「が、ふ…」
ズボッと
「はぁ、はぁ……返し、て…!!」
「ほう、中々にしぶといようですね。ですが」
美空がブレードを振り上げようとしているのを見て、竜神丸は再び
「敵対する者は全て、排除するのみ」
「!! 待って下さい、竜神丸さ…ッ!!」
このままだと、竜神丸が彼女にトドメを刺す。それだけは何としてでも阻止したいディアーリーズだったが、腹部の傷の所為で動きが鈍り、その場に倒れてしまう。そんな彼を他所に、憎しみで歪みに歪んだ表情をした美空が竜神丸に斬りかかろうとしていた。
「ねぇ、返して……返してよ……お母さんを…!!」
「やはり、憎しみの感情を抑え切れずに暴走したのですか。回収したデータに記されてる通りですね」
「…返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
美空の振るったブレードが、竜神丸の頭に命中する直前で…
「断ち切れ、
竜神丸の繰り出した一閃と共に、美空の身体から鮮血が舞った。
「う、ぁ…」
「失せなさい。
装備していたブレードと光線銃は完全に破壊され、美空は血を吐きながらその場に倒れ伏す。竜神丸は倒れた彼女を見下ろしながら、
「やれやれ……実験体まで助けようとするとは、お二方は何を考えているのやら」
竜神丸は足を使って美空の身体を仰向けの状態にさせ、彼女の胸元に
-ガギィンッ!!-
「ッ…!?」
その刃先が、彼女の胸元に届く事は無かった。
「…何のつもりですか、ディアーリーズさん」
「はぁ、はぁ…!!」
貫こうとする直前に、ディアーリーズがレオーネで彼の
「彼女は、敵じゃありません……捕らえられていた、子供達と同じです…」
「何を言っているのですか。彼女は先程まで、あなた達を攻撃していたんですよ? 我々と敵対する者は一人残さず排除、忘れた訳じゃ…」
「違うっ!!!」
竜神丸の言葉を、ディアーリーズが怒鳴って遮る。
「彼女だって、好きでこんな状況に陥ってる訳じゃない…!! たとえ敵対したとしても……それが彼女の意志による物でないのなら……助けが必要なら……僕は彼女に、手を差し伸べたい…!!」
「…そうは言いますけどね」
竜神丸の左手に、もう一本の
「あなたにとって彼女が被害者だったとしても……私にとっては、敵の一人でしかないんですよ」
「ッ!? やめろ!!」
もう一本の
「悪いがそれまでだ、竜神丸」
「!?」
既に復活していたロキが竜神丸の左腕にバインドをかけ、その動きを封じ込んだ。
「…あなたまで邪魔をしますか、ロキさん」
「俺はディアーリーズに賛成だ。小を切り捨て大を取る……確かに効率的ではあるが、俺はそんな言葉が大嫌いでな」
ロキは倒れている美空に治療魔法をかけ始める。
「お前だって知ってるだろ? 俺達が、諦めの悪い性格だって事くらい。可能性がどれだけ低かろうとなぁ、最初から諦めて見捨てるような真似だけは絶対にしたくねぇんだよ……そうだろ? ディアーリーズ」
「…はい!!」
「全く、あなた達は…」
竜神丸は呆れた様子で、左腕のバインドを引き千切る。
「…そこまでして、その娘の“命”を助けたいと言うのですか?」
「はい」
「あぁそうだ」
「……」
竜神丸に視線を合わせるロキとディアーリーズ。その目には、揺るぎという物が一切無かった。
「…はぁ」
竜神丸は溜め息をついてから、指を鳴らしてイワンに合図を出す。
「仕方ありませんね。そこまで言うのなら、彼女の命もお助けしましょう」
「「…!!」」
「ただし、一つだけ言っておきます」
竜神丸が一つの条件を出す。
「結果的にどうなろうと、私の知った事ではありません。責任はあなた方で取って下さいね?」
命は助けてやるから、その後は自分達で責任を取れ。
竜神丸の突き付けて来た条件に対し、二人の答えは…
「「当たり前だ(です)!!」」
迷いなど、ある筈が無かった。
「…やたら元気は良いですね」
美空を担ぎ上げたイワンと共に、竜神丸は一足先にテレポート転移で
「お~い、二人共~!!」
その後、少し遅れてUnknown達も駆け付けて来た。
「あれ、竜神丸は?」
「アイツなら先に戻ったよ。俺達も、もうここに用は無い」
「そうか、なら急いでここから出るぞ」
