No.64519

曹魏アフター・封神伝04

上弦さん

やっと魏のメンバーと一刀が合流できました。
だけど出演キャラ数が今までで一番多いだけあって疲れたorz

2009-03-21 16:01:54 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:9464   閲覧ユーザー数:6465

 南昌を出立して早数週間、一刀達は建業に到着していた。

 

「さて、やってまいりました呉の首都建業」

「お主がここに来たのは初めてか?」

「前に来たときは城内にしかいなかったから、そうなるかな?」

 

 赤壁の戦いの後、魏軍に負けた孫呉の軍は同盟していた蜀に亡命したため、次の戦いまでの拠点としていた。

 その間、城では軍の仕事をしていたし、華琳の恩師の墓参りで魏に戻ったりしていたので、街を直に見るのは入城のときを抜けば初めてになる。

 

「わぁ~、すごい広いね。南昌よりお店もたくさんあるし」

 

 壱与は、テンションを上げながら落ち着きなく、其処ら中の行商や店を見て回っている。

 確かに、建業の街はとても活気に溢れていて、道は子供が走り回り、他の民も笑顔でいる人が多かった。

 

「大したものじゃな。戦乱が終えたとはいえ、敗戦国の街がここまで活気づくとは」

 

 街の様子を見て久遠は感心の声を上げる。

 戦後、華琳は占領した国を重臣に統治させず、呉は孫策に蜀は劉備に統治させた。

 戦乱は治まったが統治者は変わらず、そのおかげで戦後に余計な混乱があまり起きなかったため、街の復興が迅速に行えたのだろう。

 

「確かに、平和そのものって感じだな」

「ふむ、乱世の奸雄とも覇王とも呼ばれていた曹孟徳が戦乱を治めたとは思えぬな」

「華琳は、そんな娘じゃないよ」

 

 我が儘で、誇り高くて、何事にもすごい強気で、なんでもできる完璧超人で…

 

「でも寂しがり屋な女の子なんだ」

 

 一刀の話を聞いて久遠は笑みを浮かべると首を竦めてやれやれと首を振った。

 

「やれやれ、惚気か。お暑いことじゃな」

「言ってろ」

 

 自分のセリフに急に恥ずかしくなった一刀は顔を赤らめてそっぽ向いてしまった。

 

「では、その想い人と一日でも早く再開できるよう、急いで船代を稼いでもらおう」

「稼ぐって…南昌での分じゃ足りないのかよ」

「足りんな。ここまでの路銀で、あと船代はあっても宿代がない、その逆もしかりじゃな」

 

 未来と違って、この時代だと頻繁といっても行き来する船にはかなり限りがある。

 

「そうなると、卑弥呼の手掛かりが探せないか」

 

(まぁ、あんなバケモノいればすぐ分かるがな)

 

「そうじゃな。…ところで壱与はどうした?」

「あれ?」

 

 久遠に言われて初めて近くに壱与の姿が見えないことに気づいた。

 歩いていた足を止め、周りを見渡すが先ほどまで行商の商品を見ている白い倭服を着た壱与の姿はどこにもいない。

 

「…はぐれたか」

「やばいかな。治安は良さそうだけど…」

「心配はあるまい。子どもではないんだ、歩いていれば、そのうち見つかろう」

 

 そう言って久遠は再び歩き出す。

 

「いいのかな、それで」

「そんなことより、働き口を探せ。このままだと長江を渡ったら野宿じゃぞ」

「なんで、命令口調なんだよ」

「主にお主と壱与が働くからじゃ」

 

 これまた、いけしゃあしゃあと、久遠はニート宣言する。

 

「いや、お前も働けよ。そうすれば給料三人分だろ」

「ゴホゴホ…。うぅ、持病の癪が…」

「いや、元気に歩いてたよね」

「こんな病弱な義姉を無理矢理働かそうだなんて…」

「その設定、まだ引っ張るんだ」

 

 わざとらしく胸を押さえながら、しおらしい演技をする久遠。

 道行く人たちの自分に向ける目が白いことに気づく。

 なぜ、誰もコイツの不自然さに気づかない。

 一刀は、心の中で周囲に突っ込みを入れながら肩を落とした。

 

