No.651871

天馬†行空 四十話目 旗は、再び蒼天に翻るか

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
 のんびりなペースで投稿しています。

 一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。 
 皆様から頂ける支援、コメントが作品の力となっております。

続きを表示

2014-01-05 02:30:10 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6788   閲覧ユーザー数:4835

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「ん~? どーしたのさ斗詩?」

 

 公孫賛軍に奪取された陣を奪回する為の準備が終わり、汚名返上とばかりに意気込む猪々子は、斗詩が疲れたように溜め息を吐くのを見て首を捻った。

 

「なんでもないよ……。支度は終わったし、行こう文ちゃん」

 

「あ、ああ」

(斗詩、なんか最近素っ気無いような? …………気の所為、だよな?)

 

 目線を一瞬だけ猪々子と合わせ、斗詩は軍の先頭へと馬を進める。

 置いて行かれそうになった猪々子は慌てて馬首を巡らせた。

 

(やっぱり、だらけきってる。姫も文ちゃんも…………白蓮さまの軍は、昔とは違うのに)

 

 戦支度に掛かる最中、斗詩はある予感を覚えて麗羽及び彼女の取り巻き(都落ちの自称名士達)に進言していた。

 物資集積所が襲撃を受ける可能性がある、と。

 だが、折角奪った陣を全て奪い返された怒りと、損害を受けたとは言え未だ十三万近い兵力を有するが故の驕りがあり、斗詩の意見はまともに取り合われなかった。

 物資集積所として使っている陣には一万もの兵を待機させてあり、自軍の三分の一程度しか兵を持たない公孫賛が少ない兵を削ってまでこちらに攻めてくる事は無い、と踏んでいたのである。

 この意見が麗羽から出されたのであるならまだしも、実際に公孫賛軍と矛を交えた猪々子、儒だけでなく軍学も修めている筈の名士達からも同様の意見が出たのだ。

 斗詩は公孫賛との開戦前から沮授や田豫、陳到らの名を挙げ、敵を侮る事の危険性を説いていたが、戦に臨んで意気の揚がる主戦派(実質的に斗詩を除く全員)からは鼻で笑われ、開戦からここまで前線に立つことを許されなかった。

 この事も併せ、更には開戦から一度も戦場に姿を現していない田豫の事も含めて再度注意を促したのだが、結局、斗詩の進言が汲み取られる事は無かったのだ。

 

(…………もう始まってるよね。沮授さんならきっと、この隙は見逃さない)

 

 集積所が築かれている、二十里(約十キロメートル)離れた東の山を一瞥し、斗詩は冷めた瞳で馬をそれとは逆に走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 穏やかな、心地良い風が吹き抜ける成都の城壁。

 その上で、私は彼と語らっていた。

 

「ようやく一つの約束を果たせたな、一刀」

 

「そうだね、星。雲南で夕と出会ってからここまで、長かったような……短かったような」

 

 城壁の淵に肘を掛け、私と一刀は城の中庭を見下ろす。

 そこには、ここまでの旅路で出会った仲間達がとある雑誌の話題で盛り上がって居た。

 その中に、燃えるような紅の髪の女傑――雍闓こと獅炎殿と、彼女と一緒になって嬉しそうに料理の支度をしている朱色の髪を肩口まで伸ばしている智謀の少女――法正こと夕が居る。

 一刀と私はあの日、交趾から道行きを共にして雲南へと辿り着き、そこで大戦を共に戦い抜いた。

 

「幽州で白蓮さんと会って、桃香さん達と一緒に戦って……都で董卓さんを貶めようとする陰謀と戦った」

 

 心地良く響く、静かな口調で言葉を続ける一刀の視線は料理の支度をしている二人を通り過ぎ、何故か動きを止めている霞と華雄の側に居た三人の少女達に向く。

 

「色々と……本当に有り過ぎるくらい色々な事が有ったけれど、ここまで戦い抜けたのは星や夕、おやっさんや獅炎さん……それに、一緒の部隊で戦った輝森さんと蓬命さん、竜胆さんのお蔭かな」