「アン娘さんの引っ張って来た艦隊で、施設を丸ごと消し飛ばすからよ。管理局の魔導師に察知されてもいけねぇし、とっととここからズラかろうぜ」
任務を完了した一同は、管理局に察知されない内に施設を脱出。その数分後、彼等のいた研究施設はUnknown達が乗る戦艦の砲撃によって消滅させられ、施設のあった場所には巨大なクレーターだけが残るのだった。
その後、
「ふぅ、腹一杯になるまで喰えたぜ…」
退治したモンスター達の肉を喰らい尽くして来たZEROが、満足そうにゲップする中…
「ルカちゃん、本当に大丈夫?」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……な、何とか大丈、夫……で、す…」
「…まぁ、ZEROの無差別攻撃は慣れないとキツいもんな」
okakaに背負われているルカを、朱音が心配そうにしていた。ZEROの繰り返す無差別攻撃を避け続けた所為でとうとう体力が尽きてしまったらしく、現在のルカはokakaに背負われなければ帰れない程にまで疲れ切っていた。それに反して、朱音とokakaは特に疲れている様子は無くピンピンしている。
「む、帰って来たか」
「四人共、お疲れさ~ん」
「ご苦労様です」
二百式とBlaz、そしてデルタが四人を迎える中、ZEROはそんな彼等に返事を返す事も無く、一足先に食堂へと向かっていく。
「…全く、挨拶の一つも無いとは彼らしいですね」
「あ、おいヤベぇぞ!! このままだとまた食料が無くなっちまう!?」
「急いで止めに行くぞ!! 俺達の分まで食われるとなっちゃ、溜まったもんじゃない!!」
食料全滅の危機を察知したBlazと二百式は、急いでZEROの後を追いかけていく。その後、食堂前で大乱闘が行われたのはここだけの話である。
「それで、任務はどうでしたか?」
「出没していたモンスター達なんだけど、ZEROさんが一人で全部倒しちゃったわ。私達はまるで出番無しって感じよ」
「ただ、奴の流れ弾を避けるだけで精一杯だったのもここに一人いるけどね」
「す、すいません……ぜぇ、はぁ……今後、頑張って慣れて、いきま、す……はぁ、はぁ…」
「…本当にご苦労様です、ルカさん」
「うん、本当にお疲れさん」
ZEROの凶暴性を嫌というほど知っているデルタとkaitoは、瀕死状態のルカに労いの言葉をかける。
「ところで、アン娘ちゃん達は何処かしら?」
「アン娘さん達なら、先程ロキさん達の方へ救援に向かいましたよ。通信からして、何やら忙しい状況になっているみたいですが…」
その時…
「…お、噂をすれば」
FalSigの指差した方向では、
「お~い、おかえ―――」
「は~い、どいたどいたぁっ!!」
「悪いけどそこ、通行の邪魔ッ!!」
「ごめんね~、怪我人いるから通してねぇ~!!」
「え…のごわぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
美空を乗せたタンカーを運びながらUnknown達が走り、その際に通路上に立っていたFalSigが思い切り跳ね飛ばされた。そんなFalSigに目もくれず、Unknown達は急いで医務室まで走り去って行ってしまった。
「…何かしら? 今の暴走族は」
「さぁ?」
突然の状況に、事情を知らない朱音達は唖然とする事しか出来ない。
その中で…
「……」
雰囲気で察する事が出来たのか、デルタだけは無言でその場から移動を開始していた。
数時間後、
「お前等も苦労したらしいな。助けたと思ったら、いきなり暴走して攻撃されたんだって?」
「あぁ、一時はどうなるかと思ったよ本当に」
「それで無事に終わってんだから本当、miriみたいに悪運強いんだよな。お前達二人」
「……」
治療を受けてから、医務室のベッドで寝かされているロキとディアーリーズ。miriとawsが見舞いの品として持って来たフルーツの中から、リンゴを手に取ったロキはそれに直接噛り付く。
「子供達は今どういう状況になってる?」
「救助された子供達は今、アン娘の知り合いがいる孤児院へ預けられる形になりそうだ。管理局も知らない世界で、おまけにアン娘の信頼してる奴らしい。少なくとも、また管理局の連中に捕まるなんて事は無いだろうよ」
