東零士
零士「さて、何から話そうか」
店内の片付けを終え、今この場には私を含めた『晋』のメンバー、
そして北郷一刀と星がいる。
悠里や月、詠には帰っていいと言ったんだが、どうやら残るらしい。
ちなみに恋は寝ている
一刀「正直、俺はこの世界の事を全く知りません。
なのでもし知っている事があれば、教えてください」
零士「知っている事ねぇ。あまり多くは知らないけど…
そうだね、まずは僕がこの世界に来た時の話をしようか…」
五年前
気が付けば、僕は果てしない荒野にいた。
辺りには何もなく、ただまっすぐ大地が続いている
零士「ここは…」
まずは状況の整理をしないとな。
少なくとも、魔術は使える。体に異常も見られない。
ただ、どうやってここに来たのか、前後の記憶がない
零士「一体…」
「あらー、イレギュラー反応があるって聞いて来てみれば、
ご主人様とはまた違った私好みの渋い男前!
これは仕事にかこつけて、きゃっきゃうふふなドキドキハプニングがあるやもよ!」
振り向くと、そこにはガタイのいい巨漢がくねくねしていた。
凄い筋肉だな。それにピンクのビキニ?なんというか、凄まじいファッションだ
零士「…君は?」
とりあえず僕は尋ねてみる。
この巨漢、あのくねくねに似合わず気配を消していた。
一応警戒して損はないだろう
貂蝉「おおっとこれは失礼。
あたしは貂蝉!都の踊り子をしてる絶世の美女よん!」
零士「…貂蝉?あれって確か、女だったような…君はどうみても…」
貂蝉「漢女よん!」
なにか、触れちゃいけない気がするな
零士「…そうか。僕は東零士。ところでここはどこなんだ?」
貂蝉「ここは愛しのご主人様、北郷一刀が作った外史よ」
零士「外史?…聞いたことがあるな。
確か誰かが想像し、作り出した世界、みたいなそんなイメージだ」
貂蝉「そんな解釈でいいと思うわ。
そしてここは、そうねー、あなたの居た時代の約1800年前の中国よ」
零士「1800年前…三国時代か…つくづく僕は、戦争に縁があるな。
ところで、君は何者だい?君の口ぶりからして、外史の関係者なんだろ」
貂蝉「あらん?そんなに私の事が気になっちゃうの?そんな私ってば罪な漢女!」
零士「茶化すな」
貂蝉「せっかちねぃ。まぁいいわ。
私は外史の管理者の一人よ。そしてご主人様の愛の性奴隷!」
後者は無視だな
零士「管理者?」
貂蝉「うふん、華麗にスルーされたわぁ。
えぇ。今回の私の仕事は、イレギュラー問題の対処、つまりあなたの処理よ」
零士「処理…か。もしかして殺されてしまうのか?」
貂蝉「あらやだわぁ。あたし、無意味な殺生は好まないのよ。
普通、外史には他の人間は来れないはずなのよねー。
だからあなたはイレギュラー。招かれざる客ってとこね」
零士「招かれざる客ねぇ。なら僕の居た世界に帰してくれるのか?」
貂蝉「それがどういうわけかできないのよ」
零士「…できないだと?管理者なら、なんとかできるんじゃないのか?」
貂蝉「普通はできるんだけど…ブロックがかかってるみたいなのよねん。
そういう意味でも、あなたはイレギュラーなのよ」
零士「なら、この世界で生きていかなきゃいけないのか?」
貂蝉「そうなるわね」
突然訳のわからない世界に来て、イレギュラーと呼ばれ、
そして生活を強要されるか。勝手だな
零士「はぁ…まぁいい。
前の世界には飽き飽きしていたし、人生やり直せるチャンスなんだろう。
ところで、君の言うご主人様…北郷一刀君?ってのはどこにいるんだ?」
貂蝉「まだ来ていないわ」
零士「まだ来ていない?創造主がいないのに、この世界は成り立っているのか?」
貂蝉「そりゃそうよ。この世界だって、成長しなきゃいけない。
予定ではご主人様は五年後に来るわ」
それはまたずいぶんと
零士「はぁ…さて、せっかく三国志の時代に来たんだ。
世に名を残す英雄でも、訪ねてみようかな」
貂蝉「おっとちょっと待って。一つだけいいかしら?」
零士「なんだい?」
貂蝉「あなた、野心を持つようなタイプには見えないけれど、
