No.642728

運・恋姫†無双 第二十二話

二郎刀さん

他の人の作品を見て俺もそろそろ投稿しないとなーって思い始めました。
気付けば前回の投稿から一か月経っててびっくりですわー。やべー。

2013-12-04 22:59:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1786   閲覧ユーザー数:1542

数日前に、女を見た。

桃白の長い髪を、腰の下まで降ろした女だ。

見た瞬間、呆けて見送ってしまった。

次の日、同じ場所でその女が通るのを待っていた。

その日は通ることが無かったが、数日はそうして潰れてしまった。

 

「わからん。桃白の髪をした女としか」

 

「名前も知らぬ相手をですか。ははあ、恋ですね。若いとは、羨ましくなる」

 

「そう、恋なのだ。俺も、恋をする。それはわかる。ただ、一目惚れと言うのが、信じられん。この俺がだぞ」

 

「ええ、あなたはその年にして相応しからぬものを持っている」

 

「何をだ」

 

「男としての、面構えです。しかし、そんなあなたが一目惚れとは、年相応の可愛らしさじゃあないですか」

 

紗羅はふてくされた様に酒を呷った。

張世平は向かいの席で、口元を隠して押し殺す様に笑っている。

 

「女は抱いた事がある。奴隷を買って、抱いたのだ。女を犯したこともある。そんな俺が、だ。恋を脆弱とは思わないが、自分を腑抜けているのではないかと思ってしまう」

 

「あの陳宮という娘は?」

 

「あいつは違う。大事な荷なのだ」

 

「妖術使いも、恋に悩むか。面白い。私としては、あなたの悩みとは微笑ましいほどです。笑いませんよ?」

 

「もう笑ったくせに」

 

酒もかなり飲んでいる。

そのくせ、飲んだ量にしては酔えていないのを紗羅は自覚していた。

 

「一目惚れとはどんなです? 彼女の何に惹かれたのでしょうか」

 

「そう、それだ。それでもある。俺は、何に惹かれたのかわからんのだ。女を抱いたと言ったな。一人目は、女だったらよい、という気分にもなっていた。二人目は、容姿で選んだ。俺を殺そうとした女だが、好みだった」

 

「陳宮さんはその中に入ってないんですね」

 

「茶化すな。今は聞け。酒のせいにして話してるんだ」

 

「続きを」

 

「それからこの前の、桃白の女だ。容姿はかなり好みだ。理想的と言って良い。理想が桃白の女ではなく、桃白の女が理想なのだ。見た瞬間、まるで思い出したかのように、あの女だと思った。しかし、歩いている姿を見ただけで、俺は容姿で選んだのか? それを考えると、違うのだ。しかし、まあ……彼女と呼ぶ事を許してもらおう。彼女の事が頭から離れないのも事実でな。くそ、にやけた顔しやがって」

 

張世平は笑いを噛み殺していた。

その間に紗羅はまた酒を注文した。

注文した酒を空にしたとき、やっと張世平は顔を上げた。

 

「しかし、あなたの話を聞くと、女を抱くことを選んでいる気もしますね。抱きたいのですか、その女を?」

 

「勿論、男として当然だろう。いつもの俺ならそう言うだろうが、それもわからん。抱き心地が良さそう、触れ合いたい、会話をしたいとかそういうのすら、思い浮かばない。考えようとすると、何に惹かれたのか増々わからなくなってくる。もしかしたら、俺は何にも惹かれていないんじゃないか? 俺は、恋をしていないのかもしれない」

 

また酒瓶が空になる。

空になるたびに苛立ちの様なものが増えていくような気がした。

悩みを吐き出してみても、一向に気が軽くなるという気配もないのだ。

 

「恋は盲目とはよく言ったものだ。自分が何を考えているのかもわからなくなってくる。らしくない。酒が入ってることはわかるが、らしくない」

 

「その女を知っているかもしれませんよ?」

 

張世平はいつも微笑んでいるような顔をしている。

見上げた時の顔も、やはり微笑んでいるように見えるのだ。

 

「とりあえず、彼女の特徴を教えてくれませんか」

 

「桃白の長髪、褐色の肌、碧眼、頭飾り。あと、どこかの令嬢かと思う。護衛の兵が付いていた」

 

「それだけ揃って、よく見つけられなかったものだ。人に聞かなかったのですか?」

 