「…miriさん」
「んお?」
「…美空さんの方は今、どうですか?」
先程から、ディアーリーズは美空の事で頭がいっぱいだった。現在、美空は竜神丸や
「…少し前にな。アジトの倉庫を漁ってると、偶然ナノマシン専用の治療薬が見つかったんだ。それもあの娘と同じタイプのな」
「! じゃあ…」
「美空ちゃん、だっけ? 傷も何とか治療可能で、失敗する事は無いんだとよ」
「…良かった」
miriの言葉に、ディアーリーズは安心した表情になる。ロキも直接表情には出さないものの何処かうれしそうな感じだ。
「…ただ、問題が完全に解決した訳じゃない」
「「!」」
miriが真剣な目つきになる。
「家族を殺され、友達も殺され、知人も全員殺され、そして自分は人体実験で管理局の思うままに利用されたんだ。恐らく、精神面ではだいぶ弱ってるだろうよ」
「…まぁ、そりゃそうだろうな」
美空も、子供達も、全員が幾多もの人体実験で利用され続けたのだ。しかも美空を含め、中には家族を殺された者もいるだろう。並大抵の精神では、とても心が持つとは思えない。
「誰もが精神的に強い訳じゃない。中には支えが必要な奴だっているだろう……お前だって分かってる筈だろ、ディアーリーズ」
「…はい、分かっています。だから彼女は」
「あぁ待て待て、お前の言いたい事は大体分かってる」
miriが手で制する。
「自分が彼女を支えてやりたい……そう言いたいんだろ?」
「ッ…だったら!」
「心配するな。彼女の事について詳しく知ってるのは旅団の中でもお前だけなんだ。彼女の心のケアはお前に任せるよ」
「心のケアは必要無いかも知れませんよ」
「「「!!」」」
医務室に、デルタがやって来た。
「デルタさん……どういう事だ? 心のケアが必要無いってのは」
「言葉通りの意味です。お二方、立てますか? 私について来れば分かります」
そう言って、デルタは背を向けて医務室を出て行く。
「ついて来ればって…」
「どういう事だ?」
「さぁな…」
ロキとmiri、awsは頭にクエスチョンマークを浮かべているが…
(…まさか)
ディアーリーズだけは、僅かに感じ取れた嫌な予感に眉を顰めるのだった。
「おや、来ましたか」
竜神丸や医療スタッフ達のいる専用治療室。そこへデルタに連れられたディアーリーズ達と、先程まで子供達の世話をしていたUnknown、そして暇潰し目的のkaitoもやって来ていた。
「おや、アン娘さんも来るとは。子供達の方はどうしたんですか?」
「子供達の件は、一旦げんぶ達に任せてきた。それより竜神丸、例の実験体として扱われていたというあの娘の治療はどうなったんだ?」
「…彼女の命自体は、何とか繋ぎ止めましたよ。脳内のチップも取り除きましたので、これで外部から洗脳を受ける事も無くなるでしょう」
「! じゃあ彼女は…」
「何でしたら、直接話しますか?」
竜神丸がカーテンを開ける。そこには頭や身体中に包帯を巻かれ、車椅子に座ったまま無表情で俯いている美空がいた。
「美空さん!」
美空が無事に助かった事を知り、ディアーリーズは安心した表情で彼女に駆け寄る。ディアーリーズがしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込むと、美空もゆっくりと顔を上げる。
「…あ」
「良かった、美空さん。無事に意識を取り戻したんですね」
「…あな、た」
「―――だ、れ?」
「―――え?」
ディアーリーズの笑みが硬直する。
いや、彼だけではない。ロキやmiri、Unknownやkaito達も驚いた表情をしている。表情が全く変わっていないのは、竜神丸とデルタの二人だけだ。
「…え、え? み、美空さん、何を言ってるんですか…? 僕です、ウルですよ…? 今までに、何度か会ってるじゃないですか…!」
「ウ、ル…?」
美空は自分の頭を押さえる。
「分から、ない……何も、思い出せ……ない……私、は……誰、なの…?」
「…おいおい、嘘だろ」
想定外過ぎる言葉に、他のメンバーも状況を察する事は容易だった。
彼女―――篝美空は、全ての記憶を失ってしまっていたのだ。