 

 瑞々しい樹木の新緑を思わせる短い髪の少女――李恢こと輝森は固まっている二人を揺さぶっている。

 髪を二房、紅い髪留めで留めている少女――馬忠こと蓬命は料理組が気になるのか、頻りにそちらを気にしている。

 黒に近い藍色の髪の、どこか捉えどころが無い少女――張嶷こと竜胆はなにやら手に持った紙にじっと見入っている。

 

「戦い方やそれに臨む際の気構え、学問や政務のやり方とかを教えて貰った灯さん。”この世界”での生き方を教えてくれた想夏…………あ、でも考えてみれば交趾の皆にも色々とお世話になってるなぁ」

 

 あの時から纏うようになった陽の光に輝く衣が汚れるのもどこ吹く風、といった様子で彼は城壁に背を預けて空を仰ぐ。

 遠く、空の蒼を越えて遥か先、どこか別の場所を見ているような……そんな一刀の横顔を、私は言葉も無く見つめていた。

 

「はは、結局纏めてみると旅先で会った色んな人達に助けられてここまで来れたんだなぁ、って――そう思うよ」

 

 そう言って、一刀は空に手を伸ばす。

 指を広げ、何かを掴もうとするように伸ばされた手の平。

 

「ふっ、その言い様ではまるで大陸の戦乱を平らげたかのように聞こえるぞ?」

 

 何故か、その仕草に言い様の無い不安を覚えた私は、何時ものように彼をからかう。

 

「おっと失言。はは、まだ乱世が終わってないのにこんな調子じゃあ、劉協様や白蓮さん、桃香さんに笑われちゃうな」

 

「うむ、今や劉協殿下と並ぶ御方と成られた主にはしっかりして貰わなければな。であろう、『天の御遣い』様?」

 

「その呼び方は勘弁して下さいお願いします後生ですから」

 

「何だ今更。あちこちで『天の御遣い』という呼ばれ方をされているではないか」

 

「いや、だってさ……『天の御遣い』になる前から親しくしてる人にはそう呼ばれると違和感有るし。それに……」

 

 と、一刀はそこで急に言葉を切り、なにやら言い辛そうにしている。

 何だ? むう、気になるではないか。

 

「それに……何だ?」

 

「ん…………星には、『天の御遣い』じゃなくて『一刀』って呼んで欲しいから」

 

「…………」

 

 …………。

 

 ……………………。

 

「星?」

 

 …………はっ!?

 

 く、なんたる不覚!

 私がよもや、一刀の言葉で呆けさせられるとは……。

 

「は、はは。いや、吃驚したぞ一刀。お前も随分気の利いた言い回しが出来るようになったものだな」

 

 高鳴り始めた胸の鼓動を努めて意識の外へと追い出し、私は彼の言葉を冗談と思い込む。

 何時ものように笑い飛ばそうとするが、一刀の顔を上手く見れない。

 僅かに彼の顔から視線をずらしてなんとか言葉を発するが……何故か胸の奥がしくり、と微かな痛みを訴えた。

 

「……冗談とかじゃ無いんだけどな」

 

 ――え?

 

「俺は本心からそう思ってる。俺のは真名じゃなくて名前だけど……あの日、皆と真名を交換した時から――」

 

 ――えっ?

