No.647508

転生の巨獣

tsumarasetaさん

初めて物語を書いてみました。
コトブキヤHMMゴジュラス発売記念、中央大陸戦争時代を舞台にしたオリジナル短編です。
作中に登場する設定、人名等はゾイド公式とは無関係です。
見苦しい点もあるかと思いますが、よろしくお願いします!

2013-12-23 14:51:51 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1240   閲覧ユーザー数:1204

 中央大陸辺境、ヘリック共和国軍ロックウォール基地。

 文字通り巨大な壁のごとくそびえ立つ岩盤「ロックウォール」を背に建つこの基地は、戦闘による心身へのダメージで任務継続不能となった兵士に治療・リハビリテーションを施し、実務復帰させるための医療施設である。

 しかし、ここロックウォールは他に例を見ない「ある特徴」により、軍病院ではなく軍事基地に分類されていた。

 

 「くそっ、またか。」そう呟いて青年は柵から身を乗り出した。

 その青年、レミス・ヴァイオレット少尉は一年前からロックウォールで復帰訓練を続けている。

 彼が立っているのは巨大な格納庫のキャットウォークだ。

 この基地は老朽化した駐屯基地を改修したもので、新棟が格納庫をコの字型に囲うように建てられている。

格納庫のキャットウォークがそれらの連絡通路を兼ねているため、棟から棟へ移動するには嫌でも格納庫を経由しなければならないのだ。

 レミス少尉は格納庫をくまなく見渡した。

 ここ一か月程、キャットウォークを通ると必ず誰かの視線を感じるのだが、その都度確認しても自分を見ている者はおらず、皆ゾイドの整備に追われている。

 そう、この病院施設にはゾイドがいるのだ。

 

 機体損傷が激しく前線基地では手に負えないシールドライガーや、本来扱いやすい機体でありながらパイロットを受け付けないコマンドウルフなど、ここに並ぶゾイドは皆、何らかの理由で正常に動作しないものばかりだ。

 なぜ兵士とゾイドを同じ場所で治療するのか。

 そのルーツは、惑星Ziに入植した地球人達にあった。

 彼らの故郷、地球には、ドッグセラピーという療養法があるという。

 それは人間と絆の深い動物を傍に置くことで患者の心に安らぎを与え、回復を後押しするというものだ。

 これを応用し、兵士に自分達と同じように傷付いたゾイドが立ち直っていく姿を見せることでゾイド乗りとしてのプライドを刺激して復帰へのモチベーションを高めさせるのがこの施設の狙いである。

 すなわちロックウォールは、兵士だけでなくゾイドの治療も行う整備工場としての側面から、戦略上重要な施設として「基地」の名を冠しているのだ。

 レミスは格納庫を抜けると定時診察のため担当医の元へと向かった。

 彼がロックウォールに来た理由はトラウマ克服のためだ。

 14ヶ月前、とある戦闘で愛機のゴドスを失った彼は、搭乗機が損傷することに極度のストレスを感じるようになってしまった。

 一年間の治療と訓練で平常時における精神は安定するに至ったものの、今でもいざゾイド同士の模擬戦となると機体ダメージを恐れて防戦一方になってしまう。

 一度味を占めたゾイド乗りの興奮を忘れきれず退役には踏み切っていないが、最近では操縦席に座ることさえ苦痛に感じるようになっていた。

 担当医の前に座ると、レミスは格納庫で感じる不可解な視線について話した。

 今までは気のせいで通してきたが、ここまで毎日続くと疑わざるを得ない。

 「視線を感じなかった頃と現在とで、格納庫の環境に何か変化はあるかい?」初老の軍医はにこやかに尋ねた。

 冷静に思い返すとレミスには一つ心当たりがあった。「あれだ。あのゴジュラスが来てからですよ、おかしくなったのは。」

 一か月前、この基地にロールアウト直後のゴジュラスが運び込まれた。

 ゾイド単体の戦闘能力向上を目指す「Mk-Ⅱ計画」の一環で量産されたゴジュラスの一機だが、機体に全く異常がないにもかかわらず起動せず、根本原因の究明が必要と判断されたのだ。

