No.649174

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百五話 勇紀と理子

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-12-28 12:11:29 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:25169   閲覧ユーザー数:22282

 ~~美由希視点~~

 

 「はは…ははははははは!!」

 

 パサッ

 

 床にナニか(・・・)が落ちる音がする。

 それは………私が三つ編みにしていた髪の毛だった。

 

 「はははは…楽しい……楽しいなぁ」

 

 そう言って彼は『カハッ!』と口から血を吐き出す。

 彼の大剣は私の髪を切り、私の刀は彼の心臓を射抜いていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「まさか…あそこから更に速くなるとはなぁ(・・・・・・・・・・)……」

 

 …あの大剣が命中する瞬間、私は『神速』発動している最中に再度『神速』を用いた。

 神速の二段掛けによる高速を超えた超高速移動。

 そして

 

 「あの一撃……あれが御神の奥義……か?」

 

 「…御神流奥義の極み……『閃』」

 

 神速の最中に放つ必殺の一撃。

 『徹』や『貫』をも遥かに凌ぐ攻撃力を持つ。

 私は短く言い放ってからゆっくりと刀を引き抜く。

 刺客の彼は2~3歩後方によろけて

 

 ドサッ

 

 そのまま仰向けで崩れ落ちる。

 

 ピキッ!

 

 「っ!!!」

 

 同時に、私の身体にも激痛が走る。

 神速を連続使用した代償なのだろう。

 片膝を床に付いてその場に蹲る。

 

 「痛ぅぅぅぅぅっっっ!!!」

 

 これはキツいなぁ。

 何らかの後遺症が出てたらお父さんや恭ちゃんに怒られて心配されそう。

 それに髪もバッサリ切れちゃったし。三つ編み…結構気に入ってたんだけどなぁ。

 今の私の髪の長さは肩に触れるか触れないかぐらいになっている。

 

 ザシャッ!

 

 「っ!?」

 

 音が聞こえたので顔を上げると、大剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる刺客の姿があった。

 

 「(心臓を射抜いたのに立ち上がるなんて!)」

 

 目の前の刺客にとって強者との戦いはそこまで駆り立てるものなのか。

 

 「まだ…まだだ。こんなに楽しい戦いを止める訳にはいかない」

 

 胸から血を噴き出させながらも、その表情は嬉々としている。

 

 「もっと!もっとだ御神の剣士!さあ、続けよう。俺はまだ戦えるぞ!」

 

 ゆっくりとコチラへ歩み寄ってくる刺客。

 『もっと、もっと』と呟きながら。

 

 「(駄目!身体が動かない!)」

 

 今の私は格好の的だ。あの大剣を振り下ろされれば私は成す術も無く殺されるだろう。

 やがて私の目の前で立ち止まった刺客は私を見下ろしたまま大剣を振り上げる。

 

 「っ!!!」

 

 最後まで私は刺客を睨み上げていたが

 

 「……………………」

 

 その大剣は振り下ろされる事が無かった。

 何故なら刺客の彼は………立ったまま絶命していたからだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「(ただ、強者と戦いたいが為だけにここまでの執念を見せるなんて…)」

 

 私が今まで戦ってきた相手にもここまでの存在はいなかった。

 正直、今でも勝てたのが信じられないぐらい。

 

 「……はあ~~~~……」

 

 いきなり動かないかしばらくは警戒していたが、そんな事は無いようで深く息を吐き出した。

 

 ペタン

 

 気が抜けた反動でそのまま尻餅をつく。

 

 「…こりゃ、少し休んでから動かないと足手纏いになるなぁ」

 

 敵がここへ来ない事を祈りながら私は近くの壁に背中を預け、身体を休めるのだった………。

 

 

 

 ~~美由希視点終了~~

 

 ~~転生者視点~~

 

 「があああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 俺様は激痛に見舞われていた。

 

 「な…何で……」

 

 片膝をつき、俺様は痛みを堪えながら睨み上げる。視線の先にいるのはモブ転生者の野郎だ。

 奴はオリ主である俺様を見下していやがる。

 

 「何でテメエがソコにいやがる(・・・・・・・)!?」

 

 俺様の未来視(ギアス)は完璧の筈。

 あの炎の鳥を放った後、奴は『鳥の背に隠れる様にして正面から来る』筈だった。

 だが奴は『俺様の右側(・・)から姿を現し』俺様の右腕を斬り落としやがった。

 斬られた部分からは血が流血し続けて俺様の衣類を徐々に赤く染めていく。

 

 「どうだ?自分が視た未来を更に先読みされた気分は(・・・・・・・・・・・)?」

 

 「何……だと?」

 

 俺様が視た未来の更に先を視た!!?

 

 「ふざけんなモブ!!そんな事出来る筈が……」

 

 「『無い』と言い切れるのか?俺も転生者(・・・)だぞ」

 

 「ぐっ…」

 

 モブ野郎の言葉を完全に否定出来なかった。

 

 「一体何の能力を使いやがったんだよ?」

 

 「……お前に原作知識があるのかは知らないが教えてやる。『HHG』の『理論回路(ロジカルダッシュ)』だ」

 

 『理論回路(ロジカルダッシュ)

 

 『HHG』原作の『葉月翠名』が所有する能力(ギフト)で、観察した結果からあらゆる可能性を論理的に思考する能力。最も可能性の高い未来を導き出す、疑似的な未来予知である。未来予知に達していたこの能力を持つ翠名は原作主人公『明智久司郎』の野望と、その能力の真実を導き出していた。

 

 HHG……『Hyper→Highspeed→Genius』か!!

