No.640352

超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編

さん

その26

2013-11-27 09:22:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:678   閲覧ユーザー数:671

「……ギリギリセーフってところ?」

 

「テケリ・リ」『そうですね。直撃はなんとか免れることができました』

 

過激派ギルドの本拠地である集落があとかたもなく(・・・・・・・)消し飛んだ惨状を見ながら空は自分を纏う液体に呟く。

ポチの種族としての名はシュゴス。その真なる姿は、非常に高い可塑性と延性を持ち、必要に応じて自在に形態を変化させ、さまざまな器官を自身で形成することが出来るスライム的な生物だ。

あの極光を二人は紙一重で避け、ポチは自身の体を液体状にして空を中心に円形にして覆うことで襲い来る爆風に逆らう事なく飛ばされることでダメージを回避したのだ。

 

「テケリ・リ」『あの集落の人たちは雪崩で吞まれてしまいましたが』

 

「例え生きていたとしてもあれで消し炭だよ。あと、魂を感じなかった(・・・・・・・・)。だから、奇跡に奇跡の二重が起こって助けられても、一生植物人間になっていただろうね」

 

雪崩の影響で雪に染まっていた地面は犯罪神の一撃により無に還った。

放たれた極光は山を抉り、黒焦げの軌跡が頂上まである。

液体状から元の人間体型に変わったポチと女神化状態の空は重力に従い、凄まじい速度で落ちていく。

 

「テケリ・リ」『だとすれば、あのロボットはこの集落の人達の魂をエネルギーに…?』

 

「だろうね」

 

犯罪神は、空たちの気配を感じその瞳を上空に向ける。

 

「……テケリ・リ」『……正に魂を糧に動く兵器ですね。魂動兵(ソウル・マキナ・ソルジャー)とでも呼びましょうか。しかし集落と言えどもかなりの人がいます。ならば、あのロボットは私達が相手にすべきでは?』

 

「だからこそ、わざわざ四女神を集めたんだよ。それでなんとかできないんじゃ、僕の洞察力がダメだってこと……今の立場が逆でもどうなっていたか分からないけど」

 

もし、空たちが魂動兵(ソウル・マキナ・ソルジャー)と戦い紅夜達が犯罪神と戦う。

大事なことは倒すのではなく、なんとかすること、破壊するもよし、封印するもよし。空からすれば紅夜達が勝てるとは思っていない。故に封印しやすい魂動兵(ソウル・マキナ・ソルジャー)を紅夜達に任せたのだ。アレのスペックは凄まじい物だが、人間の魂の数で言えば、あちらの方が圧倒的に少ないからだ。

 

「テケリ・リ『賭けですね』

 

「両方勝たなきゃ意味がないからね。確率は二分の一ってところかな?」

 

「テケリ・リ」『可笑しいですよ主様、そこは全員が勝つ、どっちらかが勝つ、どちらも負けるの四分の一ですよ』

 

それに空は鼻で笑う。

それを挑発と受け取ったのか犯罪神の周囲に魔法陣が展開され漆黒の刃を生やした触手が飛び出すが、空はそれを目に入れず悠々と落ちている態勢から自らの従者に当たり前のことを言う。

 

「僕等が負ける可能性なんてあると思う?」

 

「……テケリ・リ!!!」『……その通りですね!!!』

 

二つの人の皮を被った怪物が牙をむき出して、化物目掛けて空気を蹴った。

襲い掛かる触手を切り裂き、殴り、砕き、蹴り、一気に犯罪神との距離を詰める。

空はバックプロセッサから生み出される加速力で、ポチは空中に展開した魔法陣を足場や触手を飛び台にして。

 

「■■■■■■■ォォオオォオオ!!!」

 

犯罪神は更なる雄叫びを上げると地面を覆い尽くすほどの魔法陣から黒き雷刃が幾千となって投擲される。正に叫び、ありとあらゆる負が目も耳もなく積み重なり合いそれを糧として地獄で育つ剣山刀樹の如き禍々しさと暴走する殺意を持って、二人をこちら側に引っ張り込もうとする。それは正に地獄から伸びた手だ。

 

それを前に二人は笑う。

その笑顔に恐怖は微塵もない。

ポチの頬に雷刃が掠り裂傷が走る。

空の再生した左足に雷刃が突き刺さる。

ポチの腹部に雷刃が貫通して風穴を開ける。

空の肩部に触手の先端が走り肉を抉り取る。

 

それでも、二人は足を止めない。力強く握った拳が解かれることは無い。

もしそれが解かれた時、それは犯罪神が倒れ、二人が立っているその時のみ!!

