No.640071

恋姫†無双 関羽千里行 第4章 40話

Red-xさん

恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第4章、40話になります。
この作品は、恋姫†無双の二次創作です。設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。第一話はこちらhttp://www.tinami.com/view/490920
たぶん好き嫌い別れると思います。
それではよろしくお願いします。

2013-11-26 06:55:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2226   閲覧ユーザー数:1909

第40話 -絶望と希望-

 

愛紗「一刀様に、何をしたあああっ!!!」

 

 愛紗は激昂した。 先ほどまでとは打って変わって、祭に背負われ満身創痍で戻って来た一刀はどう考えても身体のバランスがおかしかった。具体的には、右腕に赤く染まった布が巻いてあるのだが、その下にあるはずの腕がどう考えても左腕より短い。もっと言えば、肘があるであろう上からすっぱりなくなっていた。一刀はというと意識を失っているのか、愛紗の言葉にわずかに反応するばかりであった。

 

雪蓮「...」

 

 城の入口。そこで沈黙を守る雪蓮の手には一刀のものであるはずの刀。そして服には返り血を浴びたかのように赤い染みがいくつもできていた。

 

愛紗「答えろ!何をしたと訊いているんだっ!!」

 

 何も言わない雪蓮に焦れて、愛紗は雪蓮の胸ぐらを掴んだ。それに対し、

 

雪蓮「...放して頂戴。」

 

 雪蓮は静かにそう口にする。

 

愛紗「放せだと!?事情を聴くまでは逃がさんぞ。事と次第に寄っては...」

 

 愛紗は正面から雪蓮を睨みつける。

 

雪蓮「...放しなさい。」

 

 だが、すっかり頭に血が登ってしまっている愛紗には、雪蓮の要求を聞くという選択肢は頭になかった。華雄も愛紗と同様に怒りを露わにし、雛里は動揺しながらも祭と一刀の容態を見ていた。

 

霞「...愛紗、言うとおりにしとき。なんのためにこんな所まで来たと思ってるんや。」

 

 この場で北郷側で唯一冷静であった霞が愛紗を諌める。もちろん、霞にも思うところがあるのだが、ここで北郷軍の筆頭が呉の代表に不敬をはたらくことは、一刀が今までやってきたことを無駄にするとわかるくらいには冷静だった。

 

愛紗「...くっ!だが、後で話は聴かせてもらうぞ。我等には当然その権利があるはずだ。」

 

 それは愛紗にも伝わったのか。霞の言葉に愛紗は悔しそうにその手を放した。

 

愛紗「一刀様の容態は?」

 

雛里「あまり良くありません。毒を受けたようで、すぐにお医者様に診てもらわなければいけません。」

 

冥琳「すぐに城の医者を呼んでこよう。...いいな、雪蓮。」

 

雪蓮「それならさっき呼びに行かせたわ。」

 

冥琳「...そうか。」

 

雛里「助かります。祭さん、本国にも伝令を。それと、念のため可能なら華陀さんか五斗米道の何方かを見つけてこちらまで来てもらうよう言伝してください。」

 

祭「わかった。...では頼む。」

 

 祭は愛紗に一刀を預ける。

 

愛紗「...お前にも、後で話を聴くからな。」

 

祭「わかっている。」

 

 祭は伝令のいる待機所まで駆けていった。

 

冥琳「医務室まで運んでいこう。私が案内する。こっちだ。」

 

愛紗「...」

 

雛里「有難うございます。」

 

 冥琳が一刀と二人を連れてその場を離れる。

 

霞「行くで、華雄。」

 

 未だ雪蓮を睨み続けていた華雄を急かす霞。

 

華雄「...ああ。」

 

 最後にひと睨みした後、華雄はその場を離れた。

 

雪蓮「...」

 

愛紗「容態は?」

 

医者「まだ体内に毒が残っているようですな。黄蓋様が持ってきた矢尻を見てみましたが、毒について言えば私は初めて見るものでした。しかし、かなり強い毒だったのではないでしょうか。こう言ってはなんですが、孫策様の処置は適切だったと思います。」

 

愛紗「...」

 

医者「ひっ!」

 

 その後、一刀は医務室に運ばれ、呼ばれた医者に処置を受けた。その時に雪蓮と戻ってきた祭による状況説明も行われた。医者によれば、落とされた腕の辺の劣化が一番ひどく、もし腕の残った部分の毒まで回っていれば毒がさらに侵食し、命はなかったのではないかと分析した。と言っても、今の一刀は意識を失っている。とりあえずの止血と傷口の手当は済んだものの、余談は許されないという状況らしい。しかし、一部身体に入り込んだ毒はどうしようもなく、打つ手が殆ど無いという状況だった。軍医であるその医者には怪我や風土病の知識はあっても、毒の知識はあまりなかったらしい。