 

 「お前が10秒先なら11秒…1分先なら1分1秒先を読めばいいだけの事だ」

 

 淡々と答えるモブ野郎の視線はどこまでも冷たいものであった。

 

 「それに右腕を斬り落とした以上、もう異能力を打ち消す事は出来まい」

 

 モブ野郎の片手には、いつの間にか剣が握られていた。

 どこから出しやがったあんなモン。

 俺様はモブ野郎を睨みつけながらゆっくり立ち上がるが

 

 ズンッ!!

 

 「があああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」

 

 突然、何かが俺様の左ふくらはぎを貫いた。

 たまらず俺は声を上げ、貫いたモノを見る。

 今度は細い剣だった。

 貫いた剣が『フッ』と消え、思わず片膝を付いてしまう。

 

 「頭が高いぞ雑種(クズ)。誰の許しを得て立ち上がろうとしている?」

 

 声を発するモブ野郎の方を再び向き、気が付いた。

 モブ野郎の背後に数本の剣、槍が何も無い空間から現れ、切っ先をコチラに向けているのを。

 

 「そ…その能力はまさか王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!?」

 

 ズンッ!!

 

 「があああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」

 

 今度は俺様の脇腹に一本の槍が突き刺さる。

 俺様を見下ろすモブ野郎の目はどこまでも冷たいモノであり、オリ主の俺様でさえ『ゾクリ』と寒気を感じ、戦慄せざるを得ないものだった。

 

 「(このままじゃ殺されちまう)」

 

 そう思った。

 ふざけんな!!

 この世界のオリ主は俺様だ!!こんなモブ野郎に殺されてたまるか!!

 原作キャラ達を全員俺様の性奴隷にする権利を持つ最強のオリ主なんだ!!

 …だが、今の状態じゃ正面から挑むのは無謀だ。

 こうなったらヤツを油断させて隙を見せた瞬間に殺してやる!!

 そう決めた俺様は不本意で癪だがモブ野郎相手に頭を下げる。

 

 「す…済まなかった!!俺様が…俺様が間違っていたよ!!反省する!もう原作キャラ達には手を出さねぇ!!だから見逃してくれ!!この通りだ!!!」

 

 「……………………」

 

 「もう裏の世界から足も洗う!!モブ……いや、アンタに右腕を落とされた以上、今まで通りに働く事も出来やしねぇ。これからはヒッソリとどこかの田舎でノンビリ暮らす!!」

 

 「……………………」

 

 モブ野郎はまだ疑う様な目を向けている。

 

 「ま…まだ信じられないならホラ!!」

 

 チャリンチャリンチャリン。

 

 俺様はポケットに入れていたコインをモブ野郎が見てる前で全て捨てる。

 

 「これで全部だ。もう俺様に戦う意思はねぇ」

 

 「……………………」

 

 ツカツカと近寄ってくるモブ野郎。

 俺様は痛みで脂汗を掻きながら1つの賭けに出ていた。

 

 「(もしここで俺様が奴に攻撃されりゃ間違い無く死ぬ。だが俺様は確信している。このモブにゃ人を殺せる度胸がねぇ)」

 

 コイツみたいなお人好しそうな奴はいくら『殺す』とかほざいても今の俺様みたいに必死に謝る奴に対して最終的に命を奪う様な事はしねぇ。

 『優しさ』っつー感情が邪魔するからな。

 やがて俺様の前に立つモブ野郎は俺の脇腹に刺さってる槍を掴み

 

 ズブッ!!

 

 槍を引き抜いた。

 

 「ぐっ!!」

 

 抜かれた瞬間にも痛みが走り、穴の開いた脇腹から血が流れ始める。

 

 「……………………」

 

 スッ

 

 槍を消して背中を向け、歩き始めるモブ野郎。

 ここだ!!

 俺様の左ポケットにはまだ武器がある(・・・・・)

 折り畳み式の小さなナイフだが、刃には猛毒を塗っており、刺されたら数分と持たずに死に至る様なヤツだ。

 俺様は咄嗟に左ポケットからナイフを取り出し

 

 「死ねやモブ野郎ぅぅぅぅっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 一気に駆けてナイフを突き出した。

 

 「(勝った!!!)」

 

 この距離とタイミングならモブ野郎が振り返るよりも早く刺す事が出来る。

 忌々しいモブ野郎もこれで終わりだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう……思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギシッ!!!!

 

 「なっ!!?」

 

 突然俺様は何かに動きを封じられた(・・・・・・・・・・・)

 見れば空間から出て来た鎖が俺の身体に絡みついている。

 

 「こ…コレはまさか天の鎖(エルキドゥ)!!?」

 

 「俺が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を所有してると知ったなら天の鎖(エルキドゥ)を持ってる事ぐらい容易に想像出来ると思うんだがな…」

 

 「ひっ!?」

 

 再びモブ野郎がコチラへと向き直る。その手にはいつの間にか真っ赤な槍が握られていた。

 さっき俺様を貫いた黄色い槍とは違う。

 だが俺にはその赤い槍に心当たりがあった。

 

 「ま、まさかそれは……ゲイ・ボルク!!?」

 

 「ご明察」

 

 あの宝具の効果って…。

 俺様は顔を青褪める。

 

 「な…なぁ…許してくれよ。今のはちょっと魔が差したんだ。ホラ、ナイフも捨てるから…な?」

 

 「…言った筈だが?俺にも未来は読めると。まあ、お前の行動なんか未来を読まなくてもこう来る事は分かってたけどな」

 

 モブ野郎はゆっくりと槍の先端を向け、腰を軽く落として構える。

 

 「初めて殺す相手がお前の様な外道で良かった。俺は心を痛める事が無いと確信出来るからな」

 