 

「……いや、違うな。それよりももっと前だ」

 

 頭の中が白く塗りつぶされ、何も考えられない。

 

 周りの音――階下で皆が騒ぐ音や風の音――さえ聞こえない。

 

 だけど、一刀の声だけははっきりと耳に届いている。

 

「『北郷、お前はどうする?』って、星が俺に尋ねた――俺が、戦う意志をおやっさんと星に打ち明けた、あの時だ」

 

 私を見詰めるその目――激しく、だが静かに燃える蒼い炎を宿した瞳――を見て、私もまたあの日の事を思い出す。

 

「この人なら信じられる――一緒に戦える。あの時の真っ直ぐな瞳を見て――――そう、強く思った」

 

 気が付けば一刀は私のすぐ目の前まで来ていた。

 

「ありがとう、星。君が居たから、一緒に居てくれたから――俺はこうして今、ここに居られるんだ」

 

「――ッ!?」

 

 取り繕った虚言と虚勢が脆くも崩れ去ってゆく。

 

 私、は――

 

「――ぅぅぅううッ! かず……かずとっ……一刀ぉっ!!」

 

 ――恥も外聞も無く、一刀に――最愛の人に――抱き付いて、声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

「孫呉の勇者達よ! 袁術の下、屈辱に耐え忍ぶ苦難の時は終わった! 我等は今、この時より『孫』の旗の下に独立を宣言する!!」

 

『雄雄ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!』

 

「徐州の軍は既に我が方と盟約を結んでいる! 後方は気にせず存分に力を揮え!!」

 

(実際は違うんだけどね。でもまあ、このぐらいの方便は『向こう』も承知の上でしょ)

 

 広陵城の城壁をチラリと一瞥し、その上で戦況を見ているであろう諸葛亮に内心で舌を出した雪蓮は南海覇王を鞘から抜き放ち、遠くの山々にまで聞こえるくらいの声で檄を飛ばした。

 結局、劉備と袁術をカチ合わせて漁夫の利を狙う作戦は不発に終わったが、失敗に備えて親友は手をちゃんと打っている。

 今頃は、秣陵や呉、汝南や廬江で孫家に味方する豪族が決起している筈だ。

 後は蓮華と小蓮、思春や穏が上手くやるだろう。

 

「さってと、じゃあこっちも派手に始めるとしますか」

 

「とは言えこちらは二万、ここに居る袁術軍だけでも五万だ。将の質はこちらが上ではあるが油断は禁物だぞ、雪蓮」

 

「わーかってますって! んじゃ、行くわよ祭!」

 

「応!」

 

 後方を油断無く見据えながら、注意を促す冥琳に軽く頷き返した雪蓮は祭を伴って敵軍へと斬り込んで行った。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

 孫策が斬りこんだ陣中に居る筈の袁術こと美羽と張勲こと七乃は、寿春の城壁の上に居た。

 

「あー、やっぱりそうきましたかー。まあ当然ですよね」

 

「な、七乃ぉ……ほんとに大丈夫なのかや?」

 

「大丈夫ですよお嬢様っ! こうなる事は前からちゃ~んと解ってましたから」

 

「いやそれはどうなのじゃ……」

 

 寿春の城に押し寄せる豪族連合、その中心に立つ『孫』の旗を見遣り、七乃は青い顔の主を宥めている。

 

「そもそも、孫策が歯向かって来るのが解っていたなら七乃! どーして放って置いたのじゃ!?」

 

「だぁって……適当な口実で処罰しようにも孫策さん隙を見せませんでしたし。それに、確かめたい事も有りましたから」

 

「む?」

 

 頬を膨らませて小さな握り拳をぶんぶか振り回す主に破顔しつつも、七乃は真剣な声で答えを返した。

 

「徐州……まあ、徐州以外でも良かったんですけど、現状で軍を動かしたら『怖いお方』がどう反応されるかな~? と思ったんですよー」

 

「? あまり聞きとうないが、『怖い』とは誰のことかや……?」

 

 くるくると人差し指で宙に円を描きながら『怖い』の部分を協調する七乃に、美羽は恐る恐る訊ねる。

 

「ひ・み・つ・ですよお嬢様。知ったら夜、一人で眠れなくなりますよー」

 

「ぴっ!?」

 

 それとなくおどろおどろしい雰囲気を出しながら声を潜めると、美羽はびくりと体を震わせ始めた。

 

(董卓さんが動かないのは劉表さんの所為でしょうけど……う~ん)

 