くれぐれも何処かに仕官したり、天下をとろうなんて国を作ったりしないでねん。
この世界は、あくまでご主人様が主役。
ゲストがその座を奪ったら、この世界どうなるかわからないわ」
零士「ようは北郷一刀君の邪魔さえしなければいいってだけだな。
なら大丈夫だ。そんなものに興味はない。
何もしなくても一刀君が天下を統一してくれるなら、僕は黙って見守ってるよ」
貂蝉「お願いねん。…名残惜しいけど、私はそろそろ行くわ。
そうねぇ、今度はプライベートで会いましょ。私の超絶テクで虜にしちゃう!」
そう言って貂蝉は何処かに飛んで行った。
それを見送った僕は、当てもなく歩き、やがて一つの村に辿り着いた。
その村で咲夜、司馬懿と出会ったんだ
現在
零士「というのが、僕の話かな。
僕が今まで何処かに仕官しなかったのは、そういう制約があったからなんだ」
零士は北郷一刀だけでなく、月や詠にも意識を向ける。
彼女達にもまだ話していなかったからな
一刀「外史…俺が作った?わけがわからない…ていうか魔術?」
零士「そう言えば言ってなかったね。
君にあげた刀もそうだけど、この店も含めて、
ここにあるものは全部僕が魔術で作ったものだよ」
そう言って零士は箸やレンゲ、ナイフや銃などをポンポン出していった
星「ふむ、便利な技だな」
一刀「……え?」
月「わぁ、凄いです!」
詠「……え?」
反応はそれぞれだった。
今気づいたが、月や詠にも、ちゃんと魔術を見せたのは初めてなんだな
零士「まぁ、魔術に関してはこんなもので。
外史については、僕も深く理解しているわけじゃない。
これは単なるタイムリープじゃなく、パラレルワールドの一種だと思えばいい。
そしてこの世界、いや物語か、それは君のものだ」
一刀「俺が主役…って事ですか?」
零士「そういうこと。だから君が天下を泰平に導かなければ、
この世界がどうなってしまうかわからないよ?」
零士は少し脅すように言葉を並べる。
もちろん、半分くらいは冗談交じりのはずだが、
北郷一刀には十分重圧になっただろう
一刀「あの、うちに来ませんか?天下泰平に、協力してください」
まぁ、当然そうなるよな
零士「悪いが、その誘いには乗れない。
僕はイレギュラーだ。僕が政治に関わったら、この世界がどうなるかわからない」
上手い言い訳だな。
私は断るわけを知っている分、そう思わずにはいられなかった
一刀「そうですか…残念です」
零士「君の重圧は理解しているつもりだ。
今日みたいに、誰かにプロポーズしたいっていうくらいの応援なら協力するが、
さすがに国を動かすレベルの物には協力できない。本当にすまないと思うよ」
一刀「い、いえ、大丈夫ですよ。きっとこれが、俺の役割なんだと思います。
みんなと協力して、平和な世を目指します!」
それから北郷一刀と星は店を後にした。
あいつがどんな方法で、どんな理想を持って天下を狙っているかなんて、
興味はないが、平和にしてくれるならそれでいい
詠「……って言うか、あんた天から来たの?」
悠里「あ!そうですよ!なんで言ってくれなかったんですか」
月「へぅ、天ってどんなところなんですか?」
気付けば零士は質問攻めにあっていた。
バイクとか車とか出した時点で、何も思わなかったのだろうか
詠「……ねぇ、なんで協力しなかったの?
あんたの話じゃ、邪魔をするなと言われただけなんでしょ。
協力してもよかったはずなんじゃないのかしら?」
しばらくすると、詠がポツリとつぶやく。
さすがに詠は気づくか
零士「……ふふ。もちろん、さっき話した理由もない訳じゃないないと思うよ。
でも、それを抜きにしても、僕はどこかの国家に付く気はない。
あまり気分のいい話じゃないが、聞いてみるかい?」
零士は珍しく笑顔を作らず、深刻な面持ちで尋ねた。
それに気後れしたのだろう。少し間ができてしまう。
私は理由を知っているが故に黙っている。ただ、零士を見つめて
悠里「あたしは聞いてみたいです!
東おじさんは、私にとってはもう家族みたいな人ですから!