 「ま、待て!!!待ってくれ!!!!」

 

 「刺し穿つ(ゲイ)…」

 

 「殺さないでくれーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 「死棘の槍(ボルク)ーーーーーー!!!!!!!」

 

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 クー・フーリンが師匠スカサハから授かった魔槍ゲイ・ボルク。彼が編み出した対人用の刺突技。

 槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名解放すると『心臓に槍が命中した』という結果をつくってから『槍を放つ』という原因を作る。つまり必殺必中の一撃を可能とする。

心臓を穿つため、仮に『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に耐える者でも確実に相手を死に至らしめることができる。それでいて魔力消費も少なく、対人戦に非常に効率がいい。ちなみに、発動したと同時に『心臓を貫いたという結果』が成立しているため、仮に放った直後で彼が死んだとしても、槍はひとりでに動いて相手の心臓を貫く。回避に必要なのは敏捷性ではなく幸運の高さだが、その回避難易度は幸運のランクが高くて、漸く稀に外れるとされる程。

 なお、因果操作の判定を回避しても、槍を完全に避けなければ負傷と回復阻害の呪いを残される。

因果を逆転させる『原因の槍』であるため、余程の幸運が無ければこの世にこの槍が存在する限り、これによる傷を癒す事は出来ない。

 

 ズンッ!!!!

 

 「が……はっ………」

 

 俺の心臓に魔槍が突き刺さる。

 そん…な……オリ主の……俺……さ………まが………。

 

 

 

 ~~転生者視点終了~~

 

 寸分違わず心臓を貫き、絶命した自称・オリ主からゲイボルクを引き抜く。

 コイツが嘘を言って不意打ちする事は日輪庭園(ヘリオスガーデン)使って見抜いていた。何せ、心の色は『嘘』しか無かったからな。

 

 「《神様、神様ー》」

 

 「《おお、勇紀かい?》」

 

 「《はい。例の転生者の一件、片をつけましたよ》」

 

 「《……………………》」

 

 ん?返事が無いな。

 

 「《神様ー?》」

 

 「《あ…ああ、悪いね。しかし…いつも通り過ぎやしないか?てっきり人を殺した事について後悔したり思い詰めたりしてると思ったんだが…》」

 

 「《いえ別に…》」

 

 神様の言いたい事は分かるけどね。

 だけどあんなクズを殺しても、後悔も罪悪感も沸いてこない。

 

 「《…とはいえ、人を殺したのは事実ですし、あまり良い気分でもないですけど》」

 

 「《そうか……》」

 

 それよりも魂の回収を早くして貰いたいんだけど?

 他のメンバーの所に応援にいかないといけないし。

 俺が神様に促すと絶命した転生者の胸元から人魂の様なモノが出て来る。

 これが人間の魂ッスか。

 空中でユラユラと揺れていた魂は徐々に薄れていき、消え去った。

 

 「《回収完了っと》」

 

 どうやら無事に回収出来た様だ。

 

 「《その魂はどうするんですか?》」

 

 「《前世と今世でやった犯罪歴を考えれば分かるだろう?地獄行き決定さ》」

 

 まあ、罰を受けるのは当然ですな。

 そもそもミスとはいえ、あんな奴を転生させるのはどうかと思うし。

 

 「《さて…今回は本当に済まなかったな。君に押し付ける様な形になってしまって》」

 

 「《いえ、もう済んだ事ッスから》」

 

 むしろ神様たちの決まり事の改定を激しく希望しますよ俺は。

 

 「《そうだねぇ…。上司達に言って議題に取り上げて貰うよ》」

 

 お願いします。

 

 「《さて、この魂の処理を行うからこれで失礼させて貰うよ》」

 

 「《はい》」

 

 神様との念話を終え、この場を後にする。

 

 「《ユウ君、本当に大丈夫?無理してない?》」

 

 ダイダロスが心配してくれるが

 

 「《別に問題無いぞ》」

 

 「《でも…》」

 

 「《神様にも言ったけど、アイツみたいな外道殺して心を痛める程俺はお人好しじゃないさ》」

 

 これがシュテル達やなのは達原作キャラならば最後まで非殺傷を解く事無く戦ってただろうけどな。

 けど俺はそこまで甘くは無いつもりだ。

 神様が『殺さなくても大丈夫』と言ったとしても、俺は殺していただろう。

 ただ、どこぞの反逆王子も言いました。『撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ』と。

 相手がクズだったとはいえ、殺してしまった以上、俺も『撃たれる覚悟』を今まで以上に持たなければいけないな。地球の裏世界に首を突っ込んだ者として。

 

 「《ユウ君が本当に何も無いって言うなら私は何も言わないけど、皆を悲しませる様な事だけはしたら駄目だよ》」

 

 分かってるさダイダロス。

 俺が念話でダイダロスと喋りながら移動していると

 

 「いたいた!勇紀!!」

 

 「んおっ!?」

 

 突如現れた人物に呼び止められた。

 思わず後ずさって構えるが

 

 「わー!わー!私だよ!!」

 

 「…何だセインか。ビックリさせるなよ」

 

 「ぶー!ビックリさせるつもりなんて無かったし」

 

 ブーたれるセイン。

 

 「ってか何でここにセインが?助太刀はどうしたんだ?」

 

 「すぐに戻るよ。けど、勇紀を探してたの」

 

 俺を?何か用だろうか?