「少々恥ずかしくてな。張世平殿が、友だと思ったから、話したのだ。商人なのだから、顔も広いと思って。やはり有名なのか」

 

「その女は孫権仲謀。孫堅文台の娘ですよ」

 

「なんとっ。おい、本気で言ってるのか」

 

「先代の孫堅が亡くなったのは知っていますね」

 

「一年前の事だと聞いた。それからは袁術の元に身を寄せていると」

 

「客将という立場ではありますが、孫家は言いなりになっているのが本当の所です。あなたが見た孫権の護衛の兵と言うのは、護衛が建前で、実際は監視の兵と言ったところでしょう。といえども、孫策は袁術の元でかなりの厚遇を受けているとも聞いていますけど。ただの一豪族を袁術はいたく気に入ってるようで」

 

「まあ、今はそんな事どうでもいいんだ。どうせ俺には関係ないことだし。しかし、孫権か。一度近付いてみるか」

 

外を歩いているのを見た。

という事は、外出する機会があるのだろう。

その時に孫権と会えばいい。

機会はある。

それがわかっただけでも、いくらかましになったと言えるだろう。

席を立った。足取りはしっかりしている。

張世平は相変わらず微笑んでいるように見えた。

 

「私はもう少し飲んでいきますが、二日以内に屋敷に来てくださいね、仕事がありますから」

 

「覚えていたら、行く」

 

「忘れてたら使いをやりますよ。それと最後に一つ。今のあなたは、女を抱かない方がいい。もし違う女の名前を口に出してみなさい。殺されますよ、冗談でなく」

 

杖を振る。

張世平が懇意にしてくれるのはありがたかった。

孫権の情報も手に入ったし、彼からの仕事は、やり遂げなければならぬだろう。

燃えている。

燃え盛っている炎ではなく、燃やし尽くした後の炎だ。

 

「戻ろうか。ここに、用は無くなった」

 

燃えていたのは村だった。

賊に襲われた跡がある。

村を襲うのは珍しくもないが、燃やす事までする賊はそういない。

村を一巡りしてから踵を返す。

馬は連れて来ていない。

ここらの地では馬より舟を使った方が遥かに速いのだ。

 

「荷は、張世平殿に返すしかないな」

 

運んでいるのは絹だった。

きっとまた試されている。

張世平とは仲が良くなったが、それでも知り合って間もない。

にも拘らず、絹など高価な物を運ばせること者などそうはいないだろう。

そういう寛容とも言って良い大きな所に人も物も集まるのか。

 

つけられている。

腰までの高さまで伸びている草が、道の両脇にある。

そこを通りかかった瞬間から、何かが潜んでいるような奇妙な感覚が付きまとうのだ。

確かめることはせずに歩き続ける。

二人は本当に気付いていない。

何歩か歩くと、向こうも動く気配を見せる。

しばらくそうして歩き続けた。

動いている。

草が大きくざわめく。

振り向きざまに拳を叩きこんだ。

地を跳ねて転がっていった相手は仰向けになったまま起き上がらない。

 

「何なのですか、あれは」

 

陳宮が驚きの声をあげた。

そんな事を言われても、あれが何なのかわかる筈はない。

村を襲った賊なのか。

それとも、あの村の生き残りなのか。

 

「さあ」

 

「さあって」

 

「どうせ、俺たちには関係のない事だろう。行くぞ」

 

放ったまま歩き出す。

陳宮が何度か振り返りながら付いて来る。

見えなくなった瞬間に、またつけられている気配があった。

もう起き上がって来たのか、と紗羅は驚いた。

二度目は舟に乗ろうとした時に襲い掛かってきた。

また拳を叩き込むと動かなくなる。

どうやら本当に気絶しているらしい。

 

「喬、そいつを舟に乗せろ」

 

喬が言われたとおりに担いで舟に降ろした。

喬は何も言わなくても何も聞いてくれない。

それが紗羅は気に入っていた。

 

「公台、俺の傍に居ろ。こいつはいつ起きてくるかわからんぞ」

 

三度目は舟に揺られていた時だった。

飛び掛かってきたのを、髪を掴んで河に叩き落とした。

しばらくして浮かんできたのをまた舟に乗せた。

岸辺につくと、飛び跳ねるように起き上がった。

また飛び掛かってくるのを、地に組み伏せる。

 

