No.649529

「真・恋姫無双  君の隣に」 第5話

小次郎さん

人材不足で悩む日々 求賢令で仕官に来たのは稟と風
一刀はまだ自分のなすべき事に迷いをもつ

2013-12-29 13:20:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:19622   閲覧ユーザー数:13075

身分、過去を問わず、才あるものは採り立てる。

何しろ人材不足は深刻だ。

華琳ではなく史実の曹操の行っていた求賢令を実施したが、芳しくはなかった。

俺の目が肥えすぎているのか、採用の点数が辛いと評判になり最近は希望者も滅多にいない。

ほぼ全員何らかの形で採用はしているんだが、希望と現実の溝は深いようだ。

なまじ魏の武官、文官のレベルを知ってしまってるからなあ。

蓮華たちが来てくれたから少しは楽になったけど、彼女たちはもう少ししたら返さないといけないし、ホントどうしよう。

久しぶりに三人の希望者が来たとの報告を受け、「趙雲、戯志才、程立」の名を聞いた時、俺は仕官希望者の控え室へ走り出す。

可能性はあると思ってた。

風と稟が以前の世界で俺を賊から助けてくれた時から、魏に参入するまでの間は見聞の旅に出ていたと聞いていた。

だが、近くまで来たとき足が止まった。

分かってる、彼女たちは俺の事を覚えてない。

会いたい、でも今の心の状態でまともに話せるとは思えない。

いまだに俺は悩んでいる。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第5話

 

 

扉が開き、試験官らしき者達が私たちに声をかける。

しかし、先頭の者は妙に威厳があるな。

ふむ、後ろに控えている二人も相当な武を感じる。

「試験の前に一言侘びておこう。本来この試験は宰相殿が直々に行っているのだが、此処にいる私たち三人に急慮依頼されたのだ」

その言葉を聞き少々不愉快な気分が湧いたが、続く言葉に私は動揺を隠せなかった。

「私は孫仲謀、長沙太守孫策の妹だ。後ろの二人は甘興覇、呂子明だ」

亡き江東の虎の次女?それに甘興覇といえば確か錦帆賊の鈴の甘寧。

稟と風も流石に驚いている。

何故孫家の次女が此処にいる。

しかも試験官?

「色々疑問に思う事はあるだろうが、まずは試験を行う。名を聞かせてもらえるか」

「趙子龍、武官志望だ」

「戯志才、軍師志望です」

「程仲徳、同じく軍師志望ですよー」

 

「驚きましたね。孫家の次女が試験官とは」

試験が終わり控え室でお茶を頂きながら二人と話します。

「ああ、それにあの甘寧とやらも流石の武だった。試験の事など途中でどうでもよくなって久しぶりに思う存分槍が振るえた」

「孫権さんと呂蒙さんはまだまだと思いますが、潜在能力は底なしって感じでしたねー」

「確かに器量は十分でしたね。特に孫権殿には驚きました。話に聞く姉の孫策殿に武勇では劣るでしょうが、王としての器量は姉を超えてるのではないでしょうか」

思わぬ大収穫です。

私は陳留太守、曹操様にお仕えすることを既に決めています。

星は肌に合わないそうで、風は明言こそしませんが私と同じ気持ちのようです。

出来るなら今すぐにでもお仕えし、この身の全てを捧げたいのですが、今は曹操様の為に己を磨くときです。

そう全てを捧げ、磨きぬいたこの身をあの方に隅から隅まで、あ、あ、愛していただき、わ、私は、み、み、淫らな姿を・・・、

「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「はい、稟ちゃん、とんとんしましょうね、とんと~ん」

「何故今の会話で鼻血が出るのだ?」

「きっと曹操さんのことを考えたのですよ」

 

「一刀、何なの、あの者達は」

「お疲れ、蓮華、思春、亞莎」

「お疲れじゃないわよ、あの三人尋常じゃないわ、どっちが試験官なんだか分からなくなったわよ」

そうだろうね、なにしろ時代を代表する武将に軍師だ。

「世界って広いだろ」

「誤魔化さないで、貴方、何の意図があってこんなお膳立てをしたの」

ごめん蓮華、事実は言えないんだ。

「あの三人、街で噂に聞いた事があってね。以前から情報を集めてたんだ。それで今回仕官希望に来たんで、下手に知ってる俺より先入観のない蓮華たちの方がいいと思ったんだよ」

「成程、そういう訳だったのね」

納得してくれた蓮華に、心の中でもう一度謝る。

「で、でも、あんな凄い人達が味方になってくれたら心強いです」

軍師の勉強に励んでいる亞莎からすれば相当感心したようだ、でも、表情が冴えないな。

「亞莎、あの者たちは孫家に仕えるわけではないぞ」

思春が冷静に指摘する。

「そっ、そうでした」

その指摘はごもっともだけど、

「あの三人、仕える本命は別にいるよ」

俺は事実を淡々と告げた。

稟が華琳命なのは言うまでもなく、風も華琳に日輪を掲げる夢を持つ。

趙雲は、まだ会ってはいないようだけど、何しろ趙子龍だ、どう考えても劉備だろ。

今回の仕官は俺の見定めと路銀稼ぎってとこかな。

うん?室内の気温が下がったような。

「ではあの者達、細作か」

鈴音に手をかけて稟たちの処に行こうとする思春を慌てて止める。

「まって、まって、まって、まだあの娘たち仕えてる訳じゃないから。今はフリー、ただの在野武将だから」

「き、貴様!どこを触っているかあ!」

おもいきり蹴られました。

すいません、しがみ付いて、小振りの感触は忘れますから。

 