 

 「そこの角を曲がった所に怪我した女の子を1人休ませてるんだよ。勇紀、治療魔法得意でしょ?治してあげてくれない?」

 

 「怪我を?別に良いけど」

 

 「じゃあ頼むね。私、ディエチの所へ戻らなきゃいけないから」

 

 言うだけ言ってセインは去って行く。

 とりあえずセインの言ってた女の子を治療しますかね。

 で、角を曲がって女の子を視界に入れたんだけど…

 

 「(怪我してる女の子って峰理子かよ…)」

 

 他の誰かかと思ってた。

 見た所、かなり手酷い怪我を負っている様だ。

 

 「(っつーか原作でブラドと対峙した際に、ここまで酷い怪我は負ってなかった筈だが…)」

 

 …まあ、今は彼女の治療が先だな。

 俺は治療魔法を用いて彼女の身体を癒し始める。

 

 「……何……してるの?」

 

 弱々しい声で彼女が聞いてくる。

 

 「治療ですよ。骨も折られてるみたいだし、ちょっとばかり時間掛かりますけど」

 

 「……必要無いよ」

 

 「いや…必要あるでしょ?」

 

 「足が治ってもあたしに自由なんて無い…あたしの居場所なんてどこにも無いんだ」

 

 淡々と答える彼女の目は…何ていうか生気が宿っていない。

 

 「《なあダイダロス…お前にサーチャーで各状況を監視する様頼んでただろ?峰理子に一体何があったんだ?》」

 

 「《その子…『もうブラドからは逃げられない』って思ってるみたいだよ》」

 

 先程までダイダロスが監視していた一連の会話を聞かせて貰う。

 

 「(はあ…つまり本来ならキンジさんとアリアさんに助けを求める筈の会話が無かったという事か)」

 

 何でそこで助けを求めなかったんですかねぇ?

 治療魔法を施しながら俺は『どうしようか?』と考えていた。

 ついでにダイダロスに各戦況を確認して貰う。

 恭也さん達はチンク、クアットロと息を合わせ、自動人形を1体1体確実に仕留めているらしい。

 美由希さんはグリフとの戦いに決着をつけ、現在はその場で身体を休めてるっぽい。

 で、タエさん、設子さんはトーレさんと一緒に敵の群れと交戦中。けどもう少しでココは片が付きそうとの事。

 エリスさんは現在ファンを追跡中。もうすぐ地下の駐車場に辿り着く。

 そして本命の武偵コンビはブラドとバトってる。ディエチも援護してるけど状況は変わらず…。

 

 「(うーん…ここはどう考えてもブラド逮捕に行くべきかなぁ)」

 

 あの3人と現在救援に向かってるセインじゃ、ブラドに致命的なダメージを与えるのは難しそうだ。

 ブラドの魔臓を同時に潰せば事足りるんだけど、原作で魔臓への同時攻撃に参加した峰理子はここにいるしなぁ。

 

 「(いや…その前に美由希さんと合流しておくか)」

 

 美由希さんには治療を施してからエリスさんと合流して貰ってファンを追って貰おう。

 …まあ、結界からは抜け出せないから歩いて追えるぐらい、余裕はあるんだけど。

 折られていた骨の治療も終え、僅かに出来ていた外傷も完璧に治しておいた。

 

 「これでよし……と。もう完治しましたよ」

 

 「……必要無いって言ったのに」

 

 「セインから頼まれましたし…放ってはおけなかったもので」

 

 「……………………」

 

 「そういや、自己紹介してませんでしたね。長谷川勇紀と言います」

 

 「……理子……峰理子だよ」

 

 ポツポツと答えてはくれる。

 

 「理子さんですね。これからどうします?」

 

 「どういう意味?」

 

 「俺、これからブラド潰しに行きますけどここで待ってますか?」

 

 『ブラド』という単語を聞いて理子さんはビクリと身を震わせる。

 

 「む…無理だよ。アイツは吸血鬼…化け物なんだ。いくら長谷川泰造の息子だからって勝てないよ」

 

 む…俺が父さんの息子って事は知ってるのか。

 まさか自己紹介した程度で分かるとは思えない。て事は

 

 「(コッチの情報漏れてる?)」

 

 だとしたらSPの人達の中にファン達と通じてる裏切り者がいるって事になる。

 

 「(……ま、この辺りの事も想定してたしな)」

 

 だからこそ結界の外の守りにも戦力を当てているし(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 それに、今回の事件の主犯格は結界内にいる訳だしな。後は連中を叩き潰せば良いだけだ。

 

 「悪い事は言わない。逃げな。オルメスや遠山キンジが勝てる様ならあたしは苦労しない。あの2人より実力が上のあたしですらブラドには勝てないんだ。あの2人が協力したって勝てないよ」

 

 …何故そこで『自分も協力する』と思わないのだアンタは?

 2人で無理でも3人なら勝てるだろうに。

 そう言っても目の前の彼女は聞き入れそうにない。

 

 「「グルルルルルル…」」

 

 「っ!!?」

 

 「ん?」

 

 唸り声が聞こえ、理子さんはまたもビクリと身を震わせ、俺は唸り声のした方を向く。

 そこにいたのはブラドの下僕である2匹の狼だった。

 狼は狩人の様な鋭い目を俺と理子さんに向けている。

 …ブラドに命令されて理子さんを探してたって事か?

 

 「(何だコノヤロー!)」

 

 とりあえず睨み返す。

 更に唸り声を上げながら威嚇してくるけど怖くは無い。

 

 「う…うぅ……」

 

 逆に理子さんは怯えまくっている。

 

 「どうします理子さん?」

 

 アイツ等、俺達を襲う気満々ッスよ?

