなに遅いとか……もしかして何かあったのか?

 

「んー?……まぁ考えても仕方無ぇし、早く整備室に急ぐとし――」

 

プシュンッ。

 

「う、うぉえ……シャ、シャルル。大丈夫か?」

 

「……うぷっ」

 

「ん?お前等やっと来たの、何があった!?お前等顔色真っ青、っていうかそれ通り越して紫じゃねぇか!?」

 

ちょうど更衣室を出ようとしたら扉が開き、向こうから顔色を紫にした兄弟とシャルルの姿がフレームIN。

一夏も結構ヤバイけど、一夏に肩を貸して貰って歩くシャルルは、はっきり言って悲惨だ。

 

「よ、よぉ、ゲン……情けねぇ所見せちまったな……ハハ」

 

「お、おいおい!?無理すんなって!!一体何があったんだよ!?変なモンでも食ったのか!?」

 

「……(コクコク)」

 

一夏は気丈にも俺に儚く笑いながら返事をするが、シャルルは口元を抑えて頷く事が精一杯の様である。

いやいやいや、昼休みに何してきたのお前等?生ゴミでも食ったのかよ?

慌ててフラフラの二人を支えながらベンチに座らせてやると、一夏がブルブルと震えながら口を開いた。

 

「セシリア……弁当……サンドイッチ…………本の色に合わせて……具を」

 

「なにそれこわい」

 

衝撃的過ぎるキーワードに戦慄した俺が言えたのはそれだけだ。

多分サンドイッチまでのキーワードはオルコットの作った弁当を差している。

そして……その後に続く言葉が本の色に合わせて具を、という謎ワード。

え?それってつまり料理本の色に合わせてって具を適当にって事か?レシピも何も見ずに?……ま、まさかな。

 

「……辛味とか、酸味とか、苦味、エグ味が一度に来たよ……口の中で皆兄弟って感じにカーニバルを……」

 

「わ、分かった!!もう分かったから何も言うなってシャルル!!お前等今日の実習は休め!!」

 

「で、でも僕、転校初日……」

 

「このままじゃ転校初日にドロップアウトしちまうぞ!?人生を!!」

 

シャルルが虚ろな目で語り始めたのを見て、コイツ等本格的にヤバイと直感した。

一夏なんかアル中みたいに手がブルブル震えてるじゃないか。

ヤバイ、コイツ等さっさと保健室に叩きこまねーと本格的にヤバイ。

 

「と、兎に角待ってろ!!今先生に連絡すっからよ!!」

 

俺は携帯を取り出して千冬さんにコールしながら、二人を担いでなるべく揺らさない様に廊下を走る。

しかし中々千冬さんは電話に出てくれなかったので、仕方無しに通話を切った。

最悪、保健室の柴田先生から千冬さんに事情を連絡して貰うしかねぇ。

とりあえず怒られるのを覚悟しながら、俺は重病患者二人を背負って保健室へとひた走った。

途中何度か先生に呼び止められたけど、シャルル達の顔見せたら「早く連れて行きなさい!!」と許可を頂いたよ。

そして保健室で柴田先生に診てもらう事が出来た訳だが……。

 

「……はい、これで大丈夫よ。ちょっと食べ合わせが悪かったのね。薬を飲んで安静に寝てれば、夜には元気になってるわ」

 

との事だった。

サンドイッチで寝込む症状を起こさせるとか……オルコットェ……。

とりあえず俺は授業に行く様にと柴田先生から言われ、千冬さんに事情を説明して貰う様にお願いしてから保健室を後にした。

 

「じゃあ俺は行くからよ。二人共ゆっくりしてな」

 

「あぁ……悪いな、ゲン」

 

「ご、ごめんね元次……初日から、迷惑掛けちゃって……」

 

「なぁに気にすんな。今回はさすがに運が悪かっただけだ」

 

っていうか確実にオルコットが悪い、うん。

保健室のベットに寝そべりながら謝ってくる一夏達にそう返し、俺は整備室へと向かった。

そして遅れて整備室に入った俺だが、今回はさすがに事情が事情だったのでお咎め無しで済んだ。

シャルルと一夏という男子が同時に保健室へ運び込まれた事で、1,2組の女子がこぞって悲鳴を挙げる。

放課後お見舞いに行こうとか色々騒いでいるのを千冬さんが出席簿で鎮圧してるのを尻目に、俺はオルコットへと近づく。

 

「オルコット、ちょっと良いか?」

 

「あっ!!鍋島さん、一夏さ、じゃなくて、お二人の容態は!?」

 

「ん、大丈夫だ。柴田先生の話じゃ安静にしてれば今日の夜には回復してるってよ」

 

俺が近づいてきたのを感知したオルコットが不安そうに一夏の容態を聞いてきたので、俺はそれに平気だと返す。

そう聞いてホッと胸を撫で下ろすオルコットだが……もしかして自分の料理の所為だって判って――。

 

「あぁ、一安心ですわ。今日のお昼、わたくしのサンドイッチを食べて一夏さんもシャルルさんも美味しいと言って下さったのに、直ぐに急用を思い出したと仰って何処かへ行かれてしまいましたから……料理の深い感想は明日にでも聞くとして……でも、わたくしのサンドイッチや箒さんのお弁当に鈴さんの酢豚を食べてた時は大丈夫でしたのに……途中で変わった物でも食されたのでしょうか?」

 

判ってねぇ。確実に自分以外の何かが原因だと勘違いしてやがるよこのお嬢様。

心底不思議そうに首を傾げているオルコットを見ながら、俺は自然と頬が引き攣ってしまう。

そして俺と同じくオルコットの近くで頬を引き攣らせてる鈴にプライベート・チャネルで会話を開始。

 

『え?オルコットの奴、マジで気付いてねぇの?』

 

『……最初に一夏達が美味しいって言ったのを鵜呑みにしてるのよ。中途半端に優しさだして二人とも美味しいなんて言うから……』

 

『社交辞令って言葉を知っとけよオルコット……箱入りお嬢様ってのはマジのマジだったか』

 

プライベート・チャネルで会話しながら俺と鈴は二人揃って頭を抱える。

まさかここまで色んな意味で無知だったとはな……しかし、料理が出来る俺からしたらそういのは頂けない訳です。

 

「なぁオルコット。お前一夏達に食わせたサンドイッチの味見はしたのか?」

 

「いいえ。どうしても一夏さ……もとい、他の方に最初に食べて頂きたかったので、味見はしていませんわ」

 

何で味見して無い事を胸張って言いますかねコイツは?ドヤ顔止めれ。

まぁ自分で味見してれば、今頃オルコットは朝から保健室のお世話になってただろう。

このまま放置してたら、何時か被害が俺にも回ってきそうだし……ちょっと荒療治しておくか。

 

「とりあえずお前も自分でそのサンドイッチ食っておけよ。そうしたら自分が鈴や箒達と比べてどの位置に居るか分かり易いだろうしな」

 

俺の言葉にギョッとした表情を浮かべる鈴と箒だが、オルコットは何やら我が意を得たりみたいな顔になる。

 

「そうですわね。これから一夏さんに美味しい料理を食べて頂く為にも精進は必要ですし、部屋に戻ったらわたくしも食べておきます」

 

「あぁ。それが良い。頑張れよ」

 

「はい。ありがとうございます、鍋島さん……それと、遅くなりましたが、わたくしの事はセシリアと呼んで下さい」

 

「ん?そういえばそうだな……仲直りしてダチになったのに名字ってのも可笑しな話か。じゃあ俺の事も元次で良い。改めてよろしくな、セシリア」

 

