小石
C1 戦士の儀式
C2 過去
C3 宴
C4 見送り
C5 セレノイア王国
C6 昼食
C1 戦士の儀式
クレール砂漠のオアシスでジャックウサギ獣人の集落トロト。巨石を切り出して作られた戦士の祭壇に砂煙が巻き起こり、ジャックウサギ獣人の戦士Aが勢いよく砂地に落ちる。腰に手を当て笑みを浮かべるジャックウサギ獣人の戦士で、トロト村の長マガンターの孫娘のエルザ。トビネズミ獣人の戦士指導者で儀式実行役員ババルタがエルザの方へ手を上げる。
ババルタ『勝者!エルザ!!』
戦士の祭壇を取り囲むジャックウサギ獣人達から大歓声が上がる。握り拳を挙げるエルザ。頭を押さえ立ち上がるジャックウサギ獣人の戦士A。祭壇を降りるエルザ。ジャックウサギ獣人の戦士Aはエルザの方を向く。
ジャックウサギ人の戦士A『やっぱり、エルザちゃんは強いわ。』
エルザはジャックウサギ獣人の傍らに駆け寄り、腰に手を当て、笑みを浮かべる。
エルザ『へっへ~ん!』
ジャックウサギ獣人の戦士Aに向かってピースするエルザ。
エルザ『このまま勝ち上がって、本儀で優勝しちゃうもんね。』
笑い出すジャックウサギ獣人の戦士A。
ジャックウサギ人の戦士A『ははは、そいつは心強い!』
ジャックウサギ獣人の少年戦士でエルザの幼馴染のチンプラがエルザに近づく。
チンプラ『それは無理だね。』
チンプラの方を向くエルザ。
エルザ『…チンプラ。』
チンプラ『俺が優勝するもん。』
苦笑いを浮かべるエルザ。戦士の祭壇を見上げた後、チンプラの方を向くジャックウサギ獣人の戦士A。
ジャックウサギ獣人の戦士A『おい、チンプラ。お前の次の対戦相手…確かクランっていったか。』
頷くチンプラ。
ジャックウサギ獣人の戦士A『気をつけろよ。今までこの儀式に参加していない割に準決勝まで残ってきたからな。』
チンプラはため息をつき、首を横に振る。
チンプラ『心配いらない。いらない。どうせ運がよかっただけでしょ。』
ババルタの声『これよりトロト村戦士の儀式準決勝戦2戦めを行う!』
戦士の祭壇を見上げるチンプラ。
トンプゥクウ『戦士チンプラ、戦士クラン!前へ!!』
雄たけびを上げ、戦士の祭壇を上がっていくチンプラ。エルザはチンプラの方を向く。
エルザ『チンプラ!頑張ってね!』
エルザはチンプラに手を振る。戦士の祭壇に上がり、見えなくなるチンプラ。エルザは戦士の祭壇に背を向け、特等席のテントに向かって駆ける。
特等席の簡易テント。トロト村の長でジャックウサギ獣人のマガンター、その息子でジャックウサギ獣人でエルザの父トルクル、ンドゥルー商隊の長でカフタンを着、カフィーヤを被った髭面のムカバと戦士の儀式本儀開催地のロビ村の長でトビネズミ獣人のカルロ、ジャックウサギ獣人の引退戦士でトロト村の戦士指導者トンプゥクウにサボテン水を振舞うエルザの母親でジャックウサギ獣人のミア。
カルロはサボテン水を一口飲む。
カルロ『サボテン酒はまだかいのう。』
カルロの腹を小突くマガンター。
マガンター『ぬし、昼間から酒か。まだ儀式が終わってないというのに。』
カルロ『いいではないか。いいではないか。酒が入ると盛り上がるというもの。』
ため息をつくマガンター。
マガンター『お前がの。』
ムカバの傍らに寄るトンプゥクウは戦士の祭壇の方へ手を向ける。頷くムカバ。
ムカバ『…ほう。なるほど…。』
テントに駆け寄るエルザ。エルザの方を向く一同。エルザはピースサインする。
エルザ『勝ったよ!皆、見てた!!?』
エルザの方を向くトンプゥクウ。
トンプゥクウ『おう、見てた見てた。見事な勝ちだったな。』
エルザ『ちょっと、師匠。そのそっけない言い方はないでしょう。次は決勝なんだから!』
ムカバはエルザの方を向く。
ムカバ『…先ほどの女戦士の方ですか。』
エルザはムカバを見た後、会釈する。
エルザ『…こんにちは。』
ムカバ『こんにちは。』
エルザの方を向き、腕を組んで眉を顰めるトルクル。
トルクル『まったく、うちの娘は男勝りで、揚句に戦士の儀式まで参加して。』
