「おーおー、壮観だなぁ」
俺が曹操のところに厄介になってからひと月が経ち、今は賊の討伐の準備をしているところだった。
「どうした、そんな間の抜けた顔をして」
「お前の何も考えてない馬鹿面よりマシだ」
「なにを!?」
こんな時でも春蘭を馬鹿にするのは楽しい。この遊びの良い所は、相手が馬鹿すぎて後腐れがない所だ。
「何を無駄話をしているの、ふたりとも」
「か……っ、華琳さま……!これは、北郷が!」
「知らんなあ……
お前が勝手に騒いでただけだろ」
「はあ……春蘭。装備品と兵の確認の報告がまだよ。準備はできているの?」
「は……はいっ。全て完了しております!北郷のせいで、報告が遅れておりました!」
「心外だなあ……」
「……その一刀には、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってくるよう、言っておいたはずよね?」
「ああ……へいへい、すみませんでしたね」
「早くなさい。あなたが遅れることで、全軍の出撃が遅れるわ。」
「今行くって言ったろ……。
秋蘭、監督官がどこにいるか知らないか?」
「今は馬具の確認をしているはずだ。そちらに行くといい。」
「りょーかい」
俺をパシリにするとは、さすが曹孟徳と言ったところか……。
なんて馬鹿なことを考えながら、早足で馬のところまで向かった。
「おい、そこのお前」
「…………」
「お前だよお前」
「…………」
「おい無視するな愚図。返事しろよクソ女」
「聞こえてるわよ!その汚い声で私を侮辱するんじゃない!」
「なんだ聞こえてるのか……。糧食の監督官がどこにいるか知ってるか?帳簿を受け取りに来たんだ」
「監督官なら私よ。でもアンタなんかに帳簿は渡すもんですか!」
「うっとおしいな……華琳に取ってくるよう言われたんだからさっさと渡せよ」
「なっ!!
なんでアンタみたいな男が華琳様の神聖なる真名を呼んでるのよ!取り消しなさい!」
「俺はいいんだよ許されたんだから……
それよりさっさと帳簿を渡してくれ」
「なんてことなの!
…………はい、これよ」
「おせーな、無能……じゃあな」
後ろでギャーギャー騒いでるのを無視して華琳のところまで急ぐ。途中なんとなく帳簿の中身を読んだー元々真面目に授業を受けていただけあり、漢文は最初の2、3週間で読めるようになったーのだが、どう考えても予定の量より足りない。まあ、見なかったことにしよう。どうせ俺の責任じゃないんだ。
「持ってきたぞ〜」
「遅いわよ。早く見せて頂戴」
「はい、これだ」
帰り際にプラプラ歩いていたので華琳に怒られてしまった。春蘭が睨んでいるが、まあ無視しても大丈夫だろう。ボーッとしてたら何やら華琳が怒っている。俺、なんかしたか?と思ったが、どうやらはやり糧食が足りなかったらしい。呼んで来いと言われた。往復かよ、めんどくせえな……
昨日の晩飯うまかったなーとか思いながらボーッとしてたらどうやら話が終わったらしい。あの猫耳は荀彧といって、真名は桂花だとか。荀彧といえば魏軍切っての有能軍師として有名だが、この小物感たっぷりの女が本当にそんなに頭が切れるのか?甚だ疑問だ。
さて、今現在は馬の上で揺られているのだが、鐙がないせいで随分と乗りづらい。小6の時に爺さんに鍛えられたから、人並みには乗れると思ったんだがそうでもないらしい。今度華琳に頼んで開発してもらおう
「……ちょっと、何よ。ジロジロ見るんじゃないわよこの変態」
「見てねーよ。それより、本当にあの糧食で足りるのかよ?」
「ふん。糧食なら大丈夫よ。これでも余裕を持たせてあるのよ?安心なさいな」
「ほーん……まあ、いいか。興味ねえや」
「あんたが聞いたんじゃないの!」
「あれ?そうだっけか?
……ん?おい。招集の旗だ。行くぞ」
「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」
とりあえず自分が飼うに値するほどには有能である、と示す為に幾つかの情報伝達手段を教えておいたのが早速役に立っているようだ。さっさと行くとしよう。
「遅かったわね。今、偵察の報告が終わったところよ。」
「偵察?なんかあったのか?」
「前方に大人数の集団がいるのよ。どうやら野党か山賊が暴れてるらしいわ。」
「曹操様、もう一度偵察を出しましょう。夏侯惇と本郷を指揮官にとらせます。」
俺と一緒に来た癖にもう軍師の仕事をするとは、流石は荀彧と言ったところか。なんかちょっとムカつくな。
「俺ぇ?なんで俺なんだよ」
「人手がたりないからしょうがないでしょう。それとも、曹操様に偵察をさせるつもり?