 

医者「私ではこれ以上はどうしようも...」

 

 部屋の中は重い雰囲気に包まれる。話を聞いてからというもの、愛紗は抑えつつもまた華雄は露骨に怒りを露わにした。雛里も医術の心得があったため治療に参加したのだが、だからこそ一刀の病状も把握してしまったのか、今は俯いて涙を零している。雪蓮も話をして以降黙りを決め込み、祭は雛里を宥めつつも自分で悔しさをかみしめていた。

 

霞「(アカン...このままやと状況は悪くなる一方や。)」

 

 一応の命の恩人でもあるため愛紗は何とか収めているが、華雄はそのうちキレないとも限らない。そうなればこの同盟はご破算だ。さらに最悪なのは一刀が死んでしまうことだが、それは霞も考えたくなかった。正直冷静を装っているだけで、本当は今直ぐに霞も一刀の仇を討ちに飛び出していきたいほど腸が煮えくり返っているし、その一方で一刀から離れることもできない複雑な感情に囚われていた。そこに、

 

冥琳「今戻ったぞ。」

 

 冥琳が重苦しさに包まれたこの部屋に入ってくる。冥琳もこれから報告することを思えばこんな空間に身をおきたくはないが、そうも言っていられない。

 

冥琳「関羽殿たちにもそのまま伝えたほうがいいか?」

 

雪蓮「そうして頂戴。」

 

冥琳「...わかった。襲撃者はやはり曹操の手のもので間違いないようだ。曹操に見せかけた他国の暗躍も考えられたが、襲撃者の装備は曹操軍のもので人数分装備を揃える難しさからその可能性は低い。さらにこちらの得た情報で、曹操軍の進行にあたって軍内で行方不明扱いにされていた部隊があったのだが、その部隊の部隊章と死体から回収した部隊章が一致した。部隊章がバラバラであればはぐれた兵士を個別に襲って装備を集めたとも考えられたが、他国領内で秘密裏に部隊丸々制圧できるとは考えにくい。このことからも、少なくとも襲撃者たちは曹操軍の者であると断言していいだろう。曹操の命があったかまではわからんがな。」

 

 そこまで来て頭の回る愛紗と霞が反応した。なるほど、戦時下において部隊丸々が消えることはあり得ないことではない。敵前逃亡が死罪にあたるなら周囲の目がある個人で逃げるより、周りを抱き込んで全員で逃げた方が発覚が遅れやすいからだ。しかし、脱走を許せば士気に関わる。見せしめにするのが当然ではあるが、それが叶わなければ兵士にとって不安材料になるその情報自体抹消したいはずだ。しかしなぜ、呉軍がそんな軍内部で処理されるような情報をもっているのか。

 

冥琳「私たちは今回の曹操の進行に際して、偶然だが曹操軍内部のかなりの詳細な情報を得ることに成功している。それが、そちらの協力を断った理由の一つだ。言い訳にしかならないが、あちらで行方不明と処理されている以上、こちらへの敵意はないと考えていたのだ。」

 

 もはや隠す方が自体の悪化を招くと考えたのか、冥琳がそれを先回りして補足する。だが、愛紗には追求を緩めるつもりなど毛頭ない。

 

愛紗「敵の部隊が侵入している可能性を理解しておきながら、警戒を怠っていたというのか?」

 

冥琳「それは違う。だが、先ほどまで部隊が以前雪蓮に潰された許貢の残党であったということまではわからなかったのだ。」

 

雪蓮「許貢ですって...?」

 

 つまり、雪蓮にしてみれば自分の怨恨騒動に関係のない一刀を巻き込んでしまったということになる。元々重かった雰囲気が、これ以上重くなることがあるとは誰も考えなかっただろう。

 

愛紗「...孫伯符殿。将として、私の先ほどの非礼は詫びよう。すまなかった。しかし、貴公の抱えるいざこざによって我等が主君は今生死を彷徨っている。ご自身でもわかってはおられると思うが、この責任をとっていただきたい。」

 

雪蓮「...ええ。この一件が片付き次第、私の首は貴方達に委ねる。もちろん、この国もよ。」

 

冥琳「...!」

 

祭「っ!」

 

