「兄様、兄様ぁ…」
琥珀色の月の下で、私は消えてしまった大好きな人を呼んでいました。
出会ったとき。あの人は、私の住んでいた村の近くの森で虎に襲われていました。
助けてあげてお話を聞いてみたら、どうやら異国の人みたいでした。
その人は村の中で自分の出来る仕事を見つけて、一生懸命に仕事をしていました。
それに、すごく優しくて、私はその人を「兄様」と呼ぶことにしました。
そんなある日、村の市場を二人で歩いていると、占い師の人に声をかけられました。
「お主は、いずれ偉大な王のもと、大陸に名を轟かせるだろう」
そう言われて、少し照れていると
「そこの白い服を着た、そなた」
と兄様にも声をかけました。
「大局の示すまま、流れに従い、逆らわぬようにしなされ。さもなくば、待ち受けるのは身の破滅・・・くれぐれも用心なされよ」
意味ははっきりとは分からなかったけど、あまりいい内容ではなさそうだったからか、兄様は少し考えて込んでいました。
「占いなんて、当たるも八卦。当たらぬも八卦ですから」
そう言って私は、兄様を励ましました。
このとき、私はこの占いをこの程度にしか気にしていませんでした。
季衣から洛陽に来るようにって手紙が来た時に、兄様は一緒に行きたいと言ってくれました。
私も兄様と離れたくなかったから、とてもうれしかったです。
このとき、兄様はわたしにとって本物の兄様みたいな存在になっていました。
私が華琳様にお仕えすることが決まってから、華琳様は私と兄様のために家を用意してくれました。
「一緒にいたいのでしょう?」
と微笑みながら華琳様が言われたので、恥ずかしくて顔を上げることができませんでした。
兄様は警備隊で働くことになりました。
なんでも、お仕事が大変で人材が不足しているのだとか。
兄様は毎日ボロボロになって帰ってきて
「詰所の数が足りない」とか「足りない人数は正規軍から貸してほしい」とか「正規軍への予備役としての性格をつければ」とかいろいろと辛いみたいでした。
そんな話を季衣としていたら、偶然華琳様が通りかかって
「その話を詳しく聞かせなさい」
と言われたので、華琳様に兄様の話をしたら、
「その者を城に呼びなさい」
と言われたので、びっくりしてしまいました。
お城に呼ばれた兄様が、警備隊の実情と改善策の話をすると、
「では、その計画あなたが実行してみなさい」
と華琳様に言われ、兄様は警備隊の隊長になることになりました。
隊長になった兄様は、がんばってお仕事をしているみたいでした。
時々、お仕事を抜け出して私とお茶をしているところを、凪さんに見つかってお説教をされていたりしていたけど、兄様は楽しそうでした。
沙和さんが服を買ってくれないとお仕事をしないというので、服を買ってあげたら、思っていたよ
り値段が高くて、今月は外食を控えなくちゃと兄様は笑っていました。
真桜さんに「刀」を作ってもらえたと兄様ははしゃいでいました。
そんな兄様をみて、私は今まで感じたことのない切なさを感じました。
私じゃない他の女の人と楽しそうに笑っている兄様。
これをなんというかは、阿蘇阿蘇で読んだことがあります。
『恋』
他の女の人と楽しそうにしている兄様を見ると、私は不安になりました。
兄様が私をおいてほかの人の所に行ってしまうのではないかと。
私ではない他の人が私の知らない兄様を知っているのではないかと。
私と一緒にいる時でも他の人のことを考えているのではないかと。
そうして、私は兄様に忘れられてしまうのではないかと。
そんな不安が心に広がっていたある日、私が家に帰ると兄様はまだ帰ってきていませんでした。
まだ帰ってきていない兄様を待つ間、私は不安に押しつぶされそうになって、泣いていました。
兄様はきっと他の人と一緒にいるのだろう。
私のことは忘れてしまったのだろう。
いつも不安に思っていたことがあふれ出てきました。
私の心の真ん中にいつのまにかいた兄様がいなくなって、心にぽっかり穴があいてしまったようでした。
悲しくて、寂しくて、私は目の前が真っ暗になってしまいました。
でもそのときは、すぐに光が差し込んできました。
「流琉ただいまぁ~」
いつもと同じ明るい声。
「ごめん。すこし遅くなっちゃった。」
いつもと同じ穏やかな声。
「でも、帰る途中で肉まん買ってきたから一緒に食べよう。」
いつもと同じやさしい声。
わたしが失くしたと思ったものはまだ、私の心の中に帰ってきてくれました。
でもまだ不安が残りました。
このまま何もしなかったら、不安はずっと残るような気がしました。
