ずっと一人で生きていけると思ってた。
ずっと、そうやって生きてきたんだもの。
それなのに。
知ってしまったから。
ただのクラスメイト。
いいえ、始めはただ同じクラスにいるだけの人と思っていた彼。
興味なんてないくせに
必要ないくせに
なぜかもの覚えだけはよくて名前も顔も一応把握はしていたけれど。
それだけの、彼。
深く関わるきっかけとなったのは、アルバイト先だった。
おいしいアイスクリーム屋を見つけて興味を持って、学校から少し離れたところにあるから見つからないだろうと決め付けて始めたアルバイト。
キャップ着用で仕事をするから、いまいましい自分の顔も隠せるというのも、大きな利点だった。
それなのに、たったの一週間で、彼に見つかってしまった。
関わりたくなんかなかったのに、彼はどんどん私の中に入ってきて、いつの間にか私の毎日に深い意味を成す存在になってた。
人と一緒にいることが
人に好かれることが
こんなに心地の良いものだったなんて、知らなかった。
それを教えてくれた彼が突然に学校を休んだせいで、不覚にも今日は落ち着かなかった。
だからって、差し入れまで持って彼の家にまできてしまうなんて、我ながらどうかしてしまったんじゃないかと思う。
帰ろうか、とも思うけれど、せっかくきたんだし、アイスクリームが溶けるし、といい聞かせる。
心のどこかで、会いたいという気持ちがあることも、本当はわかってる。
私は、素直に彼の家のチャイムに手を伸ばした。
ごほごほ、という堰とともに、ドアが開いた。
出てきたのは、彼だった。
「あれ? どうしたの?」
彼は素っ頓狂な声をあげた。
「突然休みだったから、様子見にきたのよ」
「ありがとう!!」
彼は見るからに嬉しそうな顔をした。
笑顔がくすぐったいのはなぜだろう。
「起きてきて大丈夫なの?」
私は心を見抜かれたくなくて、強い口調で言う。
「うん。だいぶよくなったから。家に誰もいないんだけど、よかったらお茶飲んでいかない? 風邪、うつるのいやかな?」
「私はあなたみたいに夏に風邪をひくようなばかじゃないわよ!」
言ってしまってから後悔する。
こんなことを言うから、私から人が遠ざかっていくんだろうか。
「病人に対しても冷たいなぁ…」と、顔をしかめたものの、彼は怒っているようには見えない。
「はいこれ。アイス」
「わ、ありがとう!!」
「それと、これも。作ったの、クインスジャム」
バッグから別に出したビンをアイスクリームの入った箱と一緒に手渡した。
「クインスジャム?」
「カリンに似た果実のジャムよ。喉にいいからアイスにかけるといいと思ったの」
「なんだか愛されてる気分」
彼が何気なく言った言葉に頬が熱くなる。
「ばかなこと言わないで!」
「強く言わなくてもわかってるよ。君は優しいから」
彼は寂しそうに、笑った。
あなたは何もわかってないじゃない。
私は優しくなんかない。
それに、どれだけあなたに惹かれているかも。
クウイスの花言葉は“誘惑”だということ、ジャムのレシピを見て知った。
「お前の顔は男を誘惑する」
昔から、敵意を持った人たちにに言われてきた言葉。
顔だけだった、と遠ざかっていく男の人たちが、私はどうしても信用できなくなった。
でも、そういえば彼には始めからそんな気持ちを持たなかった気がする。
思ったことを素直に表現してしまう人柄のせいだろうか?
私はそんな彼に誘惑されていったんだ。
ゲホゲホと、また咳をしはじめた彼。
「やっぱり、つらそうね。帰るわ」
「もう? もうちょっと一緒にいたいけど…でもやっぱりうつしたくないし…」
私だって、本当は一緒にいたい。
でも、無理はさせられない。
そういえば、こんなふうに人を気遣うのも、初めてかもしれない。
彼には、初体験ばかりさせられる。
それは幸せなことかもしれない。
でも、プライドの高い私の心は訝っている。
彼にばかり惑わされるのは悔しいから…
彼にほんの一瞬、口づけた。
「あなたの風邪なら、うつってもいいわ」
思った通り、彼があわてているのがわかる。
私に、惑えばいい。
意識的に誘惑したいという気持ちも
キスも
私の初めてはあなたのものになったのだから。
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アイスクリームの続きです。
よかったらそちらも見てください。