 それはつまり、呉が完全に北郷の傘下に入ることを意味している。

 

雪蓮「でも、一つ条件がある。」

 

愛紗「...聞こう。」

 

雪蓮「私にも、曹操に対する落とし前を付けさせて欲しい。本隊とともに合肥で曹操を迎え撃つわ。」

 

華雄「馬鹿な!関羽、こいつは本隊と合流し、我等を武力で黙殺する気に違いない!」

 

 華雄の言葉にも一理ある。そうすれば、恥となる事実を隠匿し、重鎮たちを失った北郷を楽に下すこともできるかもしれない。だからといって、今ここで誰か北郷の者が雪蓮に報復として手を出せば、北郷と呉の全面戦争になる可能性がある。主君を殺され怒りに燃える呉軍は、まさに死兵となって襲いかかってくるだろう。そうなれば、わずかばかりの兵力しかいない愛紗たちは為す術も無い。しかし、雪蓮が自らの意思で責任をとると多くの者に知らせてから手を下せば、呉の将兵や文官たちもある程度は納得するしか無い。つまり、この要求は飲むしか無いのだ。

 

愛紗「...いいだろう。その命、しばし預けておいてやる。」

 

華雄「何っ!?」

 

雪蓮「感謝するわ。礼にもならないけど、その間こちらもこの城に滞在する許可を出しておく。担当の者を置いていくから必要なものがあったら言って頂戴。」

 

愛紗「礼を言う。重ねて仲間の非礼も改めてお詫びする。すまない。」

 

雪蓮「...当然のことよ、気にしてないわ。じゃあ、私はこれから出立の用意をするわね。」

 

 淡々とそう告げる雪蓮が冥琳を伴って部屋を出て行った。その背中を、華雄は殺意を込めて見ることしかできない。一刀が応対できない以上、北郷の代表として決定権を持つのが実地愛紗に移っているからだ。

 

華雄「関羽貴様!」

 

愛紗「抑えろ華雄。」

 

 激昂する華雄を愛紗が諌める。

 

華雄「貴様は悔しくないのか?大体、黄蓋貴様もだっ!お前がいてなぜ北郷があんな目にあっている!」

 

祭「...すまん。」

 

華雄「そんな言葉ひとつで済むと思っているとでもっ...!」

 

愛紗「止せ、華雄。祭がいなければ、我等は主君の仇もわからず、ともすれば一刀様の屍を見ることになったのかもしれん。それに森は視界が悪い。祭と云えど見えないものはどうしようもあるまい。...運が悪かったのだ。」

 

華雄「運が悪かった...だと!?ふざけるなっ!!」

 

 華雄は元々孫家には何らかの因縁があったようだし、主君を傷つける原因の一端を担った雪蓮を許すことができない華雄の気持ちはわかる。しかし、その気持ちに任せて行動すれば最悪の結果になると、皆がわかっているのだ。

 

愛紗「今第一に考えるべきは我らが主君の安全だ。まだ、一刀様は亡くなったわけではない。」

 

華雄「だが!」

 

愛紗「...そうだ、亡くなったわけではない、のだ...」

 

華雄「...関羽?」

 

 一刀の横たわる寝所の傍まで来て、愛紗は一刀の頬を一撫でした。一刀の顔色はいつもより青白く、ときおり苦しそうに身を震わせるその様はこれからの未来を予感させる。

 

愛紗「かず...と...さま...」

 

 そして、先ほどまで怒りをなんとか抑えて応対していたはずの人物が力なく床に腰をついた。

 

愛紗「うっ...うっうぅぅぅぅぅ...」

 

 嗚咽混じりに部屋の中に響き渡ったのは愛紗の声。怒りで塗りつぶしていた本当の感情がさらけ出される。彼女の目を赤く染め、涙が溢れるように溢れていく。北郷軍でも普段からあれだけの勇猛振りをみせ、軍神や武神とも呼ばれる彼女が涙を流すことなど誰にも想像ができなかった。武人の鎧が剥がれ落ちていく。今の彼女だけは、どこにでもいる想い人を思って悲しむ一人の女としか見えない。

 

愛紗「私は...なん...て...無力なの...だ...一刀様の身を、私は...」

 

 その後も、愛紗は言葉にならない自分の無力に対する呪詛や、答えもできない一刀に対する謝罪を履き続けた。時には一刀自身の不注意を責めた。その姿はただひたすらに痛々しい。その場にいる者達は、それをただ見つめていることしかできなかった。

 

