魔法少女リリカルなのは×As
・・・うん、悲しかったよね?
黒い渦の中で少女は泣く。侵食されながらもその心に入ってくる闇を受け入れながら・・・
短髪に赤い髪飾りを揺らしながら闇の書の防衛プログラムの中に溶け込んでいった。
「・・・私はそんなの納得できない」
なのはたちと共に闘った桜庭マナはそう泣きながらみんなを見た。
「・・・臭いものには蓋をして、みんなで壊して・・・それで、終わりなんて納得できないよ!」
なのはは呆然とした。
それはそこにいるはやても、フェイトもヴォルケンリッターたちも同様に。
しかし、マナがやろうとしている事は誰もが言った。「無謀だと」・・・それでも、少女は頑固だった。
・・・こういう青空を見ていると思い出す。
彼女はいまも何処かで闘い続けているんだろうか?
笑顔の似合う親友は、いつも私やフェイトちゃん、はやてちゃんを勇気付けてくれた。
泣いているときに一緒に泣いてくれた。立ち上げる勇気をくれた。
「なのはママ?・・・どうしたの?」
「うん。なんでもないよ?ヴィヴィオ。」
ミッドチルダの郊外のお家で娘とすごしながら高町なのは思う。
かつて、友達が自分たちの間にはいた。その友達はすずかちゃんやアリサちゃんとは異なる友達。
・・・戦友といってもいい。ともに「魔法少女」として闘い、自分たちとは異なる道を走っていった。
そう、これは、リングにあがる少女の物語。
どんな困難にも立ち向かい、その姿はすべての者達に勇気を与えた「小さな正義の味方のお話。」
「なのちゃーん♪、はやく、はやくぅー。」
そう元気よく微笑みかける短めの栗色の髪に左右の赤いリボンの髪飾りを揺らしてた元気な第一印象の女の子。
私たちは忘れない。その少女は私たちにとってもっとも大切な『ともだち』だったことを・・・。
ヴィータちゃんたちを追いかけているときに発見したもう一人の魔法少女。
赤い水着のような防護服。ヴィータちゃんの一撃をいなし、シグナムさんの斬撃を弾く。
様々な武器に換装し、一人で私たちが敗北した古代ベルカの騎士たちを圧倒する少女に私たちは驚いて・・・
「・・・すごい戦闘能力だな、彼女は」
クロノくんも舌を巻いていた。
トルファー型のガントレットに換装して魔力刃を飛ばしたり、フットワークを活かして突進。
あの・・・狼型の使い魔さんの豪腕をいなして吹き飛ばす。
そうすると、両手の武装が消え、流体の光を帯びて今度は長柄の槍に槍の突きがあの赤い服の子(ヴィータ)の魔法の弾をすべて叩き落し、突撃してくる私が撃墜された一撃を捌いて逆に吹き飛ばす。
「確認されている武装はこのガントレットと槍の二種類。
さらにいえば武術の有段者のようだ。動きに隙がない」
映像はここで途切れている。
「確認された映像で判別した。彼女は桜庭マナ。フリーランスの魔導師だ」
その名前に聞き覚えがあった。
「・・・どうしたの?なのは」
いぶかしんでいる私にフェイトちゃんが心配そうに詰め寄る。
その名前と外見特徴・・・間違いない。
「まなちゃん!」
道場で稽古をしていた女の子を見つけて私はその子の名を呼んだ。
「ん、なのちゃん?どうしたの?」
高町なのはに裏門に呼び出されてきょとんとしているまなちゃんに私はすべてを話した。
自分が「魔法少女」になったこと、まなちゃんが追っている《ヴォルケンリッター》を追っていること。
・・・そう、次元管理局。
まなちゃんは思案した表情になる。
「管理局の人たちから聞いているとは思うけど、あれは古代ベルカの負の遺産。【闇の書】・・・
永遠に転生を繰り返し、人を襲う禍物。聖王教会としてはこれの存在を看過できない。って依頼なの」
まなちゃんは現在、親戚である高町家に居候している子。
彼女の家は家庭内暴力があり、身柄を一時的に預かる形でウチが保護していた。
まなちゃんはそんな境遇に自分の不幸だと思わず、強くなりたいと中国拳法をフェイに、剣術をお父さんに習っていた。
「んと、わたしこーいう性格だからさ、聖王教会の騎士が持っていたデバイスに適合しちゃってね♪」
試験運用中のデバイスに適合し、四つの武装を自由に換装できるようにデバイス自体が変貌しちゃったということらしい…。
「そっか!、じゃあ、協力しよう」
リンディ提督が教会の人に協力を要請しまなちゃんはアースラチームに外部協力者として転属になった。
そして、私たちもお願いした。私たちを鍛えてほしいって・・・。
「えと、どういうこと?」
フェイトちゃんと私に頭を下げられ慌てるまなちゃん。
「私たちも強くなりたい。だから、まなちゃん。私たちを鍛えてください」
「マナ。お願い。私も強くなりたい。・・・あの騎士の人に勝ちたい」
フェイトとなのはの瞳をじっとみて、まなちゃんは笑顔で頷いた。
「・・・私の指導はきびしいよ?・・・ついてこれるかな?」
「はいッ! よろしくお願いします!」・・・こうして、私たちは格闘技の先生を得た。
「まなちゃん・・・これは?」
なのはが気恥ずかしそうに頬を染める。
「うん・・・私も、この格好は???」
フェイトも俯きながらもじもじしている。ここはまなちゃんが張った結界の中。そこにあるのはプロレスの・・・リング?