でも、その「何か」をしてしまったら、私と兄様はこれまでのような関係のままではいられないと思いました。
それでも、私はそれをしようと思い、涙をぬぐって立ち上がりました。
「お~い。流琉?どこにい…る」
立ち上がった私を見て兄様は、立ち止まりました。
今言うしかない。
そう思いました。
「流琉!?どうし「兄様。聞いてください!!」・・・た。」
兄様は一瞬戸惑ったようだったけど、すぐに真剣な表情になって
「どうした?」
とやさしく言ってくれました。
私は、また溢れそうになる涙をこらえながら、兄様に言いました。
「私。兄様が。北郷一刀様が好きです!家族としてとか、そういうのじゃなくて・・・・・
男の人として好きなんです。」
兄様は真剣な表情のまま聞いていてくれました。
「私は・・・私は兄様が好きなんです・・・・」
それ以上は涙があふれて、言葉にできませんでした。
なんとかして言葉にしなくちゃと思い、必死に声を出そうとしたとき、
ふっと、私を何かが包み込みました。
「こんなになるまで、思ってくれてありがとな。流琉。」
私は兄様に抱きしめられていました。
「俺も、気持ちを伝えようと思ってたんだけど、なかなか言い出せなかったんだ。そのせいで流琉を泣かしちゃってごめんな。」
兄様はそっと頭を撫でてくれました。
「俺も流琉のことが大好きだよ。家族としても、もちろん一人の女の子としても。」
ほんの少し前まで私の心を冷たくしていた涙が、暖かくする涙に変わりました。
「兄様・・・」
「流琉・・・」
私たちはその夜から、恋人同士になりました。
それから、しばらくして、蜀との国境辺りの定軍山あたりで不審な人々を見たという情報が洛陽にもたらされたので、私と秋蘭様とで偵察に行くことになりました。
兄様とは少しの間会えないけど、でもあの日以来、兄様と確かな絆で結ばれているような気がしていたので、前のときみたいな不安は感じませんでした。
それに、兄様は少し前から、近くの町の警備状況の視察のために洛陽にいなかったので、遠征前に挨拶はできなかったけど、そんなに長い遠征ではない予定なので、そんなに気にしていませんでした。
でも、これは罠でした。
定軍山の森の中には蜀軍が伏兵をしかけていて、私と秋蘭様の部隊は大きな損害を受けてしまいました。
このままでは壊滅してしまうので、私たちは意を決して森から出ました。
そこに待ち受けていたのは、黄忠将軍率いる蜀軍でした。
こちらの部隊もほぼ壊滅してしまい、もうだめかと思っていると、なぜか華琳様が率いる援軍が駆けつけてくれました。
最初に伏兵に遭遇した時、すぐに秋蘭様が伝令を出していたけど、こんなに早く来るはずがありませんでした。
秋蘭様も気になったのか、華琳様にどうしてこんなに早くこれたのか聞いていました。
華琳様曰く、
私たちが出立してから間もなく、視察から帰って来て、私と秋蘭様が定軍山に向かったと兄様が
「すぐに、援軍を出してくれ、流琉たちが危ない!!」
と言って、華琳様たちを説得して、援軍を出してくれたということだった。
「流琉。帰ったらあなたの恋人にうんとお礼を言いなさい。」
と華琳様が言うと
「私も流琉の夫殿に礼をいいに行かねばならんな。」
と秋蘭様が笑っていました。
兄様とはまだ祝言を挙げた訳じゃないけど、そう言われると、恥ずかしくて顔から火が出そうでした。
洛陽に帰ると、兄様は家で休んでいました。
聞くと、華琳様たちの援軍が出立した後、視察の疲れからか倒れてしまったとのことでした。
「なれないことをしたから、疲れちゃったんだろう」
と兄様は言っていましたが、私は少し不安が残りました。
それから、しばらくして、曹魏は孫呉へと攻め入ることが決まりました。
今回の遠征が決まると、兄様はすぐに華琳様に自分も従軍したいとお願いしました。
今まで、戦場に行ったことがない兄様が何でそんなことを言ったのか疑問に思ったので、聞いてみると
「俺が行かなきゃ、流琉が危ない目にあう気がしてな」
と少し苦笑いをしながら答えてくれました。
孫呉との決戦の地の赤壁に到着すると、呉の宿将といわれる黄蓋さんが魏の陣地へやってきました。
なんでも、呉の周瑜さんに辱めを受けたので、今の孫呉を滅ぼしたあと、自分も自害するとのことでした。そんな黄蓋さんをみる兄様の視線はいつになく真剣でした。
確かに、黄蓋さんの胸は大きいですけど、そんなに真剣に見なくても・・・
とそんなことを思っていると、その夜に、兄様はあろうことか華琳様の天幕に入って行きました。気になったので、少しのぞいてみたら、寝転がった兄様に華琳様が寄り添っていました。