全くあいつは、北郷は何を考えているんだ。

本気で仕える訳ではない者達を躊躇なく採用して高位の役職につけた。

将来に他の主に仕えるならむしろ取り除くべきだろうが。

「思春、まだ納得していないの?」

「当然です。蓮華様はお認めになるのですか?」

「そうね、納得しているといえば嘘だけど、一刀が大丈夫と言ってるし」

蓮華様、それは理由になってません。

「亞莎、お前はどうなのだ?」

「だ、大丈夫ですよ、一刀様が決められた事ですから」

亞莎、お前もか。

「いいですか、このままではあの者たちはこの国の情報をそっくり本命の主とやらに持っていく事になるのです、その情報をもとに刺客を送ってくる可能性もあります。大体あいつは袁術達や私達を護る事には細心の注意を払うくせに、自分に関しては無防備もいいところです。多少の腕の覚えはあるようですが、刺客を返り討ちにするほどではありません。それに・・・・・」

 

思春さんがこんなに長く話されるのを私は初めて見ます。

きっと一刀様のことを凄く心配されてるのでしょう。

一刀様は本当に不思議な御方です。

実のところ、私もあの人達の事を納得している訳ではありません。

更に言えば戯志才さんと程立さんの才には凄く嫉妬しています。

そんな自分が嫌で、試験が終わってから部屋で落ち込んでいたのですが、

「胡麻団子、一緒に食べない」

と一刀様が訪ねてこられて、お茶をご一緒する事になりました。

胡麻団子は出来たてで、ほかほかしてとても美味しかったです。

「これね、俺が作ったんだ」

私が驚いて一刀様を見ましたら、いつものきらきらした笑顔ではなくて、とても悲しそうな眼をされていました。

「辛い事や悲しい事とかあった時ってさ。ほら、人って美味しいものを食べたら力が出るし、甘いものは疲れを癒してくれるから。」

「は、はい。」

胡麻団子を全て食べ終わりお礼を申し上げましたら、

「亞莎は蓮華によく似てるね」

私と蓮華様が似てるなんてとんでもないです、慌てて否定しましたが、

「似てるよ、真面目で、一途で、周りの期待に応えようととても頑張ってるのに足りない、足りないって自分を否定する。今回も戯志才達の才を知って同じ軍師を目指す者なのに自分とは違うって考えてるだろ?」

その通りです、やっぱり私には軍師なんて無理なんです。

「俺もね、以前は周りに凄い人が一杯いたから自分の無力さにはへこんだよ」

「そんな、一刀様より凄い人が一杯なんて」

「俺は凡人だよ、只この大陸の人達とは違う知識を持ってるからそれを活用してるに過ぎない。だから失敗することもあるし逆効果になってしまった事もある。凄く迷惑をかけたよ」

信じられません。

この国で行われてる政は私だけでなく冥琳様や穏様も感心する事ばかりで、長沙でも積極的に取り入れてると聞いてます。

「本当だよ、今はその反省を糧にしてるから上手くいってるんだ」

一刀様も私と一緒、ううん、そんな訳。

「亞莎、無理に理解しろとは言わない。俺が気付けたように亞莎も自分で気付く時がくる。だからさ、それまで一緒に頑張ろうよ。まあ、無理してるなと思ったら、こっちも無理に寝かしつけて傍で見張っちゃうけどね」

「・・っ」

いつものきらきらした笑顔で言われた私は、恥ずかしすぎて何も言えませんでした。

でも無理したらお傍でずっと、不遜、不遜です。

一刀様のお優しい御心に私はなんてことを、でも、でも。

一刀様が退出された後もずっと葛藤してました。

 

思春の言葉が止まらない、言ってる事は尤もで以前の私ならむしろ私が主張していたと思う。

亞莎は試験後に元気が無かったが、部屋から戻ってきた時には元に戻っていた。

どうやら一刀と話をしたらしいけど、何があったのかしら。

勿論私は亞莎の事が心配なのであって、二人っきりで何をしていたのかが気になっている訳ではない。

それに、私は人事採用の事より一刀の様子がいつもと違う気がして、

「ねえ、思春、亞莎。一刀の様子、何かおかしくなかった?」

「・・・確かにおかしかったですね」

「あ、あの、蓮華様。実は・・・」

胡麻団子の話を聞いて、

「辛い事や悲しい事、ね」

「はい、隠そうとはされてましたが、眼がとても悲しそうにしてられました」

 

 

続くときは続くもんだなあ。

袁紹から使者が来ると報告があり、使者は顔良、文醜、逢紀、郭図、そして荀彧。

華琳の、魏の誇る三軍師が此処に集まる。

そしてあの乱も、もうカウントダウンが始まる。

「華琳、俺も進むよ、君と刃を交える為に」

 

 

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あとがき

12月からの参加ですが本年はありがとうございました。

コメントをいただき、それを読んで身もだえしている自分はさぞ危ない人間に見えるだろうなと思うこの頃です。

来年もどうぞよろしくお願いします。


 
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