ムカバはトルクルの方を向く
ムカバ『ほう、娘さんなのですか。』
頷くトルクル。
カルロ『ルントの村にはムッチムチのアマゾネスがおるぞい。』
トルクル『あれはそういう部族なんです。だいたいこの儀式は乙女がやるものじゃない!』
トンプゥクウがトルクルの方を向く。
トンプゥクウ『まあまあ、そう言うなって。エルザは立派な戦士だ。実力は俺が保証する。』
眉を顰めてため息をつくトルクル。頬を膨らますエルザ。
ムカバ『まあ、力を持っている女性は素敵なものですよ。男勝りも結構。』
ムカバの方を向くエルザ。ムカバは皿に盛られたデーツを摘まむ。
ムカバ『ただ、それが不得手な子女もいる。』
戦士の祭壇を見つめるムカバ。
ムカバ『おや、勝敗が決まったようですよ。』
戦士の祭壇の上に立つクラン。ババルタがクランの手を上げる。
ババルタ『勝者クラン!』
目を見開くエルザ。
エルザ『えっ…。』
戦士の祭壇の近くに駆けていくエルザ。胸をさらけ出し、両足を天に上げて頭から埋もれるチンプラを引き上げるジャックウサギ獣人の戦士達。チンプラは砂から引き上げられると、身を震わして砂を落とす。チンプラとエルザの目が合う。
エルザ『…チン。』
チンプラは歯を食いしばってそっぽを向く。
チンプラ『う、うるさいな!ほっといてくれよ!!』
立ち上がるチンプラ。チンプラの方に手を向けるエルザ。チンプラは人ごみの中に駆けていく。エルザは暫し、チンプラの後ろ姿を見つめた後、戦士の祭壇上のクランを見つめる。
ジャックウサギ獣人A『次はいよいよ決勝か!』
ジャックウサギ獣人B『それにしても大番狂わせだな。』
ジャックウサギ獣人女A『まさか、あのクランって子が決勝に進出するなんて。』
ジャックウサギ獣人C『優勝候補押しのけてだからな。』
ジャックウサギ獣人女B『いったい何者かしら。』
ジャックウサギ獣人D『知らないのか?あいつ断耳してこの村から飛び出した奴の弟だぜ。確か。』
ざわめくジャックウサギ獣人達の方を見るエルザ。戦士の祭壇から下を見回すババルタ。
ババルタ『静粛に!静粛に!!』
静まる一同。
ババルタは両手を広げる。
ババルタ『これよりトロト村戦士の儀式、最終儀式を行う!エルザ、クラン両者前へ。』
戦士の祭壇に上がるエルザとジャックウサギ獣人のクラン。ババルタが太陽の方を向く。跪くエルザとクラン。太陽に両手をかざし、祈りをささげるババルタ。静まり、太陽の方を向く一同。ムカバと商隊員達もあわせる。
暫し沈黙。
ババルタはエルザとクランの方を向く。頷き立ち上がる両者。
ジャックウサギ人の戦士A『エルザー!頑張れ!!』
ジャックウサギ人の戦士B『エルザー!負けるな!!』
戦士の祭壇の両端に位置するエルザとクラン。エルザはクランを指さす。
エルザ『…クランさんっだったっけかしら!女だからといってなめてかかると痛い目あうわよ!』
首を傾げるクラン。眉を顰めるエルザ。
アンテロープジャックウサギ獣人A『いいぞ!やっちまえ!』
アンテロープジャックウサギ獣人B『やれやれ!!』
クランはガイドロ競技の開始のポーズをとる。構えるエルザ。
ババルタ『それでは…始め!』
戦士の祭壇を取り囲むジャックウサギ獣人達が大歓声を上げる。
エルザは雄たけびと砂煙を上げてクランに突進する。クランは構えを取り、エルザの腕を掴む、戦士の祭壇の端まで移動する両者。エルザはクランの手を振りほどき、後ろに飛び跳ねて、息を切らす。エルザを見るクラン。エルザの額から汗が流れる。
エルザは喉を鳴らし、構えを取り、クランに突進する。構えるクラン。エルザはクランの頭上を飛び越える。目を見開くクラン。クランの背に肘打ちを当てるエルザ。
ジャックウサギ人の戦士A『でた!エルザちゃんの必殺だ!いけー!!そのまま押し出せ!』
エルザは勢いよく飛び跳ねながらクランに何十発の肘打ちを入れる。崩れるクラン。
ジャックウサギ獣人の戦士C『エルザ!エルザ!!』
エルザの攻撃を受け続け、戦士の祭壇の端に移動するクラン。笑みを浮かべるエルザ。クランは顔を上げる。クランはエルザの軸足を蹴る。目を見開くエルザ。
