No.645072

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百四話 勇紀の決意と各々の戦況

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-12-14 07:53:05 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:25379   閲覧ユーザー数:22135

 ~~キンジ視点~~

 

 「オルメス、遠山キンジ。立ちなよ。銃弾は届いてない(・・・・・)んだろ?」

 

 やや男口調気味の理子……裏理子(俺呼称)の鋭い視線が地面に仰向けで倒れている俺とアリアを交互に見ているのが分かる。

 

 「…まあ、届いてはいないな」

 

 「防弾制服(・・・・)ナメンじゃないわよ理子」

 

 俺、アリアはゆっくりと身体を起こす。

 俺達が着ているのはただの制服じゃなく銃弾ですら完全に貫通するのは難しい防弾性の制服だ。

 けど意外に大きく衝撃を受けたので仰向けに倒れた訳だけど。

 

 「しかし躊躇も無しに心臓狙ってくるなんてお前…」

 

 「そりゃあ殺すつもりで狙ったんだ。あたしの未来が懸かってるんだからね」

 

 うわぁ……少しは躊躇いがあっても良いと思うんだ俺は。

 

 「けど今度こそは確実に殺す」

 

 冷たい視線を当ててくる理子。

 

 「悪いが、殺されるつもりはないな」

 

 「そうよ。アンタに風穴開けるのはあたしの役目なんだから」

 

 既に銃を構えて言うアリア。

 …だから殺したらいかんと言うのに。

 

 「無理無理。今のオルメスとキンジの腕じゃああたしには勝てない。例えキンジがヒスっていてもね」

 

 「『ヒスって』?何の事?」

 

 あ、そういやアリアにはヒステリアモードについては詳しく話してなかったっけ。

 今はそんな事を話してる余裕なんて無いけどな。

 

 「…理子。俺達はここでお前を止めるぞ」

 

 「やれるもんならやってみな!」

 

 再び引き金を引こうとする理子だがアリアが先に発砲する。

 狙いは理子の左腕の様だ。

 

 「甘い!!」

 

 だが、理子は半身をずらして銃弾を回避する。

 銃弾避けるとか…マジかよ。

 

 「チッ…心臓狙ったつもりだったのに」

 

 「お前本当に武偵としての自覚あんのか!!?」

 

 舌打ちして心底悔しがるアリアに思わず突っ込む。

 左腕を狙ったと思われた一撃は心臓狙ってたとか…。

 

 「オルメスゥ~、今の台詞、学校で先生にチクったらどうなるか分かってんの~?」

 

 理子は裏理子から一転、いつもの理子らしい口調でアリアに言葉を投げる。

 

 「うっさいわね。ここでアンタは正当防衛って事であたしに殺されるから別に良いのよ!『死人に口なし』って言葉ぐらい知ってるでしょうが!!」

 

 「……キーくん。これじゃどっちが犯罪者なんだか分からないんだけど?」

 

 「うん、マジ済まん」

 

 俺がアリアの代わりに謝る。

 何ていうか…アイツを武偵にしておくのはとても良くない気がする。

 

 「キンジ!!アンタも理子と会話なんかしてないで風穴開けるのに協力しなさいよ!!」

 

 …誰かアイツを止めてくれ。

 

 「キーくん…」

 

 理子は同情するかの様な視線を向けてくる。

 

 「お願いします。抵抗止めてお縄について下さい」

 

 もう土下座でも何でもするから。

 

 「うーん…キーくんには申し訳ないけど『自由』と『キーくん』を天秤にかけるなら私は『自由』を選ぶから。ゴメンね~」

 

 ですよねー。

 

 「さてさて…無駄なお喋りはこのぐらいにしてそろそろ……っ!!?」

 

 ドサッ

 

 それは突然の事だった。

 理子は再び俺達に攻撃するため、構えようとした所でその身体がゆっくりと前のめりに倒れ、地面に伏していたのだ。

 一体何が?

 

 「遠山君、神崎さん。少しの間、動かないで下さいね?」

 

 そこへ第三者の声が響き、ゆっくりとその姿を現す。

 ……何で、アンタが?

 

 「小夜鳴…先生?」

 

 アリアも突然の乱入者を信じられないモノを見たかの様に目を見開いている。

 俺達の前に現れたのは武偵校の非常勤講師である小夜鳴徹だった………。

 

 

 

 ~~キンジ視点終了~~

 

 「オラオラァ!!どうしたモブゥ?」

 

 「……………………」

 

 現在俺は転生者と絶賛バトっている最中。

 

 「死ね!!」

 

 転生者は思いきり拳を振るうが、簡単に躱せる。

 コイツの身体能力はそこそこあるけど脅威と思える程ではない。

 ただ…

 

 「アルテミス…」

 

 一端距離を取って俺は魔力弾を10発、転生者に向けて放つ。

 

 「ハッ!馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか出来ねえのか!!」

 

 奴は左手に手を突っ込むとポケットからコインを取り出し、指で弾く。

 

 バシュバシュバシュ!!

 

 アルテミスが弾かれたコインにぶつかると、相殺される。最初の先制攻撃もこれで凌がれた。

 うーん…『ネギま』で龍宮が使用していた『羅漢銭』みたいな技だが、どこか違う様な…。

 コイツがコインを弾く際に何らかのエネルギーを付与させて放っているので羅漢銭とは威力が段違いだ。

 

 「ガハハハ!どうよ、俺様の『超電磁砲(レールガン)』は?テメエのチャチな能力なんざ通用しねえんだよ!」

 

 超電磁砲(レールガン)

 それがあのコインを弾いて攻撃する技、又は能力の名前か?

 

 「(威力はアルテミスとほぼ同程度か…)」

 

 なら次は数と速度より威力を重視してみるか。

 

 「ヘパイストス…」

 

 今度は砲撃魔法で攻めてみる。少なくともあの超電磁砲(レールガン)とやらで相殺出来る威力では無い。

 

 「攻撃パターンが変われば良いってもんじゃねえよオラァ!!」

 

 転生者の奴は今度は右手で俺のヘパイストスを殴る。すると…

 

 バチイイインンンンッッッッ!!!

