【 賈駆の悩み事の件 】
〖 天水の城内、賈駆の部屋 〗
天の御遣いなる『 軍勢 』が、月の下へ集まったけど…………。
一体何なのよ、こいつらは!! 霞や恋並みの武力がある勇将や知勇兼備といって差し支えない将、密偵を遥かに上回る『 忍び 』という得たいの知らない将、特に最初に月や私達に出会った、あのヘラヘラ笑いする男が、あの書物の軍師を下したというの!!
信じられない、信じられない、信じられなーーーい!!!!
ハー、ハー、ハー…。
あの軍師の書は、それだけ戦慄が走る物だった。
兵の配置、地理に対する状況判断、敵兵の誘導方法、他にも天候の際の各対応方法も目に付いたわ。 …はっきり言って、私では勝てないって、直感的で感じてしまった程なのに…………。
あの男は、苦戦しながらも 『 軍師 』として、勝利できたというの?!
しかも、月は、あの男『 天城颯馬 』を慕っている。
月自身は、完全に隠しているように思っているようだけど、ボクの目は誤魔化せられない! あいつの顔を見ると、ほんのちょっと頬が赤みを増すのよ!
………よし、今度の賊討伐に、天城を連れて行こう!
幾ら天の御遣い様だからといっても、使えない奴じゃ話にならないわ!
天城の実力をこの目で確認して、その実力があれば良し、もし…ただの男なら月の前より追い出してやるんだから!!!
☆☆☆
〖 天水の城内 颯馬の部屋 〗
「 天地陰陽の構え 」の姿勢で立ち、左右の腕をがむしゅらに振り回しながら、奇声を上げる。 これを基本と言われ素直に行っているが、どういう練習かは聞いていない。 だが、日々続けていれば、必ず役に立つと日の本で言われた。
『 誰に 』って? …………『 奥州筆頭 』伊達輝宗殿から。
何でも、伊達家で秘密にしている武術で、かなりの強さを誇るとの事。
しかも、本来は門外不出のはずが、なんで俺に教えてくれたのか、実に不思議な話である。 余裕があれば、皆伝まで教授してくれるようだったが、あの時は、出発までに刻が無く、基本的な単独練習法と一つの技を教授していただいただけだ。 あれから色々あったが、毎日の鍛錬は欠かさなかった。
かの技は…鎧着用の奴に、有効だ! と言っていたが、正直そんな武装した状態の兵士に襲われたくは無い。 俺自身が戦う事などないので、もしそうなれば、奇襲で襲われたか、本陣まで相手が攻めてきたときだからだ。
因みに、教授してくれた輝宗殿は、にこやかに丁寧に教えてくれたが、同席していた政宗殿は、顔は真っ赤、喋り方も多少口ごもり気味だった。
………そう言えば、あの後、具合はどうか確かめなかったな。 重い症状にならなければ良いが。 反応も上の空だったし………。
月「 天城様、よろしいしょうか? 」
部屋の前より、月様が入室の許可を得るため、声をかけてきたので、了承の返事を返し、中に招き入れる。 おっと、稽古の汗を拭かないと………。
歓迎会の前に、義輝様が敬称は無しでとの発言で、月様は、『 義輝様 』から『 義輝さん 』に敬称を変えた。 しかし、俺の『 天城様 』は、何故か変わらず、更に外すように御願いしたら『 …私の事も敬称を外して『 月 』と呼んで下さい 』と、笑顔で返された………………。
月「 ………天城様? 」
颯馬「 い、いえ。 なんでもありません! えーと、何か御用ですか? 」
月「 はい…。 実は、この付近を荒らす賊が居まして、本日はその賊を討伐する日程だったのです。 今回、御遣い様方が私達に味方した事を内外に示すため、ぜひ、天城様達に参加を願いたいと詠ちゃん、いえ、賈駆より申し出があったので、お願いに参りました……… 」
なるほど、表向きは義輝様達の宣伝、裏側は実力を測るために呼んだのだろうな……。 わざわざ領主自らお願いさせて断れなくさせたのかな?