エルザ『ひ、えっ!!!!』
空を泳ぎだすエルザ。手を振るクラン。
エルザ『や~~~~~ん!!』
戦士の祭壇から落ち、砂に埋もれるエルザ。ババルタが、戦士の祭壇に残るクランの右手を上げる。
ババルタ『勝者クラン!!』
握り拳を上げ、大歓声を上げるジャックウサギ獣人達。両手を上げ周りを見るクラン。エルザは起き上がり、体を震わせて砂を払い落とす。戦士の祭壇から現れる鹿の角の冠を被ったクラン。エルザは暫し、クランの方を向いた後、俯いて体を震わせる。拍手をし、立ち上がるムカバ。
C1 戦士の儀式 END
C2 過去
トロト集落にあるワラン湖。岸に座るエルザ。エルザは顔を上げ、太陽を見つめた後、俯いて歯を食いしばる。
泣き声。
エルザは茂みの方を向き、立ち上がって茂みに近づいていく。茂みの中で泣いているチンプラ。エルザは口を開く。
エルザ『チン…。』
チンプラはエルザの方を向いて目を見開く。
チンプラ『エ、エルザ!』
チンプラは勢いよく立ち上がると、エルザに背を向けて目元を前腕で拭う。
チンプラ『べ、別に負けて悔しいからないてるんじゃないからな!そ、そう、目に砂が入っただけだ。』
俯くエルザ。
エルザ『…私も負けちゃった。』
振り返るチンプラ。
チンプラ『えっ?』
足音。
茂みに隠れるエルザとチンプラ。
トンプゥクウ『…をよくもやってくれたな。ははははは。』
茂みの隙間から歩いてくるトンプゥクウとクランを見るエルザとチンプラ。クランにヘッドロックをかけるトンプゥクウ。
エルザ『…し、師匠?』
チンプラ『師匠。』
クランは苦笑いを浮かべる。
クラン『い、痛い。止めてくださいよ。師匠。』
クランの方を向くエルザとチンプラ。
エルザ『えっ…。』
ヘッドロックを外すトンプゥクウ。
トンプゥクウ『俺は嬉しいぞ。』
トンプゥクウの方を向くクラン。
クラン『し、師匠。』
トンプゥクウは岸に座る。
トンプゥクウ『一昔前はお化けが怖いと兄ちゃんに毎日添い寝してもらったそうじゃないか。』
クランは顔を真っ赤にしてトンプゥクウの前に出る。
クラン『うわ!や、止めてくださいよ!』
クランは周りを見回した後、トンプゥクウから顔を背ける。
クラン『…恥ずかしいな。もう。』
笑い出すトンプゥクウ。クランは俯く。
クラン『…兄はこの集落の…部族の面汚しの親不孝者です。』
ため息をつき、クランを見つめるトンプゥクウ。
暫し沈黙。
トンプゥクウは左手で地面を叩く。
トンプゥクウ『ま、座れや。』
頷き、トンプゥクウの隣に座るクラン。
トンプゥクウ『しかし、何でまた戦士から離れていたお前さんが今回の儀式に参戦したんだ?』
クランはワラン湖を見つめる。
クラン『…去年、母が死にました。』
暫し沈黙。
トンプゥクウ『そうか。お前のおふくろさん、息子たちが戦士になることは大反対だったからな。それにもかかわらず、お前らは俺のところにしょっちゅう稽古にきていたっけな。お前らが来たことがばれるたびに俺はあの金切り声を聞かされてたっけ。ははは…。』
俯くクラン。
クラン『常軌を逸していますよ。耳を切ってまで…。』
トンプゥクウ『確かに俺達はこの兎耳がなければ普通の人間と見分けがつかんからな。』
クラン『この村を…僕と母さんを捨てて行くなんて!』
クランは歯ぎしりする。眉を顰めてクランを見つめるトンプゥクウ。
波の音。
トンプゥクウは太陽を見る。
トンプゥクウ『…クラン。お前、そんなこと言ってブレイドの奴に会いたいんじゃないのか?』
首を横に振るクラン。
トンプゥクウ『この戦士の儀式に優勝すれば、もしかしたらブレイドが現れると思っているんじゃないのか?』
クラン『違います。そんなこと…。あんな種族の誇りも捨てた最低な奴…。』
トンプゥクウは写真を人差し指と中指の間に挟んで左右に振る。
トンプゥクウ『だったらこれは何だ?随分と大切に保管してあったぜ。』
目を見開くクラン。
クラン『そ、それは!!』