 「模擬戦の負け越しが心労に来てると考えるのが妥当だね。」担当医が返す。「一年経って焦りもあるだろうけど、君には君のペースってもんがある。ここにいる限りはお払い箱にされる心配もないしね。給料は出ないけど。それとも・・・」担当医は一呼吸置くと、悪戯っぽい顔で続けた。「ここの錆び付いた格納庫に新品のゾイドは目立ちすぎるからねぇ。それにホラ、ゴジュラスときた。存在感にやられたのかもね。」

 

 定時診察が終わると少しの休憩が取れる。

 レミスは担当医のユーモアで憑き物が少し取れたような気がしたが、自室に戻ろうとキャットウォークを通過する際、またしても例の視線に苛まれることとなった。

 格納庫に入った途端に視線を感じるわけではない。

 キャットウォークを歩き始めて少し経つと強烈な気配に包まれるのだ。

 「・・・ここだ!」レミスは今日こそ自分を悩ませる存在の正体を暴こうと、視線を感じた瞬間、その方向に勢いよく振り向いた。

 視界を遮る巨大な金属の顔。

 「あの藪医者のジョーク、意外と当たってたりしてな。」図らずもゴジュラスと正面から睨み合う形となったレミスは、途端に深く考えるのが馬鹿らしくなり、大きく伸びをすると自室に向かって歩き出した。

 「またです。またゴジュラスが数秒間だけ起動しました。」興奮ぎみに話すのはゴジュラスの整備担当だ。

 彫りが深く浅黒い男がそれを黙って聞く。

 ロックウォール基地の責任者、ライアン大佐だ。

 「ここに来てからずっとこの調子です。細かい起動回数や起動継続時間はバラバラですが、タイミングに大まかな周期性があるように見えるのが気になります。」整備担当の声が熱を帯び始める。「ここまでくると、何か外的要因にゴジュラスが反応しているとしか思えません!」

 「この基地でゴジュラスが初めて起動した日からの格納庫内の監視カメラの録画映像とゴジュラス起動のタイミングを照らし合わせ、ゴジュラス起動時に起こっている環境の変化を洗い出せ。」そう言い残すと、大佐はその場を後にした。

 

 その夜、ロックウォールの周囲に点在する無数の巨大岩盤に身を隠しながら進軍する一団があった。

 ゼネバス帝国軍・特派機甲戦隊。

 共和国軍の決戦兵器ゴジュラスの破壊を専門とする特殊部隊、その第4部隊がロックウォールを目指していた。

 「夜明けには目標施設の防衛圏内に入る。ジャミングが効いているとはいえ、気を引き締めておけよ。」アイアンコングを駆る隊長の声には、揺るぎない自信が感じられた。

 翌早朝。

 けたたましいサイレンがロックウォール基地に鳴り響いた。

 「なぜ発見が遅れた!?警備部隊は寝ていたとでも言うのか!」ライアン大佐の怒声が飛ぶ。

 「妨害電波と地形を利用した隠蔽工作です。・・・ミサイル接近!」オペレーターだ。

 戦闘部隊の駐留を想定していないロックウォール基地の、周囲の岩盤を盾にできる地の利を逆手に取った奇襲攻撃。

 そして、増援を呼ぶ暇を与えないギリギリまで接近しての電撃作戦。

 「迎撃しろ!非戦闘員は退避!」ライアンは敵が相当の手練れだと直感していた。

 

 一方、レミスは現状を飲み込めずにいた。

 格納庫に召集された戦闘可能な兵士達に、訓練教官によってゾイドが割り当てられていく。

 自分が呼ばれたのはまだいい。

 模擬戦ではトラウマが再発してまともに戦えないが、命を削り合う極限状態では砲撃支援くらいはできるかもしれない。

 だが、問題なのは自分に与えられたゾイドだ。

 「僭越ながら、自分にゴジュラスは扱えません!」レミスは必死で抗議する。

 信じられないことに、彼にはライアン大佐からの命令書付きでゴジュラス搭乗が言い渡されたのだ。

 「逆らうのなら命令違反及び敵前逃亡で軍事裁判に掛けてもいいんだぞ。命令書が出た時点で、貴様は患者ではなくパイロットだ!」教官が平然と言い放つ。「いいから黙って乗れ!技術将校が全て説明する。」

 