どのみち、実力を示さなければ信用は得れない。 参加をさせてもらわなければと、決意して皆に呼びかける事にした。
颯馬「 月様、俺達はそのために此処へ来たのですから、遠慮しないように。それに、客将とはいえあなたの配下ですから、御願いではなく、命じてくださればいいのですよ。 俺達は、あなたに味方しますので…… 」
月様は、少し悲しそうな顔をしながら、俺を軍議の席へと案内してくれた。
◆◇◆
【 天の御遣い、戦に初参戦するの件 】
〖 天水城の大広間 〗
月様が玉座に座られ、左右に両軍師が並ぶ。
右に賈駆、張遼、華雄、ねね、恋。
左に俺、義輝、光秀、謙信、信玄、鹿介、信長。
軍議の内容は、賊討伐のための情報提供とそれに伴う戦術の考察。
場所…天水より約10里(約四㌔)先の山の中腹にある古城。
敵…賊軍約四千人。
味方…董卓軍は、現在動員数が約三千人。
留守部隊を五百人を置いていくため、約二千五百人が出撃。
将…《総大将》張 文遠
《軍師》賈 文和・天城颯馬
《将》華雄・上杉謙信・明智光秀・山中鹿介・織田信長
( 颯馬の判断で、百地三太夫を伴う )
月「 天の御遣いの方々、この国に来ていただいた翌日に、戦の参加を命じること、お許し下さい…。 この国の民達を守るためにも、どうしてもあなた達の力が必要なのです! 」
義輝「 ……月様、今は、我らの主はあなたなのです。 遠慮せず仰って下さい! わらわ達も、前の世では戦場を駆け巡った者達ですから 」
義輝の発言が口火を切り、質疑応答が飛び交う!
例えば、謙信殿は、古城の周辺の様子を知りたいと発言。
ねね殿は、こちらが喋るより、実際に見た方が判断できますがと前置きし、簡単な説明をする。
ねね「 古城周辺は、周りの木を切り倒して、展望を望めるように準備しているようですぞ。 恋殿の武勇を恐れているのは明白です! それから、麓周辺は丈が長い草原地帯で、木は疎らにしか生えていないという感じですな! 」
信長が、兵を率いるのが私達で大丈夫か?と心配する。 兵の信頼関係が何も無い状態で戦うのは、いざという時に踏ん張りが効かず、陣形が崩壊する可能性がある。 流石に戦乱を生き抜いた将だけはある。
この質問には、意外にも月様が答える。
月「 それは、大丈夫です。 皆様が天の御遣いである話は、一夜にして広まり兵や民達も存じています。 そのため、あなた方が命じられた方が、よき働きをしてくれるでしょう! 期待しておりますから! 」
信玄が目を細め、密偵の対策は出来ているかの質問を出す。
賈駆「 各部隊長に、自分の隊に知らない顔があれば、すぐ捕らえるか、逃げられても報告するように、義務付けてあるわ。 それに、もしそこから逃げても恋の愛犬『 セキト 』が、見逃さず噛みつくか吠えるから。 」
恋「 ………セキト、すごい 」
ーーーーーーーー
質疑応答の結果、取りあえず将の中の疑問は無い様子。
光秀も鹿介殿も、不満は無さそうだ。 …勿論、俺も無い。
賈駆殿は、将が納得したのを見て、戦術を説明する。
《 部隊を五部隊に分ける。将達に各五百人、残りの部隊が本隊を展開。
古城の麓まできたら、華雄隊が城門を攻める。
その間に、三部隊が伏兵とし麓の草原にて、左、本陣の前、右に伏せる。
本陣は、一里程下がり、旗を立てて目立つように、配置。
残りの隊は、城付近に伏せる。
敵が、こちらを少数と侮り門を攻める華雄隊を襲いかかってくれば、適度に引きつけ、伏兵配置先に誘導する。 その後は、三方から攻撃。
本隊は、状況次第で加勢を行う。
城側に潜んでいる伏兵は、敵の行動次第で、城攻めで城を落とすか、伏兵の加勢に入り、敵の背後より攻めるか状況で変えてもらう 》
賈駆は、こちらを見て、どうだ!と言わんばかりに、得意げな顔を見せる。
俺も文句は無いけど、注文を一つだけ…お願いした。
『城側に付く伏兵は、光秀にして欲しい!』と。
状況判断の的確さは、光秀が一番だと思ったからだ。
………………決して贔屓ではない。
謙信殿は、一直線のところがあるので瞬時の判断に迷いが生まれる。 鹿介殿は、武勇は頼れるし、命じた事を確実に行ってくれるので、逆に伏兵でお願いしたい。 信長は、戦術眼は凄いのだが、自分の思った事を優先するため確実性に欠ける。 そんなわけで、光秀を押した。
同じ軍師でもあり、策は譲歩したような感があったので、すんなり要望は通ったようだ。
ーーーーーーーーーーーー
夕方になり、天水城を出て行軍開始。
このまま行けば、夜中には到着できるだろう。 すっかり暗くなった道で、小休止を入れ、携帯食を食べる。
火を使って料理をすれば兵の緊張も和らぐがこの規模で調理すれば、敵に見つかる可能性が高い。 また、後始末にも時間がかかるので、乾燥した燻製みたいな物を食べながら向かう先を見る。
ーーー
空には月が輝き、辺りを優しく照らし出す。
丈の長い葦のような植物。 遠くに灯りが見えるのは、戦場になる賊軍の根城か………。
そんな事を考えていたら、手の甲がポッと光る。
颯馬「 蛍か……… 」
兵達の話に寄れば、この周辺は蛍の名所で、近くの小川から蛍が飛び交い、近隣の人々を楽しませたそうだが、今では蛍が飛び交うのみ………。 今が丁度見頃だと言うが、残念ながら、そんな余裕は無い………………。
と、思いつつも辺りを見渡すと、何千何万の蛍が動く!