「はい、よろしくお願いします、元次さん」

 

俺達はちゃんとした仲直りのケジメとして、互いの名前を呼び合う。

下手すればこれが最後の挨拶になるかも知れねぇがな……ちゃんと生きろよ、セシリア。

そして俺達は問題無く実習を受けて解散し、それぞれの放課後へと突入。

今日は本音ちゃんが遊びに来るって言ってたし、おにぎりのお礼も籠めて購買で一番高いアイスクリームを3種類購入する。

女の子が大好きな種類って事でバニラとチョコチップミント、そしてストロベリーにしておいた。

これで本音ちゃんが来てもおもてなしは大丈夫だろう。

購買で買った品を抱えつつ、俺は自室へと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

……余談だが、一夏達が部屋に移動した後で保健室のベットがもう1つ埋まったらしい。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「フゥ……昼は酷い目に遭った」

 

「僕、今日はもう晩御飯食べれないよ……食堂楽しみだったんだけどなぁ」

 

「まぁ、災難だったな二人とも。ほら、くき茶だ。胃に優しいからこれなら飲めるだろ」

 

「うぅ……何から何かまでスマネェな、兄弟」

 

俺の手渡したお茶を受け取って何故か一夏は涙ぐむ。

そんなにマズかったのか?セシリアの料理は……そういや、イギリスって世界一不味い料理の国で年間覇者だったっけ。

国の伝統を忠実に背負った代表候補生か、いやはやスゲェな(笑)

 

「今更水くせぇ事言うなって。シャルルもほれ。ぬるめだから熱くは無えぞ」

 

「あ、ありがとう、元次……ハァ……日本のお茶って、優しいね」

 

「胃にも、心にもな」

 

手渡した湯呑みのお茶を啜って幸せそうな表情を浮かべるシャルルと一夏。

俺はそんな二人を苦笑い気味に見ながら椅子に腰掛け、同じく淹れた茶を啜る。

放課後から時は過ぎて、現在は夜の7時。

夕食を手早く済ませてきた俺だが、部屋の前で一夏とシャルルに遭遇した。

話を聞くと折角3人目の男が来たんだし、親睦を深めようと一夏が提案してシャルルもコレに応じたらしい。

だが当の本人である俺が居ないので引き返そうと考えていた所に丁度俺が帰ってきたという訳だ。

まぁ俺も拒む理由は特に無かったので、二人を部屋に招いて今に至る。

 

「独特の苦味と甘みが癖になるなぁ……紅茶とは随分違うんだね」

 

「まぁ、紅茶とは淹れ方も違う所があるからな。味も違うのは当たり前ってトコだろ」

 

「本物のお茶は淹れるじゃなくて点てるって言うんだけどな。抹茶の時は」

 

「そうなの?一夏って物知りなんだ」

 

「いやぁ、まぁお茶の淹れ方を勉強してる時に自然と、な」

 

シャルルの嫌味の無い笑顔と言葉に、一夏は後頭部を掻きながら目を逸らす。

俺は何でそんなに詳しいか良ーく知ってるぞ。

 

「千冬さんに美味しいお茶を飲んで貰いたいという一心で覚えたんだよなー?」

 

「ぶっ!?ば、ばか!!違ぇよ!!」

 

俺がニヤニヤしながらそう言うと、一夏は咽ながらも俺に食って掛かる。

但し見て分かる程に顔が赤い所為もあって説得力は欠片も無いが。

それに一夏の淹れる茶が美味くなっていくと千冬さんの機嫌も一夏の機嫌も上々だったのを見てるしな。

 

「えっと……な、仲の良い事は大事だと思うよ?」

 

「止めて!?慰められると余計に居た堪れないから!!」

 

「シスコーン。姉魂ー」

 

「清々しいぐらい直球だなテメエは!?殴る蹴るの暴行加えるぞこの野郎!?」

 

上等、真っ向から吹き飛ばしてやるけど?

真っ赤な顔でいきり立つ一夏にハイハイと手を振って適当に相手しつつ、俺はキッチンに向かう。

俺的にはもうそろそろ包帯も要らないんだが、一応明日の朝までは駄目だと言われてるので料理は出来ない。

でもお茶受けを出すくらいなら別に良いだろう。

 

「シャルル、後ついでに一夏。お茶受けは甘いのと塩っ気のあるの、ドッチが良い?」

 

「兄弟をついで扱いすんなよ!?……俺は塩っ気あるのが良いな」

 

「あっ、そんなお構い無く……で良かったんだよね?」

 

俺の言葉に突っ込みながらもちゃんとリクエストをする一夏と、少し首を傾げながらそんな事を言うシャルル。

っていうか良くそんな日本語の使い回しの仕方知ってるな。

 

「気にすんなって。転校して来た上に、学園に3人しか居ない男の仲間なんだ。餞別代わりと思ってくれて構わねぇよ」

 

「ホント?……それじゃあ、僕も塩っ気あるのをお願いしようかな?」

 

リビングから聞こえてくる遠慮気味な声に「あいよ」と返事を返しつつ、戸棚からおかきを取り出す。

この間婆ちゃんが送ってくれた俺の住んでた地元の黒豆おかきを数枚皿に取って持っていく。

かなり高い高級品なんだが、日本に来るのが初めてらしいシャルルに対する、俺なりの餞別だ。

 

「ほい。俺の婆ちゃんが送ってくれた黒豆おかきだ」

 

「うぉお!?こ、これ出してくれんのか!?サンキューゲン!!」

 

「豆?お、おかきって何?」

 

嬉しそうにおかきを頬張る一夏のテンションに引き気味なシャルルが質問してくる。

その視線は皿に盛られたおかきに注がれているが手を付けようとはしていない。

 

「何だ知らねえのか?おかきってのは米で出来た菓子の一種だ」

 

「へー?煎餅とは違うの?」

 

「あっちも穀物を使ってるけど、作り方がちょいと違うのさ。まぁ美味いから食ってみろよ」

 

「うん、ありがとう。じゃあ、いただきます……あむっ」

 

豪快に頬張る一夏とは違い、まるで女の様に小さく上品におかきを齧るシャルル……男だよな?

少しの間不思議そうに口を動かすシャルルだったが、直ぐに笑顔を見せた。

どうやら気に入ってくれた様だな……って一夏、あんまり1人で食べるんじゃねぇ。

 

「美味しいよこれ!!なんていうか、スナックとかとは違う感触なんだけど、この豆がまろやかで美味しい!!」

 

「だよな!?ゲンのお婆ちゃんの送ってくれるお菓子の中でも、このおかきは絶品だぜ!!」

 

「……元次のお婆ちゃんって優しいんだね。あっ!?一夏!!僕にも残しておいてよ!!」

 

「へっ!!甘いなシャルル!!早い物勝ち――」

 

「テメエは少し落ち着けっての(ズバァンッ!!)」

 

「ぽわぐちょ!?」

 

「銃声!?」

 

食べたそうなシャルルよりも身を乗り出した一夏が全部食べちまう前に、俺はデコピンを放って一夏の行動を停止させる。

ったく、テメエは今まで散々食ってただろうが。今日ぐらいは初めてのシャルルにも分けてやらんかい。

額を抑えながら悶える一夏を尻目に指先を銃口にやる様にフッと息を吹きかけて煙を飛ばす。

別にマカロニ・ウェスタンが好きって訳じゃ無いんだがな。

 

コンコンコ~ン。

 

「お?来たかな。ちょっと行ってくるわ」

 

