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真・恋姫†無双 ~彼方の果てに~ 12話

月影さん

※この小説はオリジナル主人公による真・恋姫†無双の二次創作です。
 オリ主、オリキャラが苦手な人は戻るを押すことを推奨します。
 また、作者の独自解釈や妄想が含まれておりますので注意が必要です。
 最後に作者が未熟な為にキャラ崩壊、設定改変などの可能性がありますことを御了承下さいm(_ _)m

2013-12-22 19:55:05 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1992   閲覧ユーザー数:1867

 

 

 

神威と風花が起こした騒ぎの後、

戦の事後処理が終わるのを待つ間に桃香と愛紗の二人は天幕で暫しの休息を取っていた。

 

「まさかただの兄妹喧嘩だったとは。あの二人には困ったものですね、桃香さま」

 

「あはは、そうだね」

 

 

呆れる愛紗に桃香は笑みを返す。

 

 

「でも、ああいうのちょっと羨ましいかな」

 

「桃香さま?」

 

「喧嘩しながらもお互いがお互いを思い遣ってるって感じだよね。

 怒ってても風花ちゃんはちゃんと心配して戻ってきたし、

 神威さんだって困りながらも何処か嬉しそうだったもん」

 

「確かに、言われてみればそのような気がしないでも・・・」

 

 

倒れていた神威の様子から風花がかなり怒っていたのだと愛紗にも予想はできる。

 

何に対しての怒りかまでは皆目見当もつかないが、

神威があそこまでボロボロになるまでやるぐらいだからその怒りは相当な物だったのだろう。

 

それでも、風花は戻ってきた。

 

何だかんだで風花は兄想いの良い妹といった感じに愛紗の目には映っていた。

間が悪かったのだけは神威に同情するが。

 

そうまでされても神威は風花を一番に考えて行動している節があり、

これまた妹想いの良い兄に思える。

 

結局似た物同士な兄妹なのだろうと愛紗は苦笑する。

 

 

「でもな~んか気になるんだよねぇ」

 

「気になる?」

 

「う~ん・・・何ていうか、風花ちゃんの神威さんに対する態度とか見てると兄妹って感じがしないっていうか・・・」

 

 

確信が持てないのか何処か曖昧な様子で桃香は答える。

 

 

「それは・・・いくら何でも考え過ぎなのでは?あの二人は兄妹なのですし」

 

「そうかな~・・・神威さんはちょっと過剰な気はするけどちゃんと妹として接してるような感じなんだけど。むぅ~」

 

 

答えが出ずに桃香は首を傾げて唸る。

 

愛紗も桃香同様に少し考えてみるが、さっぱりわからない。

仲睦まじい兄妹にしか見えず、僅かな思考の末に愛紗は結論を出した。

 

 

「風花は幼い頃に両親を亡くしているのですからそれも仕方のないことでしょう。

 それが理由で神威が過保護になったのも頷ける」

 

 

これが一番しっくりくる考えだと愛紗は一人頷くが、桃香だけは何度も首を捻っている。

 

 

「それほど気になるのでしたら本人に直接聞いてみては?」

 

「ん~、それもそうだね。もし風花ちゃんが神威さんを好きだったら愛紗ちゃんはどうするの?」

 

「ど、どうしてそのような話を私に振るのですか!?」

 

「あはは、ごめんごめん。でも二人共ちゃんと仲直りできたかな?」

 

「まったく、桃香さまは・・・心配などせずとも問題はないでしょう。

 桃香さまの仰る通り、あれだけ仲の良い兄妹なのですから」

 

「うん、そうだね!」

 

 

喧嘩するほど仲が良いとよく言われるぐらいだ、

神威と風花なら大丈夫だろうと二人はほのぼのとした雰囲気で笑い合った。

 

だがそんな雰囲気は切迫した様子の兵士が天幕に飛び込んできたことで壊される。

 

 

「も、申し上げます!」

 

「どうした?」

 

 

兵士の様子から敵襲でもあったのかと愛紗は鋭く問い詰める。

 

 

「周囲の警戒を行っていた兵から大軍が此方に向かっているとの報告を受けました!」

 

「なんだと!?」

 

 

戦いの直後である劉備軍にはそれほど余力はない。

そんな状態で、それも大軍など相手にしてはいくらなんでも危険だと愛紗は焦りに顔をしかめる。

 

 

「も、もしかして黄巾党が攻めてきたの!?」

 

 

桃香も慌てて兵士に確認を取ると、兵士は僅かに緊張した面持ちで口を開く。

 

 

「そ、それが・・・旗の確認をしたところ、曹の文字が・・・」

 

 

曹といえばあの陳留で州牧をしている曹孟徳のことだろう。

 

だが何故そのような人物が此方に向かっているのか?