 俺としては狼如きに後れを取るなんて事は無いけど。

 

 「嫌だ……アイツの元に戻るなんて……もう嫌だ」

 

 声を震わせながら言う理子さん。

 目に生気が宿ってなかったので、何もかも諦めていたのかと思ったけど『ブラドの元へ戻るのが嫌だ』と思えるならまだ心は完全に折れてないな。

 これなら彼女の本音が聞けるかも。

 

 「理子さん。理子さんが助けを願うなら俺は目の前のアイツ等やブラドから全力で貴女を護り、助けますよ。決して見捨てたりしないと誓います。だから貴女に問いたい。貴女は何を願い、何を得たいのか」

 

 ジッと理子さんの目を見詰めながら問う。

 

 「本当に…本当に護ってくれる?あのブラドから?」

 

 彼女の言葉に静かに頷く。

 少しずつだが、その瞳には光が灯り始めている。生気が戻ってきている証拠だ。

 

 「なら…お願い。あたしはもうアイツの檻になんて戻りたくない。自由に生きたい。だからあたしをアイツから護って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしを……助けて(・・・)

 

 理子さんがその言葉を発すると同時に

 

 「「ガアアアアアアッッッッ!!!!!」」

 

 狼が一斉にコチラへ飛び掛かってくる。

 だが狼達の身体に光の輪が雁字搦めに絡まり、拘束する。

 バインドによって拘束された狼達の腹部に

 

 「神火 不知火」

 

 ドスッ!!×2

 

 天火布武(テンマオウ)の炎で作り上げた槍を投擲し、突き刺す。

 

 「火柱」

 

 ドゴオオオオォォォォッッッッッッ!!!!!

 

 そして炎の槍を火柱へと変える。

 巨大な火柱が立ち上り、狼達を覆い尽くす。

 しばらくして火柱が消え去った後に残ったのは天井、床、共に焦げ付いた焼け跡のみであり、狼達の姿は死体すら残さなかった。

 ………マズい。非殺傷設定に戻すの忘れてた。

 天井や床のフロアを貫通しない様、また狼達を殺さない様に威力は抑えたつもりだったんだが非殺傷を解除したままだったので俺の配慮は無駄に終わった。

 

 「……………………」

 

 理子さんも目の前の現状を見てポカーンとしている。

 

 「コホン……これが俺の能力(チカラ)の一部なんですけど」

 

 「…………はっ!!」

 

 軽く咳を出してから喋ると、すぐに理子さんは再起動してくれた。

 やり過ぎた感が半端無いんだよねぇ。逆に怯えられたらショックだよ俺ぁ……。

 

 「どうッスか?」

 

 「しょ、正直驚いてるわ。いくら長谷川泰造の息子だって言ってもこんな能力(チカラ)が使えるなんて思わなかったから」

 

 どうやら恐怖なんかよりは驚きの方が勝ってるみたい。

 

 「ま、今言った様にこれはあくまで俺の能力(チカラ)の一部ですから。という訳で次はブラドを潰しますから、行きましょうか」

 

 「……あたしも?ここで待ってるって言うのは…」

 

 未だ、ブラドの所へ行くのは抵抗があるか。仕方ないっちゃー仕方ないけど。

 

 「ブラドの下僕があれで全部かは分かりませんし、他のテロ連中が近くにいないとも限りませんから。理子さんがすぐ側にいてくれないと護れるものも護れないッスよ」

 

 実際にはブラドの下僕はもういないんだが、こうでも言わないとこの人着いて来てくれそうにないし。

 

 「それに『理子さんを護る』と約束した以上、ブラドには指一本触れさせませんから安心して貰って大丈夫ですよ」

 

 俺は笑顔を浮かべ、自信満々と言わんばかりに力強い言葉で答える。

 何なら理子さんの周囲に強力な障壁を張っておけば良いだけだし。

 

 「………………////」

 

 ん?何か理子さんの顔が赤くないか?

 

 「理子さん?」

 

 「はっ!?……そ、そうだね。さっきの能力(チカラ)を見たらその言葉を信じられるよ。分かった、着いていくよ(うっ…あの笑顔に不覚にも見惚れてた)//」

 

 「はぁ…(あぁ…またシュテルちゃん達にライバルが……。けどただでさえ、心が弱り切ってる時にあんな救いの手を差し伸べられたら惚れちゃうのは無理ないのかも……ユウ君は純粋に助けたいって思ってるだけだろうけど)」

 

 ???今、ダイダロスが小さく溜め息を吐いた様だったけど……気のせいか?

 

 「(まあ、いいか)じゃあ、早速行きますか」

 

 こうして理子さんを引き連れて俺はこの場を移動する。

 とりあえずは美由希さんとの合流だな………。

 

 

 

 理子さんのいた階層から2階上がった階層に美由希さんはいた。

 …何つーか……戦いの跡がとんでもない事になってますな。

 壁、天井、床……至る所に斬撃の跡やクレーターの様に抉られた跡が…。

 俺も理子さんもこの惨状を視界に入れて唖然としてた。

 てかコレだけの惨状で他の階に一切音漏れしてないっていうホテルの防音精度も何気に凄いと言わざるを得ない。

 

 「(しかし…)」

 

 マジ、結界の空間内で良かった。現実空間なら確実に修正天使(アップデイト)使わないと弁償モノだし。

 壁にもたれかかっている美由希さんに近付くと、俺達の気配でコチラに気付いた様子の美由希さんが顔を向ける。

 

 「あっ、勇紀君」

 

 「どうも……スゲー激戦だったみたいですね」

 

 「あはは…相手の刺客は凄く強かったよ。恭ちゃんならここまで苦戦せずに勝てたかもしれないけど」

 

 満身創痍って感じだな美由希さん。

 

 「ちょっと美由希さんの身体の状態診ますね」

 

 俺は魔力を使い、美由希さんの身体に異常がないか確認する。

 ふむふむ……全身に結構負担が掛かってますな。

 