「う、うん。いってらっしゃい……一夏、大丈夫?」

 

「痛てて……少しは手加減してくれよな……アイツのデコピンは普通に殴られるより痛えぜ」

 

「……元次の指には銃が内蔵されてるのかな?」

 

後ろで何やら失礼な会話が成されている気がするが……まぁいっか。

おかきを食べてる二人に断って、俺は部屋のドアを開ける。

 

「(ガチャッ)はいはい、いらっしゃ――」

 

「ゲンチ~♪遊びに来たぞ~♪」

 

「こ、こんばんわ元次君。え、えと、その…………来ちゃった」

 

「人生ゲーム持って来たよー!!」

 

「トランプ類も持って来たからね!!ポーカーは私の尤も得意とするゲームだ!!」

 

「あー、その、だなゲン。い、一夏が部屋に居なかったのだが……」

 

「多分コッチに来てるんでしょ。邪魔させて貰うわね」

 

本音ちゃんだけだと思ったら、そこには相川、さゆか、谷本、箒、鈴の姿もあるではないか。

余りの大人数に一瞬声が出なかったよ。

 

「……随分大所帯で来たな……入りきるのか、この人数?」

 

目の前でニコニコと笑う電気鼠の着ぐるみを着た本音ちゃんに苦笑しながら、俺は口を開く。

まさかの6人とは……一夏達と俺を入れたら9人だぞ、厳しくねぇかコレ?

まぁ何人か来客した時の為に椅子はあるし、部屋も普通に広さはある。

後は部屋に備え付けられてるテーブルを置けば問題ねぇか。

 

「大丈夫よ。椅子が足りなかったらベットに座れば良いんだから、兎に角中に入らせてもらうわよ」

 

「あー分かった分かった。相変わらずお前は遠慮ってモンを知らねえな」

 

「そりゃ相手がアンタだもん。無下にはしないでくれるのは知ってるし」

 

「ケッ。昔っからその辺は変わらねえな、鈴は」

 

楽しそうに笑う鈴の頭に軽く拳骨を落としてから、俺は身体をズラして場所を開ける。

そうすると鈴はいの一番に部屋の中へと侵入し、続いて本音ちゃんや相川に谷本も部屋に足を踏み入れた。

 

「ん。すまんな、ゲン」

 

「構わねぇよ、元々空いてたから本音ちゃんのお願いに答えたんだしな」

 

「そうか。それでは、お邪魔する」

 

箒は俺に頭を下げてから入っていく。箒は鈴と違って昔からこの手の礼儀はキッチリしてるタイプだ。

二人揃って一夏の幼馴染みだがタイプはまるで違う。

まぁそれはつまり、一夏がどんなタイプの女でも引き寄せるメスホイホイな性質を持ってる事の証拠だがな。

全員がさっさと部屋に入り、最後にさゆかが入る番になった。

 

「ごめんね、いきなり押し掛けちゃって……迷惑だったよね?」

 

「何言ってんだよさゆか。迷惑なんてとんでもない。さゆかと本音ちゃんには、今日の昼におにぎりを貰った恩があるんだぜ?これぐらい何て事無いって」

 

ちょっと遠慮気味だったさゆかにそう言って、俺は部屋の中へと手招きする。

実際さゆかと本音ちゃんの差し入れが無かったら、俺は今日の実習中に餓死してただろう。

大袈裟でも無く誇張ですら無く本気でな。

 

「そ、そんなに凄い事をしたつもりは無いんだけど……でも、喜んでくれて良かったよ♪」

 

「そりゃもうスゲー喜びましたとも。いやはや、今日は恵まれない私におにぎりをありがとうございます。大変美味しゅう御座いました」

 

「ふふ♪いいえ、どういたしまして♪」

 

扉を潜ったさゆかに大仰に礼をしながら扉を閉めると、さゆかは上品に口元に手を当てて微笑みながら言葉を返してくれた。

そのまま俺達は互いに可笑しそうに笑いながら部屋へと戻る。

 

「む~……ゲンチ~、お菓子ちょうだ~い。デュっち~とおりむ~だけおかきあげてるなんて不公平だよ~」

 

「いや、布仏。そう言いつつおかきはしっかりと確保してるではないか……あーゲン。すまんが茶を貰えないだろうか?」

 

「ホント、本音ってそういう所は抜け目無いわよねー」

 

「お、おい鈴。お前もそんな事言いながら俺のおかきを掠め取るなよ」

 

「まーまー良いじゃない。アタシもコレ好きだし……ん~♪昔からゲンのお婆ちゃんの選ぶお菓子って外れ無いのよね~♪」

 

ヤベエ、全員が全員俺の部屋に馴染み過ぎな気がするんだが?

本音ちゃんは俺の目の前でおかき咥えたままピョンピョン跳ねてるし、鈴は本棚から漫画本取り出して一夏に近いベット部分に寝そべってる。

ってコラ、幾ら使ってない方のベットとはいえそこでおかき食うんじゃねぇ。

そして箒は部屋の隅に置いてあった予備の椅子を持ってきて一夏の隣に置いて座っているではないか。

ちゃっかり茶まで要求してくるとは……フリーダム過ぎるぜ、マイ幼馴染み達よ。

 

「デュノア君の私服って随分ブカブカなんだね?」

 

「確かに、デュノア君には大きすぎる気がするんだけど……」

 

「え、えっと……ぼ、僕!!大きめであんまり束縛されない服が好きだから……あ、あはは」

 

一方で相川と谷本もシャルルの側に陣取って色々と質問をしていた。

何故か質問されたシャルルは冷や汗を掻きながら質問に答えているけど、どうしたんだ?

 

「ゲンチ~。もっとおかき頂戴~」

 

「ん?あ、あぁ。分かった。ついでに全員分の茶も淹れてくるからちょっとだけ待っといてくれ」

 

「うん~♪ありがとぉ~♪」

 

はっはっは。その笑顔だけで何年も戦えますから。

 

「ゲン~。俺にもお菓子くれよぉ~」

 

「男がやると果てしなく殺意が沸くなぁ(輝く笑顔)」

 

「すいませんチョーシに乗りました」

 

ちょっと調子に乗った行動を取った一夏に微笑みながら限界まで握り込んだ拳を見せるとアラ不思議、目の前に土下座する兄弟の姿が。

相変わらずそういう所は外さないなお前は。

俺は「ちょっと待ってろ」と言いいながら部屋の隅に片付けてある大型の折り畳みテーブルを広げて場所を確保した。

すると相川や一夏達はお茶やらおかきの盆をそこに移動させて皆で喋り始める。

さて、お茶やらお茶受けやらを準備しますか。

 

「あっ、元次君。私も手伝うよ」

 

「ん?いやいいって。皆とゆっくりしててくれ」

 

「でも、用意してもらってばっかりじゃ申し訳無いから……お手伝いさせて下さい」

 

手伝いを申し出てくれたさゆかに断りを入れると、さゆかは申し訳なさそうな表情を浮かべながらも食い下がる。

お客さんなんだからゆっくりしてて欲しいんだけどなぁ……まぁ、手伝いたいって言ってくれんなら無下にも出来ねえか。

 

「分かった。それじゃあ悪いんだけど、戸棚にあるおかきの箱を適当に開けて盆に盛ってくれるか?」

 

「うん。分かったよ」

 

ここで変に意地張る必要も無かったので、俺はさゆかを伴ってキッチンに戻り、おかきの補充をお願いした。

俺はその傍ら、人数分のお茶を用意する為にお湯を電気ポットから新しい湯呑みに注いで湯通ししておく。

新しい葉を使うのも面倒だし、全員くき茶のままで良いだろ。

 