せめて夏侯惇の抑え役くらいはしなさい」
「おい、それでは私が敵と見ればすぐに突撃するようではないか!」
「あってるじゃないか」
「そうよね?」
「うう、華琳様までぇ〜……」
「では、二人とも。行ってくれるかしら?」
「はいっ!」
「了解」
「なんだこれ……」
偵察のために先行すると、そこには人が空を飛ぶという不可解な現象が起こっていた。
「おい、見えるか?」
「ここからか?……ふむ。どうやら、乱闘が起こっているらしいな」
「マジで見えるのかよ。やっぱお前すげえわ」
「そう褒めるでない!」
「しかし乱闘で人があんなに高く飛ぶもんかね?」
「報告します!どうやら、盗賊の一団が子供一人を相手にしている模様!」
「なっ……!こうしてはおれん!行くぞ本郷!」
「おいおい、結局突撃するんじゃないか!
しょうがない……おい、お前とお前、夏侯将軍から逃げた賊を追え。本拠地を見つけたら、曹操の所まで報告しろ。わかったな」
こいつマジでなんとかならねえかな……。馬鹿も大概にしろよ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「おい、待てって!」
多分だけど猪の方がもうちょっと大人しいだろ……
後ろから冷ややかな目線を送っていると、どうやらあっさりと蹴散らしたようだ。
「追撃だああああああああ!!!」
「おいやめろ」
「何故だ!」
「せっかく泳がせてんのにわざわざ捕まえるなよ。お手柄だ。よかったな、華琳に褒められるんじゃないのか?」
「なにっ、本当か!それならば良いのだ!」
「はあ……」
これがウチの最大戦力だとは、泣けてくるね。
「あ、あの……」
「おお、怪我は無いか?」
「はい、大丈夫です!」
「どうして一人で戦ってたんだ?」
「はい、それは……」
そうこうしていると、華琳もこちらに追いついたようだ。
「おーい、こっちこっち」
「待たせたわね。首尾はどう?」
「もうちょっとで巣がわかるようになってる」
「そう。お手柄ね、一刀、そして春蘭」
「光栄です華琳様!」
「…………あの、もしかして、お姉さん達、国の軍隊なんですか?」
「え?さあ……どうなんだ?」
「まあ、一応そうなるな。……ぐっ!」
いきなり戦闘になった。
「官軍なんて……、官軍なんて……!」
ああ、なるほど。これはもうアレだな。何が悪いって、政治が悪い。
なんて頭の中で考えていると、どうやら和解したらしい。チビが涙ぐんでいて、華琳が真面目腐った顔をしているので、聞いていなくて正解だったな。
「さて、初陣だな。まあ、だからどう、というわけではないが」
「緊張しているの?」
「まさか。そんな性格じゃあない」
今、俺は桂花の策で華琳と共に囮役をしている所だ。
「兄ちゃん、緊張してないんだ。すごいなあ……」
「許諸はしてるのか?」
「季衣でいいよ。今までこんな大人数で戦うこと、なかったから。それに、たいやく?らしいし」
「まあ、そうだな。大役だよ。他はともかく、華琳に何かあったらこの軍隊は終わりだからな」
「そっかあ……よし!兄ちゃんも曹操様も、みーんなボクが守ってあげるよ!」
「それは頼もしいな。頼むよ」
「そろそろ始めるわよ。覚悟はいい?」
とうとう俺の始めての戦が始まる。
「結構アッサリ終わったな。」
魏軍の精鋭に荀彧の力が加わってただの賊如きに苦戦するはずもなく、俺の初陣は直ぐに終わった。始めて人を殺したが、ああ、これで俺も殺人鬼だな、と思ったぐらいで特に感慨深くもならなかった。
「相手が烏合の衆だったからよ。負けるはずがないわ。今回は季衣もいたしね」
「ふーん……ん?なんか兵士が皆イラついてないか?」
「そうね……桂花」
「っ、はっ……」
「私とてもお腹が空いているのだけど」
「華琳様、お言葉ですがそれはこの季衣が!」
ああ、そういやあいつ訳がわからんくらい食ってたな。それで糧食が足りなくなったのか。俺は自分で自分の分を確保していたからしっかり食えてたもんで忘れてたわ。
「言い訳は聞きたくないわ」
「…………わかりました。糧食の管理が至らなかったのは、私の不始末。首を刎ねるなり、思うままにしてくださいませ。ですがせめて、最後はこの夏侯惇や北郷などではなく、曹操さまの手で……!」
「おいおい、俺等は『など』かよ」
「一刀、あなたは黙ってなさい。
……そうね。今回の功績を無視することもできないわ。死刑は減刑して、お仕置きにとどめておきましょう。そして、季衣と共に私の真名を許すわ。より一層奮起するように。」
「あ……ありがとうございます!華琳様っ!」
「ふふ……。それから、桂花は今夜閨に来なさい。可愛がってあげるわ。」
「はい…………っ!」
あっレズだ。
あとがき
いや、なんか適当になっちゃってすみません。どうしても序盤は原作を辿るみたいになっちゃって……
戦闘パートは、まあ今回はめぼしい将もいないんでカットしました。
多分キャラもいないのに書いたらグダグダになると思ったんで……
また次回、いつになるかはわかりませんがよろしくお願いします。
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