真・恋姫†無双~赤龍伝~第125話「白虎」
張暗「今日はお招き頂きまして、ほんまにありがとうございます」
雪蓮の宴に招かれた張暗が城にやってきた。
愛紗「…………」
愛紗や翠たちは城にやってきた張暗をずっと睨みつけていた。
張暗「何や? 関羽様たちはずーーっとワイの事を睨んではりますな。何かあったんですかいな?」
睨まれている事に気がついた張暗がわざとらしく大声で叫んだ。
愛紗「おのれぇ何て白々しい」
翠「ずうずうしい奴だぜ」
小声でそう言い、斬りつけたい衝動を我慢しながら、広間へと向かう張暗を見送った。
一方、同時刻の張暗の屋敷には、赤斗、恋、思春、星、焔耶の五人が忍びこんでいた。
赤斗「豪商って儲かるんだね」
恋「……お腹空いた」
張暗の屋敷は予想以上に広かった。
焔耶「それよりも、あの辻斬りは一体どこにいるんだ? 本当にこの屋敷に逃げ込んだんだよな?」
思春「貴様、私を疑うつもりか?」
焔耶「何だと…」
赤斗「はいはい、そこ喧嘩しない。もしかして、逃げられたかな?」
星「あるいは、口封じの為に殺されてしまったか」
赤斗「……その可能性もありますね」
焔耶「もし、そうだったら、どうするんだ? 張暗の奴が桃香様と同じ宴にいる事さえ許せないっていうのに、辻斬りの証拠も見つからなかったら――」
玄武「安心しろ。逃げてもいなければ、口封じもしてはいない」
思春「貴様は!?」
赤斗「玄武!……そうか、本当の黒幕はお前か」
姿を現したのは、玄武と例の辻斬りの男の二人。
星「赤斗殿、何者です?」
赤斗「………司馬懿の部下です」
星「ほう。これは思っていた以上の収穫があったようですな」
赤斗「捜したよ。司馬懿は今どこだ?」
玄武「死ぬ人間たちに教えても意味はないだろ?」
星「我らをたった二人で相手するつもりか?」
玄武「ふん。氷雨に二人がかりでも殺されかけた人間のセリフではないな」
思春「…………」
玄武「風見赤斗と呂布以外の三人には用はない。消えろ。雑魚は見逃しやろう」
焔耶「雑魚だと!」
玄武「お前たちに私と白虎の相手が出来るとでも?」
赤斗「白虎?」
玄武「こいつの事だ。こいつは口がきけなくてな」
辻斬りを指さしながら玄武は答えた。
白虎「…………」
星「捕まっても口を割らなかったのではなく、口を割れなかったわけか」
焔耶「そっちが喋れないなら、お前から色々と聴かせてもらうぞ」
玄武「お前にはムリだ」
焔耶「それはやってみなきゃ、分からないだろーーっ!!」
叫びながら焔耶は、玄武と白虎に襲いかかった。
赤斗「魏延さん!!」
玄武と白虎は焔耶の攻撃を難なく躱すと、二手に別れて屋敷の奥へと向かっていった。
玄武「奥で待つ。風見赤斗よ。必ずお前は私のもとに来い!待っているぞ!」
魏延「逃がすか!」
赤斗「待って魏延さん。奴らは逃げませんよ。いったん落ち着きましょう」
星「さて、これからどうしますかな?」
魏延「もちろん、奴らを追うに決まっている!!」
思春「当然だな」
赤斗「では、組み分けをしましょう。誰が誰を追いましょうか?」
星「指名もされていましたし、赤斗殿は玄武とやらの方で決まりでしょう」
赤斗「…………やっぱり僕はあっちですか」
恋「恋は、赤斗と一緒に行く」
赤斗「…………」
奥広間―その壱―
玄武「……来たか」
奥広間で待っていた玄武の前に現れたのは、恋と星だった。
玄武「風見赤斗は白虎の方か」
星「ご期待に沿えなくて残念だったな」
玄武「まあいい。呂布よ。お前の命いただくぞ」
恋「恋は、負けない」
星「……私のことは眼中になしというわけか」
奥広間―その弐―
白虎「…………」
赤斗「待たせたね」
白虎の前に現れたのは赤斗。
赤斗「何でこっちに来た?って顔だね。ただ玄武の奴の思い通りになりたくなかっただけだから気にしないで」
白虎は無言で構える。
赤斗「それが本来の君の武器ってわけか」
白虎の両手には鉤爪が装着されていた。
張暗「ちょっといきなり何しはりますの!?」
張暗は城に戻ってきた焔耶に絞め上げられた。
焔耶「黙れ! もう全部分かっているんだ。観念するんだな!」
張暗「いったい何のことや! ワイには何の事かぜんぜん分からんわ!」
桃香「焔耶ちゃん、いきなりどうしたの?」
嶺上「なんか証拠が見つかったのか?」
思春「はい。朗報です」
雪蓮「あら、おかえり思春♪」
藍里「それで思春ちゃん、朗報とは?」
思春「はい。張暗の屋敷には例の辻斬りだけでなく、玄武が居ました」
愛紗「赤壁で赤斗殿と戦っていた司馬懿の部下か!」
桃香「司馬懿さんの!?」
雪蓮「そう。あの男がね。ようやく司馬懿の手掛かりが見つかったわね」
愛紗「それで赤斗殿たちはどうしたのだ?」
思春「恋と星は玄武。風見は白虎と名乗る例の辻斬りのもとに、それぞれ分かれて進んでいます」
愛紗「赤斗殿は一人であの辻斬りと戦うつもりなのか!?」
焔耶「まあ、そうなるな。でも、あいつなら大丈夫じゃないのか?」
愛紗「あの男を甘くみては駄目だ。いくら赤斗殿でも、一人では危険すぎる」