「お~い。一刀く~ん!!」

 

 そうしていると、さっきまで姿を見せていなかった壱与が戻ってきた。

 その手には何か丸められたものが握られている。

 

「壱与。どこに行ってたんだよ心配したぞ」

「そんなことより」

 

 一刀の心配は、そんなことで片付けられた。

 

「一刀くんって、もしかして有名人?」

「は?なんだよ、いきなりどうした?」

 

 前触れもない質問に一刀は聞き返す。

 

「あのさ、向こうでこんなの落ちてたんだよね」

 

 そう言って壱与は握っていた紙を広げて見せた。

 紙に書かれていたものを見た瞬間、一刀の顔から血の気が急激に引いていった。

 

「なんじゃこりゃ~~~~!!!」

 

 

 魏の都、洛陽に建つ王城。

 その自室で華琳は一人、腰を下ろして政務に励んでいた。

 

「一刀が姿を消してから、もう一年になるのね」

 

 

 蜀呉との決戦を終え、戦乱が終えたことを祝して三国合同での宴会の最中、一刀は華琳の目の前から消えた。

 

 私に大陸を納めさせることが自身の天命だったと言って。

 

 一刀が消えたのが自分と二人だけのときでよかったかもしれない。

 あのときほど涙を流すことを我慢できなかったことはなかった。

 それほどに悲しかった。

 そして、それは自分だけではなかった。

 一晩中泣いたあと、家臣たちのところに戻り、一刀が天に帰ったことを全員に伝えた。

 

 

 自分と同じく泣き出すもの

 

 

 何も言わずに消えたことに憤るもの

 

 

 動揺を隠せないでいるもの

 

 

 反応はまちまちだったが、皆一刀がいなくなったことに悲しんでいた。

 凪や霞など一刀を探しに行くと言い出して聞かなかった。

 まったく、勝手に消えたくせに面倒な弊害を残してくれたものね。

 

『落ち着きなさい!!』

 

 この場にいる全員に、そして自分に言い聞かせるために声を張り上げて言う。

 

『忘れろとは言わない。けど、立ち止まることは許さないわ。一刀だけじゃない、これまでの戦の犠牲となった者たちに報いるためにも』

 

 そう、一刀は言っていた。

 この世界は自分の知っている歴史とは違うと、だから自分が見れないことを後悔するほどの素晴らしい国になるだろうと…。

 言われるまでもない。

 元より、そのつもりで自分の道を進んできたのだ。いまさら言われるまでもない、一刀が悔しがるほどの素晴らしい国にしてみせる。

 そして、なにより…

 

『一刀は必ず戻ってくる』

 

 そう、一刀は必ず私の元に戻ってくる。

 理由も根拠も必要無い。アイツは私、曹孟徳のものなのだから。

 

『もし、戻って来ないのであれば。私は私の所有物を奪い返すために軍を率いて天の国を攻めるつもりよ』

 

 ほしいものは必ず手に入れる、これまでも、そしてこれからも。

 

 

 あれから一年が過ぎた、魏、蜀、呉の関係は至って良好といえる。

 都を許昌から洛陽へ移し、戦後処理も各国の君主は変わらずだったため大して時間がかからなかった。

 一刀がいなくなったことで意気消沈していていた者たちも、元気を取り戻した。

 一刀が残していった天の国の知識の助けもあって、内政も順調といっていい。

 

「華琳さま」

 

 そんなとき、桂花が部屋に入ってきた。

 

「どうしたの?桂花」

「はい、張三姉妹の使いで波才が華琳さまに報告書を持ってきました」

「報告書?」

 

 確か、三人は呉の南昌へ興行に行っているはずだが、戻ってくるにしても早すぎる。

 それに報告書を提出するのに、天和や地和ならともかく人和が人を使ってくることは珍しい。

 まさか、何か不穏なことでもあったのだろうか…。

 そう思い、華琳は桂花から報告書を受け取るとすぐに内容を確認した。

 

「……」

 