 

まるで理由がわからず二人は困惑した。

 

 

「と、とにかく、他のみんなにも伝えなきゃ!」

 

 

桃香は兵士に伝令を頼むと急いで身支度を整える。

 

 

「何も問題が起こらねばよいが・・・」

 

 

愛紗は緊張した面持ちでそう呟くと、準備を終えた桃香と共に外へと飛び出した。

 

 

曹操から会談を求められたのは、それからすぐ後のことであった。

 

 

 

 

 

 

「あれが、曹操か・・・」

 

 

桃香達と曹操が顔合わせをするところを神威と風花は遠巻きに眺めていた。

 

 

「はい。あらゆる分野において類まれなる才能を持ち、

 誇り高く、更には武芸にも長け、政にも精通している・・・

 まさに完璧な人物です」

 

「・・・」

 

 

風花が曹操について語る言葉を聞きながら、神威はジッと話し合いの様子を見つめる。

 

僅かに目を細めて曹操に視線を向けるその姿に風花は怪訝な表情で神威を見上げた。

 

 

「どうかしたんですか、兄さん?」

 

「・・・いや、気のせいか。だがなるほど、確かにそれも頷ける話だ。身に纏う覇気が違う」

 

「多くの者が王になるべくして生まれたと称するほどですからね」

 

 

風花のその言葉に神威は眉を潜め、小さく呟く。

 

 

「それほどの才能を持って生まれて、幸福だと言えるのだろうか」

 

「え?」

 

 

神威の言った言葉の意味がわからず、風花は困惑気味に聞き返した。

だが神威はすぐに小さく首を振り、何でもないと答える。

 

 

「特に意味はない。ただ、何となくそう思っただけだ」

 

「兄さん・・・?」

 

「それと少し気になったんだが、曹操の両脇に居る二人は何者だ?

 どう見ても愛紗や鈴々と同程度の実力者なんだが」

 

 

神威の視線の先には曹操にぴったりと付き従う赤い服と青い服を着た二人の女性の姿があった。

まるで対照的な雰囲気や佇まいの二人だが、共に全く隙が見当たらない。

 

 

「えっ、わかるんですか?」

 

「大体はな」

 

 

身に纏う雰囲気や佇まい、視線の動き、ふとした瞬間に見せる仕草などで神威は何となくだが相手の力量が判断できる。

よく聞く話では歩き方一つでその者がどのような武術を扱うかがわかる、といった物と同じ感覚だろうか。

 

 

「・・・それでどうして自分の力量はわからないんですか?」

 

 

神威の言葉に感心しながらも風花にはどうしてもそれが納得できず、呆れたように問いかける。

 

 

「ちゃんと把握しているじゃないか。俺の実力は一般の将と同じくらいだろう?」

 

「わかってない・・・全然わかってない・・・」

 

 

あんな重量武器を振り回す一般の将が居てたまるかと風花はげんなりと項垂れる。

下手をしたら全力のデコピン一発で人が吹っ飛ぶかもしれない人物の何処が一般の将といえるのだろうか?

 

 

「・・・?弱いからこそ相手の力量には敏感になるものだろう。まったく変な奴だな」

 

 

風花にもその理屈はわからなくもないが、神威に変人呼ばわりされて僅かにむっとする。

 

 

「その台詞、兄さんにだけは絶対言われたくないんですけど」

 

「何だそれは・・・とにかく、あの二人のことは知らないのか?」

 

 

結局神威は風花の言いたいことがわからず呆れたように眉を寄せ、再度同じ質問を繰り返す。

 

そんな神威に一つため息を吐き、風花は視線を曹操の方に向けると自らの知る情報を脳内から引き出し簡潔に説明を始めた。

 

 

「知ってますよ。あの二人は曹操さんの両腕と呼ばれる側近で、

 赤い方が姉の夏候惇さん、青い方が妹の夏候淵さんです」

 

「姉妹で仕えているのか」

 

「そうです。共に並外れた才能を持つ将であり、

 夏候惇さんはその武勇において並ぶ者無しと称され、

 夏候淵さんは武だけでなく知にも優れる万能な人って感じですかね」

 

 

夏候惇は曹武の大剣と呼ばれる歴戦の猛将。

個人の実力もさることながら、彼女の部隊の突撃はあらゆる物を薙ぎ倒し、対峙した者は恐怖に戦慄くという。

 

夏候淵は政にも精通している文武両道な将。

その冷静で的確な判断力を持って放たれる矢は遠く離れた的の中心をも寸分違わず狙い射つと言われている。

 