 「美由希さん……ある程度は治療しますけど、この一件が終わったら病院に行ってフィリスさんによく診て貰って下さい」

 

 「…結構キテる?」

 

 「昔のなのは撃墜時に比べたらマシですけど」

 

 フィリスさんの方で完治出来なかったら修正天使(アップデイト)使うのも止む無し……だな。

 ま、『とらハ』では恭也さんを完治させたんだから多分大丈夫だろう。ここはフィリスさんの腕を信じるだけだ。

 淡い光で美由希さんの全身を包み込む。

 

 「それって私の怪我も治した能力(チカラ)だよね?勇君(・・)能力(チカラ)の正体ってホント、何なの?」

 

 「……勇君?」

 

 ゾクッ

 

 美由希さんから微量のプレッシャーが…。

 

 「勇紀君。さっきから気になってたんだけどその子は誰かな?護衛役の顔合わせの時には見掛けなかった子だけど?」

 

 「えーっと…服装見てくれたら分かると思いますけど、キンジさんやアリアさんと同じ武偵校の生徒さんでして峰理子さんと言います」

 

 「武偵校のアイドル、りこりんこと峰理子だよー。よろしくねー」

 

 アイドルって言うよりはマスコットだよなぁ。

 

 「うん、私は高町美由希だよ。よろしく。で、勇紀君の事『勇君』って呼んでる理由は?」

 

 「にゃ?勇君が良いって言ってくれたし。りこりんと勇君は仲良しさんになったのだ」

 

 そうそう。この階層に来るまでの間に『勇君って呼んで良いかな?』って言われたからOKした。

 

 ゾクゾクッ

 

 プレッシャーが増した!?

 

 「そ…そうなんだ。それで2人はこれからどうするのかなぁ?」

 

 「りこりんと勇君はこれからブラド退治に行くのだ。勇君が約束してくれたんだよー。『ブラドは俺が塵にしてみせます』『理子さんは俺の全身全霊を持って護りきってみせます』って。嬉しかったにゃ~//」

 

 「そこまで誇張して言ってませんけど!!?」

 

 しかも台詞の部分、俺の声色使ってまで言う必要あるんですかねぇ!?

 

 ビキビキビキッ!!!

 

 「ひいいぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!?」

 

 さ…殺気だけで壁に罅が!?

 『ハーメルンのバイオリン弾き』で『ヴォーカル』っていうキャラも殺気で塔に罅を入れた描写があったけど、美由希さんもその境地に至ろうとしてるのか!?

 そんな事出来る時点で『恭也さんを超えた』と言っても過言じゃないぞ!?

 

 「勇紀君、翠屋で私に言ってくれたよね?『全力で守りますから』って」

 

 「い、言いましたけどそれは『美由希さんと行動を共にしていたら』とも申し上げた筈なんですが?」

 

 「何で私と一緒に行動してくれなかったの?」

 

 「えっ!?そりゃ、敵が分散して攻めて来たからであって…」

 

 少なくとも美由希さんと行動出来なかったのは俺のせいじゃないよ。

 

 「ぐぬぬぬぬ…」

 

 いえ…そんな唸られても俺にはどうしようも無いッスよ。

 

 「……決めた。私もブラド退治に着いて行くから」

 

 「えっ!?」

 

 突然同行宣言した美由希さん。

 

 「何で驚くの?戦力は多い方が良いよね?」

 

 「いえ…美由希さんには誘拐犯の追跡に回って貰おうかと思ってたんですけど」

 

 「そうそう。ブラドは超強いから勇君の言う通りにした方が良いと思うよ。誘拐犯のファンは一般人だし」

 

 理子さん、誘拐犯がファンって知ってたか。

 いや…ここにいる以上は知ってて当然だな。

 

 「大丈夫だよ。勇紀君の治療のおかげで身体は充分動かせるし。そんなに強いなら余計に戦力の補強は必要じゃないかな?」

 

 ……正直、ブラドごときに苦戦なんてしないから戦力増やす必要無いんだけどね。

 

 「だから着いて行っても良いよね?」

 

 「うーん…けど美由希さんには……」

 

 ボゴオンッ!!!

 

 殺気で壁が破壊サレマシタ。

 

 「イイヨネ?」

 

 「勿論ですよ美由希さん!!頼りにさせて貰います!!」

 

 やっぱ怖えええよおおおおおぉぉぉぉ!!!!

 高町家の女性陣マジ怖えええぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

 「うんうん。頑張っちゃうよ」

 

 怯える俺とは対照的に満足そうに頷く美由希さん。

 

 「じゃあ、早く救援に行かないとね」

 

 「……うぃ」

 

 士郎さん……美由希さんは経験で恭也さんに劣っていても、この殺気だけで充分お釣りがくる程の実力者ですよ。

 

 「で?で?勇君、ブラドに対しては何か策あるの?」

 

 「策っていうか…普通にボコるだけですよ」

 

 「え?」

 

 流石に予想外の返答だったのか目を丸くする理子さん。

 

 「ほ、本当にボコるだけ?」

 

 「ええ」

 

 「で、でもアレだよ?ブラドの再生能力とかは尋常じゃないよ」

 

 「理子さん。世の中には何事にも例外というものが存在するんですよ」

 

 アレがどんなに凄い再生能力を持っていようとも、コッチにゃ対策が存在する。

 同時に魔臓を狙わなくても再生出来ない対策が。

 

 「《勇紀、聞こえるか?こちらトーレだ》」

 

 ん?

