ずるいよなー、と少女は唇をとがらせた。厚手の毛布にくるまって、暖炉の火だけでは足りないのか、ケット・シーのデブモーグリとレッド13の毛皮の間に挟まるように座ったまま。
「オレ様にゃあそっちのがうらやましいがね」
隣で毛布を二枚重ねて震えるシドがジト目でにらみつけるが、ユフィは器用に視線を受け流す。むき出しの膝が真っ赤なのは火の照り返しのせいばかりではない。
彼ら四人――人間を数えるならユフィとシド二人だが――クラウドたちとはぐれたあげく吹雪の中に倒れたところをこの山小屋に運び込まれること、早三回目。なかなか大氷河を越えられないのはレッドが寒さに弱いせいであり、さらに言えばユフィとシドにこらえ性がないせいだった。リーブに至っては再三の忠告を無視され、ケット・シーの目を通して神羅ビルで一人むなしくため息をつくばかりであった。
「ずるいってなにがです」
「だって、クラウドたちばっかりさくさく進んでさー」
あのメンバーならまず進まないほうがおかしいのではないか。肩を落としながら、ケット・シーは苦笑いした。
「せやからボク、いそがずマイペースにいきましょって言うてるやないですか」
「やだやだ! 絶対追いついてやる!」
「こんなのよう、飛空挺さえありゃあひとっ飛びなのにな」
「オイラ、バランス悪いと思う」
あくび混じりにレッドの声。というのはこの構成員のことだろうか。コスモキャニオンがそうだったからか、暖色の背景の中では彼が一番落ち着いて見える。少女に掴まれた尻尾の先をゆらゆらさせながら、この獣は体を休めることに専念しているようだった。
横の部屋で物音がするたびに、たてがみを分けながら耳が動く。扉の開く音とともに、山小屋の主が顔を出す。初老の男は、友人を亡くしてからずっとこの山小屋で遭難者や冒険者に世話を焼いているという。
顔を上げたユフィが目を輝かせた。無邪気な反応に男も目尻を下げて「体調はどうだい」などと声をかける。
「おかげさまで。何遍もお世話になってもうて」
ケット・シーの言葉にいいよいいよと手を振りながら彼らの前に運んできた盆をおろす。小さな器に人数分、ポタージュスープが白い湯気を浮かべている。
ユフィは何度か世話になるうちにこれがすっかり気に入ってしまったのだった。
「気にしないでくれよ、私が好きでやっているんだ」
達観した表情で友人が亡くなった経緯を語る姿はまだ記憶に新しい。レッドはいい人だね、と微笑してユフィのほうを見るが、彼女はといえばシドと一緒になってスープを口の中にかき込んでいるところだった。
その視線に気がついたらしい少女、ようやく器から顔を上げてレッドを見返し、それから小屋のなかをきょろきょろ見回した。
「へっ? あ、うん! おっさん金取っていいレベルだよねこれ!」
「聞いちゃいねえ」
あきれ顔のシドに一瞥もくれずおかわりを要求する図太さは尊敬に値する、とケット・シーは密かに考えた。
デブモーグリをつつかれて見下ろすと、レッドが頭上の猫を見上げる。
「クラウドはがんばりすぎるからね」
いきなりなにを言い出すのかとシドがスプーンを口から離すのと、小屋の扉が激しく叩かれるのはほぼ同時であった。
おやおやと腰を上げた男の後ろからレッドがついていく。ケット・シーもその背にゆられ。好奇心の赴くままにシドとユフィが戸口に顔を覗かせると、玄関の前で熊にも似た巨体が見慣れたチョコボ頭を中に放り出したところだった。
足下にはなかば雪に埋もれて赤いマント、後ろで申し訳なさそうに立つティファが見える。バレットは一度肩で大きくため息をついてから男を見下ろす。
「すまねえ、また世話んなる」
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