がちゆり~あかあか~
いつもと変わらない日、私は大学の講義を速やかに終わらせてあかりが帰ってくるのを
家で待つのが楽しみにしていた。ともこの誘いを申し訳なさそうに断って大学の敷地内を
リズム良く歩きながら出て行く。
途中で美味しそうなケーキ屋さんがあってあかりと一緒に食べたくなって
奮発して買ってみて、嬉しそうにケーキを頬張るあかりの顔を想像したら何だか楽しく
なってきた。
お店を出るとあかりの姿を見かけてつい声をかけると、いつもは嬉しそうに振り返る
あかりがちょっと気まずそうに微笑みを浮かべて振り返っていた。
「あれ、お姉ちゃん。学校は?」
「終わったわ。あかり、ケーキ買ったから一緒に帰ってお茶でも…」
言い終わるや否やあかりはびくっと反応をしてから慌てて首を横に振っていた。
「ごめん、これから結衣ちゃんたちのとこ行かなきゃだから。後でいい?」
「え、ええ・・・」
「ほんとごめんね。じゃああかり急いでるから!」
ガーンッ
あかりも中学生だし友達づきあいとか大切だとは思うけどあかりに断られるとここまで
ショックな気持ちになるとは…。私はとぼとぼと歩きながら帰路についた。
家についた私はお茶を飲んであかりを待っていたがしばらくしても帰ってこず
ちょっと疲れた気分になって自分の部屋に入って倒れこむようにベッドの上に体を預けて
近くにあったあかりの抱き枕を抱きしめた。
いつもすごく嬉しい気持ちになる抱き枕も今日に限っては少しもやもやして気持ちが
晴れなかった。心細いようなちょっと涙が浮かびそうなそういう切ない気分。
結局は門限ギリギリに近い時間に慌てて帰ってきたあかりに私はちょっと怒るように
言葉をかけた。
「ごめんなさい…」
「いえ・・・私はあかりを心配してね」
「うん、わかってるよ。お姉ちゃんありがとう」
その表情はいつもと同じ天使のような笑顔で私はついつい許してしまうのだった。
それから買ってきたケーキは遅いから夕食の後にするということにした。
いつも通りの食事風景にホッとしながらも、いつもとは違う行動がこの後に起こった。
「お姉ちゃん、これ」
「ん、何かしら」
食事を終えて向かい側にいるあかりが少し身を乗り出すようにしてリボンがついてる
小さな包みを渡してきた。
「あかりからお姉ちゃんにプレゼントだよー。今日お誕生日だから」
「あかり…」
そういえば今日は私の誕生日だったような気がする。頭の中があかりのことでいっぱい
だからすっかり頭から抜けていたのだ。
「開けていいかしら?」
「もちろん」
私はあかりに聞いてから包み紙を開いて中にあるのを取り出すとそれは少し不恰好な
マフラーだった。だけど私の名前も入っていてすごく可愛らしい見た目になっている。
「これ、あかりの手編み?」
「うん、これから寒くなるだろうからって。みんなで相談して少しずつ編んでたんだ」
「嬉しい…」
マフラーもそうだけど、あかりが私のためを思って編んでくれたことがすごく心に
沁みてさっきとは別の意味で泣きそうになってしまう。
「ありがとうあかり、すごく嬉しいわ」
「よかった。喜んでもらえて…それと…」
いつもと違うのはまだ続いていて、あかりの表情が心なしか赤くなっていた。
風邪とは違いそうだけれど。
「今日お姉ちゃんと一緒に寝てもいいかな」
「ふぁ!?」
「あ、ダメならいいんだけど」
「そ、そんなことないわよ!」
そんなこと言われたらすごくテンションがあがってしまう。
だけど今あかりの言ったことを成立させるにはまず自分の部屋を片付けないと
いけない。今の部屋を見たらあかりはどん引きしてしまうのは明白である。
私は平静を装いながらあかりに待つように言うと静かに、しかしいそいで部屋に
向かってあかりグッズをクローゼットの中に仕舞い込んで封をしておいた。
今日の寝る時間が楽しみで仕方なくて変な笑いが込みあがってきそうな感じであった。
「お邪魔します~」
「おいで、あかり」
「うん!」
かわいいパジャマを着て枕を抱えて私の部屋に入ってくるあかりの仕草が