クランは両手を懐に入れた後、腰布に手を入れ、辺りを見回した後、トンプゥクウを睨み付ける。
クラン『最っ低です!いつ取ったんですか!!返してください!』
クランはトンプゥクウから写真を勢いよく取る。トンプゥクウはワラン湖を見つめる。
トンプゥクウ『その慌てようと怒りよう…余程、大切なものなんだな。』
目を見開くクラン。エルザとチンプラは顔を茂みに寄せる。写真を見つめるクラン。
クラン『…お兄ちゃん。なんで…。』
茂みが揺れる。茂みの方を向くクランとトンプゥクウ。
チンプラ『うわわわわ!』
エルザ『きゃああああ!!』
チンプラとエルザは茂みから転がり、トンプゥクウとクランの前で止まる。チンプラの上に重なるエルザ。チンプラがエルザを睨む。
チンプラ『ぐぅ!ちょっと!足絡めんなよ!!だいたい重過ぎ、このデ…。』
エルザ『いたたたた。』
エルザの胸がチンプラの顔につく。顔を真っ赤にするチンプラ。顔を上げるエルザの目に映る洋服を着て、笑顔で手をつないでピースサインする子供の頃のクランの兄ブレイドとクランの写真。
ワラン湖の波の音。
笑い出すトンプゥクウ。
トンプゥクウ『お、お前らそういう関係だったのか?』
チンプラはエルザを押しのける。写真を懐にしまうクラン。
チンプラ『ち、違う。その、これは…。』
エルザの方を向くチンプラ。
チンプラ『そ、その稽古、稽古してたんだよな。な、エルザ。』
エルザはチンプラの目を見つめる。
エルザ『…そ。』
立ち上がり、砂を払うエルザ。
エルザ『そうよ。師匠、私たち来年に向けて稽古してるの。悔しがってるひまなんてないから。』
エルザを見上げるチンプラ。
チンプラ『…そ、そうだ。』
立ち上がるチンプラ。
チンプラ『さ、行こうぜ。』
頷くエルザ。エルザとチンプラは駆けていく。
トンプゥクウ『仲のいい奴らだぜ。まったく。』
C2 過去 END
C3 宴
クレール砂漠のオアシスでジャックウサギ獣人の集落トロト。ワラン湖の岸に設置された焚火台に駆けていく赤いセーラー服を着てミニスカートを穿いたエルザ。エルザは焚火台の前に立ち、腰に両手をかける。
エルザ『へへ、一番乗り~!』
焚火台の横から現れる赤いセーラー服を着てミニスカートを穿いたチンプラ。
チンプラ『何が一番乗りだ。へん!』
チンプラの方を向くエルザ。チンプラは自身を親指で指す。
チンプラ『この俺が一番乗り。』
エルザ『げっ、チンプラ来てたの!もう、せめてこの場所に一番乗りしたかったのに!』
エルザに近づくチンプラ。
チンプラ『それに何だよ。その格好。』
エルザは自身の体を見る。
エルザ『えっ、で、でも。』
エルザはチンプラの方を向く。
エルザ『これ、かわいいでしょ。優勝して、お披露…。』
チンプラを凝視するエルザ。
チンプラ『俺と被るなよな。』
暫し沈黙。チンプラは眉を顰め、エルザの方を向く。
チンプラ『な、何だよ。急に黙り込んで!』
エルザ『…えっと、チンプラ…。いい、これってあの学生服。』
チンプラ『知ってるよ!この砂漠の向こうじゃ、この戦闘衣装を着たアイドルっていう戦士達がスターっていう名誉ある称号を得るために歌ったり、踊ったり…握手会?とかやって日々、奮闘して鎬をけずっているそうじゃないか。』
エルザ『…う、うんー。でも…。これ。』
ざわめき。
焚火台に集まってくるジャックウサギ獣人達。
ジャックウサギ獣人D『いやはや、これでサボテン酒にありつけるってもんだ。』
ジャックウサギ獣人E『トロト村は戦士の儀式で酒が飲めるぞ~!!』
ジャックウサギ獣人F『しかし、まさか戦士の儀式はあんな展開になるとはな。』
ジャックウサギ獣人G『まったく、だから面白い。』
ジャックウサギ獣人F『ははははは。』
ジャックウサギ獣人達を見るエルザとチンプラ。
チンプラ『お、集まってきた。集まってきた。』
苦笑いを浮かべるエルザ。ジャックウサギ獣人の戦士達がチンプラとエルザの周りに集まる。
ジャックウサギ獣人の戦士A『おう、エルザちゃんにチンプラじゃないか。見違えたぞ。』
ジャックウサギ獣人の戦士たちの方を向くエルザとチンプラ。