 

 ヘパイストスが相殺……いや、消滅した(・・・・)

 

 「俺様にHGSは通用しねえんだよモブ!!どんな能力も打ち消す俺の右手、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』がある限りなぁ!!!」

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)……。

 また俺の知らない単語が出て来たよ。

 

 「(奴は『どんな能力も打ち消す』とか言ったな。つまり唯我独尊(オンリーワンフラワー)を右手に集約したバージョンとでも考えればいいか)」

 

 おそらくイージスを展開しようが、鋼鉄乙女(アイアンメイデン)を使おうが、あの右手で殴られればキャンセルされるだろう。

 …じゃあ次は近距離戦で。

 俺は禁猟区域(インポッシブルゲート)でヤツの眼前に転移し、拳を振るうが

 

 「テメエの行動は視えてんだよ(・・・・・・)!!!」

 

 俺の拳は空を切る。

 奴は身体をかがませて俺の攻撃を躱したのだ。

 

 「オラァ!!!」

 

 今度はかがんだ状態から拳を振り上げて俺の顎先に奴の拳が迫る。

 しかし

 

 「鉄塊」

 

 避ける事は出来ず、かといってイージスや鋼鉄乙女(アイアンメイデン)は効果を打ち消されるだろうと予測してる以上、亮太に習っていた六式で敵の攻撃を受け止める。

 六式がどれぐらい使える様になってきたか試す機会でもあるしな。

 

 バキイッ!!

 

 ヤツの右腕は正確に俺の顎を捉えたが

 

 「ぐうっ!」

 

 鉄塊は無効化されず、転生者は苦悶の表情を浮かべる。

 やはり唯我独尊(オンリーワンフラワー)同様に体術まで無効化する事は出来ないみたいだな。

 一旦距離を取った転生者は左手で殴った右手を擦りながら俺を睨む。

 

 「モブのクセに頑丈さだけはぴか一ってか?てかテメエ、今『鉄塊』って言ったか?それはワンピースの六式だった筈……っ!!!テメエも転生者か!!!」

 

 ほう…コイツは西条と違ってワンピースの原作知識を持っていたのか。

 

 「だったらどうだって言うんだ?」

 

 「けっ!モブ転生者の分際でいい気になってんじゃねえぞ。それに思い出したぜ。テメエが妙な光を放つ時に浮かんでいた魔法陣…アレは『リリカルなのは』のミッド式魔法陣だって事をな。てー事はこの『とらハ』世界には『リリカルなのは』の要素が混じってるって事だろうが」

 

 逆だよ逆。『リリカルなのは』の世界に『とらハ』要素が混じってんだよ。

 

 「しかし…そうかそうか」

 

 だが、その事実に気付いた転生者はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「『リリカルなのは』は俺も観ていたぜ。て事はフェイトやはやてと言った原作の主要キャラにアリサやすずかもいるって事だよなぁ」

 

 「それがどうした?」

 

 「ガハハ…とらハキャラは全員俺様の性奴隷にするつもりだったが…決めたぜ。リリカルなのはのキャラも纏めて俺様の性奴隷に加えてやるぜ」

 

 あ?

 

 「まずはここで美由希とフィアッセ、それにゆうひやアイリーンだな。ファンの奴がフィアッセの誘拐に成功したらアイツをぶち殺して俺様のモノにするつもりだったし」

 

 見ていて胸糞悪い笑みを浮かべながら上機嫌になった奴は喋る。

 

 「で、今挙げた奴等の調教が済んだら今度は海鳴に残っている連中だ。晶、レン、那美、忍、ノエル……ああ、後は久遠に桃子だな。そこへなのはを始めとするリリカルなのはキャラ達。調教のし甲斐があるねぇ」

 

 「……………………」

 

 「ガハハハハ、今から楽しみで仕方ないぜ。原作キャラはどいつもモブの女共とは比べ物にならないぐらいの上玉だからな」

 

 「お前は…」

 

 「あん?」

 

 「お前は何故そんな風に……女性をモノの様に扱える?それ程の能力(チカラ)があれば犯罪に加担したり、自らが犯罪者にならなくても充分裏の世界で生きていける筈だ。なのに何故…」

 

 「はあ?んなもん俺様が生きたい様に生きてるだけだ。食いたい物を好きなだけ食って金がほしくなりゃ、そこら辺の家の住人ぶっ殺して奪えばいい。ヤリたくなったら適当に女を襲って犯せばいい。ただそれだけの事だ」

 

 「…そんなテメエの自分勝手な都合で一般人の女性に手を掛け、殺したってのか」

 

 「あ?よく知ってるじゃねえか。それがどうした?モブの女なんて世の中に腐る程いるじゃねえか。たかが数十人ぐらい死んだからって気にする程じゃねえだろ。人間なんて勝手に沸いてくるんだからよ」

 

 「…それで飽きたらフィー姉達も殺すってか?」

 

 「フィー姉?まさかフィアッセの事か?テメエ、モブの分際で何馴れ馴れしく呼んでんだ!!」

 

 「どうなんだよ?」

 

 「原作キャラを殺す訳無いだろうが。全員たっぷりと可愛がるに決まってんだろ」

 

 まるで悪びれる素振りも見せず、俺と会話する転生者。

 ああ……よく理解したよ。

 

 「お前は…生かしておけない。ここで俺が引導を渡す」

 

 戦いながら日輪庭園(ヘリオスガーデン)を使い、ヤツの心の色を見た。

 全てが『欲望』に染められていたが、それでもコイツに『良心』が少しでも残っている事を信じて。

 だけどそういった小さな可能性も完全に潰えた今、俺は決意する。

 今までは非殺傷設定のまま戦っていたが…

 

 「ダイダロス…俺の魔法、レアスキル、宝具全てに掛けている非殺傷設定を解除してくれ(・・・・・・)

 

 「……良いの?」

 

 「ああ…もうアイツを殺す事に躊躇いは無い」

 

 フィー姉達の未来をあんな奴のせいで絶望に染めさせたくはない。

 俺がこの手を血に染める事で皆の未来が守れるのなら…

 

 「俺は………喜んで人を殺めよう(・・・・・・・・・)

 

 「……了解だよ。ユウ君の全能力(スキル)に関する非殺傷設定の解除開始」

 

 地球(ここ)は管理外世界。管理局の法が適応されないならば自己判断での非殺傷設定の解除に関しても基本罪には問われない。

 

 「どうしたモブ?かかってこねえのか?まあ、かかって来た所で無駄だけどな。俺のギアスは未来を読むんだからよ(・・・・・・・・・・・・・・)。テメエの行動は手に取る様に分かるぜ」

 

 コイツは自分の能力についてペラペラとネタバレしてくれる。

 未来を読むギアス…ね。

 『コードギアス』の『ビスマルク』が所有してたやつか。

 そういや、奴が攻撃を躱す瞬間は左目に紋様が浮かんでたな。

 

 「(けどコイツ、『未来を読める』とは言ってるが、鉄塊を使った時は普通に殴ってきたよな?)」

 

 もしかして『攻撃に移る際は未来を読めない』とかいうデメリットでもあるのか?