簡単に説明すると大体こんな感じです、と風花は説明を終えた。

 

 

「随分と詳しいな」

 

「まぁ、あの二人とは直接の面識はありませんけど曹操さんとは知り合いですからね」

 

「そうなのか?・・・ああ、そういえば父さんは漢の役人だったな。その関係か」

 

「そんなところです」

 

「なら俺のことは気にせず挨拶にでも行ってくればいい」

 

 

神威は気を遣ってそう言ったのだが、風花は眉を寄せ何とも微妙な表情を浮かべる。

 

 

「久しぶりで懐かしいという気持ちはあるんですけどね。

 でもできれば遠慮したいというか・・・何を言われるか簡単に予想できますから」

 

「なんだ、嫌味でも言われるのか?」

 

「人によっては高圧的と捉える人もいますけど、ある意味そんな可愛らしいものじゃないというか。はぁ・・・」

 

 

過去の出来事でも思い出したのか風花は憂鬱そうにため息を吐く。

 

神威はどういう意味かわからず困惑する。

 

既に高圧的というだけで充分可愛くないだろうと神威が内心思っていると、

一人の兵士が此方に駆け付ける姿がその目に映った。

 

 

「姜維さま、劉備さまがお呼びです」

 

 

風花は兵士が走って来た方向に視線を向ける。

どうやら桃香はまだ曹操と共にいるようだった。

 

 

「・・・旗があるからバレてるとは思っていましたけど、やっぱり来ましたか」

 

 

予想通りといった風に風花は顔をしかめる。

ただその表情は嫌そうに、という訳ではなく苦手というか憂鬱なだけといった感じだ。

 

 

「何やらよくわからんが、頑張れよ風花」

 

 

神威は曖昧な風花の様子に何と声をかけていいのか迷い、とりあえず応援だけはしておいた。

 

風花はそんな神威をジッと上目遣いに見上げ、ほんの僅かに不安そうな眼差しで神威の服の袖を掴む。

 

 

「ちゃんと事前に言っておきますけど、私は兄さんから離れるような真似は決してしませんからね?」

 

「どういう意味だ?」

 

 

風花の言動に何処となく嫌な予感を感じ神威は問いかける。

だが風花はその問いに答えることはなく、名残惜しそうに袖から手を放すと笑顔で手を振った。

 

 

「多分その内わかりますよ。では、行ってきます兄さん」

 

「あ、ああ。またな」

 

 

首を傾げながらも神威は軽く手を上げて風花を見送る。

 

 

「ふむ・・・今日の風花はやけに曖昧というか、含みのある言い方が多かったな。

 一応、曹操の噂くらいは聞いて回るべきか」

 

 

兵士と共に歩く風花の背中を眺めながら神威は情報を集めようと兵士の多く居る場所へと歩き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、風花ちゃん!こっちこっち~」

 

 

桃香は兵士に案内され歩く風花を見付けて手を振った。

 

 

「桃香さん、こういう場でそのような行為は控えた方がいいと思いますよ?」

 

 

桃香のあまりの気楽さに風花はため息混じりにそう言葉をかける。

 

 

「えっ、何か不味かったかな?」

 

 

口元に手をやりながら僅かに驚いた様子で桃香は答える。

 

風花はちらりと朱里に視線を送ると、苦笑いを返された。

視線でちゃんと説明しておくようにと伝えると朱里は小さく頷く。

どうやら伝わったようだ。

 

 

現在の劉備軍では曹操の反感を買うだけで簡単に押し潰されてしまうだろう。

 

今はまだ慎重になるべきだ。

少なくとも、曹操の意図が掴めるまでは。

 

といっても、風花には何となくだが理由はわかっていたりするのだが。

 

そして風花はゆっくりと曹操に視線を向ける。

 

 

「お久しぶりです、曹操さん。七、八年ぶりくらいでしょうか?」

 

「そうね、本当に久しぶりだわ。貴女は随分と美しくなったようね」

 

 

全身を舐めるような視線を向けられ、風花は内心ため息を吐いていた。

 

昔から曹操は綺麗な人を相手にするといつもこういった視線を向ける。

しかもどうやって相手を屈伏させるかを心の中で愉しそうに想像しているのだからタチが悪い。

 

風花は自分の容姿に絶対の自信を持っている訳ではないが、

周囲の評判などを客観的に見て冷静に判断し、それなりに悪くはないようだと認識している。

過去に散々曹操に自分のもとに来ないかと誘われていたこともあるので実は少しだけ自信もあったのだが、

神威のせいでその自信は粉々に打ち砕かれていた。

 

ともあれ、これは風花の予想通りだ。

 

