No.64036

魏ルート IFエンド2 その先の曹魏を歩む者達 その1

とととさん

お久しぶりです。とととです。
風邪やら肉離れやらですっかりご無沙汰してましたが、前作の魏ルートIFエンドの続編を書いております。書いている途中での怒涛の不幸ラッシュだったのです。
で、ちょっと長くなりそうなので二つか三つに分けて投稿させていただきます。
オリキャラが出てきますので、ご注意ください。

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2009-03-19 00:49:57 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:22802   閲覧ユーザー数:13601

 

 眩しい太陽に目を細める。

 王宮の庭に立ち、一刀は空を見上げて大あくび。

「ふわぁぁぁ……ねむ……」

 寝ぼけた顔で呟いたその時だった。

 

「父様!」

 

 背後からの声。腰に抱きついてきたのは一人の少女だ。

 一刀には振り向かずともそれが誰か分かっていた。

「今日も元気だな、曹丕」

 少女の頭をくしゃくしゃと撫でると、少女はくすぐったそうに目を細める。

 ようやく結える程度になった髪を母親と同じく二つに束ねているこの少女こそ、覇王曹操と天の御遣いとの間に生まれた姓は曹、名は丕、字は子桓である。

「もう勉強は済んだのか?」

「当たり前! この曹子桓にかかれば、あの程度の書なんて一度目を通せば充分よ。今ここで一字一句違えず諳んじてみせましょうか?」

「ははっ。相変わらずだな、曹丕は」

 自慢げに胸を張る子桓。およそ四歳とは思えない母譲りの大言壮語に一刀は苦笑い。

 彼女はどうやら母親の才智だけでなく、その性格も受け継いでしまったらしい。そこがまた父親としては可愛いところではあるのだが。

「ま、ちゃんと勉強してるならいいさ。偉いぞ、曹丕」

「勿論!」

 父親に褒められて得意満面、曹丕はぎゅっと一刀にしがみついてから、思いついたように顔を上げる。

「そうだ! 父様、今日の夜の事はちゃんと覚えてるわよね?」

「今日の夜?」

 特に予定があっただろうか?

 そう言えば今日の朝議で華琳がそんな事を言っていたような……

 ───今一覚えてないんだよな……眠かったし……

 今日は多少寝不足気味の一刀である。それは何故かと言えば───

 ───まぁ、昨日ちょっと霞と頑張り過ぎたって事なんだが……

 既に十人を越える子供たちの親である一刀であったが、そこは魏の種馬。相も変わらずそちらに励む労力は衰え知らずだ。七人までなら同時にと言ったのは華琳だったが、既にその記録を二人ほど塗り替えたとのウワサがあったりなかったり。

 ───そういや、霞も朝議で眠そうだったなー……で、あれは結局、何の話だったんだっけ……?

 ぼんやりと考えていると、

「父様~?」

 不審そうな顔で見上げる曹丕。華琳を思わせる表情でため息をつく。

「まったく……こんな事だと思ったわ。父様にはもう少ししっかりしていただかないと娘として困ってしまいます!」

「あはは、ごめんごめん」

 むぅっと膨れている曹丕に両手を合わせて謝る一刀。

「今日は大事な日なのよ?」

「大事な日って───あっ!?」

 一刀はポンと手を打った。

「そうか。数え役萬☆姉妹の超爆裂復活舞台!」

 今日は活動を休止していた天和たち数え役萬☆姉妹が四年ぶりに復活コンサートを行う日だったのだ。

 ここ数ヶ月、都はそのウワサで持ちきりだ。

 例え活動を休止していても数え役萬☆姉妹の人気は衰え知らず。いや、長い休止期間があったせいで、以前よりも熱狂度が増しているくらいだ。

 この舞台見たさに都に流れてきたファン達の所為で都の人口が加速度的に増えているという話もあながち間違いではないだろう。

「まったく父様ったら!」

 それだけの大事を忘れていた一刀に、曹丕はいたくご立腹のご様子。

「天和様たちの大切な舞台を忘れるなんて、我が父ながらちょっと薄情よ?」

「いや、決して忘れてたわけじゃないんだぞ!? ただ、今日は朝からちょっとぼーっとしてるだけで、天和たちやあの子たちの事を忘れてるわけじゃ───」

 わたわたと弁解する一刀を、曹丕はむすっとした顔で睨んでいたが、

「……ぷっ」

 すぐに堪えきれないといったように吹き出した。

「もう! 父様ったらそんなに必死になって弁解されても困ってしまうわ。魏の王族として、もっとシャキッとしてよね!」

「王族って言ってもなー。仕事は都の警備隊長だし」

「それは父様が母様に無理を言ってるからでしょう? 凪様も真桜様も沙和様もいらっしゃるのに『この都の治安を守るのは俺の仕事なんだ』なんて、ずーっと警備隊長の職に就いちゃって。もう少しご身分を考えていただきたいわ!」

