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真恋姫無双~年老いてNewGame~ 十四章・始

祝戦国†恋姫発売!
はやくプレイしたい!プレイしたいですぞー!

2013-12-21 00:20:22 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:3639   閲覧ユーザー数:2781

空は快晴、雲ひとつない。

見渡す限り遮蔽物のない平原が広がっている。

響く男の高笑い。

決戦の時は迫っていた。

 

「そんな顔したってしょうがないだろ、凪。もうここまで来ちゃったんだから腹くくらないと!」

「ですが隊長、何も我々までこんな格好しなくても…」

「あ、こんな格好ってひどいんちゃう?ウチは普段からこれやのに。」

「せやせや、ウチなんて普段より布多いくらいやで?」

「それは真桜ちゃんがおっぱいボインボインだから言える余裕の表れなの…

 でもたいちょー、これじゃお肌にしみができちゃうのー!」

「あんた達!ちょっとは緊張感持ちなさいよ!ったく、賈文和ともあろうものがこんな格好で戦場を目指すなんて…」

「いいじゃないか。俺としては目の保養があって悪い気はしないぞ?」

「うっさい!ってか、なんであんたまで霞と同じ格好してんのよ!」

「そうじゃないとこの作戦の意味ないじゃないか?なぁ?

 どう?似合ってる?」

「似合ってると思います。」

「「即答かい!」」

「凪ちゃんはほんと隊長っ子なの~。」

「ほめられて悪い気はしないよね。」

「はぁ…あんた達、よく今までこれで生きていられたわね…」

「それが我が北郷隊の売りだからな。

 さぁ!野郎ども、最後の一戦だ!バッチリこなしてみんなで飲もうぜ!」

 

そういって笑う男の顔は、まるで子供のように無邪気だった。

………

………………

 

 

そう長くは遡らない。

赤壁以降、怪しい動きを続けてきた蜀と呉はついに表立って同盟を結び、その矛先を魏に向けた。

 

蜀呉の連合軍が華琳に対して宣戦布告をしてきたのである。

 

「総力戦よ。」

 

もはや他の諸侯に魏、及び蜀呉連合を打倒する力はなく、勢力図は二強のぶつかり合いのどちらに勝機を見出すか、ということのみになっていた。

大陸を文字通りに二分しての戦いに、どちらに組みするものにせよ、否が応にも気持ちは昂り、場の空気が盛り上がる。

それは戦火の最も盛る場所にいる武将たちも同じである。

丹念に磨き上げた武を余すところなく発揮しようと気力は猛り、積み重ねてきた智を余すところ無く巡らせんと鼻息を荒げるものばかりだ。

しかし、ただ一人、そこに水をささんが如くの意見をするものが一人いた。

北郷一刀である。

 

「俺はこの戦いに、二面作戦を提案したい。」

 

その場にいたものが耳を疑った。

真っ向からぶつかり合ってこその総力戦。

だというのに、この男は何を言い出すのかと、誰しもが思い、訝しんだ。

だが、そんな空気を歯牙にもかけず、彼は続ける。

 

「蜀と呉の連合軍を二つに分断し、連携を邪魔してその力を一つとすることを防ぐことが狙いだ。

蜀と呉の連合が二手に分かれられるように、北郷たちが背面から攻めるという至極単純なもの。」

 

彼の提案に誰しもが通じるわけがないと言った。

こけおどしであると。

だが、彼は更に続ける。

 

「俺ひとり、では勿論無理だ。恋が一人…でも無論難しいだろう。黄巾相手の一万人斬りとはわけが違う。

 じゃあそこに俺に北郷隊の三人を加えて…も、まだマシじゃないか程度…」

 

地図を指差し、部隊を揃え、本体から少しずつ部隊を動かし、北郷は言う。

 

「だけど、ここと、ここ。ここと、ここと、ここに例えばそうだな。

 神速の張遼が五人いたとしたら?」

 

その言葉に、誰もが耳を疑った。

 

「おい、さすがにそれは冗談がすぎるぞ。」

「お兄さんにしてはちょっと無茶なこといいますねぇ…」

「お、なんだ。秋蘭はともかく風なら乗ってくるかと思ったのに。」

「はっ!あんた本当に脳みそが腐り始めたんじゃないの!?常識とかいう以前の問題じゃない!