 

体を構成する粘液上の液体を鮮血のようにばら撒きながらポチは焦げた地面に足を付けた。

それを見下ろした犯罪神は、巨大な足を上げて踏みつぶそうとするが、その刹那にポチは己の全てを叩き込んだ。

 

 

「テケリ・リ!!!」『秘奥義ーー雷神怒涛(らいじんどとう)!!!」

 

壱ノ奥義『驚浪雷奔(けいろうらいほん)

弐ノ奥義『紫電清霜(しでんせいそう)

参ノ奥義『迅雷風烈(じんらいふうれつ)

肆ノ奥義『電光影裏(でんこうえいり)

伍ノ奥義『雷霆万鈞(らいていばんきん)

陸ノ奥義『雷騰雲奔(らいとううんぽん)

漆ノ奥義『聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい)

 

ポチが習う流派ーーーまだ、名前が決まっていない拳術の七つの奥義を相手に叩き込む奥義。

ーーー正にそれは雷霆の如き連撃。

反撃を許さず、怒涛に繰り出される奥義の数々に成すすべなく愚者は塵芥と成り果てる。

 

 

「■■■■■■ァアァァァァ!!!」

 

初めて犯罪神は悲鳴を上げた。

その七撃に器に罅が入り、自らを構成した負が漏れ出す。

踏みつぶそうとした足は根っこから天へと舞い、四つの腕はスクラップを言っても過言ではない程、砕かれた。無機質な犯罪神の瞳に初めて痛みという刃が突き刺さり苦しみから逃げる方法を模索するように忙しく動き回る。その確実なる隙をポチは、見逃さなくことなく上空にいる主に向かって叫ぶ。

 

「テケリ・リ」『主様ぁぁ!!!』

 

「プロセッサユニットーーーブラスターモード!!!」

 

紅の雲の下で二つの軌跡が走る。《アサルト》のバックプロセッサが空から大きく外れ《エリス》のような翼上に変形をした。四対の翼は合わさり、それを装着した空は《エリス》の幅広い剣を真ん中部分に差し込むと剣は横に半分に分かれた。プロセッサユニットも腕と足に装甲が集中して重なり、その姿はまるでお伽噺で出てきそうな神聖な弓兵を連想させた。

 

「穿て、善なる柱。その輝きは夜を空ける明星の光」

 

そして呟かれ声はまるで鎮魂曲を歌う様な冷たく安らかで、死者に対しての最後の手向けを届けるようにバックプロセッサが合体して巨大な弓を構えた。全てのシェアエナジーが、この一撃の為に集約する。白金のプロセッサユニットに走る黄金のラインが一層力強い輝きを放ちながら、弓に集まっていきその先端には巨大な光玉が構築されていく。

それを見た犯罪神は、最後の抵抗と言わんばかりにボロボロの腕でポチを薙ぎ払い、周囲に散らしてしまった負のエネルギーを四つの腕と瞳に集めていく。

 

 

そしてーーー。

 

 

 

「ルミノックス・エクシード」

 

紅の雲が切り裂かれる。

明るく禍々しい夜の終焉が訪れ、昼の陽光が大地を照らしていく。

犯罪神の放った『破界なる導き』は、極限まで圧縮され産まれた太陽の如き輝きを放つ光砲によって打ち砕かれ、犯罪神を無慈悲に吞み込み背後に合った山ですら貫通した。断末魔が消えるその時まで、空は弓を握ったまま引き金に込めた力を緩めることはなかった。

 

「…………終った…ね」

 

「テケリ・リ」『えぇ、終わりました』

 

静かにそう呟くと空を纏っていたプロセッサユニットは弓を残して光となって砕け散る。

体を補助する鎧を失い、導かれるように後ろに倒れそうになる空をポチは優しく支える。

 