 デメリットが無ければ常時、ギアスを使いながら戦えば無傷で勝てるだろうし。

 ていうか未来を見て尚、殴りに来てたとなるとコイツはアホだ。

 …けど未来を読む、か。ならコイツの回避能力の高さにも納得がいく。俺が攻撃を繰り出す前には回避や迎撃の体勢を取っていたからな。

 だが転生者にとっては誤算だろうな。

 未来を読めるのはお前だけじゃない(・・・・・・・・)

 

 「……ユウ君、全能力(スキル)の非殺傷設定を解除したよ」

 

 「了解だ」

 

 ボウッ!

 

 俺は自身の周囲に天火布武(テンマオウ)の炎を顕現させる。

 

 「炎を纏いし不死鳥よ。我が前に立つ塵芥を灼熱の業火で焼き尽くせ」

 

 炎は徐々にその姿を不死鳥に変えていく。

 

 「食らえ!カイザーフェニックス!!」

 

 俺は不死鳥の姿を形どった炎を転生者に向かって放つ。

 

 「だから俺様に異能は効かねえんだよ!!」

 

 奴は当然の如く右腕を突き出そうとする。

 カイザーフェニックスを迎撃する奴に対し、俺は次の行動を取っていた………。

 

 

 

 ~~美由希視点~~

 

 キイインッッ!!キンッキンッ!!!

 

 金属同士がぶつかる甲高い音が周囲に響く。

 地を、天井を、壁を蹴りながら私と刺客の男はその刃を相手に一太刀入れようと何度も交差、激突する。

 

 「はははははは!!!良い、良いぞ!!!これだ!!こういう死合いを俺は待ち望んでいたんだ!!!」

 

 戦いながら歓喜の声を上げる刺客。

 

 「(この人、パワーに関しては私はおろか、恭ちゃん以上だ!!)」

 

 正直、刺客と打ち合う度に少しずつだが腕が痺れ始めて来ていた。

 刺客の彼が振るう一撃は凄まじく剣風だけで壁を破壊する程だ。

 一方、スピードに関しては私が上回っている。けど相手の反射神経、勘も相当のものである。

 時折、攻撃を当てる事は出来るが、全て浅い傷を負わせる程度であり、決定打となる様な一太刀を入れる事が出来ない。

 

 「だがまだだ!お前の実力はこんなものじゃ無い筈だ!!見せてみろ!!御神の剣技を!!!」

 

 ブオンッ!!

 

 「くっ…!」

 

 ガキインッ!!

 

 刺客が振るう剣を辛くも受け止め、距離を取る。

 ここで『ふぅ…』と小さく一息吐き、静かに構え直しながら冷静に相手を見据える。

 

 「(私の神速が捉えられてる。どうしても致命の一撃が入れられない)」

 

 私が使う神速はまだ父さんや恭ちゃんのものとは違い、完全なものとは言い難い。それでも充分に速いとは思うけど目の前の刺客には通用していない。

 

 「(このままじゃダメだ。もっと速く…もっと深く相手の懐に飛び込まなければ…)」

 

 しかし神速の複数回使用による反動で身体に負担が蓄積し始めてる。このままじゃヤバいのは分かってる。

 けど相手も最初の頃より多少動きが鈍っている。浅い傷とは言え、ダメージは少しずつ与えてるんだ。

 ギュッと刀を握る手に力が籠もる。

 持久戦になれば私の方が先にスタミナが切れるだろう。そうなれば私の負けだ。

 ここで……決めて見せる!!

 

 「良いぞ、その目。決意や覚悟を決めた目だ。さあ、どんな技を見せてくれる?」

 

 相変わらず上機嫌なまま大剣を構え、コチラを注視している刺客。

 お互いに動かず、ただ相手の隙を窺っている。

 静寂が空間を支配する中……私が先に動く。

 

 「っ!!!」

 

 ダンッ!!

 

 力強く一歩を踏み出し、刺客に向かって駆ける。

 

 「ククク…来いよ、来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!!!」

 

 刺客は微動だにせず、私が接近するのを待っている。

 距離が縮まっていく中、

 

 「……神速!!」

 

 集中力を極限にまで高め、あらゆる動きの流れがスローに見える御神流・奥義の歩方(未完成版)を私は再び発動する。

 

 「その高速移動は既に見切っているぞ!!」

 

 刺客も大剣を振り上げ、私の神速にピッタリのタイミングで

 

 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!!」

 

 振り下ろす。

 私の眼前にはゆっくりと大剣が迫ってくる瞬間が見えていた………。

 

 

 

 ~~美由希視点終了~~

 

 ~~エリス視点~~

 

 「くっ…コイツ等、キリが無い!!」

 

 今現在私達の前にゾンビの様に群がってゆっくりと近付いてくる麻薬中毒者(ジャンキー)達。

 銃による威嚇は意味を成さず、かと言って手当たり次第に発砲して殺しては後味が悪い。

 私、妙子、設子の3人は敢えて銃は使わず素手による格闘だけで1人、1人の意識を刈り取っていくが

 

 「ハア…ハア…」

 

 「全く…しつこい殿方達ですわね」

 

 妙子は息を切らし始め、涼しげな顔をしてる設子も少し肩が上がっているのが分かる。

 そういう私も徐々に呼吸が荒くなり始めている訳だが。

 コイツ等…全員倒したと思ったら階段から上がって来た新手がフロアに現れるので、私達はフィアッセを連れてこの階から移動する事が出来ないでいた。

 

 「このままイタチごっこを続けていたら私達の体力が先に尽きてしまう」

 

 相手の人数に対し、3人だけというのがキツ過ぎる。

 

 「出来れば誰か援軍に来て貰いたいのだが…な!!」

 

 ドガッ!!