「うんしょ。……あ、あれ?……う、うぅ……」

 

「ん?どうしたさゆか……あぁ、固いか?貸してみ」

 

と、湯通しした湯を捨てているとさゆかが少し辛そうな表情でおかきの入った缶を開けようとしていたので、俺はそれを受け取って軽く開ける。

ちょっとこの缶、女の子の力で開けるには固い代物なんだよな……つまみ食いしようとする本音ちゃん対策に固くしてたのが仇になったか。

 

「(パカッ)ほい、この中から適当に選んで盆に乗せてくれ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「なぁに、これぐらいお安い御用ってな」

 

そう言って缶を渡すとさゆかは頷きながら色々な味のおかきを盆に乗せて持っていってくれた。

俺も直ぐにお茶を淹れて皆に配り、ゆっくりと自分の分のお茶を啜る。

椅子は全員座ってしまっているので、湯呑み片手に俺は自分のベットの上に腰掛けた。

 

「しかしまぁ、今日の事はお前等にも責任の一旦はあると思うぞ?一夏とシャルル。ちゃんと真実を言ってやった方が良かったんじゃねぇか?」

 

「い、いやまぁ……ちょっと言い出し辛かったというか……」

 

「僕、一夏に薦められて食べたけど、直ぐに喋れなくなっちゃったから……あの時ばかりは一夏を恨んだよ」

 

「確かに、デュノアは災難だったな」

 

「完全に巻き込まれただけだったからね。まぁ一夏と同じでちゃんと言わなかったのは悪いと思うけど」

 

「え?何々?もしかして今日一夏君達が体調不良だったの何でか知ってるの?」

 

黙ってても仕方無いので軽い話題代わりに今日の事を話すと、一夏は顔を青くしてしまった。

それだけセシリアのサンドイッチがやばかったって事なんだろう、一夏に恨み節をぶつけるシャルルも少し顔が青い。

俺の言葉に同調する意見を言う箒達を尻目に、今日の事を知らない相川達が食い付いてきた。

 

「コイツ等、昼飯でセシリアにサンドイッチ貰ったらしいんだけど、セシリアの奴、料理のレシピの写真の色に合わせて適当な具材をブチ混んだとんでもない代物を作ってきてたらしい。それを食ってダウンしてたんだとよ」

 

「えぇ!?それってホント!?」

 

「うわー……そういう人って実際にいるんだねー」

 

「あぁ。俺も実際に聞いて自分の耳を疑ったぜ。まさかレシピ通りじゃなくて写真通りに作るなんて事するとはってな」

 

「さ、さすがにそれは……」

 

俺の話を聞いて相川やさゆかは苦笑したり目を見開いて驚いたりとそれぞれ反応を示す。

しかも当の本人は自覚が全くのゼロってのが厄介だったけどな。

 

「そうそう。アンタ今日は一緒に食べれなかったけど、次は来なさいよ。酢豚食べさせてあげるから」

 

昼食の話題で思い出したのか、鈴が身体を起こしながら俺に視線を合わせてそう言ってくる。

 

「おぉ。そういえばゲン。鈴の酢豚は最高に美味かったぞ。後、箒の唐揚げも。今日は鈴も箒もお前の分も作って来てくれてたのに、肝心のお前が居なかったから俺とシャルルで食べたんだよ」

 

「あ?そうなのか?」

 

「うん。凰さんの酢豚もだけど、篠之乃さんの唐揚げ弁当もとても美味しかったよ」

 

「うむ。私もお前の分を拵えていたのだが、結局無駄になってしまった」

 

「箒もか?あ~、そりゃすまねぇ。まさか俺もあんな事になるとは思わなくてよ」

 

しかも鈴だけじゃなくて箒も作ってくれてたらしい。

何か悪い事しちまったなぁ……俺もまさかあんな罰を受ける羽目になるとは思わなかったし。

それを聞いて二人に謝ると、二人は別に気にしてないと笑いながら言ってくれた。

まぁ、二人が本当に弁当を渡したかった相手は一夏なんだし、俺はついでってトコか。

それでもダチの気遣いは普通に嬉しいけどな。

 

「そういえばよ。お前等良く普通に飯を食う事が出来たな?女子に追っ掛け回されなかったのか?」

 

耳の早い女子の事だ、シャルルと一夏という美少年とイケメンを放っておく訳が無い。

今朝の騒動に関わっていなかった女子も含めてここぞと昼休みは大混乱になると踏んでいたんだが。

 

「いや、それがな。囲まれた事は囲まれたんだが、シャルルが昼休みに俺たちと昼飯をとるためにいろんなとこから押しかけてきた女子たちの誘いをこう言って断ったんだ……『僕のような者のために咲き誇る花のひと時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』……ってよ?」

 

「おぉう……そりゃまた、さすが愛の先進国なんて言われてるフランスの代表候補生なだけはあるぜ。目ぇ瞑っただけで想像に難くねぇ」

 

「いや、代表候補生は関係無いと思うんだけど……」

 

一夏のモノマネを聞いて少し恥ずかしそうに頬を掻くシャルルだが、確かにシャルルみたいな儚いイメージの男子が言うと様になると思う。

一夏がやるとちょっと違う気がするし、俺がやったら爆笑モノだ。

 

「ホント、アレを横で聞いて驚いたぜ。ああいうのが嫌味くさくなく出来るのは凄いよな」

 

「あぁ、全くだな」

 

「そんな事無いよ。元次だって似合う……ゴメン」

 

「おいシャルル、せめて最後まで言い切れや。そうじゃねぇと拳が握り辛えからよ」

 

「え、遠慮しておくよ」

 

似合わない?んな事は俺が一番良く知ってんだよ畜生め。

改めて自分がどれだけゴツい人間かを理解し直して肩を落とす俺だが、そんな俺に本音ちゃんがニコニコ笑いながらポンと肩を叩いてくる。

もしや慰めてくれるのかと期待に胸を膨らませる。

 

「ゲンチ~は、物凄いマッチョさんだから、爽やかなのは全然似合わないよ~」

 

「よ~し本音ちゃんそんな事言うなら俺だって考えがあるぜそりゃーーー!!」

 

「にゃ~~~!?な、何するのぉ~!?」

 

ちょ~っと酷過ぎる事を言ってくれた本音ちゃんを俺は直ぐ様捕獲。

逃げようとじたばたする本音ちゃんの両手を片手で痛くない様にロックしつつ上に持ち上げてバンザイの格好をさせる。

そのままお尻の部分を俺の両足を外側から引っ掛けて固定すれば完了。

電気鼠の吊るし拘束なり。

 

「今のはちょ~っと俺も傷ついたぜ本音ちゃぁん……少しお仕置きしてやる」

 

「へ?あっ、ちょ、ヤダ~~!!ゲ、ゲンチ~のえっち~!!お猿さ~ん!!」

 

「あぁ~ん?聞こえねぇなぁ?」

 

そう言いつつ空いた片手をワキワキさせながら近づけていくと、本音ちゃんは身体を捩って逃げようとし始めた。

まぁしかし、俺にしっかりとロックされている所為でそれは叶わない。

フッフッフ、もう逃げようとしても遅いぜぇ~?