 トーレさんから念話が届いた。

 

 「《勇紀ですよ。トーレさん、どうかしました?》」

 

 「《コチラの雑兵どもは全て片付けたのでな》」

 

 「《そうですか…ご苦労様です。タエさんや設子さんは無事ですか?》」

 

 「《私と共に戦っていた2人なら多少疲労しているが無事だ》」

 

 ふむ。トーレさんがそう言うならサーチャーで確認するまでもないか。

 

 「《じゃあ、そのまま地下の方に向かってエリスさんと合流して貰えますか?》」

 

 「《地下だな?了解だ》」

 

 トーレさんに指示を出して念話を終える。

 さてさて、俺達はブラドのいる上の階層に向かいますか。

 

 「勇紀君、恭ちゃん達はどうするの?」

 

 「恭也さん達ですか?」

 

 確か恭也さん達が戦闘してる階層はここから4階ほど上。更にそこから3階ほど上がればキンジさん達とブラドが戦闘している階層だ。

 

 「恭ちゃん達も加えたら戦力が更に増すけど…」

 

 「そうですねぇ……」

 

 恭也さん達はコチラに着いて来て貰うより地下に向かわせるか…

 

 「(それか結界の外に出してティオレさん達の護衛に回すのが良いのかもしれないな)」

 

 恭也さん達と共に戦っているのはクアットロとチンクだったよな。

 

 「うん、そうするか」

 

 「「何が?」」

 

 美由希さんと理子さんの声が重なる。

 

 「恭也さん達は結界(ここ)から出して皆さんの護衛に回って貰おうかと」

 

 ていうか本来恭也さんには護衛の依頼してないんだけど。

 ……まあ、ここまで来たんだから最後まで付き合って貰おう。

 

 「成る程…外にいる皆に『危険が無い』とも言い切れないもんね」

 

 「そう言う事です」

 

 外の護衛に回してるメンバーの実力は信頼出来るが、数が多いのに越した事は無いだろう。

 美由希さんは納得してくれたので頷くが、理子さんだけが『へ?へ?』と頭の上に疑問符を浮かべている。

 

 「そうと決まれば先に氷村を潰して…それからブラド潰して最後にファンを逮捕っていう順番で行こうかな」

 

 よし!!方針決定だ!!

 ただ、階段使って行くと時間食うからショートカットする事にしよう。

 

 「美由希さん、理子さん。俺の前に出ないで下さいね」

 

 「「え?何で?」」

 

 「()を作りますから」

 

 俺は魔力をチャージし始める。

 あとは念話だな。

 

 「《クアットロ、チンク、セイン、ディエチ。聞こえる?》」

 

 俺は天井を見ながら4人に呼び掛ける。

 

 「「「「《聞こえてるわよー(聞こえてるぞ)(聞こえてるよ)(聞こえてる聞こえてるー)》」」」」

 

 「《これから砲撃魔法撃つから巻き込まれない様に気を付けて》」

 

 「「「「《砲撃撃つって…何処から?》」」」」

 

 「《今、お前等の下の階層にいるから、お前等からしたら足元からだな。恭也さん達やキンジさん達にも通達お願い》」

 

 徐々に溜まる魔力。

 4人も今なら俺の魔力を感知出来る筈だから大体どの辺が砲撃の射線上か分かるだろう。

 

 「「「「《………コッチはOKよー(OKだ)(OKだよ)(OKOK)》」」」」

 

 よし。距離は取ったみたいだな。

 

 「《ユウ君。ユウ君の全能力(スキル)を非殺傷設定に戻したよ》」

 

 「《助かるよダイダロス》」

 

 準備は整った。じゃあ遠慮無く…

 

 「吹き飛べやーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

 

 俺は天井…正確には上の階層にいるブラドに向けて砲撃魔法を放ったのだった………。

 

 ~~テイク2~~

 

 天の鎖(エルキドゥ)でクズを拘束した俺。

 もうこれ以上、コイツの存在を見ていたくない。

 そう思い、俺の背後に数本の武器を宝物庫から取り出す。ここは廊下なのであまり宝物庫を大きく開錠出来ないんだなこれが。

 

 「や…止めてくれ!助けてくれ!!」

 

 必死に懇願する奴。それに対する俺の返答は

 

 「もう散れ。二度と転生なんかするなこのクズ」

 

 宝具の雨を降らす事によって答えてやった。

 特定の部位などは狙わず、ひたすらに宝具を放っては回収し、再び次の宝具の群れを射出する。

 数分にわたって行われた断罪の跡には、奴の肉塊等微塵も残さず、ボロボロになった廊下だった………。

 

 ~~テイク3~~

 

 「遺言はあるか?雑種(クズ)

 

 「た…助けてくれ!!助けてくれよぉ!!!」

 

 それが奴の遺言らしい。

 俺は両手をグッと握って前に突き出す。

 

 「テ」

 

 右手と左手の人差し指を立てて、指先に小さな炎を出す。

 

 「ン」

 

 次に両手の中指を立てて、同じ様に指先に炎を発現させる。

 

 「マ」

 

 次に両薬指…。

 

 「オ」

 

 両小指…。

 

 「ウ」

 

 最後に両親指を。

 両手が完全に開いた状態でそれぞれの指先には炎が灯っている。

 その両手を力強く握りしめ、一端腰元まで両手を引いて

 

 「十指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!!」

 

 一気に両手を突き出し、握っていた手を開いた。

 十個の指先から放たれる炎の弾がクズの転生者に迫る。

 『ダイの大冒険』でフレイザードが使うフィンガー・フレア・ボムズは5本の指で放つため『五指』だが俺は『劇場版ダイの大冒険』で出て来たオリキャラ『デスカール』の様に両手の指を使用したため『十指』である。

 勿論身体に掛かる筈の負担も悪魔図書館で軽減する方法を調べ、高速思考(ハイパーハイスピード)による多重思考と魔力放出量の調整で完全に抑えている。

 

 ドオオオォォォォォォンンンンンンッッッッッ!!!!