 

 「来ないって事は皆、別のフロアで戦ってるって事でしょう…ね!!」

 

 ズダアンッ!!

 

 肺への一撃を決めて沈めたり、一旦相手を投げ飛ばしたりと、とにかくフィアッセに近付かせない様にして戦う。

 全く……こんな連中相手に手こずっていてはいけないというのに。

 敵側にはまだブラドもいると分かっているのだ。交戦する事になるのも考慮すると無駄に体力を消費するのは止めたいのだ。

 

 「…そのブラドがここに現れないという事は別の誰かが相対していると考えていいのでしょうか」

 

 「多分ね。出来れば勇紀君と相対してくれてたら希望はあるんだけど」

 

 長谷川勇紀……か。

 フィアッセやティオレさんの後押しがあり、あの長谷川泰造の息子とは言え、正直中学生の彼に何が出来るのか疑問だった。

 だが、その認識は改められる事になったが。

 この妙な空間になってから人の気配がほとんど消え、私達が護衛するのがフィアッセ1人に絞られる事になったからだ。

 しかし…

 

 「(何故フィアッセだけこの空間に残したんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?)」

 

 他のスクールの生徒達同様に避難させ、私達護衛役だけを残すのがベストな案だと思う。

 だがフィアッセは事実、この空間内に残っている。

 私達の側にいる方が安全度が高いと思ったのかあるいは…

 

 「(フィアッセが取り残されたのは彼にとっても予想外の事なのか?)」

 

 …今、考える事ではないか。まずはこの連中を……

 

 「キャアアアアァァァァァァッ!!!

 

 !!?

 

 「フィアッセ!!」

 

 突如私の耳に聞こえたフィアッセの悲鳴。

 私が振り返るとフィアッセの側には1人の男がいた。

 

 「ミス・フィアッセ。君を迎えに来たよ」

 

 男はフィアッセの手首を掴み、強引にどこかへ連れ去ろうとしている。

 

 「動くな。フィアッセの手を離せ!!」

 

 すぐさま銃を構え、銃口を向けるが

 

 ヒュッ

 

 男は私達の方へ何かを投げてくる。

 それと同時にフィアッセの手を引いて麻薬中毒者(ジャンキー)達のいる方向とは逆の方へ走り出す。

 

 コンッ…コンッ…コロコロ…

 

 投げた物は何度か地面にバウンドしてから転がってくる。

 これは……手榴弾!?

 麻薬中毒者(ジャンキー)達とまとめて私達を吹き飛ばす気か!!

 

 「妙子!!設子!!急いでここから離れろ!!」

 

 私は叫ぶ様に大声で2人に指示を出す。

 2人もコチラの状況を見ていたからすぐに理解したのだろう。迷わずに頷いた後

 

 「「はああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」

 

 ドガガガガッ!!

 

 進行上の邪魔になる麻薬中毒者(ジャンキー)達だけを殴り飛ばして道を作り、強引に突き抜ける。

 私もすぐに2人の後を追おうとするが

 

 「「「「「「「「「「えひゃひゃひゃひゃ……」」」」」」」」」」

 

 残りの麻薬中毒者(ジャンキー)達が通せんぼをする様に立ち塞がる。

 

 「(マズい!!このままじゃ……)」

 

 コイツ等をどけている内に手榴弾は爆発するだろう。

 

 「(どうする?)」

 

 フィアッセを連れてあの男が逃げた方へ行くか?

 だがそれだと確実に手榴弾の爆発に巻き込まれる。

 

 「(どこか…避難出来る場所は……)」

 

 避難場所を探している私の目に入るのは個室の扉。

 急いでドアノブを回すが、鍵が掛かっており、ガチャガチャと音が鳴るだけで扉が開く気配は無い。先程麻薬中毒者(ジャンキー)が待ち伏せていた個室の扉までは多少距離がある。

 しかも麻薬中毒者(ジャンキー)達は手榴弾の事などおかまいなしに私に迫ってくる。

 コイツ等のせいでほとんど移動も出来ず、刻一刻と時間だけが過ぎていく。

 

 「(くっ…!万事休すか!)」

 

 もう逃げる時間が無いと悟った私は目を瞑った。

 死を覚悟した……のだが手榴弾は一向に投げられてから爆発する気配が無い。

 

 「(おかしい)」

 

 私はそっと近寄って手榴弾を拾い上げる。

 

 「…………やられた!!!」

 

 この手榴弾……見た目が本物っぽいだけで爆薬や信管の類は一切無い。

 これが本物だと誤認させるのが奴の目的だったんだ!

 

 「妙子!設子!これは手榴弾じゃない!!偽物だ!!」

 

 私が大声で叫ぶとすぐに2人は姿を現す。

 麻薬中毒者(ジャンキー)達の何人かが2人に向かい、向こうでも再び戦闘が始まる。

 

 「エリスさん。ここは私と設子で抑えますから、フィアッセさん達の後を追って下さい!」

 

 「なっ!?無茶だ!まだコイツ等は結構残っているし、君達もかなり動いて体力を消耗してるだろう!」

 

 「大丈夫です。避難した時に少し休憩しましたから!」

 

 「そんな短い時間身体を休めてもほとんど回復してないだろ」

 

 「でもこのまま足止めされていたらフィアッセさんを追えなくなります!!」

 

 妙子の言う事はもっともだ。

 ここを2人に任せ、私だけでも今から追わなければフィアッセと奴を見失ってしまう。

 だが、体力を消耗してる2人に麻薬中毒者(ジャンキー)達全ての相手をさせるのは……。

 

 「っ!エリスさん!!」

 

 「っ!?」

 

 設子の声でハッとすると麻薬中毒者(ジャンキー)の1人が私に向かって拳を振り下ろしていた。

 しまった!!避けられない!!

 

 バキイッ!!!