 抱き付いて身を震わせる主の背中を優しく撫でながら、七乃は思考を巡らせる。

 

(天子様が動かないのは不気味ですね~)

 

 あの連合が終結した日、七乃は主と共に参内した謁見の間で自身と同質の――老獪かつ狡猾な者が放つ気配とでも言うべき――空気を新帝に感じていた。

 

(まあ、動きが無いのなら先ずは一つやってみましょうか。天子様、あんなお沙汰には騙されませんよ~…………乗ったふりして上手く騙し返して差し上げますから、ふふっ)

 

 すんすんと鼻を鳴らす美羽を撫でる七乃の深い紫色の瞳に妖しい光が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

「――がああっ!!?」

 

「敵将、田国譲が討ち取ったのです! さあ、まだ抵抗しますですか!?」

 

 飛沫が地を朱に染める。

 突然現れた『田』の旗を掲げた二千程の軍。

 よもや後方の、こんな場所に敵が現れる筈が無いと高をくくって油断していた袁紹軍は思わぬ事態に右往左往するばかり。

 そして、あれよあれよと言う間に首を飛ばされた自軍の将を見て、陣の防衛に当たっていた袁紹軍の兵士達は戦意を失くし、次々に武器を捨てて地に膝を付いた。

 

「本陣に伝令です! 事は成れり、と!」

 

「はっ!」

 

 陣に詰めていた兵数は多くなく、全員が投降した事を確認した柚子は伝令兵を走らせる。

 

(思った以上に上手く行きました。これも斎姫が敵を油断させてくれたからなのです)

 

 開戦当初から一度たりとも姿を見せなかった柚子は、斎姫が袁紹軍と交戦している最中、密かに山道や林道を進軍してこの陣付近に潜伏していたのである。

 著莪の命を受けて動いていた柚子は、五度の勝利で驕った文醜を斎姫が急襲して奪われた陣を奪回し、それに怒った袁紹が近侍する顔良を含む主力を前線へと動かすのを待っていたのだ。

 すなわち、この陣が手薄となる好機を見定め、

 

「火を放ちなさい! 全て灰にしてしまうのです!」

 

 袁紹軍の物資を灰塵に帰す為に。

 斯くして、斗詩が口を酸っぱくして麗羽に訴えていた物資集積所に対する公孫賛軍の襲撃は、顔良や文醜達が出陣した頃には終わりを迎えていたのだった。

 

 

 

 

 

 荊南郡は長沙、本来ならば太守である韓玄が治めるこの土地は妹の韓浩が太守の任を代行している。

 

「姉さんは何時帰ってくるのー!!?」

 

「太守様、次はこの案件を……」

 

「えーん! 私太守じゃないのにー!!」

 

「た、太守様! い、いい一大事です!!」

 

「私は太守じゃ――何事ですか!」

 

 机を埋め尽くす書簡と竹簡の山に、彼女が半べそをかいていると突然鎧姿の男が息を切らせて執務室に駆け込んで来た。

 泥に塗れた鎧と顔、血走った目を見て韓浩は即座に居住まいを正して男に尋ねる。

 

「け、荊北より賊徒の集団が長沙を目指して進軍中! その数は二万です!!」

 

「なっ――!?」

 

 肩膝を付き、拱手した男の口から齎された凶報に韓浩は言葉を無くす。

 指から筆が滑り落ちて跳ねた墨が服を汚すが、韓浩にはそのような些細な事など気にする余裕は無かった。

 すぐにでも対処しなければ――長沙を預かる姉の代理として、董卓様や御遣い様の臣下として、民に仇なす輩共を防がなければならぬ。

 

 ――たとえ、今長沙には賊の四分の一の兵しかいないのだとしても。

 

 立ち上がった韓浩は隣室に備えてある軍装に着替えるべく、走り出す。

 

「指揮は私が執ります! 直ちに応戦の準備を! それと武陵の董卓様の元へ伝令を!」

 

「御意っ!」

(守る――姉さんと董卓様、御遣い様の為にも! この街に住む皆の為にも、私が守ってみせる!)