雪蓮「それじゃあ早く赤斗たちの加勢に行きましょう」
奥広間―その弐―
赤斗「はあぁぁーーーーーー、爪牙っ!!」
赤斗の二刀小太刀による超速十連撃が白虎に繰り出された。
白虎「…………」
同時に白虎も爪牙と同等の連撃を繰り出す。
赤斗「くっ…」
互いの身体に無数の傷がつく。
赤斗「この前よりもずっと強いな。この前は手加減してたのかな? あ、そうか、喋れないんだっけ。でも、そろそろ終わりにしよう」
そう言うと赤斗は構え直した。
赤斗「いくぞ! 疾風」
白虎「!!」
次の瞬間、赤斗と白虎の距離が無くなる。
そして、赤斗の疾風によって出来た衝撃波が白虎を襲った。
白虎の身体は宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられた。
赤斗「暫く動かないほうがいいよ。ま、動きたくても動けないだろうけどね。さて、恋と星さんの方は大丈夫かな?」
別れた恋と星のことを心配して、白虎から目をはなした。
その一瞬の油断が、赤斗にとって致命的なミスだった。
赤斗「ぐっ!!」
赤斗の背中から鮮血がほとばしる。
赤斗「ぐぅ……、ま、まさか、こんなすぐに、動けるなんて思わなかったよ」
白虎「…………」
白虎は何事もなかったかのように、立ちあがっていた。
だが、先程までと違い白虎の目からは猛獣のような殺気が溢れていた。
赤斗(……昔、火蓮さんと戦った時みたいだな)
奥広間―その壱―
星「はぁ、はぁ…司馬懿の部下は、化け物ばかりだな」
星は槍で身体を支えながら、立ちあがった。
恋「はぁ、はぁ……強くなってる」
玄武「当然だな。私たちは仲達様よりお力を頂いているのだからな」
星「…………どうやら私は足でまといのようだ」
恋「(フルフル)…そんなことない」
玄武「呂布、お前は後からじっくり料理してやる。まずはお前からだ。……死ぬがいい!!」
玄武の剣が動けない星に止めをさそうと迫る。
だが、玄武の剣は割って入ってきた影によって弾かれた。
玄武「なっ、貴様は!!」
恋と星を助けたのは、筋肉モリモリマッチョの変態だった。
玄武「貴様は、貂蝉っ!」
玄武は距離を置きながら、怨めしい顔で貂蝉を睨んだ。
恋「……貂蝉」
玄武「どうやって、この外史に来れたかは知らんが、邪魔をするなっ!!」
貂蝉「あらん、それはダメダメダメよダメなのよ、玄武ちゃん♪ 仲達ちゃんがやっている事を見過ごすことは出来ないわ」
玄武「見過ごすことが出来ないだと? 笑わせてくれる。貴様に何が出来るというのだ? 仲達様の前ではお前たち剪定者だろうが無力」
貂蝉「そうねー。確かに私たちでは、今の仲達ちゃんを止める事は出来ないかもしれない。でも、仲達ちゃんと同じ力を持つ赤斗ちゃんなら……」
玄武「風見赤斗に加勢するつもりか? ……まあいい。最早止められないさ。この世界の龍脈も間もなく仲達様のものになる。この世界は終わるのさ」
貂蝉「そう……。間もなくってことは、まだそれだけの時間があるってことね」
玄武「…………」
貂蝉「あーっ♪ 今、しまったーって顔した~♪ うふふ、可愛いねぇ、玄武ちゃんってばー♪」
玄武「貴様ぁ!! 殺す!」
“パァーーン”
玄武が貂蝉に襲いかかりそうになった瞬間、乾いた音が広間に響いた。
貂蝉「いやん♪ 危ないわね~」
鴉「おい玄武。時間切れだぜ。お前が余計なことしているのが仲達にバレたぞ!」
天井に爆閃を発砲した鴉が、玄武に向かって叫ぶ。
玄武「う…」
貂蝉「ちょっと鴉ちゃん!危ないじゃないのよ」
鴉「近寄るな貂蝉!俺は変態と戯れる趣味はないんだ」
貂蝉「だ~れが変態よ! 失礼しちゃうわ!」
鴉「ほら行くぞ。白虎もアイツが呼びに行っているんだ。早くしろ」
星「ま、待て逃げる気か!」
鴉「逃げるんじゃないさ。見逃してやるのさ。感謝して欲しいな。じゃあな。美周郎によろしく♪」
玄武「…………次は殺す」
鴉と玄武は張暗の屋敷から姿を消した。
奥広間―その弐―
赤斗「君は死んだって聞いてたんだけどな……」
赤斗が白虎と戦っていると、広間に一人の人物が姿を現す。
そして赤斗はその人物を見て驚愕した。
姿を現したのは、かつて汜水関で恋に討たれたはずの氷雨だった。
氷雨からは生気が感じられず、まるで死人そのものだった。
氷雨「君たちに復讐する為に黄泉の国から戻ってきたんだよ」
以前よりも強い氷雨の殺気が赤斗に突きささる。
赤斗「ぐっ……」
氷雨「今すぐ殺してやりたいけど、今は我慢だね。白虎、戻るよ」
白虎「…………」
氷雨は白虎を促すとそのまま引きあげようとする。
赤斗「待て! 司馬懿は何処いるんだ?」
氷雨「…………私も仲達も泰山で待っているよ」
そう言い残すと氷雨と白虎は姿を消した。
赤斗「これは助かったと言うべきなのかな。……あのまま戦ってたら、殺されていたな。きっと…」
赤斗はただ茫然と立ち尽くすのだった。
つづく
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