まるで光の帯みたいに見えて、とても美しい…。 名所になるのも判るな………と、一人頷いた。
…と考えていたとき、前方の蛍の帯が崩れた……。 少し移動すると元の帯状に戻る。他の蛍の帯も同じように、近付くと崩れ、離れると戻る。
目を見張って確かめるが、前方には何もないように見える…。 だが、嫌な感じがする!
俺は三太夫を呼び寄せ、前方の場所の調査を命じた!
☆☆☆
〖賈駆視点〗
今のところ、行軍は良好。 密偵を放ち、斥候も動かした。何かあれば報告するようにしているが、今のところは報告は無いわね…。 華雄も普段通りに振る舞ってもらえば『 良将にして名将 』として、讃えられるのだど………。
護衛兵「 ほ、報告致します! 」
賈駆「 ……どうしたの? 」
護衛兵が、明らかに動揺している。 敵が近くに来たのなら、辺りが騒がしくなるはずだが、小休止の状態と変わりない静けさ。 喧嘩等の揉め事なら将達が動いて、ボクのところまで上がってくるわけは無い。 では、何…?
護衛兵「 天城様からの連絡です! 我らの進軍方向に、敵部隊が隠れている事を発見されたそうです!! 」
賈駆「 ………………………え? 」
護衛兵「 そのため、急ぎ相談したいので、私と賈駆様の二人静かに来ていただきたい、とのことです……… 」
ど、どういう事なの? 密偵は、斥候は何をしていた?! それに、どうやって天城は、それらを使わずに敵の部隊を見つけたの?
私の疑問点は、幾らも浮かび答えを探すが、現時点の回答は、「 ワカラナイ 」、「 フメイ 」の曖昧な言葉のみ。
ボクは、護衛兵を連れ、密かに天城の元に行く。
まるで、不肖の弟子が先生に疑問点を解消するため、教えを受けに行くような感じがして、非常に不愉快だわ……。
☆☆☆
〖 颯馬視点 〗
颯馬「 ……皆、急に集めてすまない。 事態が急を要するようになったので来てもらった。 今、賈駆殿も呼んでもらっている 」
俺は、まず集まってくれた将達に事情を説明する。
先程、蛍の群れを見ていたら、蛍の群れに乱れが出る場所があることに気付いた。目で確認したが何もわからない。 三太夫に偵察を頼むと、敵が数千潜んでいることがわかった。
幸いにして、敵はこちらが動くのを待つようで、攻撃の準備をしていない。
だから、これを好機として、敵を叩く!!
華雄殿、霞は驚くが、姫武将達は笑顔でこちらを見る。
謙信「 久しぶりに、軍師殿の手腕を見れるか。 いつでも命じてくれ! 」
信長「 フッ 魔王の戦振りを骨身まで叩きこんでくれよう!! 」
鹿介「 颯馬殿…。いつ、何時、どこでも、命じていただければ、某は身命を賭して行きますぞ!!! 」
光秀「 颯馬。 あなたを信じます……! 行きましょう! 」
賈駆殿も来られ、掻い摘まんで説明する。 そして、俺の策を示すと驚くが、それしかないことを悟ると、華雄、霞に協力を要請してくれた。
颯馬「 では、これより各々の準備を! 」
颯馬が、静かに命じる。 賊軍壊滅の策の始動を。
★★★
〖 賊将(頭)視点 〗
賊A 「 頭、まだ攻めないのですかい? 」
頭「 まてまて、せっかく天水の官軍サマが、俺達に会いにきてくれたんだ。それなりに礼儀が大事だろう? 俺達ならではの礼儀で、な! 」
兵が休んでいるが、その先に偵察兵が出ている。 余程、軍の扱いに慣れた奴なんだろう、つまらない事してくれるぜ……。
ここで攻めれば簡単に倒せそうだが、あの偵察兵が騒ぐと残りの兵が準備して反撃され、こちらも被害も大きいだろう。 行軍中なら、騒ぎが広がり手がつけられなくなる分、こちらも旨味が増えるだろうし……。
上手く行けば、あの軍の女達を何人か奪う事できれば、言うこと無しさ!!
