「華琳・・?なんだよ・・これは・・」
そこには、あの時の俺が知っている光景はうつっていなかった。俺は、目の前の光景に力が抜けていくのを感じる。確かに、そこは華琳と、みんなとともに過ごした街のはずだ。でも、
「おい、おまえさん、大丈夫かえ?」
俺が地面にひざをついてただその街を見ていると通りかかる老人がそう、心配そうに声をかける。それほどまでに俺は、目の前に広がる光景に何もいえず絶望していた。
「これは、なん、だよ・・」
そうだ。確かに俺はあの日、華琳とともに赤壁を勝ち抜き、三国をひとつにしたはずだ。だから、俺はあの夜・・・。
「ばかぁ・・一刀・・かずとぉぉ」
あの時の忘れられない光景を思い出す。そんな光景がいやで、大好きな彼女の泣き顔を見ることがいやで俺は、ここに帰ってきたはずなのに・・・。
「なんなんだよ!これはぁーーーー」
空に向かって叫んだそんな声ははかなく、空へと消えていった。俺は、力なく立ち上がる。
目の前には、住むところなく気力なく道端に座っている人が大勢いる。通りすがる兵たちに食を求めている。しかし、その兵たちは笑うだけで、何も知らずに通り過ぎている。ここは、確かに俺が華琳とともに暮らした街だ。しかし、ここにはあの時の光景がない。民達が笑いあい、兵たちも笑いあっていたそんな光景が。
城の中心には高々と旗が立っている。
「なんなんだよ・・どうなってるんだよ。」
俺はその旗に向かい力なく歩いていく。
「なあ、華琳。これは、なんなんだよ・・」
城の中心に立っている旗。そこには、司馬の二文字が書かれていた。
「ちょっと、あんた・・・」
力なくただ歩く俺にそう声がかけられる。
「あんた、まさか・・」
「俺は、もう・・」
「っ!こんなところで何やってんのよ!幸いなことにまだ兵たちには気づかれていないわ。でも、ここは離れないとまずいわね。ちょっと、走るわよ!」
俺の顔を見た女性は俺のことを知っているのか、いきなり俺の手を握って走り出そうとする。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ」
「うるさいわね。待ってられないわよ」
なんだろう。はじめてあった女性なのにこの懐かしい感覚は。俺は、ただそういって強引に俺を連れて街の外へと走っていく女性に身をゆだねていた。
なんだろう・・彼女の後姿、見たことがあるような気がする・・。
俺は風に揺れてこちらにたなびく髪をただ見ていた。
「まあ、ここまでくれば大丈夫でしょう。で、あんた。」
しばらくは知った俺たちは、街外れの小さな森にいた。
「何なのよ。」
俺を連れてきた彼女は、息を整えながら腰に手をあて、そう聞いてくる。
「いや、何なのよっていきなりきかれても、よくわからないんだけど」
「はあ?あんたここに来てそれ?ほんともう、何なのよ!」
「だから、こっちが聞きたいんだけど。いきなり手を引かれてここまでつれてこられて、目的はなんだ?」
そう俺が真面目に聞くと、彼女は口を開け呆然とこちらを見ている。
「ちょっと、あんた本気でそんなこといってんの。」
「というか、君は誰?」
「はあ?もう信じられない!ほんとあんたって、くずがつくほどの馬鹿野朗ね!」
「さっきからいきなりなんなんだよ!」
「ああ、もう。ほんとに年をとっても変わらずむかつく奴ね。私よ!」
そういって彼女は、服についているフードをかぶる。
「ねこ・・耳?、おまえ、もしかして桂花・・か?」
「もしかしなくてもそうよ!ってかほんと最低な男ね。これで思い出すなんて、ほんと、最低!」