 

 鈍い音が廊下に響く。

 ………が、殴られたのは私ではなく、私を殴ろうとしていた麻薬中毒者(ジャンキー)だった。

 

 「「っ!!!」」

 

 麻薬中毒者(ジャンキー)を殴ったのは妙子でも設子でもない。彼女達は未だに他の麻薬中毒者(ジャンキー)達に阻まれているからだ。

 殴られた麻薬中毒者(ジャンキー)は崩れ落ちて倒れ、動かなくなる。……死んではいないようだ。

 

 「ふむ……間一髪といった所か」

 

 麻薬中毒者(ジャンキー)を殴った者が口を開く。

 

 「っ!!誰だ!!」

 

 私はすかさず銃を構え、突然乱入してきた者を睨む。

 見た所女性の様だが、何処から現れたんだ?

 

 「落ち着け。私はお前達の敵じゃない。今回の一件はある人物に頼まれたから協力しに来たのだ」

 

 「ある人物だと?」

 

 誰の事だ?

 

 「長谷川勇紀。そう言えば分かるだろう?」

 

 「っ!彼の知り合いなのか!!?」

 

 私の口から出た言葉に頷く女性。

 確かに美由希やイレインといった腕に覚えのある者達を彼は連れて来てくれたが、まだ他に呼んでいたのか。

 

 「『敵の戦力が未知数のため、知り合いを護るのに協力してくれませんか?』と言われたのだ。彼には私の親を救ってもらった恩があるのでな。『私の力が役に立つのなら』と思って今回の依頼を受けた」

 

 親を…か。

 彼女の瞳や言葉には嘘を吐いている様子は見受けられない。

 …が、用心は必要だ。

 

 「…っと、無駄話ばかりしていても仕方ないな。ここからは私も加勢させてもらうが構わないか?」

 

 彼女は視線をコチラに合わせる事無く尋ねてくる。

 

 「…まだ完全に信用出来ない。貴女が彼の知り合いという証拠が無いからな。今、私を助けたのも演技かもしれないし」

 

 「勇紀本人に聞けば確認を取れる。とはいえ、彼がこの場にいない以上『信じてくれ』と言う事しか出来ないが」

 

 「もし貴女が嘘を吐いていると確信した場合には?」

 

 「その時は遠慮無くその銃で私を撃てばいい」

 

 「……………………」

 

 私は沈黙する。

 だが今のやり取りをするまでもなく『彼女は味方だ』と思えている。

 

 「…済まないが向こうにいる2人と共にこの場を頼めるだろうか?えーっと…」

 

 「…そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名前はトーレだ」

 

 「トーレ…。私はフィアッセと誘拐犯を追う」

 

 「分かった。ここは私と向こうの2人に任せて先を行け」

 

 その言葉を聞き届け、私は立ち上がって走り出す。

 

 「さあ行くぞ。ライドインパルス!!!」

 

 背中越しに聞こえてきたその声が合図になったのか、また誰かを殴る様な鈍い音が聞こえた。

 彼女も戦闘に加わり始めたのだろう。

 

 「(フィアッセ…今行くから!!)」

 

 頼む!間に合ってくれ………。

 

 

 

 ~~エリス視点終了~~

 

 ~~イレイン視点~~

 

 アタシと忍の恋人である恭也が自動人形達と戦闘を始めてそこそこの時間が過ぎた。

 

 「「ハア…ハア…」」

 

 アタシと恭也は自動人形を1体、また1体と倒していくが

 

 「チッ…最新型は伊達じゃないって事かい」

 

 「ああ…かなり厄介だな」

 

 息を切らす程に手こずっていた。

 

 「ハハハハハ!中古品と家畜にしてはやるじゃないか。全部で53体いる内の11体もやられるとは思ってなかったよ」

 

 ムカつく声で高笑いする忍の同族の男。

 まだ5分の1程しか倒してないってか。

 身体(ボディ)の強度に反応速度…攻撃パターン等々、最新型というだけあってかなり高性能だ。

 

 「だがここまでみたいだな。息が上がっているぞ」

 

 「はあ?アタシ達の息が上がっただけでもう勝ったつもりでいるのかい?呆れた奴だね」

 

 「自分は何もしていないくせにな」

 

 「ふん。コイツ等を倒せない様な奴など、僕が直接手を下すまでも無い」

 

 ホント、ムカつく奴だよ。

 とはいえ、結構キツイねこの状況。

 

 「恭也…」

 

 「イレイン…」

 

 背後にいる忍とすずかは心配そうな声で呟くのが聞こえた。

 そうだ。後ろの2人を護るためにも負けられないんだよアタシ達は!

 

 「はあ…そんな目を向けられるのは不愉快極まりない。大人しく死ねよ」

 

 アイツが言葉を発した後、自動人形達が2体、アタシと恭也に分かれて向かってくる。

 

 「恭也、アンタ疲れてるだろ?少し下がって休んでなよ」

 

 「ありがたいお言葉だが、ようやく体もほぐれていい感じに温まってきたからな。まだまだ戦えるさ」

 

 「無理すんじゃないよ。さっき息上がってたろ?」

 

 「それはお前だろ?」

 

 お互い視線は前を向いたまま軽口を叩き合う。

 迫り来る自動人形達に

 

 「「はああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」」

 

 コチラからも向かい、アタシはブレードを、恭也は自分の得物を振るい、自動人形のブレードとぶつかり、鍔競り合う。

 

 「だりゃあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

 

 アタシは鍔競り合ている状態から更に力を加え、自分の方に相対した自動人形1体を壁側に吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた自動人形は壁に激突し、仰向けに倒れるが、何事も無かったかのようにすぐ立ち上がってコチラへと迫ってくる。

 

 「…ったく!!一撃で沈んでくれても良いってのに……さ!!」

 

 すぐさま構え直し、戻って来た自動人形と再びブレードで斬り合う事になる。

 少しぐらいは痛みを感じる様な表情を浮かべても良いだろうに。

 

 「廊下っていうのもアタシにとっては都合が悪いってのに」

 

 こうも狭い場所だと『静かなる蛇』も使えない。

 

 「(忍に何か新しい装備でも作って貰う様に頼んでみるかねぇ…)」

 

 特に遠距離攻撃の武装は用意して貰わないと。

 ノエルのロケットパンチとまでは言わないけどさ。

 

 「どうした中古品?動きが落ちてきているぞ?」

 

 「うっさい!!高みの見物に徹してるだけの臆病者が口を開くな」

 

 ニヤニヤしやがって。あの(ツラ)、思いきり殴り飛ばしてやりたいよ。

 

 「せいっ!!」

 

 ズガアアンッ!!