 基地の外では既に激しい戦闘が展開されていたが、共和国軍は劣勢に立たされていた。

 直接攻撃される事態を想定していないロックウォール基地には、ゴドスとコマンドウルフからなる小規模な護衛部隊しか配備されていない。

 基地で訓練を受けていた戦闘可能な兵士が、同じく比較的状態が良好なゾイドで出撃、応戦しているとはいえ、最初からこの基地を潰すために準備してきた敵と互角以上に戦うにはどう考えても無理があった。

 「ゴジュラスは出てきていませんね。情報通り、使えない状態のようです。」帝国兵が隊長に報告する。

 「出てきたとて、対ゴジュラス用に編成されたこの部隊に単機では勝てまい。それに、ゴジュラスを3体倒している私がいるのだ。こちらがミスさえしなければ楽に掴める勝利だよ。」ベアファイターの胴体を捩じ切るアイアンコングの操縦席で隊長が不敵に笑う。

 ゴジュラスのコックピットに入ったレミスは安心感とも懐かしさともつかない不思議な感覚にとらわれていた。

 この基地に来るまで、コックピットはおろかゴジュラスを生で見たことさえなかったはずなのだが、なぜかよく知っている場所のような気がしてならない。

 「戸惑いが大きいだろうとは思いますが、君がこのゴジュラスを動かせるのはほぼ確実なのです。」レミスが何か言う前に整備担当の将校が切り出した。「かねてより確認されていた突発的かつ瞬間的なゴジュラスの覚醒。その引き金が君だったのです。」

 技術将校の説明はこうだ。

 ゴジュラスの覚醒・起動のタイミングは、レミスがキャットウォークを通り、ゴジュラスの前を通過する時のみ起こっているという。

 つまり、彼が感じた視線はまさしくゴジュラスのものだったのだ。

 しかし、無関係なはずのレミスにゴジュラスが呼応するのはなぜか。

 それは、このゴジュラスの出生に秘密があった。

 そもそもゴジュラスはベースとなる大型野生体の気性が荒いため、兵器化しても癖の強さが抜けず乗り手を選ぶ。

 扱いにくいゾイドがパイロットを認め、従順になるまでにはそれなりの時間を要するが、仮に時間をかけて絆の形成を図っても最終的に認められなければ時間の無駄になってしまう。

 そのため、「Mk-Ⅱ計画」におけるゴジュラスの量産は、野生体の数が少ないゴジュラスの大量配備に加え操作性の安定化も目標とされた。

 機体そのものの開発はクローン技術によるゾイドコアの複製でクリアできたが、人工培養した生体ユニットにも強い自我は継承されていた。

 そこで、扱いやすく戦闘経験も豊富な同じ恐竜型ゾイドのゾイド因子をゴジュラスに移植することで、ゴジュラス本来の強烈な自我の抑制に成功したのだ。

 「このゴジュラスは従来機ほど癖が強くないのは分かりました。しかし、自分はまだトラウマを抱えた身です。戦況を左右するようなゾイドを任される資格があるとは思えません。」レミスは食い下がる。

 「そこですよ。」格納庫の外壁に着弾したのだろうか。

 室内に轟音と激しい振動が走るが、技術将校は話をやめない。

 「同じラインで建造した他のゴジュラスは癖がなくなりました。ですがこの機体に限っては違ったのです。問題は移植したゾイド因子にありました・・・」レミスは自分の耳を疑った。「このゴジュラスには、君の愛機だったゴドスの因子が組み込まれているのです。」

 

 訓練教官のシールドライガーがレッドホーンの喉笛を食い千切る。

 「これでやっと3機か。」帝国軍はまだ5体以上残っている。「こちらは残り4機・・・レミス少尉、早くしてくれ!」

 言い終わらないうちにコマンドウルフが吹き飛ばされて動かなくなる。

 隊長機のアイアンコングが拳を振り抜いたのだ。

 