 

「ご冗談を。それで、私に何か?」

 

「あら、つれないわね。それにその話し方はなんなの?昔みたいに話しなさいな」

 

「今は立場が大きく違います。今の私は民とそう立場も変わりませんので」

 

「構わないわ、私と貴女の仲じゃない。ねぇ・・・風花?」

 

 

曹操が風花の真名を呼んだことで桃香達の間に驚きの声が上がる。

 

そういえば桃香達にも曹操との関係を話していなかったなと風花は思い出した。

一応、誤解がないように後で説明しておかなければ。

 

 

「そうですね・・・では、真名だけは昔のように呼ばせて頂きます。

 口調に関しては癖みたいな物なので変えられませんが」

 

「そう、残念だわ」

 

 

曹操――華琳は、ほんの僅かに綺麗な眉を寄せてそう答えた。

案外再開を喜んでいたのかも知れない。

 

それが容姿に関係無いことを風花は密かに願った。

 

 

「あれから、もう随分経ったのね・・・」

 

 

不意に華琳が遠い目で呟く。

 

 

「あの時のことは今でも覚えているわ。大したこともできなくてごめんなさいね」

 

「いえ、そう言って頂けるだけで父と母もきっと喜びます」

 

「そうだといいのだけれど」

 

 

華琳が話しているのは姜族の反乱があった時のことだ。

風花の父、姜冏は天水都の功曹であり、天水の四姓と呼ばれる豪族だった。

 

だがある時、姜族の反乱が起きてしまう。

 

姜冏は皆と結託して何とかこれを撃退するも、

権力者よりも民を守ることを優先した為にその罪を問われ、権力を奪われた後に追放された。

 

誰よりも民を想い、守っていたのは姜冏だったというのに。

 

そしてそれを一番悔やんでいたのは華琳だった。

 

 

「姜冏さまはとても豪快な方だった。でもその思想には私も共感する物があったわ。

 豪快過ぎて、それが私には少しだけ苦手だったのだけど」

 

 

昔を懐かしむように華琳はクスクスと笑う。

 

風花も同様に昔を思い出していた。

あの頃はあの頃でとても楽しかったと風花は記憶している。

 

両親は仕事であまり家には居なかったが、

時折訪れる華琳と色々話をしたり共に学舎で勉学を競い合ったりしていたのは良い想い出だ。

 

 

「それで、姜冏さまは息災かしら?まぁ、あの方のことだから何があっても豪快に笑っているのでしょうけどね」

 

 

その状況が簡単に想像できると華琳は苦笑する。

 

だが風花は笑えなかった。

これも聞かれるだろうと予想できていたことではあるが、やはり少しは苦しい。

 

 

「・・・父は、亡くなりました」

 

「なんですって・・・?」

 

 

流石の華琳もこれには驚きを隠せないようだ。

華琳はきつく目を閉じて悔しげに唇を噛む。

 

 

「・・・それで、姜冏さまの最期はどうだったの?」

 

 

だがそれは僅かな間だけで、すぐに真剣な表情で風花を真っ直ぐに見つめると静かに問う。

 

何があっても全てを受け入れて前を向き、常に誇りを忘れず胸を張って突き進む。

それが華琳の生き方だった。

 

流石だ、と風花は思いながら答える。

 

 

「五年ほど前のことです。父は私達を庇い、母と共に賊の凶刃に倒れました・・・

 ですが死の間際まで私達のことを何よりも大切に想ってくれていてくれて、私はそれを誇りに思っています」

 

 

風花は今でもその時のことを思い出すと胸が苦しくなる。

けれど想い出の中の父と母の姿は誇り高く、そして優しかった。

 

幼き頃から抱き続けていた父と母のような素晴らしい人物になりたいという想いは今も風花の中に残っている。

昔とは少しだけ形が変わってしまったけれど、誇りを胸に歩いていくことを風花は誓った。

 

神威と共に、生きることを――

 

風花の瞳に宿る強い光を見た華琳は目を細める。

それはほんの一瞬のことで、風花が気になって確認した時には華琳は元の表情に戻っていた。

 

 

「もう一度あの方と話をしたかったのに、本当に残念だわ」

 

 

華琳は心から残念そうに呟く。

 

そんな華琳を眺めながら風花は密かに探るような視線を向ける。

 

華琳が姜冏の死を悲しんでいるというのは間違いないだろう。

おそらくは今の華琳の方が能力も器も圧倒的に上だと思われるが、何よりも民の為に行動していたのは同じだ。

風花には華琳が昔の姜冏に何を見たのかはわからないけれど、華琳が姜冏を認めているということは理解できた。

 

なら、さっきの視線は何だったのか?