あまりのことに、言葉を失い自分の天幕までかえってもしばらく呆然としていました。
そうしていると、兄様が天幕に帰ってきました。(華琳様のはからいで、私と兄様は同じ天幕にしていただいていました。)
先ほどのことを聞こうと、兄様の方を見ると、兄様の顔色は誰が見てもわかるほど血の気がなく、また足取りも少しふらついていました。
どうしたのかと聞いても兄様は
「大丈夫」
としかいいませんでした。
さっきはあんなに華琳様と仲良さげにしていたのに、私には教えてくれないのかと、すこし泣きそうになると、兄様が
「流琉、さっき華琳のところへ行って話したんだけれど、黄蓋さんの降服は敵の策なんだ。船を鎖で繋ぐというのも含めてね。それで、その策に嵌ってしまっては、魏は大きな損害を受けることになる。そこで、策に乗ったふりをして、逆に敵を欺こう思う。でも、このことを魏の人たちすべてに知らせたら、黄蓋さんにもばれてしまう。だから、流琉には、他の人たちにはこのことを教えないで、黄蓋さんの様子を見張っていてもらいたいんだ。この役目は、流琉の他に秋蘭がその役をやるから、二人で協力して見張ってほしい。」
そして一呼吸置くと
「あと、さっき華琳の天幕で、寝転がっていたのは、少しめまいがしたからなんだ。やっぱりなれないことをすると、疲れがたまりやすいみたいでさ。」
「え?」
「さっき、華琳の天幕から出る時に、華琳に教えてもらったんだ。流琉が見てたわよってさ。それで、私の大切な部下を不安にさせるんじゃないわよって言われちゃって。」
そう言いながら、頭は掻いた兄様は
「だから、流琉を不安にさせてごめんね。」
と言って私を抱きしめてくれました。
「それで、さっきの仕事お願いできる?」
兄様は私の頭をなでながらやさしく言いました
「はい。」
こんなにも私を大切に思ってくれる兄様のお願いなら、どんな願いでも聞いてあげたいと思いました。
戦いでは、兄様の言ったとおり、黄蓋さんが裏切り、また船を鎖でつなぐというもの、火計のための仕掛けでした。
でも、兄様の話を聞いた華琳様と軍師の皆さん、あと真桜さんのがんばりのおかげで、見事に敵の裏をかくことができ、孫呉(聴くところによると、蜀も孫呉の援軍として来ていたらしいのですが)に勝つことができました。
その後の建業での戦いでも、勝つことができ、私たち曹魏は、孫呉を攻め落とすことができました。
でも、あの赤壁の戦い以降、兄様は調子があまり良くない様子でした。
「なれないことをしたから」
と兄様は言っていましたが、本当のことを言ってないような気がしました。
本当は、他の理由だと考えているのに、それを言っていない様な気が。
孫呉を平定して、蜀に攻め入る前に、華琳様が洛陽にお戻りになるとのことだったので、私と兄様、それと季衣も途中まで一緒に行き、私たちの村に帰れることになりました。
久しぶりに帰って来た村は、私たちがいた頃より発展して、村というより町になっていて私と季衣はびっくりしてしまいました。
兄様は
「前の視察の時にこのあたりも回ったんだ」
っと村の発展を知っているようでした。
兄様は最近調子が良くないようなので、昔住んでいた家で休んでいてもらって、私と季衣で市場に買い物に出かけました。
村の発展は市場では顕著にみられ、お店の数が格段に増えていることに驚きました。
季衣と二人で、買い物を進めていくと、
「ねぇ流琉、見てみて。ボクが村にいた頃には、あんな占い師なんていなかったよ」
と季衣が声をかけてきました。
見ると、占い師の前に若い男女がいて、「二人の相性を占ってください」と言っているようでした。
「・・・あ。」
私をその後景を見て、ふとある言葉を思い出しました。
「大局の示すままに逆らわぬようになされ。さもなくば、身の破滅」
兄様が昔、占い師に言われた言葉。
あの時は、真剣に受け止めていなかったけど、今になって考えると、あの占いはあったっているのかもしれない。
兄様が最初に倒れたのは、定軍山の戦いのとき。
兄様が援軍を出すように華琳様にお願いしてくれていなかったら、私も秋蘭様も蜀軍に打ち取られて、きっと今とは違う道を華琳様は進まれたことでしょう。
華琳様の天幕で倒れたという赤壁の戦い。
兄様がいなかったら、私たちは絶対に孫呉に勝てなかったでしょう。
兄様が倒れるのは、必ずその後に大きな影響を与えた時でした。
占いの通りなら、それは、流れに逆らう行為であるのかもしれません。
だとしたら兄様は・・・。
(そんなのいやっ!!)