 報告書を読んでいると華琳の表情が明るいものになったが、すぐに表情は不機嫌なものへと変わった。

 

「あの、華琳さま?」

 

 華琳の表情の変化に桂花は恐る恐る声をかけると華琳は無言で報告書を桂花に手渡した。

 桂花は受け取り、内容を確認する。

 

「な…!」

 

 報告書の内容に桂花は絶句した。

 

《私たちが南昌に到着する二日前に北郷一刀らしき人物が居たという情報を入手しました。顔と着ていたものなどを確認したところ本人である可能性が高いかと》

 

 一刀らしき人物を発見したという報告だった。

 桂花は天敵の戻ってきたという報告に嫌な顔をするが、一刀が居なくなって張り合いが減ったと感じていたため、嫌な顔をするものの、帰ってくるなとは思っていなかった。

 しかし、これだけの情報では、まだ本人である確証は薄いのだが、続きを読んで本人以外の何者でもないと感じた。

 

《聞いた情報によれば、北郷一刀は旅の途中途中で出会った女人に声を掛けながら共に許昌に向かって旅をしているもよう》

 

 本人だ、間違えない。なぜか、そう感じた。

 華琳が不機嫌になった理由も理解できた。

 急に姿を消して、また急に戻ってきたと思えば、手紙もよこさずに女人を連れて旅をしているときた。

 これで、怒るなというほうが無理な話だ。

 

「桂花、南昌を出た後の一刀は何処に向かうと思う?」

「普通に考えれば長江を渡るために建業だと思います」

「そう、建業には真桜が行っていたわね。なら桂花、霞を呼びなさい」

「はい、華琳さま」

 

 桂花は返事をすると、城内にいるであろう霞を呼びに華琳の自室を出て行った。

 桂花がいなくなり、自室で一人になると嬉しさと怒りの入り混じった微妙な表情になる。

 自分だけでなく春蘭たちにも悲しい思いをさせたというのに、当の本人は女の子を連れて旅をしているときた。

 一刀の気の多さは知っていたが、やはり納得できないところがあるのは事実だった。

 

「さて、あの馬鹿にはどうけじめをつけてもらおうかしら」

 

 

 

 

 

―――――と、いうのが一刀たちが建業に到着する前の洛陽でのやり取りだった。

 ちなみに、桂花に人和からの報告書を渡したあと、波才は事務所に辞表を置いて姿を消したことが知れたのは、もっと後のことだった。

 

 

―――――そして現在、建業にて…

 

「だぁーー!!一体全体、何がどうなってるんだ!!」

 

 一刀は建業の街中を全力疾走していた。

 そして、その後ろから複数の警邏の兵士が追いかけてきている。

 

「俺が何したっていうんだ!!」

 

 慣れない街中を右へ左へ必死で走り、追いかけてくる兵士から逃げきろうとする。

 ちなみに兵士から逃げているのは一刀だけで一刀の周囲に久遠と壱与の姿は見えない。

 そもそも、一刀が何故追われているかというと、壱与が拾ってきた紙が原因だった。

 

 壱与が持ってきた紙は手配書だった。

 その手配書には一刀の似顔絵と一緒に『この者、女人を騙し、心身を弄んだため見つけ次第捕縛せよ』と書かれていた。

 これを見たとき、一刀は訳が分からず呆気に取られた。

 やっとの思いで戻ってきたと思ったら指名手配されていて、まるで自分が結婚詐欺をしたかのように書かれている。

 そして、呆気に取られていると少し離れたところで同じような大きさの紙を持った兵士がこっちを見ている。

 

 この後の展開は容易に予想できた。

 兵士が持っていた紙は手配書で、そこに描かれている顔と同じ顔の人物が居たのなら勿論、追いかけてくる。

 久遠たちはというと、兵士たちが来た瞬間に我関せずと他人のふりをして壱与を連れて何処かへ行ってしまった。

 そして、兵士から逃げる一刀。その結果、現在のような逃走劇が繰り広げられていた。

 

 

「騒がしいわね。なにかあったのかしら?」

「この前、魏から送られてきた手配書の者を見つけたらしい」

 