 

風花は内心で深いため息を吐く。

 

今更考えるまでもない。

 

そして風花は静かに神威を想った。

 

 

「華琳さんにそう言って貰えて今頃父も喜んでいますよ」

 

「そうかしら?」

 

「娘の私が言うんですから間違いありません」

 

「ふふっ、そうだったわね」

 

 

 

 

 

 

和やかな雰囲気が二人の間を漂う。

 

さて、と風花は一息つくと静かに華琳を見た。

 

 

「では華琳さん、そろそろ・・・」

 

「あら、もう行ってしまうの?せっかく逢えたんだもの、もう少し話でも――」

 

「そろそろ、本題に入りませんか?」

 

 

華琳の動きがぴたりと止まる。

その口角が徐々につり上がり、華琳は不敵な笑みを浮かべて風花を見据えた。

 

 

「ふふっ、素晴らしいわ。昔と変わらず・・・いえ、昔以上ね」

 

「お褒めに預かり光栄の至り、とでも言えばいいですかね?」

 

 

風花が冗談めかしにそう言っても華琳は動じない。

 

 

「今からでも遅くないわ、私のもとに来なさい。貴女の才、このまま捨て置くには惜しいわ」

 

「ええっ!?」

 

 

華琳の言葉に驚いた桃香を風花は手で制し、ハッキリと宣言する。

 

 

「残念ですが、それはできません」

 

「何故かしら?」

 

 

華琳の目がスッと細まる。

 

 

「もうわかっていますよね?私の誇りと信念の為に、ですよ」

 

 

風花は穏やかな微笑みを浮かべ華琳を見つめ返す。

 

互いの視線が絡まる。

 

 

「・・・貴女の兄とやらが関係しているのかしら?」

 

「さぁ、どうでしょう?」

 

 

素知らぬ顔で風花は答えるが、華琳は何処か確信があるように質問をぶつけてくる。

 

 

「なら聞かせて貰うわ。姜元とは一体何者なの?私は貴女に兄が居たということを知らなかったのだけれど」

 

「当然です、私も知りませんでしたからね」

 

 

風花がしれっと答えても華琳の表情は変わらなかった。

 

背後で桃香達が困惑している気配を感じる。

 

あれ、そういえば他の皆さんは知らなかったんでしたっけ?

 

こんな場面で風花はそんなことを考え、兄に感化されてるなぁと内心苦笑していた。

 

 

「隠し子・・・な訳ないわよね。姜冏さまの溺愛っぷりは有名だったし」

 

「そんな訳ないじゃないですか。それにあの母がそんな隙を許すはずありません。父は文字通り骨抜きになってましたよ」

 

 

ふふ、と風花は昔を思い返して楽しそうに笑う。

 

実際に神威と風花の年齢差を考えればあり得ない話ではないが、

例え風花が産まれる前に誰かと子を為していたとして、それが後で発覚していれば姜冏はどんな目にあっていたか。

 

歴史に残る大事件になっていたかも知れない。

 

 

「ということはやはり・・・」

 

 

華琳の瞳に僅かに怪訝な感情が過る。

 

華琳には初めからわかっていたはずなのによほど不可解だったのかと風花は思う。

 

 

「そうです。華琳さんの想像通り、兄さんと私に血の繋がりはありません」

 

 

風花の背後で桃香達が一斉に息を呑む。

あまりにも衝撃が大きかったのか愛紗は言葉を無くし、桃香は大騒ぎ、朱里に至ってははわわはわわと連呼している。

 

緊張感が台無しだった。

 

それに比べて華琳の後ろに遣える夏候惇と夏候淵の落ち着きぶりはどうだと風花は華琳の背後に視線を向ける。

 

いや、よく見ると夏候惇は目が点になりポカンと口を開けているので何もわかっていないのかも知れない。

落ち着いているのは夏候淵だけかと思いきや、頻りに夏候惇に視線を向けては姉者は可愛いなぁと呟いていた。

 

話す場所間違えたかな?

 

風花は少し後悔した。

 

 

「信じられないわ、貴女ほどの才を持つ者がどうしてあんな男を・・・」

 

 

華琳の呟きを聞いた風花は視線を戻す。

 

 

「兄さんを見たことがあるんですか?」

 

「私が劉備と話している時に遠くから此方を見ていたでしょう」

 

 

なるほど、と風花は思う。

 

風花達から向こうが見えるなら当然華琳からも確認ができる。

遠目であっても華琳なら風花だとわかるだろう。

 

そこまで考えて風花は神威の様子が少しおかしかったことを思い出した。

おそらくあの時神威は華琳の視線を感じ取ったのだろう。

 

 

「ブ男でないということは認めるわ。だけど何故あんな男と共に居るの?