 それから数日。愛紗たちは一刀が絶対安静のため下手に動くこともできず石亭にとどまっていた。愛紗もあの翌朝にはなんとか立ち直り、城の書庫に保管されていた慣れぬ医術書を読み漁り、一刀を治す術がないか模索していた。何より、まだ一刀は生きている。ならばまだどうにか毒を制する術があるはずだ。悲しみに暮れることはできるが、それをすればあり得た可能性を諦めることになる。その姿に感化されたのか、それぞれが他に医者をあたってみたり、一刀の症状を記録に収めたりと、可能な手を尽くしていた。その結果、一刀に使用された毒が強力な蛇のものであるらしいと云うところまではわかったのだが、それ以上は専門家ではない愛紗たちにはわからなかった。

 

 そうして一刀の病状は悪化の一途を辿り、もはや存命は絶望的かとも思われた頃。

 

華陀「よう。どうやら大変なことになっているようだな。」

 

 話を聞きつけた華陀がなんとか間に合って到着した。聞けば、たまたま呉と国境近くの村を回っていたらしい。おそらく、そうでなければ間に合わなかったと、華陀は後に語る。

 

華陀「あいつには借りがあるからな。特別急いでやってきたんだ。任せろ、最善は尽くす。」

 

 結果的に、華陀による治療は一刀を治すことはできなかった。しかし、一刀の中にある体内の気の消耗を抑えることで、約一月ほど延命させることができたという。華陀は、一刀の病状とその記録、そして残されていた矢尻から採取した毒を分析した結果を北郷軍の将の前で語った。

 

華陀「まずあいつの現状だが、なんとか命を永らえさせている状況だ。ここ数日まで生きていられてたのは、直後の処置とここの医者の腕、そしてこいつ自身の生命力の賜物だな。だが、それも長くは続かない。次に、使用された毒だが、調べてみたところ推測どおり蛇のもので、それもある特定の場所にしか生息しない、かなり貴重な物が使用されているようだ。こいつを用意したやつはよほど確実にそいつのことを殺したかったらしい。本来、これならかすっただけでも全身に毒が行き渡り、医者に駆け込む間もなく命を奪うことができるだろう。だからこそ、こいつに対する特効薬は存在しない。薬を試す機会がないからな。」

 

 死刑宣告とも取れるその台詞に全員が再び絶望的な気分にさせられるが、華陀は最後にだが、と付け加える。

 

華陀「こいつに唯一効くかもしれないものに心当たりがある。それは、この毒を持つ蛇を喰らっているであろうにも関わらず、今まで毒が原因で死骸が見つかったことのない...」

 

 藁にもすがる思いでそれを聞く。それは突拍子もない話で...

 

愛紗「...それでは行ってくる。皆、一刀様を頼んだぞ。」

 

 翌朝。日が昇り始め、徐々に辺を光に包んでいく。そして、城門の前には武装を整え旅支度をした愛紗と、

 

雛里「華陀さん、ご主人様をよろしくお願いします。」

 

 同じく旅支度を整えた雛里が皆に見送られる。

 

愛紗「行くぞ。雛里、覚悟はいいか?」

 

雛里「はいっ!必ず戻って来てみせます!」

 

愛紗「霞、何かあった時はお前の判断に任せる。一刀様を守ってくれ。」

 

霞「おうっ!」

 

愛紗「華雄、私はお前を信じているぞ。思うところはあるだろうが、皆と協力してくれ。」

 

華雄「ああ、任せておけ。」

 

愛紗「祭、慣れぬ土地で兵士たちが不安がるだろう。うまくなだめてやってくれ。」

 

祭「ああ。」

 

愛紗「では、我が武の全てを持って龍に挑まん!」

 

 こうして愛紗たちは石亭を旅立った。目指すは泰山。求めるは万病に効くとされる龍の生き血。

 

愛紗「...行ってまいります。どうか、私の帰りを待っていてください。」

 

 -あとがき-

 

 読んでくださった方はありがとうございます。

 

 正直、今回暗くしまくった後にこんなんぶち込んでいいのかな?っていうのがかなりあったんですが...まあ、世界観自体が異世界とかファンタジーとも言えますし...程度の差はあれ元々入れる予定ではあったのでそのまま進みたいと思います。史実とか関係のないのでそこらへん期待していた方は申し訳ありません。ないなって方もいると思います。それもごめんなさい。ちなみに、龍自体は萌に出てきたので恋姫世界にはいるようです。

 

 そこらへんも飲み込んで次回もおつき合いいただけるという方はよろしくお願いしま

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
15
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択