☆☆☆
〖 颯馬視点 〗
光秀「 皆、静かに、されど急いで敵軍の後ろに廻りますよ! 」
信長「 私達は、左側に廻るぞ! 」
謙信「 それでは、右側へ展開する! 遅れるな! 」
鹿介「 では、某も。 皆様、ご無事で! 」
姫武将が密かに集めた自分隊の隊を引き連れ、移動する。
霞「 ……………颯馬、アンタは皆から信頼されているんやな 」
颯馬「 俺の大事な仲間です。 ですから、俺は、いや俺達は、必ず勝たなければならない。 月様のためにも……! 」
華雄「 ………………………… 」
霞「 えーと、ウチらは、少し後にゆっくりと行軍行動に移行しすれば、いいんやね? 颯馬軍師殿? 」
悪戯っぽく笑う霞を見て、少しドキリとしながら、返事をする。
颯馬「 えぇ、そうです。 しかし、後もう一手打ちます 」
華雄殿と霞が驚いて、こちらに顔を向ける。
颯馬「 俺と賈駆殿で、口喧嘩しますので、その間に兵を纏めて下さい 」
行軍中は、そのまま隊を組んでいるため、襲撃されても対応は可能だが、小休止中では、全員バラバラだ。 おかげで姫武将達は、敵に気付かれずに隊を外す事が出来たが、前面にいる俺達は、賊の目に分かる。 気付かれないように隊を直さなくては………………。
★★★
〖 賊将(頭)視点 〗
おっ! あいつら、ようやく休憩を終えたか…。 結構長かったじゃねえか!
これで、俺達も襲撃の体勢が取れる! 野郎共、準備をしておけよ!
……後少しで、突っ込みぞ! 弓が出来る奴は、矢をかけておけ! 抜刀もしておけよ! 奴らを倒して分捕ったものは、みんな取った奴のモンだ。 勿論女もな………。 クッカカカカカカ!!
ん? 少し待て。 何だか軍の中で喧嘩を始めたか? 怒声や罵声が聞こえるな。 まぁ、急ぐ事はないが、お前らもう少し前に出ろ! そんなところじゃ
取り分が無くなるぞ!
『 ジャーン、ジャーン、ジャーン!!! 』
なんだ! この銅鑼の音は?!
☆☆☆
〖 颯馬視点 〗
光秀「 合図の銅鑼を鳴らしましたか?! では、こちらの準備は整いました! 全軍、賊軍後方に突撃!!! 」
信長「 賊後方が騒がしいな…。 光秀めが出たか。 よし! 私達も賊の横っ腹に突撃だ! 第六天魔王の力、見せつけてやるのだ!! 」
謙信「 ………剣戟の音、血の臭い、兵の雄叫び。 時は来た! 上杉軍出撃せよ! 毘沙門天よ、我に力を与えたまえ! 我が兵達に加護を!!! 」
鹿介「 山中隊、準備! 敵が突出してきたところを討ちます! 尼子家再興への一歩は、この戦にあり! 」
ーーーーー
颯馬「……………! か、賈駆殿! 賊軍が騒がしくなってきたので、もうそろそろ、霞と華雄殿を!! 」
賈駆「 アンタが、アンタがいるから月がーーーって、もう始まったの?!
残念、じゃあ華雄、霞は突撃して! 」
ポンっと肩を叩かれ、見れば霞がにこやかに笑っている。
霞「 頑張れ、色男。 こっちは華雄と二人で何とかしちゃる! 」
華雄「 ………………… 」
俺は、賈駆殿との口論で体力を強制的に削られていた。
始めは、俺がこの討伐の作戦に難癖を付け、賈駆殿が返す。 これも、今の策の一つだと言い含めたつもりなのだが…。何故か話が月様の話に変わり、俺の女性遍歴に移る。 誰だ、賈駆殿に教えたのは! と、言いたいが、自分の自業自得だから仕方が無い。 ……が、正直きついな……。
賈駆殿は、何やら言いたいなさそうだが、別の話に移させてもらうか…。
颯馬「 賈駆殿、俺に聞きたい事があったと聞いたが……(ザワ)!! 」
俺は、賈駆殿に話をしようとしたそのとき、後ろから異様な気配がする!
ーーーー
??「 ………お前等が、俺の集団を壊滅に追い込んだ、大将と軍師さんか? 俺の野望を挫くような奴を見たかったが、まさか、こんなヒョロヒョロと女だっとはな……。 クックッ! カカカカカカ!! 」
男は、賊を率いていた将だったようだ。
八尺(約193㌢)以上ありそうな背丈、貂蝉と張る体格、勿論兜と鎧を装備。
ザッシュッッ 「 ギャァァァァーーー!!! 」
手には、血に濡れた大剣が握られている。 結構、重そうなんだけど片手で振り回して、今、俺達を守ってくれている護衛兵が、断末魔を上げて、斬られていく!!