 とても貴女に釣り合うとは思えないのだけれど」

 

 

華琳のその言葉に今度は風花の目がスッと細まる。

 

侮辱や軽蔑というよりも純粋に理解できないといった様子で華琳は続けた。

 

 

「遠目から見ただけでもハッキリとわかったわ。

 あの男には取り立てて目を見張るようなモノは何一つ無い。

 何の才も見受けられない。そんな男と一緒に居ては風花の才が潰れるだけよ」

 

 

何処までも冷静に、冷徹に、華琳は自身の評価を口にする。

 

風花はそれを変わらぬ表情のまま眺めていた。

 

だがあまりの言われように愛紗と桃香は怒りを露にすると二人の間に割り込んできた。

 

 

「いくら何でもそれは言い過ぎではないか?神威はそのような男ではない!」

 

「そ、そうだよ!神威さんはとっても優しい人なんだから!」

 

 

華琳の冷めた瞳が桃香と愛紗を捉える。

 

 

「だ、駄目です!二人共抑えてください!」

 

 

状況を理解している朱里は必死になって二人を止めようとするが、桃香と愛紗は大切な仲間の為にと引かなかった。

 

静かに華琳の口が開かれていく。

 

朱里にはそれがまるで自らを断罪する刃が振り上げられるかのように見え、ギュッと目を閉じた。

 

夏候惇と夏候淵が僅かに身構える。

 

 

 

 

「ふふ・・・」

 

 

 

 

今まさに華琳が言葉を発しようとした瞬間、風花の笑い声が全ての動きを止めた。

 

 

「なるほど、華琳さんはそう判断しましたか。ふふ・・・」

 

 

風花は口を押さえ笑いを堪えようとするもどうしても抑えきれないのかクスクスと笑い続ける。

 

 

「ふ、風花ちゃん?一体どうしちゃったの?」

 

「そうだ、神威を侮辱されたのだぞ?」

 

 

華琳に対して怒りを覚えていた桃香と愛紗も困惑しながら風花を振り返る。

 

だが一番困惑していたのは華琳だった。

 

 

「何を・・・笑っているのよ?」

 

 

風花のあまりにも予想外な言動に華琳は小さく呟く。

 

 

「急に笑ってしまってすみませんでした。ただ、何だか嬉しくて」

 

「嬉しい、ですって?」

 

 

華琳は既に風花のことが全く理解できていなかった。

いや、この場に居る者全員が同様に理解できない。

 

 

「あの人材集めが趣味の華琳さんでも兄さんを見抜けなかった。

 ならきっと、誰も兄さんを理解なんてできない!そう、私以外の人には、誰も!」

 

 

それが心から幸福なことであるかのようにクスクスと笑う風花の姿に皆はゾッとする。

 

 

「ふ、風花・・・ちゃん?」

 

 

桃香が恐る恐る風花の名前を呼び、そして。

 

「冗談です」

 

風花はペロッと舌を出して悪戯っぽく笑った。

 

 

「えっ?」

 

 

桃香だけでなく華琳すらもポカンとした表情で風花を見る。

 

 

「まさかとは思ってましたけど、本当に誰も兄さんのことわからないんですね。何故でしょう?」

 

 

う~ん、とのんびりした雰囲気で口元に指を当て首を傾げる風花に桃香と愛紗はがっくりと脱力した。

 

朱里は助かった・・・、と違う理由で力が抜ける。

 

 

「ふふっ、皆さん心の鍛練が足りませんよ?」

 

 

楽しそうに微笑みを浮かべる風花に華琳は呆れたようにため息を吐く。

 

 

「・・・貴女、随時と変わったわね」

 

「あんな幼い頃と比べられても私としては困っちゃいますけどね。

 あの頃の私は十代にすらなってなかったんですよ?」

 

「そういえばそうだったわね。けれどあの頃から既にその才の片鱗を見せていたわ。

 私は貴女のことを高く評価しているつもりよ」

 

「そう言って貰えるのは嬉しいんですけど、あれから私は父の跡を継いで領主の仕事ばかりをしていましたからね。

 昔とは得意なことも変わってしまいました」

 

「私には貴女が色々と隠しているように見えるのだけれど?」

 

「さぁ、なんのことでしょうか?」

 

 

初めの頃とは打って変わって穏やかな物だった。

 

今回は華琳が今の風花を知らなかったからこそ何とか出し抜けたようなものの、

次にやったら勝てそうにないなと風花は苦笑する。

 

 

 

 

 

 

その時、凄まじい轟音が辺りに響いた。

 