 そんな逃走劇を偶然、街に出ていた孫策と周瑜が見つけた。

 

「ああ、あの天の御遣いの子」

「その偽物だろう。本物なら手配書など送ってこないだろう」

 

 しかも、しっかり罪状は結婚詐欺とつけてきた。

 

「なら霞まで送ってくる必要ないじゃない。顔の確認のためなら真桜が来てるんだし」

「では、雪蓮は本物だと?」

「だと思うわよ。真桜も楽しそうに何か作ってたし」

 

 技術提供として派遣されてきていた真桜が霞と手配書が送られてきてからというもの、時間の合間に全く関係のないものを作っているところ何度か目にしていた。

 しかも、かなり楽しそうに…。

 真桜は、技術の腕はともかく性格がアレなぶん、造ったものの餌食になるであろう天の御遣いには同情せざるえない。

 

「…………」

「何を考えているの?」

「あら、分かる?」

「そんな顔していれば、誰だって分かるわ」

 

 雪蓮は艶やかで、同時に獰猛な笑みを浮かべている。

 

「ちょっと、興味あるなぁって思ってね」

 

 雪蓮が初めて一刀を見たのは反董卓連合のときだった。

 そのときの印象としては胡散臭いといったところだった。文官としては分からないが、武に優れているとは、とても見えなかった。

 分からないことがあるとすれば百合趣味で有名な曹操が男を側に置いているかということぐらいだった。

 しかし、その後の魏の躍進。まるで天が味方しているかのように勢力を拡大していった。

 そして、赤壁での戦い。冥琳と諸葛亮、そして祭しか把握していなかったはずの策をまるで最初から知っていたかのように看破してきた。

 後に曹操本人から聞いたところ天の御遣いがもたらした天の知識だったという。

 

「宴会のときはずっと華琳の近くだったから、ほとんど話せなかったしね。冥琳だって気になるでしょ、自分の策を破った張本人がどんな人間なのかとか」

「たしかに、そうね」

 

 

「ハァ…ハァ…ゼェ…ゼェ…」

 

 追って来る兵士をうまくまいた一刀は建物の影で壁に寄り掛かって座りこんでいた。

 警邏の仕事や春蘭に追いかけられたりで体力には自信があったのだが、6人の警邏兵をまいて、体力の限界が近かった。

 むしろ、この慣れない街で、その国の兵士を相手に捕まらなかったことは奇跡に近い。

 

「ってか、なんで逃げなきゃなんないんだよ」

 

 事情を話せば、誤解だと分かってもらえたかもしれない。

 …のだが、自分が書かれた手配書と追って来る警邏兵を見た瞬間、思わず逆方向へ逃げてしまった。

 

「まったくだ、武器さえあれば、あの程度の人数に甘寧が加わったところで…」

「いや、そこで反撃したら騒ぎが大きくなるだろ」

 

 その上、言い訳不能な罪状が追加される。

 

「何を言う。何の抵抗もせずに逃げるなど武人の恥だ」

「久遠は、武人じゃなくて軍師だろ」

「久遠とは誰のことだ?」

 

 返ってきた返答を聞いて気がついた。

 自分が追われると同時にすぐに他人のふりをして壱与を連れて何処かへ行ってしまったことを…。

 あのとき、一瞬だったがこちらを見てチェシャ猫のような笑みを浮かべていたことを思い出した。

 

(あいつ、覚えてろよ…。ってか。じゃあ、今の声はいったい)

 

 久遠に報復を誓いながら、今の今まで会話していた相手が誰だったのかと横を見た。

 そこには髪を短く揃えた、精悍な顔の美少女がいた。

 一刀は、その少女をどこかで見たことがあるような気がした。

 

(武人っていってたな…)

 

 記憶の中の三國志の登場人物を思い出していく。

 

 とりあえず魏の人ではない…。

 

 なら、蜀、または呉か?

 いや、三国合同の宴会のときに見た覚えはない。

 

 なら、袁紹か袁術のとこか?