俺は、すぐに戦場を見渡した。
両兵入り混じり、まだ戦局はどちらか傾かない……!!
助けを待つのは、不可! 護衛兵も百人足らずだったが、徴兵で雇われた者が多く、如何に戦おうが、あの将に打ち勝つのは無理!
ならば、答えは一つ。 全ての護衛兵に賈駆殿の護衛を頼み、俺が一人その将へと向かう! 賈駆殿は、月様の軍師兼親友。…死なす訳には絶対にさせない!!
賈駆殿は、俺の袖を引き一緒に逃げる事を提案するが、そんな事すれば、天の御遣いは、兵を見捨てて逃げたなど風評が流れ、月様や義輝達の求心力に疑問が起こり、今後の差し障りになるかもしれない…。
逆に、俺が殺されても御遣い様は、己を犠牲にして兵を守ったと言う風評が伝わり、残された者達に多大な利益になるだろう!
そんな、考えを働かせながら、賊将に駆け足で向かい、前に出て進行を阻む!
賊将「 来たのは軍師か? 天水の太守は女だと聞いてるから、あっちがそうだな。 まあ、会って早々でわりぃが、とっと死んでくれや!! 」
賊将は、頭上より一気に振りかざす! そのまま斬られれば、この身は二枚におろされる。 ………誰がそんなこと、承諾できるか!
俺は、すぐさま右側に避けながら歩を進め、賊将の首元を狙い刺しに行く!
賊将は、なんだと言う顔で俺の刀を大剣で払い、手元より払い跳ばす!!
と同時に、最上段に大刀を構え直し、勝利を確信した声で怒鳴った!
賊将「 これで、終わりだ!!! 」
…刀を跳ばされたその瞬間、俺は、賊将の懐に潜り込み、左手を敵将に軽く当て、続けて左足を踏み込みつつ、右手を急速に俺の左手にぶち当てた!!
颯馬「 『 陣内流 仙人殺し!!! 』 」
ドゴォーン!!
賊将「 ぐっぼっ!! 」
輝宗殿が教授していただいた、対鎧着用の相手の技。
賊将は、口から血を吐き出し、少し古ぼけながらもかなりの耐久性がありそうな魚鱗鎧が、俺の拳三倍位広がり凹んでいる!!
あまりの衝撃のためか、賊将は大剣を手離す! 好機と見た俺は、留めに仙人殺しをもう一度仕掛けるが、相手が不意によろめかれて、狙いが外れた!!
賊将「 …ペッ おもしれぇ技、使うんじゃねえか! だが、今んので全力だったか、息が荒いし、膝もわらっているぞ! 今度こそ、おさらばしな! 」
落とした大剣を拾い、俺に近付く賊将……………。
なんか、前にもこんな事あった気がするけど、今回は無理だ。 近くに人の気配がしない。 三太夫には、城の調査を命じて傍にはいない。
全力で二度も技を放ったため足も動かず、武器も遠くに跳ばされ拾えない!
今度こそ、皆、お別れだ!
ドォォォォーーーーーーーー!
賊将「 ゲヒィ! 」
聞き覚えがある音が戦場に響き、両軍が戦を止めた……………。
賊将は、頭を打ち抜かれ、その巨体を剣の重量により、後ろに倒れる。
音の出所は、一人の姫武将からだった。
白を基調とした鎧を返り血で染め上げ、日頃から手入れを怠らない愛用の火縄銃を構え、呼吸を荒くして俺の方を見ていた光秀から…………。
霞「 敵将は、我ら董卓配下の将が討ち取った! 賊軍よ!! 投降する者は受けいるし、反抗するなら討ちとってやるさかい、どちらか選びや!! 」
結果は、董卓軍の圧勝。
敵将討死、敵死者数約二千七百人、投降者約千人。
董卓側は、死者数約百人、負傷者約千五百人。
城は、賊将が討たれたため、賊達は逃亡して無人と三太夫から報告を受け、接収した。 これで賊軍討伐は、終わった………………。
◆◇◆
【 颯馬の受難の件 】
〖 天水城 大広間にて 〗
城に帰還した後、月様や留守をした将達に報告。
被害も少なく、将も無事、戦も勝ったと言う事で、和やかな雰囲気だったのが
霞の報告で一変!