なんだ・・やっぱり俺は、華琳の世界に帰ってきていたんだ。俺は、そのことがたまらなくうれしくて、目の前の桂花に抱きつく。
「ちょ、ちょっと!いきなり抱きつかないでよ、妊娠しちゃうじゃない!」
「やっぱり桂花だ。桂花!桂花!」
「もう、なんなのよ!やめて!抱きつかないでってば!」
「なんだよ。少しいない間に髪ずいぶんのびたんだな。顔立ちも大人になって。」
「うるさい!もう!離れなさいってば!」
「というか、桂花。背も伸びたのか、こんな少しの間に・・」
俺は桂花に会えたということで最初は頭から飛んでいた違和感を覚える。俺が、華琳と別れてから、一日もたっていないはず・・こんなことが、おこるはずがない・・。俺は、桂花から少し離れその顔立ちや前よりも伸びた身長をみて驚く。
「あなた、記憶が飛んでいったのかしら?それとも、何?やっぱり単なる間抜けなのかしら?」
「いや・・、まて。待ってくれ。」
「はぁ、なんなのよ。まあ、ここには私とあんたしかいないんだし、別にいいけど。」
「なあ、桂花。どうなってるんだ・・。ここは・・・。」
俺は、桂花の違和感だけではなく、城の様子、そして、その中心にたなびく二文字の文字、司馬の文字を思い出す。
「なあ桂花・・華琳は、みんなは・・どこだよ?」
「っ・・」
「なあ、俺たちはついさっき赤壁で呉と蜀を倒し、三国統一を成し遂げたじゃないか・・。そう、だよな?」
「あ、あんた、それ本気でいってんの?」
「本気でって、それが事実だろう。」
「ふざけないでよ!」
そういって、桂花は俺の襟をつかみ、後ろの木に俺の身を押し付ける。
「くっ、なにするんだよ。」
「なにするんだですって?あんたは、あんたはっ!」
そういって、桂花は俺の襟をつかむ力を緩め、地面にそのひざをつき、泣き出した。
「ねえ、あんた。本当に何も知らないの?」
「何もって・・俺は、ただ・・」
「私の姿を見ても・・。街のあんな光景を見ても、何も気がつかないの?」
「・・・」
「そう・・」
「なんなんだよ?」
「貴方が消えてから、もう5年がたっているのよ・・」
そう告げられた一言に俺は、ただ力をなくすばかりであった。
「嘘・・だろ?」
「嘘、ついてどうすんのよ。あの日ね、貴方が消えた次の日華琳様は私たちに、貴方がその役割を果たして帰還したっておっしゃったわ。みんな最初は嘘だって思った。それは、そうよね。だって、やっと三国が統一し、これからだって言うのにあんたは消えちゃったんだから。」
「・・・」
「でも、最初は嘘だといっていたみんなも月日が流れるごとに気づき始めていた。あんたが本当にもうこの世界からいなくなってしまったって。それから、いろいろあったけど華琳様は今まで以上に仕事に励むようになったわ。私は、みんなを導くためにそう励んでらっしゃるのかと思っていた。けれど、ね。華琳様はあんたが帰ってくる場所を守るために必死で、やっていたのよ。あんたがいつか帰ってきたときにいつでも堂々としていられるようにって。そうやって、ずっと華琳様はあんたがここに帰ってくるのを信じていた・・。」
「そん、な・・」
5年、目では絶対に見えることのないそのときの流れが俺に押し寄せる。
「そんなときだった。そう、それはちょうど三年前のこと。天の御使いが魏に侵攻してきたのは。華琳様は、あんたがそんなことするはずないって、もしそれがあんただとしてもなにか考えがあるんじゃないかっておしゃっていたわ。」
「なんだよ・・それは」
3年前、天の御使いが現れた?俺以外の?