ジャックウサギ獣人の戦士B『はっはっは。二人とも可愛くなちゃって。』
チンプラはジャックウサギ獣人の戦士Bを睨む。
チンプラ『か、可愛いとか言うな!』
チンプラの頭を押さえるジャックウサギ獣人の戦士C。
ジャックウサギ獣人の戦士C『怒ってもまったく怖くないよ。ケケケ。』
チンプラ『ムキー、こ、これでも他国の戦士の衣装を身に着けてるんだぞ!カッコいいって言えよ!!』
焚火台の前にババルタが立つ。焚火台を取り囲むジャックウサギ獣人達。ババルタは焚火台の方を向き、跪く。ババルタの方を向く一同。焚火台に松明を投げ込むカルロとマガンター。火を纏う焚火台を背にジャックウサギ獣人達の方を向くババルタ。
ババルタ『母なる恵みは火を通し、我らの口に入りしは生なり。』
跪く一同。
ババルタ『戦士の血と汗は、この地の歴史の叡智ならん!トロト村にて勝ち上がり、選出されしは…。』
目を見開くババルタ。
ババルタ『戦士クラン!』
鹿野角を着けたクランはババルタの前に駆け、跪く。
クラン『はっ!』
ババルタはクランを見下ろす。
ババルタ『この者に神の祝福がありますように!』
大歓声が上がる。クランは立ち上がり、ジャックウサギ獣人達を見つめる。
クラン『まだまだ本儀があります!気を緩めるつもりはありません。今宵の祝杯は自身の過去と向き合い、引き締め、本儀勝利に向かって努力していく所存であります!!!』
大歓声が上がる。
ジャックウサギ獣人C『おう、期待してるぞ!』
ジャックウサギ獣人女A『是非とも、本儀を優勝して~!』
ジャックウサギ獣人E『戦士の本儀で優勝すれば酒が飲めるぞ!!』
焚火台の正面に居るクランの前に現れる巨大な盃を持ったミアとジャックウサギ獣人の女B。マガンターが立ち上がる。
マガンター『偉大な戦士クランよ!見事な勝利を貴殿は今日、このトロトの地で収めた!今宵はその勝利を祝い祝杯を挙げる!』
クランはマガンターを見つめて頷く。
マガンター『乾杯!』
クランは盃を取り上げると一気飲みする。拍手する一同。クランは盃につがれた酒をすべて飲み干す。盃を持ち、去っていくミアとジャックウサギ獣人の女B。
大歓声。
マガンター『今宵は大いに楽しもう!』
大歓声が上がる。
マガンター『…しかし、その前に、この地に立ち寄ったムカバ殿から余興があるそうだ。』
顔を見合わせるジャックウサギ獣人達。立ち上がるムカバ。
ムカバ『我々は今日という良い日に巡り合いました。これは我々、あなたがたに出会えた我々の感謝。ささやかな贈り物です。』
ムカバはンドゥルー商隊のガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様の方を向き、手を叩く。ンドゥルー商隊のヴェルクーク級人型機構砂漠用が蛍光棒を振る。ガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様の砲塔が動く。ムカバは右耳の横で手を叩く。
砲音。
ジャックウサギ獣人達はワラン湖の方を向く。色とりどりの花火がワラン湖の空中を染め、水面を染める。手をたたき出すジャックウサギ獣人達。エルザは花火を指さす。
エルザ『見て見て!すご~い!!』
チンプラは花火を見つめるエルザの顔を見つめる。
チンプラ『綺麗…。』
瞬きをしてチンプラの方を向くエルザ。チンプラは頬を赤くし、エルザから顔をそむけ、花火の方を指さす。
チンプラ『あ、あれが綺麗なんだよ。』
ジャックウサギ獣人の子供Aが花火の方を指さす。
ジャックウサギ獣人の子供A『お母さん。見て見て、あれ、ガチムチのおっさんだよ。』
ジャックウサギ獣人女C『あらあらそうね。』
C3 宴 END
C4 見送り
クレール砂漠のオアシスでジャックウサギ獣人の集落トロト。村長マガンターの家に集まるジャックウサギ獣人の戦士達。マガンターが腰に手を当てる。
マガンター『いやはや、早朝の呼び出し、すまん。』
ジャックウサギ獣人の戦士Aが一歩前に出る。