「少しは落ち着けよ」

 

「俺は」

 

「まずは、名だ。姓は紗、名を羅、字を竿平。運び屋をしている。お前の番だぞ」

 

答えずに暴れようとしている。

あまり動くと、簡単に折れてしまいそうなほど細い身体だった。

離す。

瞬間に距離を取ってから、口を開いた。

 

「呂蒙」

 

「呂蒙。ふむ、お前がか。いや、お前なのかな」

 

「何だよ。俺を、知っているのか」

 

「知らん。字を聞いてないぞ」

 

「ねえよ、そんなもん。つけられる前に親は死んだ」

 

「聞きたいことがある。あの村を焼き払ったのはお前か?」

 

「だったら、どうするってんだ」

 

「どうもしない。ただの興味だ。答えなくてもよい」

 

「別にどうでもいいがな。俺じゃねえよ。賊と言いたきゃ、言えばいい。だけど、俺じゃねえ。それで、なんで俺を離した」

 

「お前、逃げたそうにしていただろう。だから離した。もう、逃げて良いぞ」

 

「逃げるだと。この俺が」

 

呂蒙がまた飛び掛かってきた。

どこか自棄になっている所があるようだ。

腹を杖で打つと蹲って大人しくなる。

 

「阿蒙」

 

「阿蒙だと。ふざけんじゃねえ」

 

「聞け、阿蒙。ここから西へ行った所へ、賊の塒(ねぐら)がある。そこの周泰という者を訪ねるとよい。そこにいれば、俺に会えるぞ」

 

「待て、運び屋、殺してやる」

 

紗羅は踵を返して歩き始めた。

喬が何もなかったように着いて来て、陳宮も慣れたことの様に歩き始める。

きっとまた会う事になるだろう。

あれが呂蒙ならば。

呂蒙は蹲ったまま喚き続けていた。

城の一室を紗羅は訪ねていた。

扉の外から声をかける。

戸を叩くことはしない。

その習慣は無いからである。

すぐに答えが返ってきて入って来るようにと言われた。

 

「やあ、周先生」

 

椅子に腰かけていた周瑜は、一度だけ紗羅と陳宮を見てまた本に目を戻した。

 

「少し待っていろ。今読み終わる」

 

「では、俺は準備を」

 

部屋の片隅にある椅子を引っ張り出して適当な位置に座る。

すぐに周瑜は顔を上げた。

 

「では始めようか」

 

周瑜が琵琶を持ち出した。

紗羅が持っている楽器も琵琶である。

周瑜と最初に出会ったのは、紗羅が泊まった宿だった。

旅の楽士が楽器を弾いているのを見て、それに興味を引かれて買った琵琶を宿で弾いている時に周瑜が部屋を訪ねてきたのだ。

それ以来、周瑜に楽器を師事して半年ほどになる。

日によって扱う楽器は違う。

琵琶だけでなく、笛や太鼓なども扱ったりするが、その日は琵琶だった。

 

多少は弾けるようになった。

しかし、それでもまだ上手くはない。

それなのに、とりあえずは弾けるようになると周瑜は、自由に演奏してみろ、と注文を付けてくるのだ。

周瑜の前で演奏など、居心地の悪いものでしかないが、やらない訳にはいかなかった。

紗羅の演奏が興味深いらしい。

時代の違いによるものだ。

そういう所は、あべこべなのだ。

 

楽器が終わると、次は軍略や政治の話になる。

そういうものは陳宮が活躍する。

紗羅は、大抵周瑜と陳宮の門答を聞くだけであまり興味は湧かなかった。

周瑜も陳宮の才に目を付け始めた。

たまに忘れがちになるが、あの陳宮なのだ。

そんな歴史の人物と一緒にいると思い始めると奇妙な感覚に襲われることがある。

 

次第に話は孫家の話になる。

そういう話は中庭でする。

周瑜にも監視の兵はつけられているのだ。

だから開けた場所で、寄りつきようがない場所で話をする。

 

孫家の事で、紗羅は孫堅や孫策の事を聞いた。

孫策は袁術と共にいると言う。

袁術のやり方は厄介なもので、統治のやり方は、富ませず、飢えさせずだ。

 

「富ませれば民は余裕が生まれる。自分だけでなく、隣の者に目が行くようになるだろう。飢えさせれば、人は死に、反抗を学ぶ。どちらも、袁術という支配者には厄介事だろう」