私たちはピンクと黒の水着姿。まなちゃんも競泳水着に着替えてきていて・・・
「んー剣道三倍段って言葉を知っているかな?」
剣を持つ相手に勝つためには三倍の力量が必要っていう意味なんだけど、あの騎士たちは古代ベルカ時代の猛者。
生兵法で勝てるわけがないの。・・・だから、なのちゃんたちは・・・まず、体力をつける必要がある。
「・・・体力?」
「魔法戦のイメージはユーノくんが行ってくれているからそっちは置いといて・・・」
二人の特性を活かした戦闘訓練を行って騎士に勝つよ!
そうしてまなちゃんの指導による私たちの戦闘スキルの底上げがはじまった。
「・・・28,29、30ッ・・・!」
腕立ては魔法杖を持つ筋力をあげ、体力を向上させるよ。
腹筋はスタミナ、ダメージコントロールに繋がる。フェイトちゃんはそのスピードを活かした蹴りや背面取りを学習して!
的確な指導と実戦に即した立ち回り。さらに、魔法を使わない戦闘訓練、プロレス式のトレーニングによって私たちは飛躍的に強くなった。
「・・・いい?水着になったのはお互いの癖や身体のこなしを認識するためだからね」
空中でも相手の攻撃の初動を見る。そうすれば的確な戦術を構築できる。そしてそれを反芻させ身体に覚えこませるの。
まなちゃんのアドバイス。ヴォルケンリターたちとの戦闘経験をリンカーコアの回復のために出撃できない私たちに伝達し、スパーリング。
デバイスが直り、リンカーコアも正常に戻った頃には私たちの瞳に確かな自信があった。
「・・・また、貴様か・・・」
ザフィーラは身構えた。幾度となくぶつかりお互いを認め合うようになっていた。
流れ込んでくる熱い鼓動。
【攻撃意志。】
それに私は思い描く、「強い自分」・・・最強の私を。赤い光はさらに強く輝く
赤い格闘グローブ。チューブトップの胸元に白いフリルのついた赤い水着。膝パットに赤いリングシューズ。
焔のような熱い熱風が晴れたとき、私は自分の思い描く「理想」。
「・・・そうだね、えっと、ザフィーラさん」
この蒼い守護獣の名前も覚えた。闇の書の呪いもまたマナは知りえていた。
・・・完成する前に捕らえることが出来れば、悲劇を食い止めることが出来ると信じていた。
それは、光の流体を激突させているなのはとヴィータ、シグナムとフェイトも同様だろう。
(完成が近いようだね・・・これは、本当に・・・)
聖王教会から言われていること・・・闇の書の暴走の前に【完成された闇の書】の破壊。
・・・その使用者【八神はやて】の命もろとも・・・
大規模破壊を巻き起こす【闇の書】
・・・それを倒す秘策をまなは携えていた。
(出来れば使いたくない。でも・・・もしものときはこの『魔槍』をつかわなくっちゃ・・・)
・・・やっぱり、間に合わなかった。
長い銀髪の女性。闇の書の融合騎の姿をみたマナは覚悟を決めた。
「なのちゃん!・・・私はこの崩壊を私の結界で上書きしてみる」
フェイトたちと別れ、儀式魔法を開帳する、それは禍々しい呪いの槍。『刺し貫く死翔の槍』の力。
・・・因果相克の呪いを帯びた槍に魂を込める。『ー投影ー・・・開始。』ゲイボルグの開封と宝具の一時全力使用。
これが、聖王教会が用意した『八神はやて』ごと闇の書を破壊させる秘策・・
「なんのことはない、臭いものには蓋なだけじゃない!」・・・しかし、世界を一人の少女のために失うわけにもいかない。
マナは自分の思いとは裏腹に全魔力を槍に注ぎ込む。・・・発動する瞬間は、完全な暴走の瞬間。ナハトヴァールに完全に自我が失うその瞬間
「・・・なんとかしてみせるよ。」
そう桜庭マナはそう微笑んだ。防衛プログラムが防衛機構を形成する前に・・・
「・・・みんなの力を禁ずる!」