ジャックウサギ獣人の戦士A『いいってことですよ。トンプゥクウさんはいませんけどね。』
頷くマガンター。
マガンター『ガガガ村の戦士の儀式じゃ。仕方あるまい。』
ジャックウサギ獣人の戦士B『それで…。』
マガンターはジャックウサギ獣人の戦士達を見つめる。
マガンター『実はンドゥルー商隊の方々が今日、ここを発つそうじゃ。』
顔を見合わせ、頷く一同。
ジャックウサギ獣人の戦士D『寂しくなりますね。』
頷くマガンター。
マガンター『行先はセレノイア王国と。』
ジャックウサギ獣人の戦士C『はぁ、セレノイアへ行くんですか。』
マガンター『そこで、お前たちに、そのムカバ殿達を先導してもらおうと思ってだな。』
ジャックウサギ獣人達の一同は顔を見合わせ、歓声を上げる。
ジャックウサギ獣人の戦士A『先導なら任せてください。』
ジャックウサギ獣人の戦士E『見事、セレノイアまで送りとどけて見せますよ。』
頷くマガンター。扉を開け、駆けこむエルザ。
エルザ『おじいちゃん!私も行く。』
目を見開くマガンター。
マガンター『エルザ、お前。』
エルザはマガンターに詰め寄る。
エルザ『私、これでも地区準優勝者だよ!なんで、おじいちゃん。私をはぶけにしたの?』
額に手を当てるマガンター。
マガンター『…そ、それは。』
立ち上がるクラン。
クラン『村長の親心ですよ。』
クランの方を向くエルザ。クランはエルザに近づく。
クラン『こんな可愛らしい乙女を危険がいっぱいな砂漠に行かせたくはない。』
クランの顔を見つめ、顔を真っ赤にするエルザ。チンプラはクランを睨み付ける。笑い出すジャックウサギ獣人の戦士A。
ジャックウサギ獣人の戦士A『はっはっは。心配いりませんよ。エルザちゃんは俺達がちゃんと責任を持って守りますから。』
ジャックウサギ獣人の戦士Aはジャックウサギ獣人の戦士たちの方を向く。
ジャックウサギ獣人の戦士A『な、お前ら。』
雄たけびを上げるジャックウサギ獣人の戦士達。頷くマガンター。
マガンター『では、頼む。』
クレール砂漠のオアシスでジャックウサギ獣人の集落トロト。ガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様の前に立つムカバとジャックウサギ獣人の戦士達。ムカバは一礼する。
ムカバ『いやはや、これは心強い。戦士のあなたがたがセレノイアまで先導してくれるのであれば非常に安心です。』
一歩前に出るエルザ。
エルザ『私達が先行して、旗を振りますので、その旗を目印にして下さい。』
頷くムカバ。エルザはジャックウサギ獣人の戦士たちの方を向いて頷く。頷くジャックウウサギ獣人の戦士達を見つめるムカバ。ジャックウサギ獣人の戦士達は砂煙を上げて消えていく。
砂漠を走るジャックウサギ獣人の戦士達。
ジャックウサギ獣人の戦士A『あそこで旗振るぞ!』
頷く一同。砂丘に止まる一同。
ジャックウサギ獣人の戦士A『よーし!旗振れ!!』
エルザはチンプラの方を向く。
エルザ『チンプラ。旗、旗!!』
頷くチンプラ。
チンプラ『うん。』
目を見開くエルザ。旗を振るチンプラ。ガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様が動き出す。チンプラを見て首を傾げるエルザ。旗のところまで来るガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様。砂煙をあげて駆け出すジャックウウサギ獣人の戦士達。エルザはチンプラの方を向く。
エルザ『…チンプラ。今日はどうしたの?いつもならつかかってくるのに…。』
眉を顰めるチンプラ。
チンプラ『う、うるさいな。別になんでもないよ!これでいいのか?』
チンプラを見つめるエルザ。
ジャックウサギ獣人の戦士A『よーし!次はここで旗振るぞ!』
歓声をあげるジャックウサギ獣人の戦士達。
C4 見送り END
C5 セレノイア王国