 

「だから、民からの反発は少ないと言って良いのですね。訪れた村も街も、北と比べて活気がないように見えます」

 

「実際ないんだろうな、陳宮。皆、自分で精一杯だ」

 

そして、孫策と周瑜は離れ離れにさせられている。

これは当然の事と言えた。

先代の頃から孫策は武勇をあげていたし、周瑜はその才を発揮させていたと言う。

断金とも呼ばれる二人を一緒にさせることなど、袁術は間違ってもしないだろう。

孫家の主立った者たちはそうやって離れ離れになっている。

 

「しかし、孫策殿は好待遇を受けていると聞きましたが」

 

「望んでいる事ではない。しかし、袁術に気に入られてしまった。手紙の内容には、袁家にならぬか、とまで言われたらしい」

 

「そこまで気に入られているのですか」

 

孫策が反旗を翻さない最大の理由は後継の事だ。

孫権は監視下にある。

わからないのは、末娘の孫尚香の所在である。

孫尚香の居場所は伝えられているが、実際には確認できていないという。

孫呉の跡を継ぐ者が確立できていない限り、孫策が反旗を翻すことは無いだろう。

動こうとも動けない。

そういう所が、袁術のやり方は狡猾なのだ。

しかしそれでも、いつかは独立する事は、周瑜は忘れていないはずだ。

それは孫策も同じなのだろう。

 

「周先生。俺にも、好きな人が出来ましたよ」

 

「ほう。それで最近陳宮が不機嫌なのだな」

 

そういった話を暫くすると、世間話に話は移る。

旅をした場所や、そこがどのような所だったか、出来事などを話す。

こういったことの方が、楽器や軍略を習うより楽だった。

 

「どんな相手だ?」

 

「まだ、姿と名前しか知りません。声をかけたことも無いのですよ」

 

「それしか知らぬ女をか? それで陳宮の気持ちを受け入れぬのだから、罪な男ではないか」

 

陳宮には好かれているが、その気持ちは恋ではないのだ。

その事を言うと、陳宮は見栄を張って恥ずかしい事を喚き立てる。

周瑜が笑った。

周瑜も恐ろしいほどの美人だが、それに惹かれるようなことはあまりない。

理想の女を見つけたばかりなのだ。

好いた相手は孫権で、周瑜が目の前で笑い、陳宮は不機嫌な表情だ。

紗羅はまた、場違いの様な奇妙な感覚に襲われた。

あとがきなるもの

 

運び屋の恋。

俺っ子阿蒙推参。

周先生の音楽教室。

 

の三本でお送りしました。二郎刀です。何故こんな物をかいたし。

 

まあこんなのを書いた理由としましては、恋姫って恋をされる側じゃなくてする側だよなって思ったからというのがあります。

一刀君てイケメンすぎていつの間にか好かれてるんですもの。あんな!美少女に!とっかえひっかえ!これが主人公補正の修正力!爆発しろよ北郷一刀とか思った事があるのは内緒。内緒だよ?内緒なんだから。

 

そんでもって今度は

 

亜莎阿蒙時代

 

です。俺っ子です。キャラ改変です。まだ頭が良くない時なのです。最初はもっと違う登場の仕方でしたが何故かこういう事になった。最初は俺っ子でもなかったんですけどねー。

 

それと周瑜が登場しました。周先生です。音楽の先生やってます。嘘です。いや嘘ではないか。美周郎ですよ美周郎。でも恋姫では女だから嬢?美周嬢?なのでしょうか。でも老師とか言うと鞭打たれます。白虎九尾。アンソロネタですね。あっちは紫苑さんですが。でも周瑜って確か武芸にも秀でてなかったっけ。

 

周瑜との会話で孫策が袁術に「袁家にならぬか」と言われたことですが、演義の方で袁術は孫策について「あのような息子がいれば」とか言ったんですよ演技でですが。正史は知らん。

最初は袁術視点で作ろうとしたけど駄目でした。あまり視点変更ばんばんやると見づらいしわかりづらいかなーって思ったのです。まあこう言った理由としてはその内ちゃんと書ければいいなって思います。書くつもりでもいます。しかしそれは今ではないのです。たぶんもっと先。

 

自分程度の作品が少しでも面白ければ良いのですが、今回はここまで。

 

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


 
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