周りの皆は俺が嫌がる女の子を無理矢理拘束してるシーンを見て顔を赤く染めているだけだ。

涙目で首を目一杯動かして俺を見る本音ちゃんの姿は俺的に大変そそられゲフンゲフン、罪悪感がパネェ。

 

「お、女の子を無理矢理抑えつけるなんて酷いよぉ~!!ゲンチ~の鬼畜~!!ケダモノ~!!」

 

「人聞きの悪い事を言うネズミちゃんには……こうだーー!!」

 

コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ。

 

「ふにゃはははははははは~!!?や、止めてぇ~~~!?あはははははは~!?」

 

ロックした本音ちゃんの脇やらお腹やらとりあえず危ない所を避けて思いっ切り擽る。

爆笑しながら逃げようとする本音ちゃんだが、そうは問屋が卸さねぇぞ。

 

「オラオラオラここか!?ここが弱いのかおぉ~ん!?」

 

「ひやぁあははははは~!?ご、ごめんなさ~~いぃ!!謝るから許し――」

 

「ほれほれもっとよがれ鳴き喚け~!!良い声出して俺を愉しませろやぁ~!!」

 

「あひぃいいいい~~!?らめぇええ~~~!?」

 

今日はどれだけ謝っても許しません!!お仕置きだべぇ~!!

目から涙をポロポロと零しながら大笑いする本音ちゃんをSッ気全開の笑顔で見つめながら、俺は擽りを続行するのであった。

 

「っとと、そういえば忘れてたぜ……ほいこれで終わりにしてあげよう(パッ)」

 

「は……はひぅ……」

 

「だ、大丈夫、本音ちゃん?」

 

「ハァ~、ハァ~、ハァ~……もうらめぇ……」

 

3分間ほど本音ちゃんをしこたま擽りの刑に処した俺は良い笑顔を浮かべて本音ちゃんを解放した。

拘束していた手を離すと本音ちゃんはそのままベットへと倒れこみ、身体をピクピクと小刻みに痙攣させる。

まぁこれでさっきの発言については許してあげるとしますかね。

そしてある事を思い出した俺はテーブルに茶を置いて再びキッチンへと戻っていく。

さゆかと本音ちゃんには世話になったし、早めにお礼をしておこうと思ってたんだよな。

冷凍庫から今日買ってきたアイスのカップを取り出し、3種類のアイスを小さいボール型にして盛り付ける。

 

「本音ちゃん、さゆか。今日は本当にありがとうな。これは俺からのサービスだ」

 

「ふへぇ?……おぉ~!?(ガバッ)パ~ケンダッツのアイスだ~!!しかも人気の3種類が全部揃ってる~!?」

 

「え!?い、良いの!?」

 

盛り付けた皿を2つ持ってリビングへと戻った俺は首を傾げる二人の前に愛アイスの皿とスプーンを置く。

すると本音ちゃんは直ぐ様復活して目を輝かせ、さゆかは心底驚いた表情を浮かべる。

このアイスは学園の女子に大人気なのだが、この3種類は兎に角値段がバカ高いって事で皆手が出せない品なのだ。

その驚愕のお値段、何と中型の丸い1カップで3500円もする。

勿論その値段に見合う美味しさを持った品なので、金持ち連中は良く買うらしい。

 

「あぁ。今日のおにぎりのお礼だ。二人が差し入れしてくれなかったら、俺は間違いなく倒れてただろうからな。遠慮せず食ってくれ」

 

「あ、ありがとう元次君!!私、これ一度も食べた事無くて、ずっと食べてみたいって思ってたの!!」

 

「ははっ、そっか。喜んでくれて良かったぜ」

 

「わ~い!!やった~!!ありがとうゲンチ~!!だ~い好き~!!(ギュ~)」

 

「は、はは……やっすい大好きだなぁオイ(ナデナデ)」

 

テンションアゲアゲ状態のさゆかと本音ちゃんにお礼を言われて、それに笑って返す。

しかも本音ちゃんてばマジに嬉しいのか満面の笑みで俺に抱き付きながら大好きとまで言う始末。

アイス3個で大好き発言て……まったく、子供だなぁ本音ちゃんは。

身体は全然子供じゃねぇけど……着ぐるみ越しに感じるこの戦闘力はかなりアダルティです。

俺の胸辺りでウニウニと顔を擦りつけてくる本音ちゃんの頭を撫でながらそんな事を考えていると、本音ちゃんはするりと俺から離れてアイスを一心不乱にパクつく。

花より団子とはこの事か。

 

「うわー!!良いな良いな!!しかもパーゲンダッツの3個盛りとか超豪華なんですけど!?」

 

「ちょっとゲン!!えこ贔屓しないで私達にも頂戴よ!!」

 

と、二人が超高級アイスを貰ったのを目の前で見せられた雛鳥達が自分達にも寄越せとピーピー騒ぎ始めた。

つうか鈴、厚かましいにも程があるぞ。

 

「分かってるっての。只、量がそんなに無えから、お前等は1人1種類だけだぞ。二人には昼に態々おにぎりを届けてもらったお礼で出してるんだからな」

 

「やった!!言ってみるもんだね!!」

 

「よっ!!お大尽様!!」

 

そんな欠食児童、もとい雛達に溜息を吐きながらも俺は全員に1種類づつアイスを出してあげた。

皆それにお礼を言いつつ、アイスを食してお茶を飲みながらほっこりとしている。

次からは各自お菓子を持ち寄りしてもらうとしよう。出費がかさむ。

その後は皆でトランプをしながら今日の出来事とかを色々喋って楽しく余暇時間を過ごしていたんだが――。

 

「鍋島君、ごめんなさいね。何時もは山田先生か織斑先生がしてくれているんだけど、今日は二人とも会議があるから手が回らなくて……これは処分しておいた方が良い?」

 

「あー、そうですね……うん、全部焼却処分して下さいッス」

 

今夜は新たに先生の1人が部屋に来たのだが、彼女が持ってきたのは俺にとっては要らない物だった。

ったく、まだ性懲りも無くこんなにも送ってきやがるのか、あの馬鹿共は。

 

「なぁゲン、何なんだそれ?」

 

「あん?……まぁ、これなら大丈夫か……ほらよ(ピッ)」

 

キッチン辺りで会話していた先生の持っていた箱の中にある手紙の山から1通の手紙を無造作に取り出し、それを質問してきた一夏に投げ渡す。

ちなみに大丈夫かってのは、手紙に剃刀とか仕掛けて無いから大丈夫って意味だ。

それを慌てる事も無く受け取った一夏は無造作に紙を広げて目を通すと、読んでいる途中から眼つきを険しくさせた。

 

「……何だよコレ!?ふざけんじゃねぇよ!!おい兄弟!!何でお前こんな事書かれてんだよ!?」

 

「ど、どうしたんだ一夏?」

 

手紙を読んだ一夏は立ち上がって怒りを露にし、俺に詰め寄ってくる。

やっぱ怒ってくれるんだな、一夏は……不謹慎だが嬉しいねぇ。

普段は温厚な一夏の突然の豹変振りに箒が驚く中で、鈴が一夏の投げ捨てた手紙を読む。

 

「何々?……『IS適正は嘘だったと申し出て辞退しろ。世界を欺く大罪人は即刻死罪に処されるべきだ』って、ハァ!?何よこのふざけた手紙は!!」

 

「『生きる価値も無い家畜の如き男の分際でISに乗るなど見の程を弁えて自殺しろ』って……な、何なのこれ?」

 

「ひ、酷い……何でこんな手紙が元次君に送られてるの?」

 

更に手紙を読んだ鈴は怖い顔で憤慨し、続けて読んだシャルルは純粋に驚き、さゆかは悲しそうに目尻を下げてしまう。

後から読んだ本音ちゃんもさゆかと同じく悲しそうな顔をし、相川達はシャルルと同じで驚いている。

まぁこんな死ねとかなんて言葉が書いてある手紙を見たら普通はそういう反応だろう。

 