家族のことは知っておきたいです!」
月「わ、私も、その、知りたいです。私も、家族の一員、ですから」
悠里が元気よく答えると、月もそれに続いて答える。
ただ月は、家族という単語を発すると、顔を赤くしていた
詠「し、仕方ないわね。月が聞くっていうんなら、僕も聞いてあげるわよ。
その、ぼ、僕も家族だし?」
ツンツンしながら言うあたり、詠らしいな。
聞いたのは詠だったはずなのに
零士「………僕はね、前居た世界では、何でも屋をしていたんだ。
幼いころに事故で家族を失い、そして僕の魔術の師匠に拾われた。
そして僕は魔術を習い、世に出たんだ。
僕の力が、誰かを助けるんだって信じてね。
だが、僕のところにくる仕事の大半は、殺人だった。
とある国にとって、目障りな奴を殺してくれってね。
もちろん、仕事は選んださ。殺すのは決まって悪人。
善良な一般人を虐げる者を殺してきた。
いろんな人に感謝されて、正義の味方にでもなった気分だったよ。
それでもね、平和な世界なんてこなかった。
殺しても殺しても、悪は増え続ける。善良な人間が死んでいく。
いい加減、疲れ始めていたよ。意味がないんじゃないかってね。
そんなある日、師匠に呼び出された。ある国家の仕事を手伝ってくれって。
だがね、それは偽りの依頼だった。本当の目的は僕の殺害。
師匠と、その国の軍隊が武器を構えて待っていたよ。
やりすぎたんだよ、僕は。強すぎる力は忌み嫌われるんだ。
気づいたら、師匠も軍隊も血まみれで倒れていた。
それからだ、僕は世界中の敵になってしまった。
今まで何度も協力していた国からも追われた。
師匠に裏切られ、世界に裏切られ、平和でもない。絶望しかけていた。
そして気づけば、この世界にいた。やり直せるって思ったよ。
僕の力は、僕の知る人間のみを助けられたらいいって思ったよ」
全てを失い、力を利用され、裏切られた男。
それが東零士だった。
零士の過去を聞き、皆黙り込んでしまう。
だが私は、こいつらなら零士の支えになってくれるだろうと信じていた
悠里「あ、あたしは、絶対に裏切ったりしません!」
月「う、ぐす…そうです!私たちは、いつまでも味方です!」
詠「そうね。僕たちはあんたに救われた。だから、今度は僕たちがあんたを助けたい」
悠里と月と詠はそれぞれ強く答える。
それに零士が少し涙を溜めていた様に見えたのは、気のせいじゃないだろう
それからしばらくして悠里が帰り、月と詠と恋も寝床についた。
まぁ恋は既に寝ていたがな
私はなんとなく眠れず、裏庭の縁側に向かっていた。
すると、私の他に先客がいた
咲夜「珍しいな、お前が酒を飲んでるなんて」
零士「やぁ咲ちゃん。今日は充実した一日だったし、月も綺麗だからね」
私は零士の隣に腰掛け、月を眺めた。
確かに、今日の月は綺麗だ
零士「…眠れないのかい?」
咲夜「そんなところだ」
零士「そっか」
咲夜「よかったな。みんな家族だってよ」
零士「あぁ。本当に、幸せなことだよ。この世界にきてよかった」
咲夜「そっか」
私は頭を零士の肩に乗せて答える。
なんとなく、こうしていたかった
零士「咲ちゃんは、どこかに仕官したりはしないのかい?」
咲夜「何度も言っただろ。あいつらと同じように、
私はお前と一緒にいるって決めたんだ。他の奴に興味はない」
零士「ふふ。同情かい?」
咲夜「私がそんなことすると思うか?」
零士「はは。それもそうだね」
私は零士のそばに居たかった
それは、零士の過去に同情した訳じゃない
私は誓ったんだ
救われたあの日に
こいつと共に生きると
あとがき
こんにちは
最近、冬の風物詩、コタツを導入し、だらけきっている桐生キラです!
19話・張済さんと鄒氏さんの恋愛を応援する『晋』のお話
コメントにもありましたが、さすがの華琳様も、人の嫁に手をだすなんてことしません
そんなドロドロした昼ドラ展開、私には書けませんよ(笑)
そして20話・北郷一刀君の話と思わせ、東零士のお話
今回は非常に慎重に書きました。
なんども言うように、アンチ北郷一刀にしたくなかったので、劉備の理想についてはここでは触れていません
零士のバックグランドがあんな感じなので、理想には否定するだろうと思い書けませんでした。
この時点での劉備はまだまだ経験値不足ですからねー
知らなくていい事ってあるんですよ(笑)
なので、最初から興味がないって設定にしています
表舞台の方は一刀君が頑張んなさいって感じです(笑)
まだまだ続く裏√!!
どうぞ最後までお付き合いください!
Tweet |
|
|
15
|
0
|
追加するフォルダを選択
こんにちわ!!
気づけば20話目です(作品としては21本目)
今回もお付き合いしてくださると幸いです!