彼が最期に見たのは、猛スピードを上げて突っ込んでくる一台のトラック。
こうして一人の男がこの世を去った・・・はずだった。
恋姫†無双異聞 徐庶伝
何処までも続く蒼空、それが彼が目を開けて最初に見た光景だった。
(俺は確か・・・車に轢かれた筈じゃ?)
上体を起こし、自らの体を確かめるように触る。
がっしりとした肉体に傷はなく、服に傷も無い。
彼の服装は、黒いコートに黒い革靴、さらに黒いスラックスと基本的に黒で統一されている。
首には防寒のため紅いマフラーを巻き、サングラスもかけていた。
また、無頓着なのだろうか?顔には無精ひげが生え、髪もぼさぼさで自己主張がはげしい。
一言で言えば「怪しい」二言にすれば「凄く怪しい」そんな風貌であった
そんな彼から見ても怪しい現状に怪訝そうに首を捻る。
(おかしい、さすがに無傷って言うのはありえないだろ常識的に考えて)
だが、事実彼の体に傷は無い。
彼の記憶が確かならば、彼は車に轢かれて死んだはずだった。
(あー、あの猫、助かったかね?)
猫が道路に飛び出して車に惹かれそうになる。
割とよくあることである。だが、それを助けようとして車に轢かれるとは
(俺も年かねぇ…若い頃ならあのままズササーって反対側の道路まで飛べたはずなんだがなぁ)
だが、まぁ…そういう終わりもあるさ、と気持ちを切り替える。
彼は今までの人生そうやって自分のやりたいように生きてきた。
こうやって猫を助ける為に無茶もすれば、納得できないからとクライアントを殴って仕事を台無しにすることもあった。
(ま、そのドレも後悔してないわけだが…)
ごわついた掌で無精ひげの生えた顎をさすりながら、現状を思案する。
(てか…コレは俗に言うアレか?死後の世界って奴か?)
だったら、もう少し背景にも気を使って欲しい。
辺りを見渡せば一面の荒野、天国なら雲だろうし、地獄なら血の池地獄や針の山のひとつも欲しいものだ。
(ん…荒野?荒野ナンデ荒野?アレか、俺はドクでタイムスリップでもしたのか?)
そう、彼が居る場所は荒野であった。
とても、日本の風景とは思えない。少なくとも彼が知る限り日本にこんな荒野はなかった。
「困ったな」
そう呟くと、立ち上がり、衣服についた土ぼこりを払う。
「とりあえず、此処で呆けててもしょうがない…か」
空を見上げれば既に太陽は頭上高く昇っており、このまま此処に居れば夜になる。
どう考えても夜を快適に過ごせると思えないこの荒野に長居することは避けたい、彼はそう考え
「暗くなる前に人か家が見つかればいいが」
無人の荒野を歩き出したのであった
それから数時間は歩いただろうか?
「歩けど歩けど人影が見あたらねえな」
そろそろ、野宿も考えなけりゃならないかと思った矢先、回りの景色が若干変り、道らしきものが見えてきた。
但し、ソレは彼のよく知るアスファルトの道ではなく、舗装すらされておらず、人が往来している痕跡がある程度の道。
(まぁ、此処を歩いていけば人がいる所にたどり着けるか?何時になるかわからねーけど)
そう思い歩き始めると前方に人影が見える。
人影は4人、此処からではよく見えないが一人が座りそれを三人が囲んでいるようだ。
「お~い!すまないが、ちょっといいか?」
声を出し、近づいてみるとなにやら様子がおかしい。
座っている女を男三人が囲んでいる。
(か~ごめかごめってわけでもないわなこりゃ)
男はデブ、チビ、のっぽとバラエティに富んでおり、3人とも独特の服装をしていた
(少なくとも日本じゃみかけねえよ、こんな服装は)
一言で言えば、山賊風。頭に黄色い布を三人とも巻いてるのが印象的だ。
(サンゾク=スタイルとか言うと、流行っぽく聞こえるのがアレだな)
警官さん100人に聞いたら半数以上から「ちょっと君いいかな?」と声をかけること請け合いである。
ただ、まぁ・・・それ以上に手に持っているものが不味い。
明らかに「銃刀法?何ソレ美味しいの?」と言わんがばかりの剣を三人とも抜き身で持っている。
(鈍く光ってるし、ありゃ本物だよなぁ、映画の撮影にしちゃ、カメラもいねーし…こりゃ、とんでもない辺境か?)