「ちょっと!流琉!?」
私は、兄様のいる家まで走りました。
早く。少しでも早く兄様に伝えるために、手遅れになる前に。
家につくと、兄様は軒先に腰かけていました。
「どうしたの流琉?そんなに急いで忘れ物??」
兄様はいつもとおんなじやさしい声でした。
「兄様約束してください。」
「どうしたの?突然。」
「約束してください!!」
身の破滅って死んでしまうことだと思いました。そんなの嫌でした。兄様がいなくなるなんて絶対に嫌でした。
兄様はじっと私の眼を見て、
「わかった。何を約束すればいいんだい?」
と言いました。
「これから、軍議の時や戦いの時に、策を進言したりすることをやめるって約束してください。・・・流れ、流れに逆らうようなことをしないようにしてください。」
涙が溢れてきそうでした。
そんな私を見て兄様は、そっと私を抱きしめて
「わかった。約束する。だから泣かないで。」
と言いました。
しばらくの間、涙が止まりませんでした。
兄様は私が泣きやむと、
「季衣一人で買い物はかわいそうだから、手伝いに行こう」
と、市場まで一緒に行きました。
「ボクをおいて一人でどこ行ってたの!?」
と季衣に怒られてしまったけど、兄様が約束してくれたから、私は気が楽になっていました。
村(もう街になっていたけど)での滞在も終わり、いよいよ蜀へ侵攻が始まりました。
本来は戦場に立たない兄様も、先の戦いでの働きが評価され、今回も従軍することになりました。
兄様は約束してくれたけど、華琳様が兄様に策を求めたら、きっと兄様は進言しなくてはいけなくなるかもしれません。
だから、侵攻の少し前に華琳様に、
「兄様に献策を求めないでください」
とお願いしました。
理由を聞かれたので、昔村で会った占い師の話、そして、兄様が具合を悪くした時期などの占いとの関連性を説明しました。
華琳様は
「わかったわ。」
と言ってくださいました。
これで、もう大丈夫。私はそう思っていました。
蜀への侵攻が始まって、兄様は周りの人たちと話したり、自ら部隊を指揮したりと元気な様子でした。
そんな兄様を見て、私は安心していました。
夜、みんなでとってきたイノシシやクマなどの料理をし終えて、軍議をしていた華琳様たちの所に運んで行くと、そこにいると思っていた兄様がいませんでした。
河原の方に行ったのを見たということだったので、そっちを探してみようと思いました。
でも、華琳様が
「流琉は一刀が来た時に、一番おいしく食べられるように準備しておきなさいな。私が連れてくるから。」
と言われたので、お願いすることにしました。
しばらくして、華琳様と兄様が陣に戻ってきました。
華琳様に言われたとおり、一番おいしく食べれるようにしておいたイノシシ料理を食べた兄様は
「流琉の村にいた時を思い出すよ」
と喜んでくれていました。
その後の、蜀との戦いはとても激しいものになりましたが、何とか勝つことができ、
華琳様が三国の協調による平和体制を宣言して、この大陸は平和になりました。
そのまま、戦争終結の宴が行われました。
私も季衣と一緒に楽しんでいました。
ふと、兄様がいないことに気が付きました。
どこにいるのかと探していると、華琳様が
「一刀は城から出て少し行ったこところの河原にいるわ。」
と教えてくださいました。
「・・・しっかりと、別れを言いなさいよ。一刀。」
琥珀色の月を見てそういう呟く華琳様の言葉は、私には聞こえていませんでした。
華琳様が教えてくださった所に兄様はいました。
「兄様!」
少し離れたところから呼ぶと、兄様はこちらを向いて穏やかに微笑みました。
「どうしてこんな所にいたんですか?」
兄様はその質問には答えませんでした。
「流琉。俺は流琉に伝えなきゃいけないことがあるんだ」