 ちょっと手柄を立てて調子に乗ってるんじゃないの!?」

「さすがの私でもこれが馬鹿らしいことくらいわかるぞ!」

「そうですよ、一刀殿…さすがに、なんというか、荒唐無稽過ぎます。」

「あ、でもさ、前におじちゃんが言ってたのと逆じゃない?みんないっしょに戦ったほうが強いんじゃないかな…」

「無茶すぎますよ…」

 

現状、二つに分けたとして数の上では五分ではあっても連携がほぼ取れなくなるという点を鑑みて、

実行に移すことは現実的ではない。

そんなことを差し置いても、そもそも張遼を5人配置というその立案が馬鹿げている。

できるわけもないことをいい、注目を集めたいだけだと、誰もが思った。

そうであればこそ、皆の否定的な意見はもっともなことであった。

しかし、北郷はそんな意見もどこ吹く風と言わんばかりに、華琳に問う。

 

「なんだなんだ、ボロクソじゃないか。それで?どう思う?」

 

軍議に参加していた誰しもが、きっと自分と同じ事を言うだろうと華琳を見る。

馬鹿げていると。

こんな大事なときにふざけるのも大概にしろと。

彼女なら必ずや彼の妄言を止めてくれると期待して。

そして気がつくのだ。

華琳の口元は妖艶に歪んでいた。

 

「俺は、可能だと思う。」

 

彼女の目は北郷が示した作戦に釘付けになり、感情を押し殺したように鈍く光っている。

その顔は、とんでもなく魅力的な玩具を前にしたような子供のように。

今にもその玩具に飛びつきたいのを必死で押し殺して食いしばるように。

それはそれは楽しそうに、歪んでいた。

「狙いは何?」

 

彼女は問う。

 

「わかってるんだろ?」

 

彼は答える。

「わかっているから聞いてるの。あなたの狙いは何?」

 

華琳はやっと盤上から目を戻し、彼を見る。

そして、この作戦の意味を、皆に知らせろと言わんばかりの視線が、彼を捉えた。

 

「劉備との決着だ。お前と劉備の、総力戦。やりたいんだろ?

 俺は、見たい。その喧嘩、一枚噛ませてくれよ。」

 

射抜くような視線に耐える。

 

「呉との決着はどうするつもり?」

 

彼女は間違いなく彼を試している。

 

「それは赤壁でつけただろ。」

 

怯まずに答えろ。

 

「あれは私の負けではなくて?」

 

好奇の色が見え隠れするその目から、視線をそらす訳にはいかない。

 

「決死の作戦、決死で必死だった武将が生かされて帰ってきた挙句、大した戦果も挙げられず敵の総大将に逃げられて勝ったと胸をはれるなら。

 それなら奴らの勝ちだろうな。」

 

空気がひりつく。

時間が、長く感じる。

満足気に細まった彼女の目には、歓喜の色が浮かんでいた。

 

「敵軍の肝いりの作戦の目をすり抜けて、大した損害を挙げずに凌ぎ切った事が勝ちと言えないならば、曹魏の軍は常敗の弱兵揃いということになるんじゃないのか?」

「…いうようになったわね。」

「いつまでも半端者じゃいられないんでね。」

二人の間では決着はついていた。

先ほど文句を言った誰一人、それがどのような作戦かはわからない。

しかし、誰一人として、文句を言えなかった。

もはや、誰一人、口を挟めなかった。

 

「いいわ。5人選んで連れていきなさい。正直に言うとね、そこまでの覚悟の貴方がどういう戦をするのか見てみたいわ。」

「…わかった、じゃあ霞、凪、真桜、沙和、俺の五人ででよう。」

「…それでは4人しか選んでいないじゃない。あなたは数に入ってないのよ。

 そうね、この作戦なら…桂花、いや、稟…違うわね…

 そうだわ、詠を。詠を連れていきなさい。」

「…え?」

「あなたの考えつく程度のことなどお見通しということよ。もしも気がついたなら、その時に感謝なさい。」

「あぁ、わかったよ。」

「こちらに残る武将の関係上全くの五分五分に兵士をわけるわけにはいかないわ。そのつもりで準備なさい。」

「おう、了解。」

「あとそれから、必ず。必ず勝って、戻って来なさい。これが私からの命令よ。」

「…了解。」

 