 

 すぐ近くで戦ってる恭也も自動人形を壁に叩きつける。

 壁に罅が入るぐらい強烈な勢いで叩きつけられたにも関わらず、ゆっくりと体勢を立て直す。

 頑丈さだけはアタシ以上だねぇ。

 

 ヒュヒュン

 

 「ん?」

 

 何か飛んできた。

 ありゃあ……ナイフ?

 氷村の後方から何処からともなくナイフが何本か飛んでくる。

 アイツの周囲にいる自動人形達は氷村を護ろうとするが

 

 ドガアアアァァァァァンンンンッッッ!!!!

 

 突如ナイフが爆発した。

 

 「があああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!?」

 

 氷村と自動人形の何体かは爆発に巻き込まれ、悲鳴を上げる。

 

 「い…一体何だってんだい?」

 

 「分からん」

 

 アタシも恭也も訳が分からず困惑した。

 

 「ぐ…ぐううぅぅぅぅ……。な、何が起きたというんだ?」

 

 氷村はよろめきながらも立ち上がる。

 ???あの爆発に巻き込まれて無傷?ダメージは負ってるっぽいのに?

 

 「ふむ…少々威力の加減を間違えたか?」

 

 「「「「「っ!!!?」」」」」

 

 アタシに恭也、そして後ろにいるであろう忍とすずか…さらには氷村の奴も突然聞こえた声に反応する。

 

 「誰だ!!」

 

 氷村が声を上げて振り返り、アタシ達も声の聞こえてきた方向に視線を向ける。

 そこにいたのは灰色のコートを着込んだ銀髪の少女(ガキ)がいた。

 両手にはナイフが握られている。

 けどアイツ…

 

 「恭也。油断するんじゃないよ」(ヒソヒソ)

 

 「どういう事だ?」(ヒソヒソ)

 

 「あの少女(ガキ)から機械の駆動音が僅かに聞こえるんだ」(ヒソヒソ)

 

 「っ!?」

 

 アタシの言葉に一瞬驚きつつ、次の瞬間には少女(ガキ)を見る目を細め警戒心を高める。

 

 「貴様、何者だ!?」

 

 氷村が吠える。

 アイツも知らないって所を見ると、氷村とは違う別の夜の一族の奴が作り上げた新たな自動人形か?

 で、氷村と忍、すずかを葬るために送られてきたんじゃあ…

 

 「私の名はチンクという。勇紀に頼まれ、ここへ駆け付けた次第だ」

 

 勇紀の知り合い!?

 

 「チンクちゃーん」

 

 「「「「「っ!!?」」」」」

 

 更に別の声が。

 今度は誰だってんだい!?

 

 「クアットロか」

 

 「そこにいる大勢のお人形さん達へのハッキングは完了したわよー。けど意外にプロテクトが強固で完全掌握は出来なかったわ。精々お人形さん達の動きを鈍らせる程度ね」

 

 「そうか。それでも充分だ。戦闘においては私に任せろ」

 

 「ええ、遠慮無くお任せしちゃうわー」

 

 …何だか勝手に話が進んでるんだが

 

 「おい!そこの少女(ガキ)!」

 

 アタシはチンクと名乗っていた銀髪の少女(ガキ)に声を掛ける。

 

 「今『勇紀の知り合い』って言ったね?ならアンタは味方って認識でいいかい?」

 

 「ソチラも勇紀の知り合いみたいだな。ああ、私の事は味方と思ってくれて構わない」

 

 ……嘘は吐いてないみたいだね。

 このタイミングで援軍はありがたい。

 

 「あの忌まわしき下等種の息子の知り合いだと?不愉快だな。あの一家は僕にとっては家畜以下の畜生共だというのに」

 

 「…ほう。勇紀の事を家畜、畜生呼ばわりか」

 

 ん?アイツ、怒ってないか?

 

 「チンクちゃーん。すこしばかりお仕置きしちゃいなさいな」

 

 …また誰かの声が。コチラも怒ってるっぽいな。

 

 「言われなくてもそうするさ。少々痛い目に遭わせてやらないと」

 

 言うが否やナイフを複数本即座に投げつける。

 

 「お前達。この場にいる奴等は皆殺しにしろ!!」

 

 氷村の奴も自動人形達に命令し、その命令を忠実に実行しようとする自動人形達だが

 

 「コイツ等、動きが格段に遅くなってる」

 

 先程まで動きを捉えるのに苦労していた自動人形達の機動性が落ちているのだ。

 

 「ランブルデトネイター」

 

 ズガガガガアアアアァァァァァァァンンンンンッッッッッッ!!!!!!

 

 辺り一面に投げたナイフが一瞬にして爆発する。

 今度は氷村は巻き込まれなかったが自動人形達は10体近くが爆発に呑まれる。

 

 「ぐっ…。何だあのナイフは!?」

 

 焦っている様子の氷村。

 まあ、爆発するナイフだもんね。火薬とかの反応は感知しないんだけど、どうやって爆発させてるのやら。

 

 「『徹』!!」

 

 ズガンッ!!!

 

 恭也も今までとは違い、簡単に自動人形に一撃を加える事が出来ている。

 

 「アタシも負けてらんないね」

 

 ブレードを振るい、目の前に接近してきた自動人形を斬り伏せる。

 さあ、反撃の時間だよ………。

 

 

 

 ~~イレイン視点終了~~

 

 ~~キンジ視点~~

 

 「グハハハハ!良いザマだぞ出来損ない」

 

 「う……ぐううぅぅぅぅっ」

 

 俺とアリアの前には白雪の星占いの単語から勇紀が推測した通り、ヤツ(・・)がいた。

 

 「無限罪のブラド…」

 

 そう…壊滅したイ・ウーの生き残りであり幹部だった男。

 ブラドは『小夜鳴徹』という人間に擬態し、これまで優秀な人間の遺伝子を取り込みながら生きてきた吸血鬼…もしくはドラキュラ伯爵というべきか。

 まさか、非常勤講師として武偵校に通っていたとは思わなかったがな。

 そのヤツ本人が本来の姿を晒し、今こうして目の前にいる。うつ伏せで倒れていた理子の頭を自分の足で踏みつけながら。

 