霞「 いやぁー、何とか勝てたんけどな? その、策を立てた颯馬軍師が、敵将に危うく殺されそうになったんやで? 」
俺への問い、怒り、批判等とんでもない空間になった。
☆☆☆
月「 へぅ~!!! 」(バタッ)
賈駆「 月~ しっかりして!! 」
★★★
信廉「 賈駆様! あなたの情報収集はそんなモノだったのですか?! ……颯馬が、颯馬が! もう少しで討たれてしまいそうになったんですよ! 」
信玄「 …止しなさい、信廉。 戦場での事は必ず想定外が付き物です。ですが……もし! 同じ様な事があれば、私も────ただでは済ましません!! 」
昌景「 お二人共、覇気を抑えて! 儂の聞いた話に寄りますと、賈駆殿は、密偵、斥候を出してこの状態との様子。 何やら裏がありそうだと他の仲間が申しておりました。 まずは、そちらを確かめた後でも、宜しいかと! 」
☆☆☆
義清「 兄者!! 今度出陣するときは、私も付いていくぞ! 兄者の危機を守れずなど、妹として恥ずかしい限りじゃ!! 」
宗茂「 同感です! 私も付いてお守りします!! 」
★★★
義輝「 颯馬よ、お主がもう少し強ければ、こんな事態にはならなかったはずじゃ! わらわが明日より稽古をつけてやろう!! 」
道雪「 義輝様、僭越ながらこの立花道雪も、手伝わせていただきます! 」
紹運「 …わ、わ、わ私も、お手伝い………を、いたし…ます 」
恋「 ………………むぅ! 」
ねね「 恋殿が、お怒りです! でも、だ、誰に、誰にですか?! 」
華雄「 …………………………… 」
☆☆☆
皆より、小言を受けながら、一番の功労者、明智光秀の姿を捜すがどこにも、姿が見えない。 ……貂蝉も、見てないが見えなくても問題無し。
月様にも、気絶から起きられた後に、涙目で睨まれた……。
月「 天城様が、詠ちゃんを救っていただいた事は、とても、とても感謝しております……ですが……… 」
俺に、まず賈駆殿救援の礼を言われた。 あの後、賈駆殿は逃走するのも忘れて、俺と賊将との戦いを見ていたという。
俺が命懸けで逃がそうとしたのに無駄にしないでもらいたいと、抗議の眼差しを向ける。 あっ、真っ赤な顔して背けやがった…………。
月「 あ・ま・ぎ・さ・ま? 私の話を聞いているのですか?! 」
す、すいません! しっかり聞きますので、お許しを!!
月「 ……。 詠ちゃんもねねちゃんも申し渡します。 これから先、もし戦になるときは、必ず武官を一人軍師の護衛に付かせます。 いえ、天城様は度々無理すると分かりましたので、二人付いて貰います! 」
全員がこれには賛成。将の数が多いから全く問題無し。
これで、報告は終了となり、各々用事を果たしに戻られる。
◆◇◆
【 詠の要件、月の悩みの件 】
〖 月 視点 〗
天城様が部屋へ戻ろうとするところを、私と詠ちゃんで引き止めました!
賈駆「 アンタに言いたい事があって来たのよ……。 ボクを助けてくれてありがとう…………。 御礼をしたいと思って…… 」
颯馬「 いや、礼を言われるだけで十分だ。 俺も戦場で助けられるかもしれない…… 」
天城様はそう謙遜されると、詠ちゃんは怒り出した…………。
賈駆「 ふん! ボクみたいな未熟な軍師がアンタを助ける? 馬鹿言わないでよ! 今回は、アンタに敵の策の看破、新たな策の構築、しかも命まで救われ、どこをどう助ければいいのよ?! 」
月「 天城様、詠ちゃん……ずっと悩んでいたんです。 竹中様の残した兵法書の凄さに。 そして、その竹中様に勝利された天城様に嫉妬して… 」
天城様は、私の言葉に頷くと、返答を返された。
颯馬「 賈駆殿…。 もし、あなたの考えた策が看破され、月様が危なくなったと想定した場合、あなたは諦めますか? もう間に合わない、策が浮かばないとか泣き言を言いながら… 」
賈駆「 馬鹿言うんじゃないわよ!! 月を見捨て逃げる算段なんて死んでも考えないし、最後の最後まで足掻きまくるわ!!! 」
颯馬「 策の精度、向上は、その『 誰かを守る思い 』ですよ。 俺も竹中殿も守るべき仲間が居た。 その仲間を守りたい一心で策を構築し続け、最後に俺の思いが勝った、それだけです。 俺の大事な仲間達、愛する女性も含まれていたから… 」
私は、天城様が語っていた、竹中様と卑弥呼様の遭遇場面を思いだす…。
『 卑弥呼を初めて見て、驚いた親友の二人は、身を挺して竹中殿を守ろうとしたけど、その竹中殿に大丈夫と言われ、引いてもらった 』
あ! その二人を助けたい思いで、あの策を編み出したんだ! そして、天城様にも、守る仲間達、そして愛する人。 多分、あの人なんだろうな…。
賈駆「 ……その思いを糧に策の精度を上げれば、アンタを、いえ、颯馬を超えることが出来るということ…………なのね!! 」
詠ちゃんの目が変わる! 何時もの勝ち気な詠ちゃんだ!!
