「雷電の里帰り・その2回目」
ある朝、朝食後にふと、アルヴィーが朝食の片づけをしている雷電に尋ねました。
「雷電、お見合いするんだよね?
いつ麒麟族の里に帰るの?仔馬が生れたら妖精族の王女様の馬になるの?」
「いきなり質問…。
見合いはこないだ里に文を送ったので、向こうの返信待ちだ。
仔馬は…、確か兄上の子供が王女の馬になると言う話だったな。」
雷電はお皿洗いをしながら返事をしました。
アルヴィーはわかったような顔をしながら「ふぅん」と返事をして、暖炉前のもきゅ~んベッドへ
いそいそと移動しました。
「お前も一緒に来るか?」
「もきゅ!?Σ(゚ω゚;」
アルヴィーはびっくりしてもきゅ~んベッドから頭をにょろっと出して言いました。
イコノスは
「そうだね、アルヴィーも一緒に行くといいよ。
雷電はアルヴィーの友人で、大切な馬でもあるのだしね。」
と言いました。
「も、もきゅっ…;Σ(;゜Д゜≡゜д゜)」
「じゃあ、移動中のお前の分の餌も用意しないとな。お前大食いで肉食だからな…
俺はそこらの草でいいんだが( ´_ゝ`)」
それを聞いてアルヴィーは「レディーにしつれいね!ヾ(`Д´*)ノ」と怒っていました。
「そうか、雷電に仔馬が出来るかもしれないのか…
どんな子だろうな…。」
イコノスはすでにお嫁さんになる相手がどんな馬(人)かとか想像を通り越して
赤ちゃんの想像になっていました。
「神様…早いですから…(ー'`ー;)」
「でも、雷電
お嫁さんになる相手候補とか想像出来るの?そう言うのって
実は子供の頃から決まってるんじゃないの?」
クロネに聞かれて、雷電は突然黙りこんで、難しそうな表情になって「うん、まぁ…」とだけ言って
牛の世話をするため外に行ってしまいました。
「どうしたんだろう、雷電…
やっぱり気が向かないんだろうか…。」
「どすこいな馬の子しかいないとか…」
「頑丈そうな馬に育っていいと思うよ…。」
純粋に心配するイコノスに対し、酷い突っ込みをするクロネ。
暖炉前に置いてあるそれぞれのもきゅ~んベッドから頭だけ出して
アルヴィーはゼルクに言いました
「ねぇ、ゼル君、どう思う?雷電、お見合い相手の事知ってるのかな?」
「お母さんが気にするのが、雷電は一番避けたい事だと思うのですよ。
ここは普通に過ごして下さい。他の人が気にするのは普通の事だと思いますが
雷電はお母さんには気にされたくないと思うのです。
僕なら好きな女性に、仕方無い立場でお見合いするとしたら、気にされたら辛いと思うので…。」
「ゼル君…、ママより大人だね…。
てぃら様に相当しごかれたってパパに聞いたけど、お紅茶の入れ方だけしごかれたんじゃないんだね(ほろり)」
「あれですか?カイザーランド式紅茶の入れ方とか何とか?
あくまで執事は執事として紅茶を入れなければならないとか
まぁ、めんどくさいんですが。」
雷電の手伝いをするため、牛小屋に行こうとしていたイコノスが
その会話を聞いて言いました。
「ティラ様は執事教習から、神族としての道徳教育とか、色々徹底されたようだからね。
ゼルクは人型になると邪神族なのにね(笑)」
それを聞いたクロネが、すかさず言いました。
「ゼルク、今度僕にカイザーランド式紅茶を入れて(*'ω'*)」
「うん、でも、正装にならないと駄目だよ?」
「それがカイザーランド式!?Σ(゚ω゚;」
「ううん、混ぜるスプーンの代わりに、魔法能力の高い神族の羽を使うんだ…(ー'`ー;)
ティラの羽を使えって言われて…、一枚貰って、僕専用の紅茶サーバー用の羽って言うのがあるんだ。」
玄関前でドアノブを握りしめたまま魅力的な話につい入ってしまうイコノス。
「何と!?ティラ様の尊い羽根を紅茶を混ぜる為だけに使うとは!Σ(・ω・ノ)ノ!
恐ろしくありがたい紅茶だね、今度俺にも入れてくれないかな?(笑)」
「うん、じゃあ今度みんなに入れるよ!」
イコノスは「楽しみにしているよ」と言って、外の牛小屋の方へ雪を「ざくざく」と踏みしめて
行ってしまいました。
その音を聞きながらアルヴィーが
「今日も雪が凍りついてお外寒そうだね。
雷電とパパ早くお仕事終わらせて帰って来たらいいのに。」
イコノスは、今行ったばかりだと言うのに、アルヴィーはぼつりと言いました。
牛小屋では、牛の乳を絞っている雷電の元へ
妖精の郵便が届いている所でした。
妖精の郵便屋さんは、どこでも、誰にでも(人間以外)何か妖精の気に入る物と交換で
とても早い速度で持って行ってくれます。
ただ、妖精の支配地域があり、光の妖精のいない地域では差し出す品物と引き換えにしても
手紙を持って行ってくれない事がよくあります。
光の妖精の支配地域ではない所では、闇の妖精の支配地域なので、そう言う妖精の気に入る物を
郵便料金として差し出す事になります。
何でもいいのです。本人が価値があると思う物で、妖精がそれを気に入れば交渉は瞬時に成立して
手紙を持って行ってくれます。
持って行って欲しい手紙を高々と持ち上げ、一緒に料金になる交換品を持っておきます。
すると、妖精がそれを一緒に持って行って、交換品だけ妖精の持ち物になると言うシステムです。
光の妖精なら、天使の羽でも天使の毛髪でもいいし、宝石でもいいし
美しく価値のあると思う物が切手代わりになります。
反対に闇の妖精の気に入る物は、堕天使の羽や毛髪、邪悪な人間の魂等です。
心の醜い人間は闇の妖精に魂を狩られる事があります。
支配地域によって生息が別れているので、「切手」も色々持っていると便利となります。
イコノスの住む地域は、光の妖精の生息地域なので、エンヤの髪を数本で手紙を持って行って貰っていたりするらしいです。
もっとも、エンヤの家から出たイコノスの屋敷には天使がいないので
今では妖精に渡す「切手」代は、イコノスの髪のようですが。
ちなみに、光の妖精達への「切手」代はクロネやイアンの髪や羽は喜ばれません。ぺいっと捨てられて
手紙も受け取って貰えません。
イアンの場合は、白い方の羽を渡して誤魔化す事も出来るようです。詐欺です!