「ソイツは世界中の女性権利団体から送られてきてる俺のストーカー共からの恋文だ。俺がISに乗れるってのは嘘だったと認めろって脅迫状みてぇなもんだよ」

 

「だから何でそんな脅迫状が送られてきてんだよ!?お前はちゃんとISに乗ってるじゃねぇか!!」

 

俺がヤレヤレと肩を竦めながら話すと、一夏が俺に目線を合わせたまま吼える。

どうやら俺が適当に返事してるのが気に食わねぇっぽいが、こんな事で一々目くじら立てても仕方ねぇ。

さてどう言ったもんかと頭を悩ませるが、俺に手紙を持ってきてくれた先生が代わりに言葉を紡いだ。

 

「こんな事を言うのは同じ女性として馬鹿らしいのだけれど……鍋島君は世界中の男性の希望でもあるけど、女性からは危険視されているの」

 

「危険視って何でですか!?ゲンが何をしたっていうんです!?こんな死ねとか自殺しろなんて悪意の塊を送られるなんて!!」

 

「それは……」

 

「まぁ待て兄弟。俺の為に怒ってくれんのは嬉しいが、それを先生にぶつけても意味無ぇだろ。ちゃんと説明すっからちょっと落ち着け」

 

「それは……そうだけどよ」

 

「落ち着け一夏。ゲンの言う通り先生に怒っても意味は無い。まずはゲンから詳しい話を聞こう」

 

少し感情の制御が効かなくなっている一夏にストップを掛けつつ、俺は先生と先生に詰め寄ろうとしてた一夏の間に割って入る。

更に興奮した一夏の肩に手を置いて、箒が仲裁に入ってくれた。只、箒も怒ってるのかかなり眼つきは険しい。

こいつも昔っから温厚に見えて喧嘩っ早い所があるし、こと理不尽な事には俄然と食って掛かる。

それは別に良いんだが、話を聞いて納得してもらうまでは冷静になっててもらおう。

とりあえず騒然とした場が落ち着いたのを見計らってから、俺は何故こんな手紙がきてるのかを皆に話し始めた。

 

「奴等は焦ってんのさ。ほら、弾の家で言っただろ?俺達は女性権利団体から目を付けられてるって」

 

「あぁ。確かに言ってたけど……まさか、これがそうなのか?」

 

「そう。千冬さんが言ってた女性権利団体からのやっかみ。それが形になるとこうなるのさ」

 

「ど、どういう事なのゲンチ~?ちゃんと教えてよ~」

 

さっきよりも落ち着いた状態で俺の話を聞いた一夏は、前の話の内容を思い出して直ぐにこの手紙の意味を理解した。

だが本音ちゃんを筆頭に女性達は俺達の話を理解出来なかったらしく、もっと詳しく話せと目線で訴えかけている。

まぁここまできたら話しておくか。

 

「もしも誰かが、俺達がISに乗れるメカニズムを解明したら、男でもISに乗れる様になるだろ?そうなると今の御時世で一番困るのは誰だ?」

 

「誰って……あっ!!女性権利団体!?」

 

「そっか!!ISに乗れるってだけで女性優遇措置を強行してきた人達からすればそれは困るって事だよね!?」

 

「もしもゲンや一夏以外の男でも乗れると判明すれば、世界はまた男尊女卑の世の中に戻るからか……下らん。吐き気がする理由だ」

 

「何よソレ。要は男に仕返しされるのが怖いってだけじゃない。権力を傘に振ったり、街で男をパシらせてた連中がゲンを目の仇にしてるって事でしょ」

 

皆は口々に答えを導き出し、そのアホ過ぎる答え、というか醜い思いに其々嫌悪感を見せていた。

そう、俺や一夏がISに乗れるメカニズムを解明されて男性がIS界に進出すれば、今の女尊男卑の世の中は変わる。

また昔の様に男尊女卑の時代が到来するんだ。

そうなると今まで男を奴隷の如く扱ってきた奴等は間違い無く報復を受けるだろう。

今の世界の風潮で好き放題してきた女連中からすればそれは不味いと焦った結果がコレ。

男性主体の世界になるかも知れない鍵を握る俺に嫌がらせという名の恋文を大量に送り込んで精神的に追い詰めようって腹だ。

まぁ、こんなクソにも劣る下らねーやっかみなんざどうでも良いがな。

 

「一夏にこの手の手紙が届いて無く実害も無いのは、一夏のバックに千冬さんと束さんの存在があるからだ。幾ら馬鹿女達でもISの世界最強と開発者には喧嘩売りたく無いって事だろうよ」

 

「ちょっと待て。それを言うならゲンも同じではないか?お前も姉さんには気に入られてるんだぞ?」

 

同じ男性でも一夏と俺の違いについて説明すると、今度は箒が質問をしてきた。

まぁ箒の質問は事情を知ってる立場からしたら当たり前の質問なんだが――。

 

「ええぇ!?げ、元次君って篠之乃博士と仲良いの!?」

 

「そういえば、セシリアと喧嘩した時も束さんって呼んでたよね?」

 

「でも考えてみたら納得出来るよ。織斑君と篠之乃さんと昔から仲が良いなら、篠之乃博士とも会ってたって事だもん」

 

「……とまぁ、こんな感じで俺と束さんが仲良いってのは、世間には全然知られて無い事なんだわ」

 

箒の言葉に驚きながらも納得するさゆか達を見て「知らなかったのか」という驚愕の気持ちを乗せた表情を浮かべる箒に返答する。

まぁ幾ら有名な人の事でも、その人の家族とかは調べても交友関係だって歳の近い密接な人間しか調べねぇだろう。

箒は束さんの血縁者にして妹だし、一夏は束さんと仲の良かった千冬さんの弟。

そういう繋がりがあると知られてるからこそ、世界は一夏や箒においそれと手は出せない。

 

「ねぇ。それってつまり……ゲンに喧嘩売った連中って終わりじゃないの?あの篠之乃博士のお気に入りで、千冬さんや一夏とも家族と言えるぐらい強い絆があるのにさ?」

 

と、俺の話を聞いて考えを纏め挙げた鈴がかなり引き攣った表情でそう質問してくる。

そう、最初っから俺に手を出した時点でアイツ等はゲームオーバーなんです鈴さん。

何せこの手紙が最初に送られてきた日は色んな意味で焦った。

千冬さんはこの手紙を見て青筋を出しながら殺気全開不機嫌MAX状態になっちまったからな。

そんでもって束さんは……その更に上というか……色々とヤバかった。

突然携帯に電話してきたかと思えば、それはもう凄いテンションの高い声で――。

 

『ゲーン君♪今から世界中の女性権利うんちゃらとかいう屑共の存在を家諸共宇宙の果てまでブッ飛ばしちゃうから待っててねー♪これぐらい束さんには夕飯前だぜぇ!!』

 

なんて仰るだもんよ、本気で焦った。

いや別に女性権利団体の馬鹿共がどうなろうと知ったこっちゃねぇが、俺は束さんに殺人なんてして欲しくない。

だから俺は懇願して一生懸命に束さんのやろうとしたテロ行為を止めたんだ。

最初は何があっても止まるかって感じだったけど、束さんにそんな事で手を汚して欲しくないとしっかり説明した上で頼めば何とか聞き入れてもらえたよ。

それに、あいつ等は俺に喧嘩売ってきてんだ、俺がブチのめすのが筋だろう。

 