こうして、対蜀呉連合との決戦の際に取られる作戦は決定された。

………

………………

 

「しっかしなぁ~、恨むでおっちゃん。ウチ関羽と殺り合いたかったのに。

これで二度目やで?関羽と殺り合いたかったなー。」

 

物騒なことを言うものだ、と北郷は思った。

しかし霞のその言葉は、予想していなかったわけではない。

霞が関羽にご嫉心なのは周知の事実であり、さらに彼は前に一度、霞からその恰好の場を取り上げてしまっている。

今回で都合二回目の邂逅の機会を潰されてしまっている彼女は、見るからに不服そうな顔をしていた。

 

「悪いとは思ってるんだよ?でもどうしても霞の力が必要なんだ。

 少ない人数で孫策擁する呉を抑えるには圧倒的な速度が必要なわけで…」

「でしたら、恋様でもよろしいのでは…?

 あの一件以来恋様も北郷隊所属となっておられますし…」

 

言いよどむような態度の北郷に対して、凪は作戦に対して抱いていた疑問が口をついてでた。

 

「それはそうなんだけど…」

 

どうやら北郷の中でも、上手く言葉がまとまっていないらしく、説明がたどたどしい。

そんな彼に助け舟を出したのは詠だった。

 

「恋じゃ無理よ。」

「えっ。詠様、それは一体どういうことですか?」

「そりゃそうでしょ。

 恋は確かに一騎当千どころか一万、二万くらいの兵なら顔色一つ変えずになぎ倒すでしょうけど。

 でもそれはあくまで個人の武なのよ。

 この作戦、おそらく…というか確実にここにいる全部将の連携が勝敗を大きく左右するわ。

 恋じゃ細かい指示は出せないでしょ?

 霞だったら武勇と連携の二つが両立できる。あなた達の調練も霞が手伝ってるんでしょ?

 だから総大将も編成をさせたんでしょうけど…」

「なるほど…確かにそうですね…」

 

言われてみれば納得だった。

恋の強さは魏国においても比肩するものなしなのだ。

強さで言えば恋を五人用意した方が強いのに決まっている。

しかし、だから兵を率いる将としても優秀かと言われると話は違う。

勿論将としても優秀といえば優秀なのではあるが…

 

「確かに恋様やったらそういう細かいこと無理そうやもんな~」

「いや、無理じゃないわよ。ただ、恋を大将に据えて、縦横無尽に動き回られたら、ボク達が合わせられないわ。」

 

そう、恋は優秀すぎるのだ。

彼女はまさしく天衣無縫。

彼女が一番力を発揮できるのは、彼女が一番自由に動ける時だ。

しかし、今回の作戦では他の連携が肝となる。

連携を取る他の武将が春蘭や霞などの一線級の武将だけならいざしらず、今回は詠や一刀まで混ざっている。

そこに穴が空く事を意味しているのだ。

その穴を埋めるように恋を動かしてしまうことは、彼女の無双の武にいらぬ枷をかけることに他ならない。

 

「確かにそうですね…我々では恋様には合わせられません…天下無双の名は伊達ではないということですね…」

 

その説明で、凪はようやく合点がいったようだった。

 

「あ、でもでも、そしたらなんで華琳様は詠ちゃんを軍師につけたの?」

「ボクはこれでも西涼の出身なんだから。

 それに月の軍師として霞の訓練に付き合ったりしてたのよ?

 そのへんを見越してのことなんでしょう。そのうちきっと分かるわ。」

「ん~…?よくわからないの…」

「まぁ、戦が始まればすぐに分かるわよ。ってかあれホントに打ち合わせなかったの?

 ないんだったらほんと、末恐ろしいというか、あんなの敵に回して良くボク達生きてるわってかんじよ。」

「なぁなぁ、ウチらっておっちゃん居らんかったら皆殺しにされとったんかな?」

「いやぁ…あいつは才ある者に目がないからそれはないんじゃないか?