邪神オーラを出しているくせに神族の振りが出来る。
いえ、実際神族のオーラも出しているので、何とも言えないのがイアンと言う存在。
※正しくは、ハイブリッドと言う種族。
手紙を受け取った雷電を見たイコノスが言いました。
「それは、麒麟族の文字だね。」
「はい…(読みながら)里の方で見合いの準備が出来たから
早急に戻れ、と言う内容です。」
両手に沢山の牛乳の入ったバケツを持って歩きながら
雷電はチーズを作る為の部屋へ移動しました。
イコノスも同様に両手に牛乳が沢山入ったバケツを持って
チーズ作りを始める為に鍋に牛乳を入れて行きました。
「雷電、うちの事はいいから麒麟族の里へ帰りなさい。
アルヴィーも一緒に連れて行っていいなら、連れて行ってあげておくれ。
きっと穢れが問題になるだろうから、大きめの精霊石をアルヴィーに持たせるよ。
チーズ作りが終わったら帰る準備をしなさい。」
イコノスは火のかかった大鍋を大きなしゃくしで混ぜながら、雷電に語りかけました。
雷電は意を決したように頷いて、てきぱきをチーズ作りを二人で終わらせ
自分の部屋へ戻り、荷造りを始めました。
イコノスは屋敷に戻ると、書斎へ行き、何やら探し物をしていました。
雷電はすぐ荷造りが終わったようで、リビングに旅行用荷物を持ってやって来て
緊張した面持ちで、アルヴィーの準備が出来るのを待っていました。
そこにイコノスが書斎からやって来て
雷電に何やら茶色い小袋を渡して言いました。
「これは旅のお守りだよ。中に入っているのは秋に刈り取った麦で、
祈りを込めて作った特製のお守りなんだ。」
「麦?」
「そうだよ。豊穣を表しているんだ。このあたりは地の精霊の勢力が強いからね
地の精霊が力を麦に貸してくれて、困ったらそれに祈ると俺に想いが通じるよ。」
そこに準備の出来た人型アルヴィーがやって来て尋ねました。
「地の精霊の勢力が強くなかったらどうなるの?」
「大丈夫だよ、何かしらの知らせがこちらに来るから。たんぽぽの種からでもたよりは届くよ。」
雷電がアルヴィーを見ると、手袋にブーツ、真冬用の外套を着ている下に
いつもの精霊石を首からぶら下げているのに加えて
手首に大きめの青い精霊石を一つつけていました。
「雷電、用意出来たよ~。」
「俺は馬に戻るから、お前は俺の背中に乗って行くんだぞ。
もし、魔物に追われても俺は兎に角走るから、お前は落ちないようにするんだ。」
「魔物…!?」
「心配するな、魔物が出る地帯を通らないと麒麟族の里に帰れないんだが
奴らの足では俺に追いつけない。それに雷撃の眩しさで目がくらんで逃げて行く。」
「でも、アルヴィー落ちたら魔物に食べられちゃうんだよね…?」
「頭からばりばり、とな。まずいだろうがな( ´_ゝ`)ぷっ」
意地悪な雷電の言葉に思わず噴き出しながら
イコノスは、二人に出発を促しました。
「ぷっ!さぁ、二人共早く行きなさい。
アルヴィーはおやつを無計画に食べて後で困らないようにね。」
アルヴィーに「きー!!ヾ(`Д´*)ノ」とぽかすかされる雷電
雷電はアルヴィーの手を引っ張って荷物を持ち屋敷の外へ出ました。
外は極寒の地です、アルヴィーは「きゃああっ、寒いぃぃっ」と震え上がりましたが
雷電は気にせず、馬に戻り
イコノスに鞍をつけてもらい、荷物も背中にがっちりくくりつけてもらい
アルヴィーを背中に乗せて貰いました。
雷電の毛は冬毛になっていて、真っ白な毛がふさふさに伸びていて
とても暖かいでした。
「雷電あったか~い!!ヽ(*´Д`)ノかっこいい~!アルヴィーのお馬さん~!」
「気にいらねぇな」とでも言うように、馬の雷電は「ぶひひひんっ」といななきました。
馬の雷電はイコノスに麒麟族語で「では、神様行って来ます」と挨拶して
カポッカポッと走って行ってしまいました。
クロネとゼルクも出て来て手を振って「行ってらっしゃい」とお見送りしていました。
雷電とアルヴィーは雪の中を走って行き、やがて雪にかき消され見えなくなってしまいました。
(つづく)
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雷電の里帰りの2話目です。
1話→http://www.tinami.com/view/639981
キャラ説明
アルヴィー:もきゅ族(もきゅ~ん)と言う6本脚(多足類)の生き物の、人型に変身出来る両性体の「女の子」
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