「ごめんごめん」

 謝りつつも、一刀はじっと曹丕を見つめる。

「でもな、曹丕。それだけは絶対に譲れないんだ」

「譲れない?」

「ああ。だって、それは───」

 と、一刀の背後から二人に声が掛けられる。

 

「一刀、曹丕。ここにいたの?」

 

 

「母様!」

 現れた華琳は駆け寄ってきた曹丕を笑顔で抱き止める。

「曹丕、勉強はもう済んだの?」

「もうっ、父様と同じ事言ってる! あの程度の書、一度目を通せば全て理解できます!」

「それでこそ我が娘だわ。文武全てにおいてしっかりと励みなさいね、曹丕」

 娘を名だけではなく姓もつけて呼ぶのは、「曹」の一文字が持つ誇りと重みを娘に覚えさせる為である。 父親として抵抗した一刀ではあったが、最終的には華琳の言う事に渋々頷いた。愛情だけでは、覇王の娘を育てる事は出来ないのだ。

 華琳は母親の顔で曹丕の頭を優しく撫でてから、今度は妻の顔で一刀に向き直る。

「一刀、今日は仕事は無いの?」

「ああ。今日は休みの日なんだ。と言っても、昼が過ぎたら一度顔を出してこようと思ってるけどな。最近、人口が急激に増えてるから何かあるかもしれないし」

「それは殊勝な心がけね」

 満足そうに頷く華琳。

「そうそう。それはいいのだけど、今日の夜には仕事を切り上げてちゃんと舞台に出席するのよ? このわたしが招かれているのに夫が不在なんて事になったら、民達に示しがつかないわ」

「ああ。分かってるよ。大丈夫」

「そんな事言ってるけど、父様ったらさっきまで忘れていたのよ?」

「ちょっ、曹丕!?」

 笑いを堪えながら告げ口する曹丕。うろたえる父を見るその瞳には、しっかり母親のS性が受け継がれている。

「はぁ……朝からぼやっとしてると思ったら……細かい事には気が回るのに、肝心な所で抜けているのよね、一刀は」

「あははは……面目ない……」

 笑いながら頭を掻く一刀。華琳も諦めたように苦笑いで肩をすくめた。

「まぁ、そういう所も含めてあなたなのだから仕方無いわね。今更変わりようも無いし、変わって欲しいとも思わないわ」

 艶然と微笑むと、華琳はもう一度念を押して宮内へと戻っていった。

 と、華琳と一緒に宮内に戻ろうとした曹丕がこちらに戻ってくる。

「父様! 本当に、今日の舞台は忘れないで下さいね?」

「ああ。絶対に」

 力強く頷く一刀に満足したのか、曹丕はにっこり笑って宮内へ戻っていった。

「きっと面白い事があるから、絶対に来なきゃダメだからね!!」

 大きく手を振って去っていく曹丕に手を振り返しながら、一刀は首を傾げた。

「面白い事って───何だ?」

 

 

「さて、父様が来る事も確定したし、次は───」

 いつの間にか華琳と別れた曹丕は、一人宮内を駆けていた。

 その顔に浮かぶ笑みは、母親が策を企てる時に浮かべているのと同様の笑みだった。

「うふふ。待っててね、父様、母様」

 笑みを浮かべながら駆けていく。

 その姿を見た女官達は、戦々恐々とした表情で顔を見合わせる。

「また曹丕様が何か企んでるわ……」

「ああ、また何か新しい事を思いついたのね……」

「この前は荀彧様に曹操様の名前で空の箱を送りつけてたし……」

「ああ、あれでしょ? 勘違いした荀彧様が『捨てないで下さい!』って曹操様の前で全裸になったっていう───」

「しかも、自分で自分を縛ってたらしいわよ?」

「まぁ結局、色々あって仲直り、しかも荀彧様も久し振りに曹操様のご寵愛を受けて大満足だったって言うけど……」

「今度は誰が被害に遭う事やら……」

 ため息をつく女官達。その顔にどこか疲れがあるのは、揉め事が起こる度に彼女達も色々と振り回されるからなのであった……

 

 姓は曹、名は丕、字は子桓。

 優しい父と厳しい母の愛情を受けて、何不自由なくすくすくと成長している。

年の割には少々マセていて目立ちたがり屋だが、聡明で両親や義姉妹達をこよなく愛する心根の優しい少女である。しかし、ただ一つ欠点が───

 

 人を驚かせる事が大好きな───無類のイタズラ好きなのだ。

 

 