 それに最初っから霞のことはほしがってたはずだし。

 それに…ほら、綺麗な女の子には目がないわけで…」

「あ~、確かに。姐さんも詠も綺麗やからそこら辺は大丈夫なんちゃうかな?」

「バッ!バカなこといわないでよ!」

「実際かわいいから大丈夫だろうよ。なぁ?」

「なのー。詠ちゃんも、今度沙和がきっちり綺麗にして隊長に食べてもらえるようにしてあげるの!」

「……。」

「あはははは!まぁいうてもみんなもう一回や二回や三回や四回食われとるんやけどな!

 これおわったら姐さんもいっしょに6人でってのもええんやないの?」

「なにそれすごい。」

「あ~、大丈夫なのー!そんなにむくれなくても、凪ちゃんもちゃあんと綺麗にしてあげるの!」

「や!別に私はそんなつもりで…」

 

結局、こうなるのだった。

北郷隊は大舞台を前に、平常運転。

それでも詠はこれからの戦に備え策を巡らし、霞も凪も態度こそ普段通りであるが気力は漲っている。

真桜も沙和もそれに応じるように兵に気を巡らしており、統率も過不足なく、万全の状態と言えた。

だからこその、平常心。

これならば安心できる、と北郷は考えていた。

正直なところ、北郷の最初の計算では、霞と三羽烏と自分を含めた5人で出撃するものだった。

だからこその決死。

文字通り、死ぬことが決まった戦を想定していた。

だが、そこに詠が入れば…

精兵たちを有機的に動かせる頭脳が加わるのであれば。

これならばもしかしたら成功するかもしれない。

いや、成功するだろう。

 

「これでおっきい戦は終わりなんかな?せやったらホンマにウチ、関羽とやり合えんかってんな~。

 なぁなぁ、おっちゃん。ウチら武官って、全部終わったら用無しになるんかな?

 もし暇んなったらさ、凪とか沙和とか真桜とか、みんな一緒にどっか遠乗りしようや!な!?

 遠く遠く、旅とかしてみたいわ~。」

 

突然、霞はそんなことを言う。

戦の前だというのに、この娘は…

だが、変に緊張されるよりよっぽどいいはずだ。

北郷は、そう思った。

 

「なにバカなこと言ってんだ。俺の仕事はこれが終わってから本領発揮だっての。

 それにな。大丈夫だ。みんなの居場所がなくなることなんて、ありえないよ。

 ちゃんとある。霞の居場所も。帰るべき場所も。

 なければ俺が用意する。

 だから安心して、戦ってこい。」

 

そういって北郷は笑った。

 

「あーあー、惚気はそんなところにしておいてよね。

 斥候をほとんど出してないようだけど、あんたたち本当に大丈夫なの?」

「あぁ、そのことなら凪にも聞かれたが、大丈夫だ。連中がガチのぶつかり合いを望むなら絶対に。

 十中八九どころじゃない。十中十で鶴翼だ。

 だから斥候は相手の位置だけ知れればいいんだ。その分の最低限は出してるだろ?

 詠は連中の鶴翼の陣に対応する策を考えといてくれ。」

「…は?それ本気でいってんの?」

「黄蓋のやつ、うちらとの訓練の時いってたもんな。『あの陰湿眼鏡、口うるさい割に鶴翼を得意としとるし、そもそも孫呉の力を一番引き出せるのもこの陣なんじゃ』とかなんとか。」

「そこんところ沙和も聞いてたの。兵の粒も揃ってるし統率もとれてるからできるんだーとか何とか。」

「だから、詠はそれ対策だけはしっかりしておいてくれ。」

「…正直、戦を舐めてんじゃないわよってのと、それ以上の言い知れない恐怖を感じるわ。

 まぁ、いいわ。ボクがやるんだから、勝つのは当たり前よ。それどころか圧倒的に勝ってみせるわ。賈文和の奇策で目にもの見せてあげるんだから。」

すでに幕は上がり始めている。

決戦という大舞台で、彼はどんな役割を演じるのか。

それはひとえに彼の望み次第。

最終章、物語の終わりが始まろうとしている。


 
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