「…実験の際に『管理局の忠実な手駒』という、偽の記憶を植え付けられた影響ですかね。家族を失った悲しみの記憶も、その家族を奪った魔導師に対する怒りの記憶も、管理局の手駒として従っていた偽の記憶も、全てが混ざり合い、もはや完全修復が不可能な程にまで…」
竜神丸の手が美空の頭にポンと置かれる。
「分かりやすく言うならば……そうですね。
「ッ…だったら、俺の能力で彼女の記憶を―――」
「その件なんですが」
kaitoの台詞を竜神丸が遮る。
「今回、彼女の記憶を修復する事は禁止されました」
「!? 何故だ!!」
「理由は実に単純。暴走を防ぐ為です」
竜神丸がタブレットを操作し、壁のモニターにナノマシン関連のデータが映し出される。
「まず最初に言いますと、彼女は管理局にとって失敗作に過ぎません」
「ッ!?」
「失敗作だと…!?」
「ナノマシンとの融合が不完全だったのですよ。怒りや憎しみ等の感情によって、ナノマシンの能力にも大きな変化が生じます。ですが不完全な融合だった場合、それ等の感情は全て暴走にしか繋がらないんですよ。ロキさんやディアーリーズさんだって、それはよく味わっているでしょう?」
「それは、まぁ…」
「ッ…」
竜神丸の言葉に、ロキとディアーリーズは反論が出来ない。何せ、そのナノマシンによる暴走で自分達は傷を負ったのだから。
「そういった危険性も兼ねている以上、彼女の記憶を修復するのは危険だと判断されました。感情の高ぶりによる暴走か、それを除いても精神崩壊を起こして発狂死か……どの道、彼女にはもうこれ以外に生きる道はありません」
「ッ…だからって、何でそんな事を!! 他に方法はあった筈です!!」
「そうかも知れませんね。ですがこれは、団長さんによって下された決定ですので」
「「「「!?」」」」
「……」
想定していなかった人物が話題に出てきた事で、ロキやディアーリーズだけでなく、Unknown達も驚愕の表情を見せる。そんな中でも、デルタだけは無言を貫き通している。
「団長が、決めた事だと…!?」
「えぇ。数十分前の話ですが―――」
「記憶の方はほぼ絶望的で…?」
「はい。そうなりますね」
専用治療室にて、美空の治療を終えたばかりの竜神丸と医療スタッフ達。現在ベッドに寝かされている美空の前に、竜神丸とデルタが立っていた。
「
「そんな危なっかしいのを助けようとするとは……ロキさんもディアーリーズさんも、相変わらず甘い部分がありますね。所詮は人間、常に誰かを救えるという訳ではないというのに」
「ですよねぇ…」
二人が揃えて溜め息をついたその時…
「ほう、その娘がそうか」
「「!?」」
そこへ突如、ここへ来る筈の無いであろう人物―――クライシスが姿を現した。
「クライシス!?」
「団長が、何故ここへ…!?」
「何、実験体の話を聞いたものでね。ここにいると知って、様子を見に来たのだよ」
ここへ来た理由を明かしてから、クライシスは眠りについている美空の額に人差し指を置く。
「…なるほど。確かに、修復出来るような状態ではなくなっているな」
「あなたにも分かりますか、クライシス」
「あぁ、一通りはな……竜神丸、彼女の体内にはナノマシンも埋め込まれているそうだな?」
「はい。しかし、融合自体は不完全です。家族を失った悲しみ、家族を殺された恨み、それ等の感情が引き鉄となって暴走を引き起こす危険性も秘めています」
「……」
それを聞いて、クライシスは無言になって考え始める。
「どうするのですか? このまま傷を回復させても、暴走して、この
デルタの意見も最もである。この
「如何なさいますか、団長」
「……」
しばらく考え込んでいたクライシスだったが、決断を下したのか、閉じていた目をゆっくりと開く。
「竜神丸」
「はい」
「…彼女の中に残っている記憶、全て消去出来るな?」
「記憶を全て消去……可能ではありますが、よろしいので?」
「戦う力の無い同志達まで、危険な目に遭わせる訳にはいかないからな……ディアーリーズにとっては辛い選択になるかも知れないが」
「では団長、指示を」
竜神丸はクライシスからの命令を待つ。デルタも反対意見は無いらしく、黙って事のいきさつを見守る姿勢に徹するようだ。