 「ブラ…ド……。何故…アタシの邪魔をした?」

 

 「お前の様な出来損ないは『何も出来ない無能な女』と証明されたからだ」

 

 「何…だと……?」

 

 「そこにいる武偵共を殺す事は出来ず、未だに誘拐すら成功しちゃいねぇ。第一、コイツ等を殺す気があるのなら心臓では無く眉間を狙えばいい事ぐらい、分かるだろう。武偵校に通ってんだから制服が防弾性のモノだとすぐ分かるもんだろうが」

 

 「ぐ…うぅ……」

 

 「まあ、仮に成功させたとしてもお前を解放するつもりなんざ無いがな。テメエが無能でも素体としては優良種だからな」

 

 「な!?約束が違う!!」

 

 理子が声を上げるとブラドは高らかに笑い、言い放つ。

 

 「お前は()とした約束を守るのか?」

 

 ミシミシ…

 

 「あ…ぐあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 奴は理子の頭を踏みつけている足に体重をのせる。

 

 「檻に戻れ繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)。交配次第じゃあ品種改良され、出来の良い『五世』が作れ…貴様よりも良い血が採れるだろうからな」

 

 「あ…ああ……」

 

 理子の瞳から一筋の涙が頬を伝い、流れ落ちる。

 

 「既に候補は絞ってある。そこにいる遠山や……あの長谷川泰造の息子(ガキ)の遺伝子辺りを掛け合わせたらきっと上物が出来るだろうよ」

 

 この……下種野郎が。

 

 「いいか四世。テメエには居場所なんてものは無ぇ。世界中のどこに逃げようがあの檻の中以外にテメエが生きられる場所は無えんだよ」

 

 ブラドが言葉を発する度に理子はポロポロと涙を零し始める。

 

 「とはいえ、テメエがもう逃げ出さない様に措置を施して(・・・・・・)おかないとなぁ…」

 

 『ニタァ』と笑いながら理子の頭を踏みつけていた足を上げるブラド。

 しかし理子は逃げる素振りを見せない。

 …瞳から生気が消え失せている。理子はもう『ブラドから逃げられない』と思い込んで、絶望しているんだ。

 

 「理子!!何してんだよ!!動け!!立ち上がってそこから退けよ!!」

 

 「……………………」

 

 俺が声を張り上げても理子は微動だにしない。

 

 「無駄だ遠山。コイツはもう理解してんだよ。『自分の居場所なんてどこにも無い』って……な!!」

 

 上げていた足を理子の右足に勢いよく下ろす。

 

 ズンッ……ボキボキ!!

 

 「ああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 踏みつけられた事で悲鳴を上げる理子。

 マズい!今の音は足の骨が砕けてるかもしれない。

 

 「心配すんな、殺しゃしねえ。生きてさえすれば交配は出来る訳だし。もっともそれ以外の部位はどうなってもいいがな。ついでにコッチも……オラ!!」

 

 ズンッ……ボキボキ!!

 

 「ああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 次は左足に。

 

 「これでもう歩けんだろう?次はその細い腕を折っておくか」

 

 「ブラド!!!止めなさい!!!」

 

 ダアンッ!!

 

 アリアが発砲し、理子の腕を踏みつけようとしていた足に命中する。……が

 

 シュウウウゥゥゥゥゥ…

 

 足に開いた銃創が赤い煙の様なモノを上げたかと思うと、次の瞬間には綺麗さっぱり銃創は消えていた。

 

 「(クソ!!ジャンヌが言ってた通りか!!)」

 

 『ブラドには弱点となる部分が4ヶ所あり、ソレ等を同時に破壊しないといくら傷をつけても瞬時に回復されてしまう』と事前にジャンヌが教えてくれた。

 

 「どうした?俺の足を何とかしないとコイツの両腕が使い物にならなくなっちまうぜぇ?」

 

 ズンッ……ボキボキ!!

 

 「~~~~~~~~~っっっっ!!!!」

 

 右腕の骨を砕かれ、最早声にすらならない悲鳴を上げる理子。

 

 「これで…最後だ!!」

 

 「や…止めろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」

 

 ブラドが最後に残った左腕を踏みつけようと足を下ろす。

 俺は無駄だと分かっていても銃口を向け、ブラドの足を撃とうとした。だが…

 

 「ほいさぁ♪」

 

 突然壁から出て来た何かが理子を抱え上げ、そのまま理子ごと壁をすり抜けていった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ズシーン!!!!

 

 おかげでブラドの踏みつけは空振りに終わり、足元の廊下に罅が入った。

 

 「何っ!!?」

 

 この一連の出来事に驚かざるを得ないブラド。

 いや、それは俺とアリアも同様だ。

 人影の様なモノが理子を攫っていった。今のは何だったんだ?

 それだけではない。

 

 ズガアアアアアァァァァァァンンンンッッッッ!!!!!

 

 「があああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」

 

 ブラドの背中に何かが当たり、爆発した。

 

 「ぐううっっっっ!!!何だ一体!?」

 

 すぐさま背後に振り返るブラド。

 そこには大きな無反動砲のような形状をした大砲をブラドに向け、狙撃したと思われる少女がいた。

 茶髪のロングヘアーを薄黄色のリボンで結わえている少女。

 誰だ?あんな子は見た事が無い。

 突然現れた第三者に俺とアリアは混乱する。

 

 「何だテメエは!!?」

 

 ブラドが吠える。

 

 「無抵抗の女性にあんな仕打ちをするなんて、同じ女として許せなかったから砲撃した通りすがりよ」

 

 「「いやいや!!通りすがりの人間が砲撃なんてしないから!!」」

 

 俺とアリアの声が重なる。

 

 「《ディエチ。この子どうしよっか?すぐ治療してあげたいんだけど…》」

 

 「《このホテルのどこかに勇紀君がいる筈だから、彼女を勇紀君の元へ連れて行って》」

 

 「《オッケー♪》」

 

 「《その後は出来るだけ早く戻って来てねセイン。私1人の援軍程度じゃあの化け物はどうにか出来そうにもないから》」

 

 「《分かってるって。じゃ、また後で》」

 

 謎の少女は大砲をブラドに向けたまま、睨む様に鋭い目つきをブラドに向けている。

 

 「ていうかアンタ誰よ!!?理子はどこにやったの!?」

 

 アリアも吼える。

 

 「私はディエチ。(大好きな)勇紀君に頼まれて貴方達の加勢に来たのよ」

 

 勇紀の知り合いって事か!?