 

 泥だらけの顔の下、瞳に強い光を宿して共に駆け出す男を横目に、韓浩は自らの血が滾って来るのを感じていた。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

「ふむ、後は賊に荒らされる長沙を我等が救い、董卓の無能を天下に示せば良い、と?」

 

「然り」

 

「……失礼だが、この策はどなたが?」

 

「どなたでも良う御座いましょう……文聘(ぶんぺい)殿、貴女は言われた通りにすれば良いのです」

 

「…………了解した」

 

「では、万事恙無く」

 

 荊北は江夏城。

 城の中庭で、陰気な雰囲気の文官――本人は襄陽から来たと言っていた――から主君である劉表からの命令を受けた文聘、字は仲業(ちゅうぎょう)は、内心に湧き上がる不快感を押し殺して頷いた。

 

(民は天下国家の礎。その民を襲わせて偽の大義を打ち立てようなどと……)

 

 勢力を築いた者同士の間に、謀略や姦計は日常茶飯事である。

 そう頭では割り切っている文聘ではあるが、今回の作戦には疑念を抱かざるを得なかった。

 

(劉表殿は解っておいでなのか? 荊南の民は最早殿に心を寄せていないという事を……)

 

 恐らくは荊北で活動していた賊徒に情報を流し、急速に発展している荊南郡へと矛先を向けさせる腹積もりなのだろうが……。

 

(人の心を捨て去り無辜の民から奪う輩共に組するが如き此度の策――これは果たして天意に適うものなのか?)

 

「だが、私も同じ、だな」

 

 口元に自嘲的な笑みを浮かべ、文聘は兵舎へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

 ――長沙より五十里北、南へ進む賊軍の姿がある。

 二万もの大軍勢となった彼等は、その数に自身らも驚き、そして高揚感に浸っていた。

 

「なあ、長沙は江陵より金や食糧が多いってのは本当かよ?」

 

「ああ間違いねえ。董卓と天の御遣いってのが来てから、えらく溜め込み始めたって聞くぜ」

 

「ここんとこ江陵も劉表の犬が煩くなって来たからなあ……」

 

「今、長沙は俺達の半分も兵が無いって話だぜ」

 

「おっしゃ! なら問題ないな」

 

「董卓のとこの将軍が居るかも知れねえが……噂によると結構な別嬪ぞろいだってなぁ」

 

「へへっ……上手くすりゃ、”頂ける”かもしれねえな」

 

 口々に卑小な欲望を吐き出す男達は、少ない守備兵しか有さぬ長沙を前にして既に勝った気で歩いている。

 ……数日前、この集団に加わっている一賊軍の頭領が”使いの者”からこの話を聞かされた時には、誰もが半信半疑でいた。

 だが、自分達以外の集団が続々と合流地点に集まり、しかも斥候に当たっていた者から長沙の情報が齎されるに至っては、全員がやる気になっていたのだ。

 

 そして今、汚い欲望に塗れた外道の群れが、彼方地平にぼんやりと浮かぶ長沙城の姿を目にし、

 

「――んあ? 何だ、ありゃあ?」

 

 同時に、荒野の真ん中、岩の上に腰を下ろす人影を目にした。

 

「んー…………おっ! 女じゃねーか!」

 

「どれどれ……おお! しかもあれ、かなりの上玉だぞ!」

 

「こいつは幸先がいいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――男達は知らない。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 ――深紅の髪と同色の瞳、黒と白に別たれた戦装束に身を包むその人物を。

 

 

 

 

 

「へへっ! 俺が一番乗りだ!」

 

「あっ! ずりぃーぞ手前ぇ!」

 

「はっ! 早い者勝ちってなぁ!」

 

 

 

 

 

 ――身の丈を越える、方天画戟を携えるその武人を。

 

 

 

 

 

「…………来た」

 

 

 

 

 

 ――――黄巾の乱において、蒼天に掲げられた深紅の旗の下、武名を馳せたその少女の名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 お待たせしました! 天馬†行空 四十話目の更新です!