 いや、袁紹のとこなら顔良と文醜、袁術のとこなら張勲しか見た覚えがない。

 

 なら残るは…。

 

「!!」

 

 思い出した。

 董卓軍で霞と呂布、あともう一人いた人物…。

 

「…華雄か」

 

 遠くから見ていたので、あまりよく覚えていなかったが、確か汜水関で関羽と戦っているの見た覚えがある。

 最後、呂布と一緒に逃げたって聞いてたけど、劉備さんとこにもいなかったから死んだのかと思っていた。

 

「お前は――!」

 

 華雄は一刀の顔を驚きの表情になるが…

 

「…………………誰だ?」

 

 うん、言うと思った。

 一刀は遠くから華雄が戦っているところを見ていただけだし、華雄が一刀の名を知るはずもない。

 そんなときだった。聞き覚えのある声が響いた。

 

「見つけたで、隊長!!」

 

 真桜だった。

 この世界に戻ってきてひと月、やっと再会を願っていた皆の一人に会うことができた。

 しかし、一刀は真桜の持っている『モノ』を見た瞬間に血の気がひいた。

 

 アレは……ヤバイ…。

 

「く、もう見つかっ…って、おい!」

 

 なにも言わずに脱兎の如く逃げ出した一刀を華雄が追いかける。

 

「貴様、戦わずに逃げるとは何事だ!!」

「うるせぇ!!こっちにも事情があるんだよ」

 

 真桜が持っていたというか担いでいたアレ。

 愛用の螺旋槍ではなく、いくつかの意味ありげな飾りのついた木筒、一刀にはそれが木製バズーカのように見えた。

 しかも、真桜はそれを使う気満々のように一刀には見えた。

 

「フフフ…。逃がさへんでぇ、隊長。そっちに行ったで姐さん!!」

 

 真桜の合図とともに全力疾走する一刀の前に今度は霞が立ちふさがった。

 

「逃がさへんで一刀!!…って、なんで華雄までおんねん」

「「霞!!」」

 

 逃走方向を塞がれたことで一刀と華雄は足を止めてしまった。

 それがいけなかった。

 真桜は担いでいた木筒の穴の開いている方を一刀たちに向ける。

 

「大当たりやで、隊長!!」

 

 そして、突起を押すと穴から勢いよく何かが打ち出された。

 木筒から打ち出された何かは見事に一刀、そして華雄を巻き込んで命中した。

 

「なっ!!うおッ!!」

「ちょっ、待て真お…うわぁぁぁ!!」

 

 木筒から打ち出されたものが命中した瞬間、全身に衝撃が受けると同時に何かが張り付いたように動けなくなった。

 

「なっ、なんだこれは!?」

 

 見れば、白い粘着性のあるモチのようなものが体にくっついていた。

 巻き込まれた華雄も何とか動こうと足掻くが全く動けないらしい。

 

「これって、とりもちか?」

「せやで。これがあれば暴れてる酔っぱらいも逃げ足の速い盗人も一発や」

「真桜」

 

 地面に貼りついて動けない一刀を見下ろしながら真桜が発明の説明をする。

 

「にしても華雄とも一緒とは…。相変わらずの種馬っぷりやなぁ」

「霞」

 

 霞が呆れ顔で近づいてきた。

 

「まったく、帰ってきたんなら手紙くらい出しい。どんだけ、うちらに心配かける気やねん」

「ごめん」

 

 言われてみれば確かに戻ってきてから、野宿をしながら歩き続けてきたわけではない。

 南昌で下宿しているときに華琳達に連絡することもできた。

 すると、霞は一刀の前にしゃがむと一刀の額を小突いた。

 

「イタッ」

「ちゃうやろ。謝る前にもっと言わなあかんことがあるやろ」

「まったくや、隊長なんで普段できてることが、やろうとするとできないんやろな」

 

 華琳にも前に同じことを言われたような気がする。

 つまり、空気を読めってことか。

 霞に小突かれた額の痛みが何故か嬉しくて、無意識に笑みがこぼれる。

 たしかに、謝罪の前に帰ってきたのなら言わなければならないことがある。

 

「……ただいま」

 


 
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