ビクンとなのはたちが震えた。桜庭マナを止めようとしたすべてが動きを止める。
・・・そんな、魔力結合ができない?マナの呪法が開帳されクロノは驚愕に呆然とする。
「・・・動けない。よね?・・・これは『呪禁道』っていって、魔法や攻撃を禁ずる魔力解除術なの。」
「・・・な、んで・・・?」
「闇の書が暴走励起状態になったとき、はやてちゃんの命で闇の書の発動を抑えるための手段」
その言葉にヴォルケンリッターはじりじりと主を守ろうとする。それをみたマナはそんなことはしないと首を横に振る。
「・・・闇の書の闇・・・なんとかしてみせるよ」
そう仲間たちを見回して笑顔で微笑んで見せた。
そうして・・・ひとりの少女が闇の渦に飛び込んだ。
ゆっくりと侵食され、闇の渦に飲まれていく。それを高町なのはは泣きながら見ているしか出来なかった。
(まなちゃんは・・・本当は「死にたかった」のかな?なのはの目にそれは自殺に映った。親に殺意を向けられた少女。
その悲しみは慈しみ、優しく育てられたなのはにはわからない。
(・・・本当は私と同じだったんだ。)
フェイトも思う。母に虐げられてきた。・・・それでも、自分はましなほうだったなんて思いもよらなかった。
マナがされてきた事に比べれば・・・ああ・・・神様。何故、彼女に試練を与えるのです。
それは・・・はやても同じだった。
消えていく少女の笑顔に泣き喚いていた。疑問詞・・・その言葉は闇の中に消えた少女に宛てられ・・・もう、届かない。
・・・誰もが絶望した。ただ、泣いた。なにはもフェイトもはやても泣いた。ヴォルケンリッターたちも泣いていた。その少女の境遇を知って・・・
「・・・強いと感じたのは我々と同じだったから・・・」
「・・・・私、もうダメだ。・・・もう、闘えないよぅ」
泣き崩れ落ちようとしたなのは。その身体が止まる。
・・・・愛の言葉、桜庭マナの言葉がまだ、心に残っていた。
「・・・みんな、信じてみよう。」
涙を拭ってなのはは皆を見回した。
・・・何とかしてみせる。そう言った。ならば・・・私は「まなちゃん」を信じる。
「・・・ここは?」
暗い湖面に腰まで浸かっている。寒くはないけど、墨のように薄黒い水は波紋を生む。
それだけしか認識できない。ここが何処であるかなんてわからない。ただ、闇と水があるだけ・・・。
「誰もいない。」
・・・気配もない。ただ漠然と広がる世界。
(しかし周囲にこちらを監視するような視線がある。まるで・・・)
幾重にも浮かぶ波紋。そのすべてが、その渦が目を見開き、こちらを睨みつけてた。
その恐怖に・・・私は。
爆発的な怒りの感情・・・。
肉食獣が相手に襲い掛かるのはその恐怖感、不安感を速やかに排除するため。
魔法を解き放つ。
蒼い槍が変形し、柄の部分のスラスターが爆発的に膨れ上がり、襲い掛かる目から出た触手を疾走しながら射抜く。
さらに地面・・・自分を見つめる幾千の瞳めがけて・・・槍の一撃を解き放った。
一瞬にして火柱があかる。
放射状に走った光線がすべての目を粉砕。湖面を一瞬にして蒸発させ岩盤を粉砕した。
熱気を切り裂き着地して槍を仕舞う。そして・・・見つめた。押し寄せる津波のような闇の軍靴の音を。
平原のなかで槍の音、剣の音。そのすべての悪意は私に向けられている。
・・・これが、防衛プログラム、闇の書の闇ね。
すべて漆黒の騎士たち。号令とともに弓と魔法が襲い掛かってくる。
まるで黒い雨のように迫る悪意。それを見据え、私は魔法を展開する。「・・・投影ー開始!」
《我は王のために忠義を尽くすもの。不貞の果てに絶望に飲まれた我に語りかけるのは誰か》
悔恨に項垂れる痩躯の男に手を差し伸べる。男は蹲ったまま見ようともしない。