「……ちょっと肩を貸してくれる?」

 

「テケリ・リ」『仰せのままに』

 

ポチは弓を持つ空の手と逆の方を首に回す。お互いにボロボロであったが既に回復は始まっており、あと数分をすれば全回復しているだろう。

空の呟いた方向に向かってポチはゆっくり歩きだす。そこには空と同じようにボロボロな姿で人が仰向けになって倒れていた。

微かに動くふくよかな胸を見れば、まだ呼吸をして生きていることが分かるが、空もそしてポチも目の前の人物に手を伸ばすことなく弓の先端を向けた。引き金には指が置かれており、いつでも発砲できる体制であった。

 

「話すぐらいの余力はあるんじゃない?……ディープハート。いや、マジェコンヌ(・・・・・・)

 

「……お前は…何者だ…白金の女神…」

 

銀髪の美女はゆっくりと瞳を空け、儚げな表情で口を開いた。

 

「僕は女神じゃないよ。女神の武装を使えるだけの助っ人」

 

「…そうか……ありがとう、私を止めてくれて…」

 

静かに瞳を閉じて安堵の息を漏らす。

憑き物を抜かれたようにマジェコンヌは感謝の言葉を口に出す。それに空は優しげな表情を返して、顔を逸らす。その方向の先にはプラネテューヌがある。

 

「感謝を言うのなら、こちらこそだよ。……ありがとう、奴に抗ってくれて」

 

「…あぁ、そうだ……私は我武者羅に…奴に…」

 

マジェコンヌの顔に笑みが浮かんでくる。やってやったぞと言わんばかりに。

 

「イストワールは僕にとって娘の様な奴でね。……君のお蔭で守護女神戦争は泥沼に突入して、結果的に誰一人として減っていない」

 

「……紫の女神には…悪い…ことを……したな。それにしても…おまえが……夜天 空…か」

 

「君が奴ーーーディスペア・ザ・ハードの操り人形にされ、君はイストワールを世界の混沌への一歩として殺害しようとした……けど、しなかった。抗って、最終的に奴の意思を殺害ではなく封印という形で終わらせた」

 

もし、もしもの話。

イストワールがマジェコンヌによって殺害された時、果たしてパープルハートはどうなるんだろうか?教祖を殺されたことに泣き、苦しみ、そして怒りが芽生える。その先に何が訪れるのだろうか?彼女が一番に疑いを持つのは間違いなく他国に向けられる。そうなれば、それは女神としての本能が女神同士の戦いを誘発するのではなく自己の憎しみによって引き起こされる本当の意味での闘争の始まりだ。そうなってしまえば、間違いなく最初に脱落するのはパープルハートになり、同じくパープルシスターも脱落することになってしまう。

そして四大陸によって、微妙なバランスを保っているゲイムギョウ界は大きく横転してしまい、女神同士の戦いが、人間を巻き込んだ戦争へとなる。それは空が一番恐れていることでもある。そういうときこそ、不思議な因果に導かれ、この世界を終わらせる鍵である女神を要求する魔剣(ゲハバーン)を持つ者が現れるからだ。

 

 

「…イストワールは……元気…か?」

 

「うん、元気だったよ。ずっと君のことをずっと案じていた」

 

「は…は、そうか…あいつは、相変わらずだなぁ……」

 

力なくマジェコンヌは笑い、瞳を空けた。和やか空気ではなくその瞳は正気を疑うような、狂気を測るような眼差しで空を睨むように見る。

 

「ゲイムギョウ界…の……支配者……よ。お前が…この世界を、思う心が…少しでもあれば……ブラッディ、ハード…奴を殺せ……」

 

「君が女神を引退するきっかけを作った魔神が憎い?」

 

「…気に入らなかったが……それでも…切磋琢磨の相手、として…ぶつかり合う…ことが……出来た。充実した毎日を…友だった…女神を奴は…殺した……」

 

「四女神の中で、君だけが生き残ったんだよね」

 

「ただ一つの国…ただ一つの女神に総べられた世界…それは確かに平和だった……一切の争いのない平和…な、世界……」

 