「さて……まだ昼には時間があるな……」

 妻子と別れた一刀は、改めて考える。

 久し振りの休みではあるが、いざ休むとなると何も考えが浮かばない。

「うーん……まぁ適当にブラブラしてみるか」

 貴重な時間だ。こうして悩んでいる時間がもったいない。

 庭の方に言ってみると、誰かが本を呼んでいる声が聞こえてきた。

 

───善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す───

 

 声がした方に言ってみると、庭の四阿(あずまや)に見知った顔。

「おーっす」

 片手を上げて近寄っていくと、歓迎の声が三つとそれ以外の声が一つ。

「あ、兄ちゃん!」

「とうちゃんだー!」

「とうしゃまー」

「…………ちっ」

「最後のが気になるがとりあえず無視しておくとして……」

 そこにいたのは季衣、そして季衣の隣に落ち着き無い様子で座っているのが季衣の娘の許儀(ぎ)だ。母親と同じ桃色の髪を頭の上で一本に束ね、父親の顔を見てホッとした表情を浮かべている。

 季衣の向かい側に立っているのは桂花、そして許儀の向かい側に立っているのは桂花の娘、惲(うん)。 当然、最後の舌打ちをしたのは桂花であり、その桂花は夫を前に敵意剥き出しで食ってかかってくる。

「この変態性欲男! 一体、何しに来たのよ!?」

「本を読んでる声が聞こえたから来ただけだっつーの。そうか、季衣の先生は桂花で、儀の先生は惲なのか」

「そうだよ~。疲れるんだけどね~……」

「何を言ってるの。少しはマシになったとは言え、季衣にはまだまだ将として成長してもらわないと。何と言っても、華琳様をお守りする親衛隊長なんだから」

「ぎーも勉強するんだよー。良く分からないけど、惲ねーちゃんが教えてくれるから、きっと大丈夫だよー」

「ぎーちゃんは素直で良い子なのでしゅ。きっと偉い将軍しゃまになるのでしゅ」

 成長したとは言え、惲の口調は小さい頃とあまり変わらない。どうも生来舌足らずのようだ。公式の場では意識してキチンとした口調で話すが、一刀や桂花、義姉妹達と話す時はこういう口調になる。

「ぎーちゃんは偉いでしゅねー」

「えへへ~」

 惲に良い子良い子と頭を撫でられ、儀は満面の笑み。そんな娘を母親はうらやましそうに見ている。

「いいなー、ボクも先生が優しかったらもっと勉強が好きになるのに……」

「あら? だったら、今度からたくさん褒めてあげましょうか?」

「うわっ、いいよぉ……何か後が恐いもん」

「だったら、無駄口叩かずに勉強する!」

「は~~~い……」

 うんざいりした顔ではあるが、季衣は再び書に視線を落とした。

「ちょっとアンタ」

 刺々しい声で桂花。

「そんな所に突っ立てたら目障りだわ。さっさと消えるか、ちゃんと座るか、どっちかにしたら?」

「へぇー」

「何よ……?」

「前は消えるか死ぬかの二択だったのに、桂花も丸くなったもんだなーって」

「…………」

「睨むなよ……」

「かあしゃまはもっと素直になるべきでしゅ。惲の前では、とうしゃまを褒めたりもするのでしゅよ?」

「ちょっ! う、惲!!」

「ほうほう、それはそれは」

「アンタも何を喜んでるのよ!? ち、違うわよ!? アンタみたいな万年発情男を誰が褒めたりなんかするものですか!!」

「兄ちゃん、この『善く兵を───』って、どういう意味?」

「えっと、戦の上手な人は、みんなの為に政治を立派に行ない、さらに軍隊の規律もきっちり守る。だから勝てる───って事かな」

「ちょっと! 北郷一刀! 聞いてるの!?」

「んー? よく分かんないよ」

「流琉は食べる人みんなの好みを考えて料理をして、後片付けもキチンとするだろ? だから美味しい料理が作れるって事。これならどうだ?」

「ああ、そういう事かー」

「だから聞きなさいって!!」

 ムキーと怒る桂花に、一刀と季衣は顔を見合わせる。

「せっかく勉強中なのに、何だかうるさいね」

「まったくだ。是非、空気を読んでいただきたい」

「あああああなた達~~~~~!!!」

 怒り心頭で二人を追い掛け回す桂花。一刀と季衣は笑いながら逃げ回る。最近、桂花はからかうと面白い事が分かってきた二人なのだ。

「あう~~~ボクも混ざりたい~~~」

「ダメでしゅよ、ぎーちゃん。あれが夫婦の『すきんしっぷ』というものでしゅ」

「すきん……?」

「天の国の言葉で、お互いの絆を強くしゅる大切な儀式なのでしゅ。だから、ここは我慢ちましょうね」

 言いながら、父と母の『すきんしっぷ』(?)に目を細める惲。表面上は仲が悪く見えたりもする両親に、彼女ながら気を使っているのである。

 儀はまだよく分かっていないようだが、とりあえず惲がそう言うならそういうものなんだろうと納得していた。もちろん、この『すきんしっぷ』が終った後は、自分もやってもらうつもりだったりする。