少なくとも平成の日本には居ない人種であることは理解できた。
男達の観察はそこでやめ、今度は女性を見てみる。
女性は年のころは20代前半だろうか?こちらの服も日本では見かけないデザインだ。
(ん~、でかいっ!)
何が?とは聞かないのがお約束である。
(ちょいとタレ目がちだが、美人だな…怯えた顔してるが、まぁ、こんな山賊っぽいのに囲まれたんじゃなぁ)
彼は苦笑しながら再び山賊風の男達へ目を戻す。
どうやら、武器を持っている自分達に怯えない彼を訝しがっているようだ。
「あ~、お取り込み中でしたかね?」
とりあえず、会話を試みてみる。
会話は重要だ、どのくらい重要かといえば、マッカやマグネタイトが貰えるくらい。
「てめえ、一体何ものだ!変な服を着やがって!」
「アニキ、こいつ見たことも無い服を着てるんだな」
「へっ、俺達はついてるぜ、女だけじゃなくてコイツの見ぐるみも高く売れそうだ」
帰ってくるのは物騒な言葉。さらには三人とも剣をこちらに向けじわりじわりとにじりよって来た。
交渉は難航。だが、此処から逆転するのがネゴシエーターの腕の見せ所だなと思いつつ、彼は会話を続ける。
「おいおい、なんだか凄く物騒な話してないか?」
「それに…俺の何処が変な服装だって言うんだ?」
「その珍妙な色つきメガネも!黒い外套も!何処もかしこも変じゃねえか!」
「おや、サングラスも、コートも知らないのか?」
彼はそういって肩を竦める
「三具羅巣?高斗?てめえは何をいってるんだ!」
「あ、アニキ、アイツ怪しいんだな」
「どうしやすアニキ、なんだか関わりあいにならないほうがいいんじゃ・・・」
剣を突きつけても変らない男の態度にチビとデブが焦るが
「馬鹿いってるんじゃねえ、相手は丸腰じゃねえかっ」
そういって、ノッポは彼に近づいてくる
どうやら、ネゴシエイトは失敗した模様。ならば後は実力行使しかない。
「うーん、困ったな」
武器を突きつけながら近づいてくるノッポ。
「とりあえず、まぁ・・・正当防衛ってことで」
「は?てめえは何を言ってるんだ?」
ノッポの言葉には応じず、ポケットをごそごそ弄り、筒状の何かを取り出す。
「お、おい、ソレはなんだってんだ!?」
「HAHAHA、見てのお楽しみって奴だ」
驚くノッポに笑うと、歯でピンを引き抜く。
「おい、ねーちゃん!目を閉じてなっ!」
そう言い、女性が目をギュッと瞑ったのを確認すると、ソレを地面に投げつける。
次の瞬間、眩い光が辺りを包み込み、男達の視界は白に染まる。
「くそっ、目が見えねえ!?」
「あ、アニキ、目がッ目がッ!」
「なななななな、何も見えないんだなっ!?」
男達のあせる声が聞こえる。
「お約束の台詞ご苦労」
何か鈍い”ゴスッ”とか”バキッ”と言う音が聞こえ、しばらくすると何も聞こえなくなる。
「もう、目を開けてもいいぜ」
言われるままに、女がおそるおそる目を開けると
其処には先ほどまで彼に刃を向けていた盗賊たちが倒れこんでいた。
剣は既に取り上げられており、服も下着以外はひん剥かれている。
全員小刻みに動いている所を見ると、生きてはいるようだ。
先ほどまでは自分の命や貞操を狙った盗賊といえど、哀れな姿であった。
「貴方は一体?」
目の前で男達の服や剣を地面に並べ物色している彼に向け、そう尋ねる。
「俺かい?」
物色していた手を止め、彼女の方を見た彼は、サングラスを外し襟を正すと
「俺は、高柳 仁っていうケチな探偵さ・・・で、俺も聞きたいんだが」
「此処は何処なんだ?」
続く
あとがき
というわけで、修正版一話
さて、何処が変ったのでしょう?w
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初投稿の駄文ですが、それでもよろしければお読み下さい
オリ主(おっさん)で董卓√ですが何時月に出会えることやら・・・
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