セレノイア王国カルバンシュの関所で停止するガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様。ポンポコポンの関所を見上げるジャックウサギ獣人の戦士達。ガニメデ級起動城塞ンドゥルー商隊仕様の格納庫が開き、現れるムカバ。
ムカバ『いや、偉大なる戦士のあなた方のおかげで何事もなく辿り着けました。』
深く頭を下げるムカバ。頭に手を当て、笑みを浮かべるジャックウサギ獣人の戦士達。ポンポコポンの関所の大門が開く。女性の容姿をしたヴォジャノーイのハイデイルが現れる。ハイデイルを見つめ、顔を赤らめるジャックウサギ獣人の戦士達。エルザはチンプラの腕を小突く。
エルザ『ね、ね、綺麗な人だね。』
チンプラはエルザの方を見つめる。
チンプラ『そうだけど…。お前だって…。』
首を傾げるエルザ。チンプラは首を横に振る。
チンプラ『べ、別になんでもないよ。お、お前なんて。』
ムカバに駆け寄るハイデイル。
ハイデイル『おお、ムカバ殿。お待ちしておりました。』
目を見開くジャックウサギ獣人の戦士達。
エルザ『えっ、お、お、男!!』
一礼するハイデイル。ポンポコポンの関所の扉の手前には巨大リムジンが止まる。ムカバはハイデイルに一礼する。
ムカバ『これはこれはハイデイル殿。いつもご贔屓にして頂いて。』
ハイデイル『いやはや、今回はいつものルートでなく心配しておりましたが…。』
ムカバはジャックウサギ獣人の戦士達に手を向ける。
ムカバ『いえいえ、この偉大な戦士達に送ってもらったので、たいしたことはありませんでした。』
ハイデイルはジャックウサギ獣人の戦士達の方を向く。
ハイデイル『…ほう、この方々に。』
直立して、ぎこちなく頷くジャックウサギ獣人の戦士達。
ハイデイル『申し遅れました。私、セレノイア王国の議員のハイデイルと申します。いや、大切な友人を送ってくださってありがとうございます。』
顔を見合わせるジャックウサギ獣人の戦士達。ジャックウサギ獣人の戦士Aは頭を掻く。
ジャックウサギ獣人の戦士A『あ、あの、俺達はこれで…。』
背を向けるジャックウサギ獣人達。ハイデイルは彼らに向けて手を伸ばす。
ハイデイル『暫し、お待ちください!』
ハイデイルは巨大リムジンに向かって駆けていく。巨大リムジンのリアドアの窓がスライドし、現れるクランケンシュタイン。
クランケンシュタイン『…どうだ?小石は宝石になりそうか?』
ハイデイル『お兄様。そんなことよりも…。』
眉を顰めるクランケンシュタイン。
クランケンシュタイン『そんなこと?交易路を開…。』
ハイデイルはジャックウサギ獣人の戦士達の方に手を向ける。
ハイデイル『見てくださいよ。クレール砂漠の戦士達ですよ。あは。ムカバ殿達を送ってきて下さったんですって!』
クランケンシュタイン『クレールの?』
クランケンシュタインはジャックウサギ獣人の戦士達の方を向く。クランケンシュタインは鹿の角を装備したクランを目に映す。クランケンシュタインを見るクラン。見開かれるクランケンシュタインの目。
ハイデイル『ああ、この場にスプリヴァがいないのが悔やまれます。同じ誇り高きもの同士…。』
クランケンシュタインは咳払いをし、目を細めて正面を向く。
クランケンシュタイン『私は用事があるのでこれで失礼するが、クレールの戦士は我が国にとって有益な客人だ。まだ日も高い。あの砂漠を疾走して来たのだ。腹も減っているだろう。この関所でランチをご馳走したまえ。』
微笑むハイデイル。
ハイデイル『はい。お兄様。』
巨大リムジンの窓が閉まり、エンジンの音を鳴らして消えていく。ハイデイルがジャックウサギ獣人の戦士達の傍らへ寄る。
ハイデイル『折角の機会です。どうですか?ランチでも。』
顔を見合わせるジャックウサギ獣人の戦士達。ジャックウサギ獣人の戦士Aが前に出る。
ジャックウサギ獣人の戦士A『折角のお誘い…。』
腹の音が鳴り響く。
ジャックウサギ獣人の戦士B『おいおい。折角、ここまで来たんだ。昼飯ぐらいいいだろ!』
ジャックウサギ獣人の戦士C『体動かなくなっちまうよ~。』