「皆さん、盛り上がってますね」

「あー、父様だー」

「おお、流琉に満(まん)じゃないか。差し入れ?」

 掴みかかろうとする桂花の頭をぐいっと押さえつつ、一刀は二人に問い掛けた。

「ええ。季衣の集中力もそろそろ途切れる頃だろうし、一段落した方がいいかなって」

「満もお手伝いしたのー」

 流琉と娘の満は手に手に大きなセイロを持っていた。流琉も季衣と同様、多少は成長しているがまだまだ幼児体型。結構な悩みだったりする。満は母親と色違いのリボンをつけ、ヒヨコが描かれたエプロンをつけていた。

 白い湯気を吹き出すセイロを、魏が誇る食欲母子は諸手を上げて歓迎した。

「さっすが流琉! よーっし! 一休みだー!」

「ぎーもお休みー!」

「まったく……まだ始めたばかりじゃない……」

「まぁまぁ、かあしゃま。ここは流琉しゃまと満ちゃんの顔を立てましょう」

「惲は大人だなー。お母さんももう少し見習って欲しいもんだ」

「うっさいわね! 下半身のごく一部以外幼児並のアンタに言われたくないわよ!!」

「さ、流琉も満も座って座って。惲と儀の分は父さんが取ってやるからなー」

「だから、聞きなさいよ~~~~っ!!!」

 

 

「おー、さすが流琉。相変わらずこのシュウマイは絶品だな! でも、いつもと味が少し違うような……」

「あはっ、気付きました? 今日のシュウマイは満が一人で全部作ったんですよ?」

「そうだよー。父様、美味しい?」

「これを満が一人で!? すごいぞ、満!」

「へへ~♪」

 頭を撫でてやると満は照れながらもにっこり微笑む。あの華琳すら唸らせる天才料理人の血はしっかりと受け継がれているようだ。

「やっぱ満はスゴイよねー。ボクもお姉ちゃんとして嬉しいよー」

「何がお姉ちゃんなのよ。いつもわたしが世話してあげてるのに! ほら、ほっぺについてるって」

 儀の頬についたタレを拭いてやる満。

 季衣はゴマ団子をパクつきながら娘に注意する。

「もう、儀は子供だなぁ。ちゃんと食べないとダメだよ?」

「とか言いながら、あなただって儀の事は言えないでしょ?」

 言いながら流琉は季衣の頬についたゴマを取ってやる。どうも、この母親達の関係は娘たちにも引き継がれているようだ。

「ほら惲、こっちの春巻きも美味いぞー。ほら、桂花も」

「ありがとうでしゅー」

「ちょっ……!?」

 惲と桂花の皿に春巻きを乗せてやると、惲は笑顔で礼を言ったが、桂花は困惑した顔で固まってしまった。

「ん? どうした?」

「どうしたって……」

 桂花の視線を辿ると、手に持った箸に行き着いた。

「……ああ、そっか」

 箸は取り箸ではなく、一刀が普通に使っていたものだ。その箸で取り分けられたものというのは、季衣や流琉、娘達には何ともなくとも、桂花にはやっぱり抵抗があるだろう。

 ───何せ、男嫌いで潔癖症だからな……

「じゃあ、そっちは俺が食うから───」

 と、一刀が桂花の皿から春巻きを取ろうとすると、

「い、いいわよ、別に」

 桂花はさっと春巻きを取り上げてパクっと咥えてしまった。

「け、桂花……?」

「んぐんぐ……な、何よ、その顔は……?」

「桂花~~~~!!」

「え、ちょ、きゃ、きゃああああ!?」

 有無を言わさず桂花を抱き締める一刀。

「遂にここまで来たか! 俺は今、思いっ切り感動している!!」

「こ、この変態性欲男! 娘達の前ですらお構いなし!? はーなーせーーーーー!!!」

 ジダバタ暴れる桂花。ポコポコと頭を殴られつつも感激の涙を流しながら頬擦りしちゃったりしている一刀。

 その光景に惲はグッと親指を立て、季衣と流琉は不満そうに頬を膨らませている。

「まったく父様ったら……」

「しょうがないよ。父ちゃんだもん」

 何だか達観した顔で満と儀は顔を見合わせた。どうやら、父親が時々暴走するのには慣れっこのようだ。

「けーいーふぁー!!!」

「はーなーしーなーさーい!!!」

 

 


 
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