颯馬「 まぁ、そういう意味にも取れますね。それに賈駆殿の方が才はあるのですから、俺を超える事なんて遠いことじゃありません! 」
賈駆「 よし!! そうと決まれば部屋に戻って一から勉強し直さなきゃ! えっ?! 今日の政務は、ねねに任せたけど………まだ、出来てないの! 」
詠ちゃんは頭を一瞬抱えるが、その後に天城様へ御礼の言葉を掛ける。
賈駆「 アンタの事、今度から『 颯馬 』と呼ばせてもらうわ! 先に名前を呼んじゃちゃたけど……。 そして、御礼と言うことで、ボクの真名『 詠 』を颯馬に預けるわ!!! いいわね?! 」
颯馬「 わかりました…「 敬語はいらない! 敬称も不要! 同じ軍師なんだから遠慮なんかいらない! 」 …わかった、これでいいかな、詠? 」
私…は、その様子…をみて、もの凄…く、うらや…ましいと、思いま……。
詠「 よし! それじゃねねの仕事を…って、何泣いているの?! 月! 」
えっ? わた…し、泣いて……る? なん…で?
颯馬「 月様、今は一端お部屋へ戻りましょう! ね? 」
天城様の顔が近づいた………!!! はっ、恥ずかしい!!!
……気が付けば、私は二人を置いたまま、自分の部屋へ戻ってしまいました。
詠ちゃんが、心配して来てくれましたが………当分、天城様と顔を合わせる事が出来ませ~~~~~~~~~ん!!!
◆◇◆
【 暗闇の中で蠢く来訪者の件 】
〖 三太夫視点 〗
俺は、颯馬の旦那より戦の詳細を聞いた。
俺が持つ情報を照らし合わすと、先の戦の疑問点が氷解する。
鹿介「 三太夫殿、某、気になる事が…………… 」
三太夫「 んっ! もしや鹿介の姐さんもかい? 」
鹿介「 某の他にも、誰か気にしている方がいるのですか? 」
三太夫「 信長の姐さんと謙信の姐さんが聞いてきたんだよ。 『 賈駆殿が送り出した密偵や斥候は、どうなったか? 』って 」
鹿介「 !!!!!! 」
三太夫「 斥候は、今、小太郎に頼んで捜査している。 密偵は俺が城の様子見るときに発見したよ……。 三人居たが殺されていた。ともに死因は毒殺だったが、それぞれ違う毒を仕様したようだ。 まるで効果を試すように……… 」
小太郎「 ………只今戻りました!! 」
三太夫「 おう、お帰り! …で、どうだった? 」
小太郎「 はい、斥候さん達は、戦場より少し離れた場所で、殺されていました。 …だけど、あんな惨い殺され方は、初めて見ましたよ……… 」
鹿介「 惨い殺され方? 」
小太郎「 全員、首を引き抜かれて殺されています。 しかも、全員の顔の一部をえぐり取り、地面に顔の輪郭書いて置いてあるのですよ! 」
三太夫「 ………もしかして、その顔って、誰かに似てなかったか? 」
小太郎は、首を傾げたと思うと、ポンと手を叩いた。
小太郎「 ……あぁ! 颯馬様に似てました! 」
鹿介「 なんですか、それは!! 」
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謙信「 ………やはり、そんな事が 」
信長「 こんな事をやりそうな輩は、二人しか知らん! 実行出来る力があるのか知らぬがな……… 」
丁度場所に居合わせた、姐さん二人に事情を説明すると、腕を組んで悩む…。
今でも、謙信の姐さんの話を聞いたときは驚いたさ。
俺達の居た世界の姫武将が二人、こちらに来る前に急に姿を消したと…。あの、旦那に対する異常までの『 愛し方 』の二人だから、何かしらの方法で付いてきてると思っていたが。 ……まさか、この世界までもかい……。
『 松永 久秀 』、『 筒井 順慶 』 ………………。
◆◇◆
【 光秀、颯馬に寂しさを語るの件 】
結局、夕食時にも顔を見せなかったので、俺が夜食を準備して光秀の部屋へ向かう。 俺としても礼を言いたいしな。
颯馬「 光秀、いるか? 俺だ、颯馬だ! 入っていいか? 」
光秀「 ………………どうぞ 」
光秀の許可を得て、戸( ここではドアとか言うらしい )を開けて入る。
光秀は、寝台に腰を掛けて座っていた…。 ただ、ボンヤリと…。
颯馬「 どうしたんだ、光秀? いつもの光秀とは思えないが… 」
光秀は、力無く顔を向ける。 白い顔が月の光を受け、更に美しさを増す。
光秀「 ……私は、颯馬に取って何なのでしょう? 」
俺は、持ってきた夜食を落としそうになった! 唐突に何を言い出す!!