「最初はね、私たちは解決できることだと思っていた。けど、天の御使いを名乗った者の策は私たちの想像を超えていた。私たち、魏軍は時をたつこともなく敗走。籠城戦を迫られたわ。」
「華琳が敗走って、そんなことがありえるのかよ?ほかの国はどうしたんだよ!そのための三国同盟だろうが!」
「言ったでしょ。敵は私たちの想像を超えていたの。私たちは敵に三国同盟という弱点をつかれた。呉は豪族やほかの反乱分子が反乱をおこし、敗北。呉王孫策のへの毒矢、そして周喩の不在が痛手だったようね。」
「そんな、馬鹿な。孫策はどうなったんだよ?周喩は?」
「しらないわ・・。私たちもそこまでの情報を手に入れられる状況になかったの。」
「蜀はどうなんだよ。」
「蜀も、五胡の大軍の侵攻にあたって、壊滅したらしいわ。」
「五胡だけで、壊滅するわけないだろう!」
「当たり前よ!秋蘭、稟、凪、真桜、沙和も救援にいったんだもの。」
「だったら!」
「だけど、関羽が敵にやられ、成都を敵にとられ、挟み撃ちにされたら何もできないじゃない・・。」
「あの関羽がやられたのか・・。どういうことだよ」
「私にもよくはわからない。呉からの救援要請で蜀は荊州に関羽を派遣したの。私たちのほうは、霞を救援にだしたわ。けれど、連絡は帰ってこないままだった。そして、関羽を倒した反乱軍は成都に攻め入った。その軍は、呉のよろいを着ていたものだから、さすがの蜀も対応に遅れが出、時を断つこともなく壊滅。そして、五胡と交戦中だった蜀と魏の連合軍は挟撃により壊滅。」
「そんな・・」
「そして、敵の情報にまんまと引っかかり、救援を各地に派遣していた私たちもすぐに、やられたわ。」
「華琳は・・、みんなは、どうしたんだ。」
「呉と蜀の将たちの情報はつかめないまま。この5年間連絡もない。蜀へ行った魏のみんなも、呉に行った霞からも連絡はないまま。そして、春蘭、流琉は最初の敗走のとき、しんがりをつとめたままかえってこらず・・。そして、華琳様、風、季衣は敵に拘束された。天の御使いを利用した男、司馬 懿にね。」
「嘘だよな・・嘘、だろ!なあ、桂花!」
俺は木をそのこぶしで力強く殴る。なんだよ・・なんなんだよ。あの旗は・・あれはそういうことだったのかよ!
「嘘なんかじゃない。」
「そうだ、これは夢・・。夢なんだ。ははっ、そうかきっとおきたら俺は“パチンッ”」
「ふざけないでよ!」
俺の頬をたたく桂花はしっかりと俺の目を見ていた。
「桂・・花」
「受け入れたくないのはわかってる!でも、これが事実なのよ!変えられない事実なの!」
「事実・・」
「そうよ!」
俺が、俺が、こうしてしまったというのか・・俺が歴史を変えてしまったからこうなってしまったというのか・・・。それとも、俺がこの世界に戻ってきたいと願ってしまったからこうなってしまったのか?俺は・・・
「桂花は・・大丈夫だったのか?」
「私は、籠城戦のとき敵の矢を受け、次におきたときはもうすべてが終わった後だった。情けないけど、ね・・。それから、私はみんなの情報を集めるために、ずっと隠れながらも敵のことを探っているの」
「そう、だったのか・・」
「華琳様は、最後の最後まであんたをまっていたわよ。みんながまっていた・・」
そう重たくのしかかる言葉。
「でも、俺は・・・俺のせいで、俺のせいでみんなはっ!」
「馬鹿ね、だからあんたは馬鹿なのよ。確かにね。何も知らないあんたははっきりいってむかつくわ。でも、それでも、あんたがつらい思いをしたのはみんながわかってる。もう、帰ってこないって思ってた。けれどあんたは・・」
「桂花・・」
「帰ってきてくれたじゃないの」
「でも、俺はっ!」
「あんたがそう思うのはわかる。私も、この3年間ずっと、私が情けないばかりに華琳様を助けられなかったって思ってた。けれど、違うのよ。過去を後悔することも大切なこと。けれど、もっと大切なことはその後悔を本当の後悔にしないように、この先どうしていくかを考えていくこと。」
「桂花?」
「あんたは天の御使いなんでしょ。これくらいのこと、乗り越えてみせないさいよ。」
そうだ・・。もう、俺はここにいる。変えられない過去をいくら後悔したところで何も始まらない。だったら俺は・・
「そう、だよな。行こう、桂花」
「私に指図しないでよね!当たり前じゃない」
そう、もう一度君と道を歩くと決めたのだから、華琳・・。
俺は・・・
Tweet |
|
|
27
|
3
|
追加するフォルダを選択
消えかけた一刀は華琳とともにという思いとともに、その身をとどめることになるのだが・・