 いつもより若干短めではありますが、各地の動静と前回のおまけ話のちょっとした補完でございます。

 一応、一刀達の益州攻めと時期が被っている為、ここから一刀達の出番は少なくなるやもしれません。

 とは言え、完全になくなるわけではありませんのでご安心を。

 

 

 では、次回四十一話でお会いしましょう。

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超絶小話:前回”中身”が判明してなかった人達

 

 

 ※前回同様、プライバシー保護の為に仮名を使っております。

 

 

 陳留のふぁっしょんりーだーさん。

「次の特集号が楽しみ……? あ! 要望書が出せるのー! じゃあ次は御遣い様の絵姿を集めた特集が良いのー!」

 

 キテレ……もとい発明家さん。

「しっかし…………この姿絵、どうやって書いてるんやろ? うー……めっちゃ気になる!!」

 

 気弾一発で陳留の街がヤバイさん。

「! み、御遣い様の姿絵には種類が有るのか!? 沙和、この本を売っていた書店はどこだ!!」

 

 安産型さん。

「! な、この特典には種類が有るの!?」(気になる……! また思春に買って来て貰おうかしら……)

 

 天然魔乳さん。

「…………横顔も格好良いなぁ」(愛紗ちゃんには悪いけど、私も一刀さんの事……)

 

 元幽州の偃月刀さん。

「…………」←無言で写真を胸に押し当てている

 

 御遣い様ふぁんくらぶ二号さん。

「…………」←写真を見て陶酔中

 

 師匠目指して修行中さん。

「――はっ!」(いかん、いかんぞ陳到! 一刀殿は我が君と師匠の想い人! 私如きが懸想する訳には……訳、には)

 

 男装の麗人さん。

「あー……ご主人殿だけじゃなく、私もやられましたかね。一刀どの、これ程とは……」

 

 白蓮さん。

「うぉいっ!!? だから私は前回”こめんと”してただろ! というか名前欄! 名前欄が!」

 

 年齢不詳の佳人さん。

「まあ…………一刀君もこういう顔をするようになったのですね。ふふ」

 

 割と苦労人(バカップル的な意味で)さん。

「はぁ……渋いお茶が美味しい……」

 

 空色眼鏡さん。

「一刀、何故裸なのです……?」←当たりを引いた模様、しかし動揺せず

 

 めいど服ふらぐは消滅? さん。

「へぅ……」(一刀さん、暫く会えてないな……会いたいな)

 

 いまのところツン成分が少ないさん。

「だ、だから! 私は別にこんな姿絵が欲しいなんて…………ちょ!? 誰も要らないなんて言ってないでしょ!」

 

 ハの字眉毛さん。

(蜂蜜飴に……これは、ほっとけぇき……? どんな味がするのでしょう?)

 

 飛将軍さん。

「ねね……恋にないしょで一刀とご飯食べた……」

 

 お得意のきっくをまだ一発もかましていないさん。

「れ、恋殿!? は、話せば解るのですぞー!!?」←主に無言で迫られながら

 

 この面子の中ではかなり地味さん。

「今日も武陵は平和ですね」←スルースキル成長中

 

 図し(ドゥクシ)忠臣(棒)さん。

「一刀様、このお姿は資料として有効活用させていただきます」←合掌しながら

 

 真っ黒(ガスッ)爺の跡継ぎさん。

「!!?」(か、観賞用と回覧用で特典が違う!? ひょ、ひょっとしてこの特典、何種類か有るの!?)

 

 ある意味奸臣としての道を歩み始めたかもしれない駄目なひとさん。

「ここここの絵姿はっ!? はっ!? りり劉協様に悟られぬ内にこれは責任を持って私が回収しておかねばああそれと城下の書店に買出しに行かねば!」

 

 

 

 

 


 
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