颯馬「 お前は俺にとって大事な「 本当にですか? 」 ん?! 」
光秀の言葉が、俺を苛む。
☆★光秀視点
日の本に居るときは、いつも颯馬が傍にいてくれ、悩みを打ち明け、逆に相談されて、義輝様や義昭様、細川父子と共に色んな事を励む事ができました。
……日の本を出てから、三人。 それから追いかけられた方々で七人。 計十人の姫武将がこちらにきています。 それと、半兵衛殿も死の間際まで颯馬を思い続けて、断筆になる素晴らしき兵法書を残しました………。
それに比べ、私は、颯馬に役立ちましたか?
初めてこの世界に降り立った時には颯馬が居なく、捜せば霞に後一歩で殺されるところ。義輝様の助けでなんとかなり、今回も同じような事に。
あの時、私が万が一を考え火縄銃を持っていなければ……………。
颯馬は………!! 颯馬は………!!!!
★☆光秀視点終了
そのまま、光秀は俺を抱きしめる!!
夜食? 勿論、光秀の話が長くなりそうだから、机の上に置いたよ。 零したら意味ないから、って冷静に状況説明してる場合じゃない! 光秀を落ち着けさせなければ!!
颯馬「 光秀は、俺の事を今でも好きか? もし、嫌ならいつでも別れる 」
光秀「 そ、それは、他の姫武将に乗り換えるって…… 」
颯馬「 そんな馬鹿な事できるか! その後、一生独り身で暮らす! どこか山奥にでも籠もって、兵法書を片手に研鑽に努めようかなって…?! 」
光秀「 ーーーー! ーーーー! ーーーーーー!!! 」
そんなこと喋ったら、光秀が泣き出した?!?!
光秀「 ど、どうして颯馬は、そんな意地悪言うのですか!!! 」
颯馬「 いや、俺は、光秀が好きだ、愛している! …だから、光秀が俺の事に愛想を尽かしたのなら、別れても仕方ないかなと思って。 俺が光秀が好きなのは、世界が変わろうが、変化なんてする事ない事実だから 」
俺は、優しく抱き返し頭を撫でる。 人を安心させるときは、頭を撫でてあげるといいらしい。誰から聞いたんだろう? まぁ、その前に光秀安心させなくては………。
光秀「 颯馬は……狡いです!! 私が捨てられる心配しているのに、颯馬からそういわれると、どう答えればいいか、分からなくなってしまうでは、ないですか…………!! 」
頬を赤く染め、首をいやいやと振る光秀を見て、これなら安心かなと感じた。
そして、光秀の顔を固定して、光秀の柔らかな唇に俺の唇を重ねる。
久しぶりの二人だけの時間を過ごし、いつの間にか朝になっていた。
……その途中に、外で聞き耳を立て話を聞き、その後、走り去った者が居たことに、二人共、気付く事はなかった…。
◇◆◇
【 番外の件 】
月「 天城様、おば様の姿が見えないのですが? どちらに? 」
貂蝉?
…………えっと、忘れてた。 あいつは、宴会前に『 卑弥呼と一緒に華陀を捜してくるわん 』と言っていたな。 後、信玄殿の病を直す薬の材料の調達をしてくるだとか。 ……………だから居ないんだ。
霞「 今までも、神出鬼没の奴だからな! まっ、あの二人だから、またすぐに帰ってくるやろ! 」
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あとがき
小説を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
前の小説で、今年終わりにしようかなと思ったのですが、支援やらコメントを入れていただいた嬉しさで、また長い作品を作りました。
後、作品中の武術は、昔、本を見てやっていたもんですから、出してみました。 本当は、モデルになったその武術の名と技名を出すつもりだったのですが、申し訳なくて、漫画の名称を使ったんですが、わかる方はいるのかな?
また、今回、颯馬が行った伏兵の看破と攻め方も元になった戦があり、毛利元就が行った「 折り畑の合戦 」? だとかだそうで、やはり蛍の乱れで看破して撃破したらしいです。 サイト等で見たのですが出てこなかったもので、十数年前の記憶便りで書いています。
また、いつに作品を出すかわかりませんが、宜しく御願いします。
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義輝記の続編です。今回は、残酷な行為が少し入ってますので、ご注意を。 また、前作より長いですのでそちらも注意して下さいね。
12月9日、敵大将の表記と信廉のセリフ、一部場所の景色を修正、追加しました。