 格納庫では技術将校の話が続く。「君のゴドスは戦闘でゾイドコアに修復不能なダメージを負い、1体のゾイドとしては死んだ。」

 確かにレミスはあの時ゴドスのコックピットの中で、自分の戦友が衰弱し、生命力を失っていくのを感じていた。

 それが今日まで続くトラウマの原因でもある。

 「しかし、ゾイドコアの中で記憶を司る部分だけは奇跡的に機能停止を免れていた。そこで、このまま完全に死なせるよりはと、このゴジュラスに移植されたのです。」

 レミスはようやく合点がいった。「この懐かしさは、あのゴドスのものだったのか・・・」

 「ゴドスにとって、君は最期の瞬間まで寄り添ってくれたかけがえのない存在だったのでしょう。戦闘経験値と共に蓄積されたゴドスの記憶が抑制されたゴジュラスの自我を支配し、君にしか心を開かないゾイドになってしまったのです!」将校は遠くを見るような目でこう続けた。「私は純粋な技師だ。科学的根拠に基づいた結果以外を信じたくはない。だが、プログラムではどうにもならない人とゾイドとの絆は確かに存在する。君の相棒は、今もこうして生きているのですよ。」

 遂に教官のライガーが倒れ伏し、格納庫を護る者はいなくなった。「頼む。疫病神で終わるのだけはやめてくれ、ゴジュラス・・・」教官が祈るように呟くと同時に、無数のミサイルが格納庫に叩き込まれた。「万事休すか・・・」

 「外壁の破壊を確認。突入します!」3機のモルガが黒煙の中に消え・・・そのまま通信が途絶えた。

 「どうした、状況を報告せよ!中はどうなっている!」隊長の呼び掛けに答えたのはモルガのパイロットではなく、深みのある咆哮だった。

 黒光りする爪の隙間から圧潰したモルガが滑り落ちる。

 煙の中から現れたのは、山と見紛う鈍い銀色の巨獣だった。

 

 「レッドホーン2、サーベルタイガー1、イグアン2、それにアイアンコング1か。完全にこのゴジュラス狙いの編成だな。」レミスは舌なめずりした。

 まるでゴジュラスの闘争本能が自分の中に流れ込んでくるようであった。

 「病み上がりのゾイドが何だ!クラッシャーホーンで体勢を崩します!」レッドホーンの1機が突進を仕掛ける。

 「合わせろ、ゴジュラス!」ゴジュラスの尻尾が唸りを上げてしなり、ムチのようにレッドホーンの頭部に叩き付けられた。

 レッドホーン自慢の一本角は無残に折れ、その巨体が宙を舞った。

 その強烈な一撃を見ただけで、イグアンのコンバットシステムがフリーズする。

 「何なんだあの動きは・・・ゾイドがパイロットの操縦を予測して反応しているとでも言うのか!?」隊長は驚きを隠せない。

 その驚きは基地の中にも広がっていた。「あの反応速度はゴジュラスのスペックを凌駕しています!いくらパイロットとの絆が深いとはいえ・・・」技術将校の表情には狼狽と興奮が見てとれる。「人とゾイドの共鳴か・・・」ライアン大佐が呟いた。

 ゾイドとそのパイロットとの間に決して切れることのない固い絆が結ばれた時、人の意思にゾイドが応え、機体性能を超えた未知の力を発揮するという。

 「私がやる。お前たちは下がっていろ!」最前に躍り出たアイアンコングは、ファイティングポーズとも取れる動きを見せる。

 その独特な動きにレミスは見覚えがあった。

 14ヶ月前のあの戦闘で彼のゴドスを破壊したハンマーロックの動きだ。「まさか、あの時のパイロットなのか?だとしたら、今度こそあれを・・・」

 

 朝日をバックに2体の大型ゾイドが対峙する。

 ゴジュラスとアイアンコング。

 相対する二人のゾイド乗りはかつて一度対決し、奇しくも同型の上位機種で再び雌雄を決することとなった。

 先に動いたのはアイアンコングだ。

 肩のミサイル全弾発射。

 ゴジュラスは腕のリニアレーザーガンでミサイルを落とすが、その爆発の中からアイアンコングが勢いよく飛び出してきた。

 真っ向から組み合う巨体と巨体。

 アイアンコングの腕力は伊達ではなく、ゴジュラスのパワーでも押しとどめるのがやっとだ。

 レミスは、ゴジュラスの凶悪な大顎が届く丁度良い位置にアイアンコングの頭部=コックピットがあるのを見つけた。

 だが、大きく口を開いたその時、ゴジュラスのコックピットに衝撃が走る。

 アイアンコングの右肩の砲が、ゴジュラスの上顎につっかえ棒のように刺さっていたのだ。

 幸い、砲は湾曲していてゼロ距離射撃はない。

 代わりに、ゴジュラスの腹部ヘビーマシンガンがアイアンコングの胸部装甲に至近距離で穴を穿った。

 たまらず距離を空けるアイアンコング。「大胆な奴だ。普通のゴジュラスと見くびっていた私が間違っていたようだな。」隊長の顔からは余裕が消え、代わりに楽しげな表情が滲んでいた。「だが、そうでなくては困る。次で決めてやるぞ!」アイアンコングが拳を握る。