可愛すぎて今すぐ鼻血を噴出しそうになるのをグッとこらえる。
私のベッドに潜り込んでそのまま寝ないで二人でしばらく話しをしながら
幸せの一時を過ごす。あかりがすぐ傍にいてあかりの匂いがして
つい傍に引き寄せてしまう。
「あかり…ありがとう」
「うん…あかりも甘えちゃってごめんなさい」
「いいのよ、私も嬉しいわ」
「あかりお姉ちゃんのことが好きだから、こういうことしたいけど。もう中学生だし…」
あかりが表情を見せないように伏せがちに私の胸元に顔を押し付けてくる。
やわらかくて暖かくて、胸の中の何かが色々いっぱいになってきてたまらなくなる。
あかりの好きという言葉は私の胸に矢のように刺さるものがある。
私も好きで好きでたまらないけれど、あかりの言うものとは違う気がする。
それが嬉しい反面とても切なく感じるのだ。
胸いっぱいの気持ちを抱えて私は感謝の意をあかりに伝える。
あかりもそれに応えて同じようにしてくる。かわいい、頬でもいいからキスしたい。
そんな私の気持ちがあかりに移ってしまったのだろうか。
「お姉ちゃん」
「あかり…?」
呼ばれて見上げているあかりの目に視線を合わせると強い力で引き寄せられて
私の頬にあかりが口付けをしてきた。思わず細めていた目が開いてしまうくらいの
衝撃だった。
「あかり…」
「…」
私の心の中で天使と悪魔がすさまじい葛藤をしていて、悪魔が勝ちそうになった
ところで逸らしていた視線をあかりに戻すと、いつの間にかあかりから静かな寝息が
聞こえてきた。
頬にキスまでしといてこの結果は私にとっては残酷すぎた…。
けれど今の幸せな関係を壊すわけにはいかない。私は寝ているあかりの頬に同じように
軽く口付けをして私も寝ることにした…。
「おはよう、あかり」
「おはよう、お姉ちゃん」
今日の講義は早めにある私は早速あかりのくれたマフラーを巻いて用意が済むと
部屋を出る。同じように登校の準備が出来て靴を履いているあかりの元に近づくと。
「わぁ、あかりのマフラーもうつけてくれるんだ」
「当たり前でしょ。愛しの妹がくれたマフラーなんだから」
それにすっかり寒くなってたからちょうどよかったのもあった。
使いつつもこのマフラーは私の宝物となるだろう。大切に使っていこうと
心の中で強く思った。
「嬉しいなぁ…」
「あかり?」
「う、ううん。なんでもないよ!じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい…って私も出るんだけど」
慌てるようにあかりは玄関を出て走っていってしまった。
その直前に私を見る目がいつもと少し違っていたのは気のせいだったのだろうか。
それとも…。
だけど私はこれからもいつものように行動する。
妹とのこの大事な生活を守るために、時々苦しくなっても妹の笑顔が癒してくれるの
だから。
少し曇った空に私の白い息が吸い込まれるようにしてあがっていく。
それを見てから私はボーっとしながら歩き出した。いつもの風景いつもの日常。
だけどちょっとした変化が私の気持ちを変化させる。
「あかね~」
「ともこ…」
「あれ、それって新しいマフラー?見たことないけど」
「うん、妹からもらった大切なマフラーなのよ」
ともこが嬉しそうにしている私の気持ちが伝わったのか可愛い笑顔を浮かべて言った。
「よかったね、とても幸せそうな顔をしてる」
「そうね、今私はすごい幸せだと思うわ」
まっすぐ向いて歩いていたのを私はともこに視線を移して笑った。
これからも私はあかりに恋していくだろう。辛いときもあるけどそれは幸せのための
スパイスとして感じればいい。
私はこのいつもの世界を愛している。
終
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あかね姉さんの誕生日ということで。大好きなあかりとイチャイチャしてもらいました。こういうふれあいが一番のプレゼントじゃないかと思います┌(┌^o^)┐<ユリィ…