 俺達、あんな人が来るなんて聞いて無いんだが?

 

 「さっきの子なら私の姉妹が勇紀君の所へ連れて行ったわ。彼の側なら安心でしょうしね」

 

 「…その言葉、信じていいんでしょうね?」

 

 「ええ。彼に聞けばすぐに分かる事よ」

 

 「…分かりました。後で確認させて貰います。だけどもし理子の身に何かする様なら…」

 

 「その時は逮捕するなり、殺すなりしてくれて結構よ」

 

 いや…殺しはしないけど。

 

 「あ…でも、犯す様な事だけは止めてほしいわね。初めては…その……勇紀君に…ねぇ……//////」

 

 「んな卑猥な事しませんから!!!!」

 

 「キンジ…風穴開けられたい?」

 

 ガチャッ

 

 「俺何も悪くないだろ!!?銃口を向けるな」

 

 「で、でもアンタ…あの子をとっ捕まえて無理矢理にお、おお、おおおおか、犯すって…//」

 

 「言ってねえし、しねえよ!!?あの子が勝手に言ってるだけだし!!!」

 

 「…遠山キンジ。貴様、相当鬼畜な本性を持っていたのか」

 

 「何でブラドにまでそんな蔑む様な視線向けられなくちゃならないんだよ!!!!」

 

 何なんだ!!ここは俺にとって敵地(アウェー)真っ只中なのか!?

 

 「とにかくだ!!!ブラド!!!お前は逮捕する!!」

 

 「話を無理矢理逸らしたわね」

 

 「逸らしたな」

 

 「逸らしたわよねぇ」

 

 上からアリア、ブラド、ディエチと名乗る女性。

 意気投合してんじゃねえよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!

 第一ディエチって言ったアンタの発言のせいじゃねえか!!!

 

 「ひ…酷い。女の子に罪をなすりつけるなんて」

 

 「こ…この鬼畜武偵……」

 

 「こんな奴が武偵とは世も末だな」

 

 「だから意気投合すんなああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

 俺の絶叫がフロアに響き渡る。

 俺は何も悪くないのに………。

 

 

 

 ~~キンジ視点終了~~

 

 ~~???視点~~

 

 「よろしいのですか初音姉様。彼に頼まれて歌姫さんの護衛をする予定だったんじゃあ…」

 

 「それを受けるかどうかは『私の意思で決めていい』って言ってたでしょ奏子。しばらくは傍観に徹するわ」

 

 「初音姉様がそう仰るなら良いのですけど…」

 

 「けどやっぱり面白いわねあの子は。こんな術式の結界は見た事が無いわ。こうやって中の様子を見るのにも多少苦労したもの」

 

 「彼の父親が規格外なら子も規格外ですね」

 

 「ええ。それに今回は彼の能力(チカラ)を見定める良い機会でもあるわ。前回会った時は彼の父親、長谷川泰造が傍に居たから彼の能力(チカラ)を見る事が出来なかったし」

 

 「不思議な能力(チカラ)ですね。この世界で知るHGSでも無ければ霊力、妖力の類でも無い…」

 

 「そうね(それに彼と敵との会話にいくつか面白い単語が飛び交っていたわね。『転生者』『リリカルなのは』『とらハ』『原作キャラ』。何の事かは分からないけど彼と交渉する際の材料にはなるかしら)」

 

 「???どうかされましたか初音姉様?」

 

 「何でも無いわ(彼の力が無いとあの男には勝てないかもしれないし…ね)」

 

 「そうですか…」

 

 「ふふ…後はこの戦いで彼がどういった結果を残すのかしっかり見届けましょう」

 

 

 

 ~~???視点終了~~

 

 ~~あとがき~~

 

 武偵コンビVSブラドにディエチ(後にセインも加わります)。

 恭也、イレインVS氷村、自動人形達にチンク、クアットロ。

 妙子、設子VS麻薬中毒者(ジャンキー)達にトーレが参戦。

 勇紀は転生者、美由希はグリフと1対1でタイマン中。

 エリスはファンに連れ去られたフィアッセを追跡しました。

 りこりんも勇紀のハーレムに加えて…っと(←オイッ!!)。

 『…次回ぐらいで『とらハ3OVA』編は終わるかな?』って感じです。

 

 それと本編読まれたでしょうから分かると思いますが転生者君の能力は

 

 

 

 ①『とある魔術の禁書目録』(もしくは『とある科学の超電磁砲』)の『御坂美琴』が持つ能力『超電磁砲(レールガン)

 

 ②『とある魔術の禁書目録』(もしくは『とある科学の超電磁砲』)の『上条当麻』が持つ能力『幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

 ③『コードギアス』の『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』が持つ『極近未来を読むギアス』

 

 

 

 です。

 ちなみに『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は自分自身の異能力だけは打ち消したりしない様、また不幸体質にならない様改造(カスタム)済みです。

 それと『鉄塊』を使った勇紀に殴った理由ですけど、彼は『勇紀が『鉄塊』を使う直前までしか未来を視なかった』というのが真相です。

 転生者君の身体能力は『やや高め』位ですね。

 本来なら勇紀の唯我独尊(オンリーワンフラワー)使えば瞬殺出来るんですが『折角登場させたので能力を披露させてから殺ろう』と思い、敢えて唯我独尊(オンリーワンフラワー)を使いませんでした。

 後、転生者君は『銀髪、イケメン、オッドアイ』の容姿ですが『ニコポ』『ナデポ』は持ってません。

 彼は『嫌がる女性を無理矢理…』っていうのが好きなので『ニコポ』『ナデポ』みたいな能力で好意を持たれても興奮しないからです。

 それと転生者君はここが『とらハ』世界だと勘違いしてるので晶やレンが高町家にいると思い込んでます。

 ……え?晶とレン?以前は未定だったけど出す事にしましたよ。

 いずれ…いずれはね。

 


 
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