 

「何事か!?」

 

 

華琳が鋭く叫ぶ。

 

皆が急いで周りを見回すと、劉備軍の天幕の一つが倒壊していた。

 

 

「まさか敵襲か!?桃香さま、私が様子を見て参ります!」

 

「う、うん!」

 

 

愛紗は慌てて桃香に声をかけ、桃香も緊張した面持ちで答える。

 

 

「もう、せっかく楽しくなってきたのに仕方ないわね・・・春蘭、貴女も行きなさい」

 

「はいっ!」

 

 

愛紗と夏候惇は互いに視線を交わすと同時に走り出した。

 

周囲を警戒していたり隊列していた兵士達は走る二人を見て即座に道を開ける。

その間を愛紗と夏候惇は駆け抜けた。

 

 

「では華琳さま、すぐに片付けて戻りますね!」

 

「後ろを見ながら走るのは危険だとあれほど・・・姉者、前っ!!」

 

 

華琳に向かって意気込みを露にしながら走っていた夏候惇の前方に人影が現れる。

 

神威だった。

 

偶然にも反対側から兵士達の間を縫うように走ってきた神威の前方で急に兵士達は道を開き、

これまた偶然にもそこを走っていた夏候惇は思い切り衝突してしまった。

 

 

「おお?」

 

「おっと」

 

 

僅かによろめきながらも神威は弾かれる夏候惇の手を引き、転ばないようにと抱き止める。

 

 

「まったく姉者は・・・」

 

 

そう呆れたようなため息を吐くと夏候淵は場の収集の為に走り出す。

 

 

「ふぅ、すまない、怪我はないか?」

 

「あ、ああ。すまん、北ご・・・う?」

 

 

神威と夏候惇、そして駆けつけていた夏候淵の動きが同時に止まった。

 

神威は困惑気味に眉を寄せ夏候惇を見下ろし、その夏候惇は神威を見上げたまま硬直している。

 

 

「姉者・・・まさか北郷と他の男の区別が・・・」

 

 

とても残念そうな声の夏候淵に気付いた夏候惇は慌てて振り返る。

 

 

「ち、違うぞ秋蘭!?こ、これはだな、えっと、そ、そう!うっかり言ってしまっただけで・・・!」

 

「では質問だ。この男と北郷の違いは?」

 

「こ、こやつの方が北郷よりも背が高いではないか!」

 

「・・・他には?」

 

「背中に武器を背負っている!」

 

「・・・」

 

 

あまりにも自信たっぷりに答える夏候惇に夏候淵は言葉を無くした。

 

だが夏候惇は止まらない。

 

 

「何より北郷は白いがこやつは黒い。どうだ!!」

 

 

これ以上の正解があるだろうかと言わんばかりに自信に満ちた表情で言い放った。

おそらくは服の色のことだろうとは思われるが、それが何だというのかまるでわからない。

 

そんな夏候惇に何も答えずに夏候淵は横を通り過ぎると申し訳ないと神威に謝罪する。

 

 

「すまない、不肖の姉が迷惑をかけた」

 

「いや、此方は問題はないんだが・・・間違えられた男と俺は実際に似ているのか?」

 

 

神威の言葉に夏候淵はちらりと視線を神威に向け、すぐに首を振る。

 

 

「容姿だけなら特に似ているとは思えんな。だが見てわかる通り姉はこういう性格だ、気にしないで欲しい」

 

「しゅ、しゅうら~ん・・・」

 

「そ、そうか・・・」

 

 

神威は悲壮感漂う夏候惇の姿に何と言っていいのかわからずそうとだけ答えた。

周囲に何とも言えない空気が漂う。

 

不意に呆然としながら状況を見守っていた愛紗が我に返り、叫ぶ。

 

 

「はっ、こんなことをしている場面ではない!い、急ぎ向かわなければ!」

 

「ああ、その必要はない」

 

 

慌てて走り出そうとする愛紗の腕を神威は掴み、首を振る。

危うく忘れるところだったが、神威はその為に来たのだった。

 

 

「何を言っているのだ、神威?」

 

「きっと大騒ぎになっているだろうと思い俺が此方に来た。あの天幕の件は敵襲でもなんでもない」

 

「何だと?じ、じゃあ何だと言うのだ!?」

 

 

愛紗の問いかけに神威は口ごもる。

とても言い難そうに視線をさ迷わせ、そして何処か諦めたように呟いた。

 

 

「あれはな、寝惚けた鈴々が壊したんだ」

 

「は?」

 

 

愛紗の目が点になる。

 

実際神威も急に言われたら同じ反応を返すだろう。

 