「勅命だ、竜神丸。彼女の中に残っている記憶を全て、消去せよ」
「…団長の、お言葉のままに」
こうして美空の記憶は、竜神丸によって全て
「そん、な…」
ディアーリーズが絶望したような表情で、その場に膝を突く。
「記憶の消去も、記憶修復の禁止指令も、全て団長さんの勅命によるものです。これが一体何を意味しているかは……あなた達でも分かりますよね?」
竜神丸の言いたい事はこうだ。このOTAKU旅団に所属するメンバーは全員、団長から直々に下された勅命は絶対に守らなければならないというルールがある。たとえそれが嫌な事であっても、メンバー達はそれに従う他ないのだ。
「第一、あなたもあなたですよ。ディアーリーズさん」
竜神丸がディアーリーズを指差す。
「私が彼女の“命”を助けたいのかと聞いた時、あなたはハッキリと肯定しましたね。その言葉通り、私は確かに彼女の“命”を助けてあげる事には成功しました。ただ、記憶の方は助けられませんでしたが」
「ッ!! それは…!!」
「施設で戦った時にそのまま始末さえしていれば、彼女は記憶を失う事も無く、家族のいるあの世へ召されていたかも知れませんねぇ。しかしあなたは、彼女を生かすという選択肢を選んだ……自分が何者かも分からなくなるような状況に、あなたは追い込んだ」
竜神丸はディアーリーズの横に立ち、彼の耳元で告げる。
「これが、あなたの選んだ結末ですよ」
「ッ…!!」
「…とにかく、命だけでもお助けしてあげたんです。後の面倒は、あなた達の方でどうにかなさって下さいね。私ではこれ以上面倒は見切れませんので……では」
それだけ告げて、竜神丸は部屋を退室した。それに続いてデルタも無言のまま退室していく。
「僕の、選んだ……結末…」
自分はただ、彼女に助かって欲しかった。それが自分の望みだった。
しかしその結果、彼女は全ての記憶を失ってしまった。自分が生きて欲しいと願った所為で、彼女は篝美空としての全てを消失してしまったのだ。
「…すまない。団長の勅命が下ったとなると、私達でも手出し出来ない」
「よりによって、団長の勅命とはな…」
「…くそっ!!」
Unknown達もこの状況では、やるせない表情になっていた。特にkaitoの場合は自分の能力が使えたかも知れないのに、それを団長の勅命だけで可能性を潰されてしまったのだ。その悔しさで、壁を殴りつけるのも無理は無いだろう。
「ディアーリーズ…」
「…いえ、大丈夫です」
ディアーリーズはゆっくり立ち上がる。
「こうなったのも全て、僕の責任ですから……これが、僕の選んだ結果なのなら…ッ…僕はそれを、受け入れる事しか、出来ません…」
「お前…」
ディアーリーズの声が、僅かに震えている。ロキはそんな彼に何か声をかけたかったが、言葉が思いつかなかったからか、何も言えずじまいだった。
「美空さん…」
ディアーリーズは車椅子に座っている美空の前でしゃがみ、彼女の手を取る。
「ごめんなさい……僕の所為で、あなたは…」
「…あたた、かい」
「え…?」
美空がボソリと呟く。
「思い出せ、ない……けど、懐かしい……あなたを見てる、と……そう、感じる…」
「ッ…!! ごめんなさい…!! 僕の、所為で……ごめん、なさ…い…ッ!!」
美空の言葉に我慢の限界が来たのか、ディアーリーズは彼女の手を握ったまま俯いて涙を流す。そんな彼に、ロキ達は何も言えずにただ二人を見つめる事しか出来ないのだった。
管理局地上本部…
「ふむ、やはりNo.91は失敗したのか」
「そのようです、はい」
マウザーはクリウスから報告を受けているところだった。
「おまけに、脳内のチップも奴等によって取り外されてしまったようです。もうこちらからは、電磁波を送って操る事も不可能かと」
「ふん、まぁ良い。大して期待もしていなかったからな……それよりも、今の問題はこっちだ」
マウザーは机に置かれている書類を手に取る。
「あの子狸め……厄介な事をしてくれる…!!」
マウザーの手に取った書類。
そこには“機動六課”関連のデータが記されていた。
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