「-お願い、力を貸して。あなたの騎士の力を。・・・騎士はすべてを守るもの。その誓いを果たしてあげる」
弓の一撃を蒼い剣が切り裂く。
「湖面の清浄」を携えしランスロット。槍の突撃をバックステップから切り払い、
黒い甲冑を切り裂き、兜を飛ばす。幾千の貫きを単身にて打ち崩す《騎士は徒手にて死せず》
虚無の軍勢を前に一騎当千の剣術を見せ付ける。
「闇は吼える」
私のものになれ。少女はそれを一喝した。
「ひとりぼっちでさびしいなら、この手を掴め。あんたの呪いも恨みも何もかもすべてひっくるめて一緒に歩いてあげるから」
闇は濁流となって少女に襲い掛かる。
マナはそのすべてを受け止めた。・・・本当に私のすべてを受け入れるの?
人を呪い、世界を呪った。この私を好きになってくれるの?闇の書の意志。ナハトヴァールの悲しみをすべて・・・受け入れた。
なのはたちは見た。闇が晴れていくのを・・・
そこに立つ少女の姿を。防衛プログラムを魔力分解して防護服に変えた桜庭マナの姿。
ナハトヴァールは桜庭マナのデバイスとなり、桜庭マナはこの世すべての悪を背負った。
「・・・本当にこれでいいのか?」
夜天の魔導書、リインフォースは桜庭マナに告げた。
その悪は本来、私が背負う咎。しかし少女は微笑む。
「いいの、いいの♪、私、性格、悪役むきだし、この子、ナハトと一緒に歩いていくって決めたから♪
かくして・・・事件は終わり。
悪役を背負った少女はこの世すべての悪として歩いていく。
八神はやてと、ヴォルケンリッターたちは軽い罪で済むらしい。
闇の書に恨みを持つ被害者の敵意、悪意は闇の書の闇を手に入れた少女に向けられているから。
すべては少女の思うとおり、ハッピーエンドを迎えた。
誰もが幸せに遺恨なく、その少女が望んだ通りに。
・・・一人の少女を悪役にして。その少女が望んだ通りに。
高町なのはは教導隊入りを志願した。
八神はやては《生きる》事を選んだ。
フェイト・T・ハラオウンは執務官試験に向けて勉強をはじめた・・・。
「いつか、まなちゃんを逮捕するよ」
「・・・うん。いつでもおいで、強くなりなよ?なのちゃん」
「まなちゃん。いつか、このお礼はきっとする」
「いいよ、気にしなくて。犯罪者の恩なんて感じなくても、踏み倒していいんだよ?はやてちゃん」
「・・・マナ。」
「うん。追いかけてきて。フェイトちゃん。・・・そして、いつか。」
三人の魔法少女。そして騎士や魔導師たちに悪を担った少女は微笑む。
親友たちを見回して赤い左右のリボンを揺らし、栗色の短髪の少女は再会を約束した。
「ん、じゃあね♪」
そう笑顔で笑いながら・・・
群青の水着のような防護服の少女は皆に見送られながら管理局の指名手配犯になった。
悲しみを知り、自分を犠牲にして他者を笑顔に変えた少女は確かに、《正義の味方》だった。
「・・・なのはママ。それで・・・その子はどうなったの?」
ヴィヴィオはそう尋ねた。なのはママはいまでもずっとその人のことを思っている。
「そうだね、その人は・・・」
そう、思い出に身を委ねた。次の再会は16歳。海鳴市で行われていたあの場所で・・・・・・・・。
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劇場版魔法少女リリカルなのはを見て思ったこと、
「…闇の書の防衛プログラムを破壊する手段しかないのかな」という疑問だった。
悪いものを切り捨てることが最善だってわかっている。
だけど、闇の書の闇を切り捨てることは、臭いものには蓋的な消去法にみえた。
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