どうしてこんなことになったのか。

 

少し前のことだ、神威は情報収集の為に聞き込みをして回っていた。

 

途中、偶然雛里に会った神威は詳しい話が聞きたいと雛里に頼み天幕で休憩がてら話をすること決める。

 

だが丁度そこでは鈴々が寝ていたらしく、二人はそのことに気付かず会話を続けてしまった。

 

それが煩わしかったのだろう、眠っていた鈴々は急に飛び起きると不機嫌そうに蛇矛を振り回し、大暴れしだしたのだ。

 

何とか神威は鈴々と雛里を抱えて脱出したは良いが、既に支柱は折られておりそのまま天幕は倒壊してしまった・・・という訳だ。

 

 

「幸いにも怪我人は居なかったから安心してくれ」

 

「兄さん!」

 

「ああ、風花か。邪魔して悪いな」

 

「そんなことより腕、怪我してるじゃないですか!」

 

 

よく見ると神威の服の袖が切れ、そこから覗く腕からは血が流れている。

 

 

「いや、ただ引っ掻けただけだ。大したことは・・・」

 

「何が怪我人は居ないですか!ほら、ジッとしててください!」

 

 

風花は懐から治療道具を取り出して神威の手当てを始めた。

 

 

「それはいつも持ち歩いているのか?」

 

手際よく手当てをする風花に神威は不思議そうに治療道具を指差す。

 

「もしもの時の為に一応。でも持ち運びができる程度なんで軽い怪我にしか使えないんですけどね」

 

「それでも流石だな」

 

 

感心したように頷く神威に、風花は手当てを終えると悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

「対兄さん用の秘密兵器ですから」

 

「む・・・そんなに俺は頼りないか?」

 

 

神威はそんな風花に困ったような笑みを浮かべるとポフポフと軽く風花の頭を叩く。

 

それを遠巻きに眺めながら夏候淵は密かに驚いていた。

神威の何処か困ったように笑う顔が、夏候淵の知る男とそっくりだったのだ。

 

顔は似ていないというのに不思議な物だと思いながらも夏侯淵は内心で自らの姉を見直していた。

 

姉の人を見る目は確かだったということか。

 

夏候淵は笑みを浮かべながら華琳の傍まで戻り、初めて華琳の表情が険しいことに気が付く。

 

 

「・・・秋蘭、貴女はあの男をどう見る?」

 

「あの男を?ふむ、特に気になるようなモノは見受けられないかと・・・

 背が高いこととあの背中の武器を除けば何処にでも居そうな普通の青年だとしか」

 

「そう・・・やはり貴女もそう思うのね」

 

 

華琳が何を言いたいのかわからず、夏候淵は首を傾げる。

 

 

「気が付かないの?あの男、春蘭の体当たりをまともに受けたのよ」

 

 

そこまで言われて夏候淵は漸く理解した。

 

ただの体当たりではない。

あの夏候惇の体当たりなのだ。

 

壁をぶち破りかねないほどの夏候惇の突進をまともに受けて、神威はよろめいた程度だった。

間違いなく華琳達の目には何の才能も無い男にしか見えないというのに。

 

 

「なるほど、風花の言っていたことも強ち嘘ではなかったということね」

 

 

呆然と神威を見る夏候淵を余所に、華琳はほんの僅かに口元を歪めていた。

 

 

 

 

あとがき

 

 

買ったばかりのPCが壊れました(泣)

家で飼ってるお猫さまがやらかしてくれました。

ノート型なんで重量は無いとはいえ、どうしてあんなことに・・・

 

なんというおてんばぶり、その名に恥じぬとはこのことか。

ちなみに名前は美羽ちゃんです。何故か様付けして呼ぶと喜びます。

でも好物はうどん。というか麺。甘いのはまったく食べません。

 

 

新しくPCを買うお金がないので職場で頑張って書きました。

またもや書き直しとか・・・月影には何か憑いてるのかも知れません。

本気で御祓いに行こうか迷ってます;

 

 

書き直したせいか微妙に前と違う気も・・・説明とか足りてなかったら申し訳ありません。

 

 

それと、次回からお知らせ等が無かったらあとがきは無しにしようかと思ってます。

過去のあとがきを読み返してみたら蛇足感が半端無かったので^^;

本当はまだまだ書きたいこともあるのですが、自重致します;

 

 

あ、おそらく次かその次辺りで過去編に入ります。

何故神威がああまで謙虚(?)なのかとか色々出てきます。

納得頂けるかは不安ですが、ある意味でこの物語の重要な話でもあるので何とか頑張って行きたいと思います。

 

 

では、また次回に・・・

 

 

 

 

 

 
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