「争いもない世界に競争はなく、そこには発展も成長もない。故に明日の価値がどれほど素晴らしいく尊いものであるのか……それを人間は忘れてしまい、漠然と怠惰に過ごす日々は衰退へ、破滅の道へ一歩一歩近づいてしまった」

 

最初はーーー、最初はそれでもマジェコンヌは頑張った。

分かっていた。だけど、それは見えぬ未来でしかなく変えることが出来ると期待と希望を描いていった結果、マジェコンヌは壊れていった。人々を脅かす存在はモンスターのみとなってしまった。そしてそれをマジェコンヌからすれば必死に倒しーー人間からすれば当たり前になっていきーーー徐々に百年、千年と長い時間の中で徐々に恐れていた衰退が深刻化していった。

 

故にイストワールは歴史を組み換え、シェアの力で新たに四人の女神を創造させた。

そしてマジェコンヌは、新しき女神に女神という存在を教えた。それは、女神の引退して場を譲ることで、人間の間では歴史を組み替えた影響でマジェコンヌーーーディープハートという存在は無かったこと(・・・・・・)になった。

 

「分かっているよ。そんなこと嫌というほど思い知らされたよ。……この世界は女神一人が治めてしまえば、本当に碌でもないことばかりが起こる」

 

ある幼い紫の女神は、一人で全てを抱え込み壊れてしまった。

ある蒼い女神は、女神であったが好き勝手な暴論を振り回して人間に反感を買ってしまい、最終的には女神自身が自国を滅ぼす様な真似をしてしまった。

ある虹の女神は、なによりも正しくあったが広大な世界の全てを治めることが出来ず欲に支配された人間を止めることが出来ず女神を魔神として罵り殺した。

そんな終わりを見てきた。あまりに残酷な助けようのない終焉を見てきてしまった。

人間を女神を支配しても同じことだった、モンスターという要素を取り入れても結局滅びてしまう。

時に突然と滅んだり、時に寿命によって痩せていき弱っていき朽ちる人間のように世界は終わる。

 

「世界は最初から歯車が欠けて回っているんだよ。だからあんなバグが生まれた。あのバグは全てを吞み込み終わりを願うんだ。そして僕は、この世界に長生きしてもらう為にありとあらゆる手を使うのさ」

 

「は…はは、だったら、お前がこの世界の支配者、にならなくても、世界は私が思っている以上に……残酷な作りになっているのだな……」

 

空の言葉に全てを理解したマジェコンヌは死を間直にした体ながら力の限り笑う。

どうせ、死んでも人々の心には何も残らない。長年必死でゲイムギョウ界を治めていたディープハートを人々は知らないからだ。どこにも記録が残っていないのだから。

 

「絶望した?」

 

「しないよ。私はもう死ぬのだから……」

 

器の崩壊が始まった。

マジェコンヌには、未だディスペア・ザ・ハードの一部が渦巻いている。それを浄化しないとまた犯罪神が復活してしまうことは空も、そしてマジェコンヌも理解している。先ほどから向けられる弓をマジェコンヌは儚く見つめる。心の整理が付いたんだろうと空は引き金に力を入れるが、少しだけ考える素振りを見せてマジェコンヌに告げた。

 

「遺言ある?覚えていてあげるよ」

 

「……いいのかい…?」

 

「これでも一億七五二三万九六二七の女神の簡単なプロローグからエピローグまで、そして三八六万二九六七の遺言を覚えているよ」

 

その数にマジェコンヌは驚く様に瞳を空けて、笑い出す。

 

「私も…その一人になるのかい……この鬼畜者…め」

 

「鬼畜には鬼畜なりの誇りと信念があるんだよ……で、時間もなさそうだし急ぎなよ」

 

マジェコンヌの胸にパキパキと亀裂が走っていき、冒涜的な瘴気が徐々に溢れていく。

内心急かす空を余所にマジェコンヌは安らかな顔でいい遺言が思いついたのか、紅い雲はなくなりどこまで広がる蒼穹の空を瞳に映しながら、眠る様に遺言を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーゲイムギョウ界が光で満ちるように。

 

 

また一人。

空の記憶の中に一人の女神の名前が。

歩んできた軌跡が。

その遺言と共に刻まれた。


 
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