 大きく力を溜め込み、拳を振り上げるその構えはコマンドウルフを一撃で沈黙させたあのパンチだ。

 14ヶ月前、レミスもこの攻撃を防ごうとして衝撃を消しきれずにゴドスは転倒、致命傷を負わされる原因となった。

 「守ったらあの時と同じ轍を踏むことになる・・・」レミスに迷いはなかった。「お前がゴドスの記憶を宿すなら出来るはずだ。・・・見せてみろ、俺に!」レミスはコマンドを入力する。

 本来ゴジュラスの足の爪は攻撃用ではなく、その超重量を支えるアンカー兼ウェイトとして設計されている。

 しかし、その想像を絶する強度が並みの衝撃ではビクともしないことは明らかだ。

 ゴジュラスが尻尾のアンカーを地面に突き立ててバランスを取り、片脚を大きく振り上げる。「ゴドスキック、いや。ゴジュラスキックだ!!」

 ゴジュラスのカウンターを予測できなかったアイアンコングはパンチの勢いを落とすことができず、ゴジュラスの爪先とアイアンコングの拳は火花を散らして衝突した。

 刹那、アイアンコングの拳は粉砕され、肘までもが弾け飛んだ。

 そして上腕が押し潰され、根こそぎ肩がもぎ取られる!

 あまりの苦痛に悲鳴を上げるアイアンコング。「馬鹿な!?」機甲戦隊の隊長も愛機の必殺技が破られるという受け入れがたい事実に、柄にもなく取り乱した。

 その場にいた全ての帝国兵は、初めて見る旗機の敗北に戦意喪失。

 アイアンコングのコンバットシステムも停止し、この戦場は収束に向かうと思われた。

 だが。

 「そんな!あれだけの損傷で、なぜ戦いをやめようとしないんだ!?」勝利を確信していたレミスは戦慄した。

 右腕を失ったアイアンコングの闘争心は今にも増しているように思われた。

 当の隊長もまた、操縦桿を必死に引いていた。「どうしたアイアンコング!この戦いは負けだ。これ以上続けて、ここで果てたいか!!」

 経験したことのない敗北が、逆にアイアンコングの闘争本能に火をつけてしまったのだろうか。「もう一つの共鳴、か・・・」ライアン大佐が呟く。

 ゴジュラスもまた、吠えながら前に踏み出そうとしていた。「よせゴジュラス!ここは奴に退かせるんだ!」レミスは渾身の力で制止する。「私の命令が分からないのか、アイアンコング!」

 勝者と敗者。

 決定的に差のある両者が、今や一つの目的に奔走していた。

 

 どれほどの時間が過ぎたか。

 遂にアイアンコングは纏っていた覇気を脱ぎ去り、ゼネバス帝国軍・特派機甲戦隊第4部隊が撤退を開始した。

 今回の戦闘でヘリック共和国軍・ロックウォール基地が被った損耗は激しい。

 護衛部隊は全滅。

 即席で出撃した兵士も然りである。

 また治療が振出しに戻ってしまった者、ここに来た時よりも悪くなってしまった者、もう二度と立ち上がることのない者・・・

 そうした犠牲を払って、レミス・ヴァイオレット少尉は再起した。

 もう二度と倒れることは許されない。

 いや、倒れて起き上がらなくなるその瞬間まで、彼は戦い続けなくてはならないのだ。

 一方で、彼もまたそれを望んでいた。

 一度は失ったこの相棒を、もう二度と手放すつもりはない。

 「この基地も目をつけられた。今後は侵攻の的にされるだろう。」ライアン大佐は空を仰ぎ、視界の端で反射光を放った巨大な影に目をやる。「本格的な守備隊の編成が必要だな。主軸はもちろん・・・」

 ゴジュラスの肩に立つレミスは帝国軍が去った地平を見据える。「もう一度、奴に会えるだろうか。」

 

 答える者はいない。

 


 
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