「まぁ、俺から喧嘩売ったり仕掛けたりするつもりは更々無えよ。こんぐらいの手紙も、まだ俺の事だけしか書いてないから許すさ……だがまぁ」

 

心配する表情を浮かべて俺を見るさゆかや本音ちゃんにニヤリとした笑みを浮かべながら、俺はオプティマスをテーブルに置く。

表現するなら正に『獰猛』としか言えないであろう表情を浮かべる俺を見て、誰かが唾をゴクリと飲み込む。

 

「もしも俺の家族に手ぇ出したり、直接俺に歯向かうなら……この世には死ぬより辛い生き方があるって事を、その身体に教えてやるだけだ」

 

生き残った事を後悔させてやるって感じでな。と締めくくると、皆して一様にゴクリと生唾を飲み込んでいた。

ちょっと脅し過ぎたかね?勿論脅しじゃなくて本気でやるけどな。

 

「……ねぇ一夏?僕思うんだけどさ」

 

「何だ、シャルル?」

 

「どうにかして元次の後ろに居る人達の事を女性権利団体の人達に教えてあげた方が良いんじゃないかな?後、元次自身の強さとかも、女性では決して勝てないって事をさ」

 

「いや、無理だろうな……女性権利団体って政府の人達の言葉すら男ってだけで聞かなかったらしいし……多分、どんな言い方しても信じて貰えねぇと思う」

 

「……ご愁傷様、としか言い様が無いね」

 

「あぁ……兄弟は一度やると言ったら必ずやる……まぁあんな手紙を送った奴等の自業自得って事で」

 

「せめて元次の言う様な事が起きない事を神様に祈っておく事にするよ」

 

俺がベットに座りなおして茶を飲んでるのを見ながらシャルルと一夏が何やら耳打ちしあってるが、どうしたんだろうか?

まぁその後は先生に全ての手紙を焼却処分して貰う様に頼み、俺達は再び遊びを再開した。

もう時間も時間だったので最後に皆で人生ゲームをやって終わりにしたんだが、いやはや物凄く白熱したぜ。

最終的な順位は本音ちゃんが一位でさゆかが二位。

二人揃ってマッサッチューセッチュー大学を主席で卒業、新居も構えるというハッピーゴールだった。

途轍もない豪運の持ち主って事をありありと見せつけられた気分です。

続いて相川と谷本も、まぁ平々凡々な環境でゴール。

箒と鈴、シャルルは何故か片思いの男性が別の女性に掻っ攫われはしたが普通にゴールした。

ただその男性の結果が現実的には非常に幸先良くないとの事で箒と鈴はかなり憤慨してたけどな。

そのとばっちりで訳も判らず睨まれた一夏はちょっと可哀想な気が……いや自業自得か。

え?俺?……えぇ、まぁ文句無しの最下位ですよ?

何故か買った新居が津波に流され、自身は受験を失敗して3浪という悲惨さ。

終いには高校時代から付き合ってた彼女から結婚詐欺に遭って茫然自失としてる所を宇宙人に攫われてスタートに舞い戻ったよ。

その結果に全員が口を開けて呆然とする中、さゆかと本音ちゃんだけは俺を必死に慰めてくれた。

俺、彼女作るの止めとこうかな……は、はは……。

その日は結局枕を濡らして寝る羽目になったのだった……ぐすん、ちくしょう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

空けて次の日――。

 

「ん~~!!…… 完 全 完 治 ! ! 」

 

昨日の人生ゲームの結果なんざスッパリと忘れて、俺は保健室で包帯を取った拳をグッグッと握っては開くを繰り返す。

そう、今日はやっとこさあの時の怪我が完治したんだ。

手の経過を診てもらう為に、俺はSHRに少し遅れて授業に出る事になっているから問題無し。

今居るのは毎度お馴染み保健室で、怪我の治り具合を診てくれた柴田先生と俺しか居ない。

包帯の巻かれていた拳の骨部分の傷はすっかり塞がり、ちょっと他の皮膚より色が薄い皮膚になっている。

まぁでも、これも女の子達を助ける為に負った傷だし、所謂名誉の負傷ってヤツだ。

 

「あらあら♪完治したからって、はしゃいじゃ駄目よ鍋島君。もうあんまり無茶な事はしない様に」

 

「おっとっと。すいません柴田先生。でもまぁ、無茶はしねぇって確約は出来ません。必要になりゃ身体が勝手に動いちまうんで」

 

「まったくもう。そういう答えはお医者さん泣かせの答えだから、余り言わないの」

 

久しぶりに開放された拳に狂喜する俺に、柴田先生は前とは違う微笑みを浮かべて俺に注意を促す。

その注意を聞いて、俺は後ろ髪を掻きながら答えるが、柴田先生はその言葉を聞いて溜息を吐いてしまう。

まぁ確かに今まで医者にかかった時も今みたいな事を良く言われたっけ。

そう考えていた俺の目の前で柴田先生は机の上にあった用紙にさらさらと何かを書き留めていく。

 

「はい。これを織斑先生に渡しておいて。これは鍋島君がSHRに出ずに保健室で診断を受けていた事を証明する紙だから、ちゃんと渡してね?」

 

「はい。分かりました。それじゃあ失礼します。治療ありがとうございました」

 

「ええ♪お大事に♪」

 

柴田先生から特例免除用紙と書かれた紙を受け取って、俺は先生に頭を下げてから保健室を後にする。

そのままSHRで静まり返った廊下を歩き、俺は1組の教室を目指した。

さあて、久しぶりに料理が出来る様になったし、ここはいっちょシャルルに歓迎の食事を振舞ってやろうか。

それと最近疎かにしてたトレーニングもして……あぁ後、真耶ちゃんに頼んでた射撃訓練もしなきゃな。

やる事が山積みになってるが、まぁそれぐらいの方が身が引き締まるってもんだぜ。

今後の事を考えながら歩いている内に、自分のクラスである1組へと到着。

教壇側の扉の前に立って開閉ボタンを押そうとした俺だが――。

 

パァンッ!!

 

「ん?何だ?」

 

突如、扉の向こうから乾いた打撃音が聞こえ、俺は少し眉を寄せてしまうが、構わずに扉を開ける。

多分千冬さんの出席簿が誰かに炸裂したんだろうと……この時は思っていた。

 

「(プシュンッ)すいません。遅くなりまし――」

 

そう言いながら教室内に足を踏み入れた俺の視界の先に、何やら見慣れない女子生徒の姿を発見。

腰まで届きそうな銀髪に、鈴よりも小柄な体格の女子が――片目に眼帯をした出で立ちで、一夏の頬を叩いた格好で立っていたのだ。

……何コレ?何で一夏はあの子に殴られてんの?

視界に飛び込んできた光景に思わず目を白黒させてしまうが、教室の誰もが俺と同じ感じで困惑してる。

叩かれた一夏本人も、教壇に立つ真耶ちゃんも……ただ、千冬さんだけは余り表情を崩してない。

 

「……む?……貴様は」

 

と、何この状況はと頭を捻る俺を視界に納めた見慣れない女子は、そのまま俺に近づいてきて下から睨み付けてきやがった。

ソイツの目に宿る光は明確な怒りと……激しい憎悪が見て取れる……何だコイツ?

