香辛料の入った刺激的な‘くっきー’という焼き菓子を、十助は尻尾が出ない程度にサクサクと頬張っていた。他の物も味見したいのはやまやまだが、あと一枚あと一枚と手が伸びてしまう。星形の物を手に取りまた一口二口とかじったところで、肩をポン、と叩かれた。
「巫女さん?どうしたんだ?あ、クッキーか。悪いな独り占めしてて」
「あ、いえそうではなくて……。コホン。十助君、先ほど音澄さんが探していましたよ?食べ終わってからでいいので、行ってあげてくださいね」
「おう?」
焼き菓子を飲み込んでから振り向くと、黒犬に手を振って歩き始める寧子がいた。黒犬さんも一緒に呼ばれていたみたいですよ、とそっと涼が付け加える。
十助は水を一口飲み、涼に一言礼を言って寧子の方に小走りに駆けて行った。
「おーい!なんか呼んだか?」
「あ!十助君いた!」
見えて良かったのにゃ、と小さく呟かれたのを十助は聞き逃さない。
そこは『見つけれて』だろ。なんだよ『見えて』って。まるで俺が見えにくいみてぇじゃねえか。だいたいそんな身長変わらねえし、周りの奴らがでかいだけだし、俺だってやろうと思えばにょきにょきでかくなれるし、ってか
(俺が小せぇって言いてーのか!こんにゃろ!)
でこぴんの一つでもと十助が拳を固めたそのとき。つい、と鼻先に小さな包みが差し出された。
「……お?」
「えっと、折角の‘くりすます’だから贈り物を用意したのにゃ。さっきくろたんにもあげたのだけど、それとおそろいにゃ♪」
視界を塞ぐほど顔の近くで包みを振られ、十助は慌てて包みを受けとる。寧子に催促されて緩く結ばれた紐を解くと、石のようなものが見える。おもわず逆さにして振ると、透明な石のついた紐がポトリと手に転がった。
「水晶のついた腕飾りにゃ。 ちなみに私のは猫目石。わんわんにゃーでおそろいにゃ♪」
寧子が左手を持ち上げて猫目石を見せるが、十助は目の前の腕飾りに釘付けになっていた。
「すっげー…こんなん貰ったの初めてだ…。 ほ、ほんとに貰ってもいいのか?返せって言われても返さねーからな?」
「あはは、贈り物なんだから返さなくっていいのにゃ♪ 」
寧子の顔と腕飾りを交互に見て、石を撫でてはわたわたと腕飾りを両手で持ち直し。十助が急に狼狽するものだから寧子にはおかしくて仕方ない。喜んでもらえた嬉しさが笑顔を通り越して笑いになってしまう。
蝋燭の火に石を翳して満面の笑みで光を透かしみる十助を眺め、寧子は満足げに三味線を構えた。ここまで喜んでもらえるのなら、贈った甲斐があったというものだ。
会場の時計は頂点で重なろうとしており、例の催し物の時間も目前。寧子はベベン!と弦を弾いた。
「さぁて!そろそろ日付の変わる時間にゃー♪ 」
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十助君の反応が可愛すぎて我慢できませんでした(真顔)
登場するここのつ者
猪狩十助/音澄寧子
ちょっとだけ登場するここのつ者
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