 

 「ぎいいやあああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!」

 

 着弾と同時に巨大な爆炎に包まれ、クズ転生者は悲鳴を上げる。

 

 「あづい!!!あづいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛

っっっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 全身を激しく動かすが天の鎖(エルキドゥ)に阻まれ、成す術がない様子。

 そのまま消火作業も行えず、身体は燃え続け、ついには動かなくなりクズ転生者は焼死するのだった………。

 

 ~~テイク4~~

 

 バインドで拘束し直してから天の鎖(エルキドゥ)を宝物庫に収納し、俺は自分の右腕に黒い炎を纏わせる。

 

 「な…何だその炎は!?」

 

 「見えるか?この世界の炎では無く魔界に存在する『魔』を秘めた真なる炎の姿が。邪眼の力をなめるなよ!」

 

 妖気ではなく自分の魔力を餌にして黒龍を呼び寄せ始める。

 『この技を使えないか?』と思い、悪魔図書館で調べてる最中に判明したんだけど、この世界には『魔界』が存在するんですよ。行った事無いけど。

 

 「…ユウ君邪眼なんて持ってないよね!?」

 

 ダイダロスのツッコミを無視して俺は叫ぶ。邪王炎殺拳の最大奥義名を。

 

 「食らえ!!!邪王炎殺黒龍波ーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 この世界に召喚され、放たれる黒龍は一直線にクズ転生者に向かう。

 

 ドオオオオォォォォォォォンンンンンンッッッッッッ!!!!!!!

 

 それは一瞬だった。

 黒龍に飲み込まれたクズ転生者は悲鳴を上げる間もなく、死体も世界に留める事は無かった………。

 

 ~~テイク5~~

 

 ※これは勇紀が結局転生者を殺せなかった場合の結末です。

 

 

 

 ~~第三者視点~~

 

 「あ…あのクソモブがぁ……」

 

 時刻は深夜。

 転生者は海鳴市の臨海公園に逃げ込んでいた。

 結局勇紀はイレギュラーなクズ転生者を殺す事は出来ず、見逃す形になってしまったのだ。

 深夜までは勇紀の結界内に閉じ込められ、結界を解くと同時に適当な場所に転移させられていた。その結果が、クズ転生者が臨海公園にいる理由である。

 

 「殺してやる…あのクソモブだけは俺自らの手で絶対に殺してやる」

 

 呪詛の様に呟くクズ転生者。

 今のコイツには『勇紀に復讐する事』しか考えていなかった。

 ちなみに脇腹には未だ穴が開いており、出血もそこそこ激しい。

 フラフラと歩いてる様から察するに、早く止血と輸血を行わないと危険である。

 

 「ウッホッ♪ウッホッ♪…ヒック」

 

 そこへ陽気な歌声がクズ転生者の後方から聞こえてくる。

 声色の低さから察するに男だろう。

 

 「んん?…ヒック」

 

 しかも酔っぱらっている様だ。

 

 「ウホッ♪いい銀髪♪…ヒック」

 

 「は?」

 

 妙な事を言った酔っ払いの顔を見ようとして振り向こうとする前に

 

 ビリビリビリ!!

 

 その物凄い腕力で衣類を引き剥がされ

 

 「奥義!『絶頂に導きし、最高の〇〇〇(エクスカリバー)』!!…ヒック」

 

 ズゴンッ!!!

 

 という擬音が似合いそうなほどの強烈な刺激を臀部から受ける。

 

 「ぎ…があああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

 異物が体内に無理矢理挿入される不快な感触と激痛……そして快感。

 

 「ふぅ…英伸といいコイツといい銀髪のイケメンでオッドアイな男は何故こんなにも美味いんだ?…ヒック」

 

 いきなり激しく腰を動かしながら喋る男。

 激しい動きのせいでどんどん出血がひどくなるクズ転生者は意識が朦朧となりながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クズ転生者と男以外に誰もいない臨海公園にて声を響き渡らせる。

 クズ転生者はしっかりと感じつつ、意識を手放した。

 翌日、臨海公園で出血多量で死亡しているクズ転生者が朝の散歩をしていた一般人に発見される。

 警察はクズ転生者を襲った犯人の捜索を始めるが、脇腹に開いていた穴については『刺された』という見解意外に見当がつかず、また男がヤッた情事の後始末が完璧だったため(破られた衣服も完璧に修繕済み)、男に警察の捜査が伸びる事も無かった。

 時効が無いとはいえ、この事件が『迷宮入り』するのはもうしばらく後の事である。

 ちなみに男は酔っ払っていた時に行っていた行為の事全ては全く記憶に残っていなかった………。

 

 

 

 ~~第三者視点終了~~

 

 ~~あとがき~~

 

 前回のあとがきでは『次でとらハOVA編を終わるかな?』と書きましたが予想以上に長くなったので分割することにしました。申し訳ありません。

 それと転生者の死亡パターンをいくつか書いてみましたが読者の皆様のお気に入りがこの中にあればいいなぁと思っております。

 テイク3やテイク4を読んでもらったと思うので分かっておられると思いますが勇紀は『フィンガー・フレア・ボムズ』と『邪王炎殺黒龍波』を習得済みです(まだ椿姫は完成(ジ エンド)で習得していないです)。

 『乖離剣(エア)』や『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』は使わせませんでした。この程度の奴に使うのは勿体無いので。

 別の『エクスカリバー』は出ましたけどね(笑)。

 

 


 
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