 

「貴様が鍋島元次、だな?」

 

「あ?……初対面の相手に貴様呼ばわりされる謂れは無ぇんだが――」

 

ちょいと失礼な物言いをする女子に棘のある言葉で返した俺に――。

 

 

 

「――シッ!!!(バキィッ!!)」

 

 

 

目の前の女子は突然、俺の顔面目掛けて飛び上がり、俺の鼻っ面に蹴りを叩き込んできた。

全く持って軽い蹴りだったので痛みは皆無だが……初対面で喧嘩売ってんだな?オーケー、買ってやるよ。

何も反応せずに蹴られた俺に見下した冷たい視線を浴びせてくる女子の額目掛けて、俺はスッと発射態勢に移行した中指を向ける。

咄嗟の事で反応が遅れたのか、女子は俺の添えられた指を見て驚愕した表情を浮かべるが、俺はソレに構わず力を解放。

 

 

 

……何時もより手加減少なめで発射だ。ちと痛えぞ?

 

 

 

「そら(ズバァアアアンッ!!!)」

 

「がッ!?」

 

 

 

一夏に向けて放った時よりも重い音を奏でながら撃ち出されたデコピン。

それを喰らった銀髪女子は思いっ切り顔を後ろに仰け反らせたまま、教室の端っこ、つまり俺の反対側へと吹き飛んでいく。

 

「くっ!?」

 

しかし女子……いや銀髪はそこから空中で回転して態勢を立て直すと、床に綺麗に着地した。

だが俺のデコピンの威力がヤバ過ぎたんだろう、片手で額を抑えたまま片膝を付いてしまう。

ハッハッと息を荒げる銀髪の抑えている手の裏から一筋の血が流れていた。

どうやら額の皮を少し傷つけちまったらしい。まぁどうでも良いか。

クラスメイトはいきなり始まった喧嘩に目を覆い、真耶ちゃんは口元を抑えて小さく悲鳴を挙げてしまう。

巻き込んですまねぇとは思うけど、ちゃんと格付けは教えておかなきゃな。

 

「何処のどいつだか知らねぇが、喧嘩売ってるなら倍額で買ってやるぜ?とっとと掛かってきな」

 

「く、くそ……ッ!!」

 

俺はオプティマスを外して胸ポケットに仕舞ってから指でチョイチョイと挑発する。

その行動と言葉に青筋を浮かべる銀髪だが、悪態を付くだけで膝立ちの姿勢から立ち上がらない。

足がガクガクと震えているとこを見るに、恐らく脳みそが揺れて立ち上がれない様だ。

 

「何だ?勢い良く喧嘩売ってきた割には大した事無えな」

 

「た、大した事無い……だと?」

 

「あぁ。全く持って期待外れだぜ……つか、コイツ誰ッスか?」

 

悔しそうに俺を睨む銀髪から視線を外して教卓の傍で腕を組んでる千冬さんに問い掛けると、千冬さんは俺に視線を合わせた。

 

「今日からこのクラスに転校してきた『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ。ドイツの代表候補生でもある」

 

「はぁ?転校生?昨日シャルルが転校してきたばっかッスよ?」

 

本当にどうなってんだこの学園は?

っていうかそれなら昨日の内にシャルルと一緒に転校させりゃ良かったじゃねぇか。

俺の言葉に千冬さんは若干疲れた表情を見せる。

まぁ自分が担任のクラスに転入生が来たら部屋の調整とか書類が大量に発生するもんな……お疲れ様です。

 

「どう言おうと決定は決定だ。それより鍋島、SHRに遅れてきたのは理由があるから許してやるが、手当たり次第に喧嘩を買うな」

 

「いやいや。売ってきたのは向こうッスよ?どういうつもりかは知りませんが、俺は喧嘩売られた側です」

 

「それでも少しは手加減してやれ。お前に生身で勝てる生徒等、この学園には『誰も』居ないんだからな」

 

「ッ!?」

 

何故か笑顔で『誰も』という単語を強調して話す千冬さんの様子に疑問を持つが、あのボーデヴィッヒとかいう奴の反応はそれ以上だ。

千冬さんの言葉を聞いた奴はこれでもかと顔を驚愕に染め、直ぐに俺を親の仇と言わんばかりの表情で睨む。

 

「千冬さん。アレかなり鬱陶しいんスけど?」

 

「……はぁ。これだけ言っても分からんか……仕方無い……鍋島、少し見せてやれ……格の違いというものを」

 

「へへっ……了解ッス――――ッ!!(ギンッ!!!)」

 

ボーデヴィッヒはやっと脳の揺れが解消したらしく、今は立ち上がって俺をこれでもかと睨んでいる。

それを見た千冬さんは面倒くさそうに溜息を吐きつつ、俺が奴を威嚇する事を許可してくれた。

ならちぃと教えてやろうか、この喧嘩っ早い転校生に本物の違いってヤツを。

俺は千冬さんの言葉に笑顔を浮かべながら了解し奴に向けて、前に俺を観察してた誰かに使ったのより少し弱目の威圧を放つ。

 

「っ!?な、な……ッ!?」

 

俺の威圧を浴びたボーデヴィッヒは呆然とした表情で後ずさり、その中で足を縺れさせて尻から床に座りこんでしまう。

何だよ、こんなモンでこうなるならあの時の顔も知らない誰かさんの方が全然強いじゃねぇか。

俺は威圧を篭めたままで笑みを浮かべ、声にも威圧感を乗せて口を開く。

 

「『向こう(ドイツ)じゃどれ程のモンだったかは知らねぇが、それがそのまま通じる程、此処(IS学園)は甘くねぇぜ?……良く覚えときな』」

 

「ッ!?……わ、私は……ッ!!」

 

俺の威圧を篭めた迫力と声の圧力をモロに浴びたボーデヴィッヒは真っ青な顔色を見せるも、直ぐ様顔に力を入れて鋭い目つきを向けてくる。

さっきまでビビッていた俺の威圧を必死に押し返しながら、ボーデヴィッヒは気丈にも口を開く。

 

 

 

「私は……ッ!!貴様等の存在を認めない……ッ!!貴様等が『教官』の家族であるなどと……認めるものか……ッ!!貴様の様な血の繋がりも無い、赤の他人が……教官の家族を名乗るなどと……ッ!!」

 

 

 

まるで親の仇と言わんばかりの形相を浮かべるボーデヴィッヒの言葉を聞いて、俺は眉を少しだけ顰める。

……正直、誰の事を教官だなんて呼んでるか最初は気が付かなかったが、少し考えれば理解出来た。

『貴様等』という複数を差す言葉と、俺に対して攻撃を仕掛けてきた動き。

それは俺が教室に入った時に一夏を叩いていた事と一緒だ。

チラリと一夏に視線を向けてみれば、一夏は苦虫を噛み潰した表情を浮かべてボーデヴィッヒの言葉を聞いていた。

千冬さんも少しだけ眉根を寄せて難しい顔をしてる……どうやら、色々と話を聞く必要が出てきたみてぇだな。

中学2年、鈴が転校した後に千冬さんが1年間留守にしていた空白の期間、何をしていたのか。

そして、その時期に一夏が酷く気落ちしていて、俺には何も話してくれなかった時に何があったのか。

またぞろ厄介な事が起きそうだが、今は取り敢えず目の前の餓鬼に――。

 

 

 

 

 

「『テメエなんぞに認めてもらう必要は更々無えよ……俺は兄弟や千冬さんと、血以上に強いモノで繋がってるからな……文句があるなら覆してみろ、餓鬼』」

 

 

 

 

 

ちゃんと宣戦布告をしておかねぇとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

正直、ボーの嬢ちゃんは一番難儀な登場と嵐を引っ張ってきます(;´Д`)

 

 

 


 
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