「なんですか?」
「俺は今日、消える」
意味がわかりませんでした。
「流琉と一緒にいたときに会った占い師の行ったとおり、大局に、流れに逆らったから、俺は消える。」
「・・・嘘です。だって今回は兄様は策の進言もしていないし、流れに逆らっていません。」
そう。だから私は兄様と約束をしました。
兄様が死んでしまわないように。
「確かに、今回は何もしていないけど、でも俺は歴史の大局のなかで、完全に流れに逆らった。」
歴史?兄様のいう歴史って何のことだろう。兄様の国の歴史のことでしょうか。
「俺の知る歴史では、曹操、つまり華琳は三国の協調による平和体制を作ったりはしない。赤壁の戦いでは、孫呉に負ける。定軍山の戦いでは夏侯淵、秋蘭は黄忠に打ち取られる。」
「そんな。そんなことって・・・」
(それじゃあ、私が兄様と約束したときには、もう兄様がいなくなることは決まってたの?)
「大局、流れに逆らったから、俺は消える」
兄様はもう一度言いました。
「でもね流琉。俺は後悔してないんだ。」
(いや。そんなのいや!)
「だって、流琉を助けることができたんだから。」
(そんな言葉が聞きたかったんじゃない。)
「いや!消えないで。兄様ぁ!!」
私は兄様に抱きつきました。
兄様がどこかに行ってしまわないように。
しっかりと兄様の服を握りしめました。
「ごめんね。流琉」
兄様はそっと、私を抱きしめて、やさしく頭を撫でてくれていました。
「行かないで!お願い!!兄様。行かないで・・・」
言葉が出ませんでした。
「さよなら。俺のかわいい妹」
私を包んでいた温もりが少しずつなくなっていっていました。
(行かないで。私をおいて行かないで。)
「さよなら。俺の最愛の女性」
(・・・行かないで・・・!)
・・・チュッ
兄様はわたしに口づけをしました。
今までで一番優しくて、悲しい口づけでした。
「愛していたよ。流琉」
私を包んでいた温もりが、かすかな兄様のにおいを残して無くなってしまいました。
「・・・にぃさま。にぃさまぁ・・・・」
どんなに呼んでも、兄様は答えてくれませんでした。
「にいさま・・・兄さま・・・にぃぃさまぁぁぁああああ!!!!」
声の限り泣き叫んでも、兄様は抱きしめてくれませんでした。
「うぅぅぅ・・・・」
声にならない泣き声しか出ませんでした。
空にはただ、琥珀色の美しい月が輝いていました。
あとがき。
はじめまして。
komanariと申します。
今回、初めて投稿しました。
私は、真・恋姫を初めてプレイしたとき
恋姫から影響からか
迷わず華琳様から始めたのですが、
ストーリーを進める上で出てきた緑髪のちっちゃい子に
ハートを打ち抜かれ、毎回の拠点フェイズで通い詰めていました。
(自分はロリじゃないと思ってたんですが)
そんなこんなで、流琉贔屓な私が、こんな悲しい話のまま終わらせる気もないので
アフター・ストーリーみたいなものも、そのうち書きたいと思います。
そちらの方は、ご要望があるようでしたら、また投稿しようと思います。
あと、今回の小説は、とにかく最初から最後までの流れを書きたかったので、結構いろんな所をすっ飛ばしていましたが、その辺の細かい話も、見てみたいという希望が多いようでしたら、そっちも頑張ってみたいと思います。
このたびは素人の、読みずらい文章を読んでいただきありがとうございました。
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一刀が流琉の所に落ちてくるお話です。
俺、流琉が好きなのに、なぜ悲しい話に…
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