眉を顰めるジャックウサギ獣人の戦士Aはハイデイルの方を見つめる。
ジャックウサギ獣人の戦士A『では…お願いします。』
C5 セレノイア王国 END
C6 昼食
セレノイア王国。ポンポコポンの関所の城壁にハイデイルと共に上がるジャックウサギ獣人の戦士達。エルザが城壁の手すりに駆け寄る。
エルザ『うわぁ~。』
エルザの目に映るセレノイア王国の王都セレノイア。エルザは王都を行きかう女性の服装を見る。手すりに寄り王都セレノイアを見るジャックウサギ獣人の戦士達。
ジャックウサギ獣人の戦士Bが走っているレトロな車を指さす。
ジャックウサギ獣人の戦士B『おい、あれ、メッサ社のハイパーディラハンVじゃないか。』
チンプラ『え、どれどれ?』
ジャックウサギ獣人の戦士Aがレトロな車を指さす。
ジャックウサギ獣人の戦士A『あいつだ。あいつ。』
チンプラ『うわ~。』
クラン『かっこいい。』
ハイデイルが腰に手を当てる。
ハイデイル『すみません。本当はもっとしっかりした場所でおもてなししたかったのですが。』
騒ぐジャックウサギ獣人の戦士達。クランは下を向く。ポンポコポンの関所の料理長が現れ、ハイデイルを睨む。
ポンポコポンの関所の料理長『しっかりしてなくて悪かったな。』
苦笑いを浮かべて頭を掻くハイデイル。
ポンポコポンの関所の料理長『さ、客人にもてなしだ!!』
ポンポコポンの関所の料理長の後ろから現れる皿を持ったセレノイア王国の兵士達。セレノイア王国の兵士達はジャックウサギ獣人の戦士達に料理を配る。受け取るジャックウサギ獣人達。
ポンポコポンの関所の料理長『草食系にはとっておきのチモシーステーキだ!』
皿に乗ったチモシーステーキを見つめて笑顔になるジャックウサギ獣人の戦士達。彼らはチモシーステーキを食べる。
ジャックウサギ獣人の戦士A『美味い!こりゃ!!』
チモシーステーキを頬張るチンプラ。
チンプラ『美味しい。これ。』
エルザはチモシーステーキを食べて微笑んで、両手を頬に添える。笑顔になるハイデイル。
ハイデイル『良かった。お口にあったようで。』
ジャックウサギ獣人の戦士B『これはいけますな。』
ハイデイル『兄様の大好物なんですよ。』
クランがハイデイルの方を向く。
クラン『…兄様ってあの立派な車に乗ってた人ですか。』
頷くハイデイル。
ハイデイル『ええ。私たちの長兄です。ああ、この場に弟のスプリヴァがいれば戦士の皆様方と盛り上がったでしょうに。』
クラン『長兄?…似ているようには見えなかったけど。』
笑うハイデイル。
ハイデイル『あははは。それはそうですよ。兄様は人間、私はヴォジャノーイ。種族が全然違います。』
クラン『え、じゃ、なんで長兄なんて…。』
ハイデイルは顎に人差し指を当てる。
ハイデイル『それは、私たちは義兄弟の契りを結びましたから。』
ハイデイルを見つめ、チモシーステーキを一切れ食べるクラン。
クラン『…人間なのにこれが大好物…なんですか?』
ハイデイル『兄様は菜食主義者なんですよ。』
クランはハイデイルを見つめる。首を傾げるハイデイル。
ハイデイル『お口にあいませんか?』
クランは首を横に振ってチモシーステーキを食べる。
クラン『いえ、すごくおいしいです。』
ハイデイル『なら、良かった。』
微笑むハイデイル。
ポンポコポンの関所。城壁から手を振るハイデイルとセレノイア王国の兵士達。ジャックウサギ獣人の戦士達は彼らに向かって、手を振り、背を向けて去って行く。クランはポンポコポンの関所の方を何度も向く。エルザがクランの傍らに寄る。
エルザ『どうしたの?』
クランはエルザの方を向く。
エルザ『さっきから後ろばっか振り向いて。』
クランは首を横に振る。
クラン『いや、何でもない。』
エルザ『…そう?』
クラン『ああ、大丈夫。』
クランを見た後、エルザを見つめ、頬を膨らますチンプラ。
C6 昼食 END
END
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
・必要事項のみ記載。