No.638983

真・恋姫†無双~家族のために~#33最悪の最善策

九条さん

物語は急速に進んでいきます

2013-11-22 20:32:09 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1981   閲覧ユーザー数:1766

 黒繞は陸遜を救出し、全ての用事が済んだというのに孫堅軍への潜入を試みた。

 それには二つの理由がある。一つは陸遜がちゃんと孫堅の陣営へと辿りつけているかの確認。失敗するとは思っていなかったが念のためである。そしてもう一つの理由は……。

 

 孫堅軍に潜入して最初に感じたことは、やはり袁紹、袁術と比べると兵士一人一人の雰囲気が違うということだ。特に大きな混乱もなく、各人がきちんと己の仕事を全うしている。まるで汜水関のことなど些細なこと、過ぎたことは気にしないとばかりに。

 これもさすが蓮根ということか。

 

 半刻ほど情報を探ってみたが、陸遜の情報は得られなかった。

 どうやら陸遜のことは呉の重鎮にしか知らされていないのか、兵士達からは全く話題に上がらず、逆に彼らから聞こえてきたものは明日のことだった。

 明日、虎牢関への攻城戦は再開されるらしい。布陣は袁紹が下がり袁術がその穴を埋めるように配置されるだけで、以前とほとんど変更点はない。

 だが、曹操が前回と同じとは限らない。覇道を目指す彼女がこんなところで立ち止まるはずがない。必ずやなにかをしかけてくるだろう……。

 

 これ以上この場に居ても得られるものはないだろう。俺はそのまま物陰に身を潜めた。

 ある程度休んだら移動しよう。明日になれば忙しくなる、今は出来るだけ体力を温存しておきたい。そう物陰で腰を落ち着けようとしたときだった。

「……陸遜が優雅に馬に乗って帰還してきたわ。あなたの仕業よね?」

 

 背後の、それほど離れていない距離から声が聞こえた。

 たった数日前に聞いた声だというのに、ひどく懐かしさを感じた。

 汜水関のときと同じく見つかる予感はしていた。ゆえに、気配に気付けなかったことに驚きはない。体の疲れを呪い、自身の未熟さには呆れたが。

 

「それを確認する為にここに来たんじゃないのかしら?」

 

 無言を肯定と受け取ったのか、事実確認をしているかのように問いかけてくる。

 

「……相変わらず見つけるのが上手いな」

 

 さすがに観念して振り向いた。周囲を警戒しながらではあるが。

 気配を隠すことには自信があるけど、なんでかこの人には効かないんだよな。

 

「前にも言ったと思うけど、勘よ」

 

「ほんと、末恐ろしいよ」

 

 二人して笑った。まんま以前と同じ会話だったから。

 

「で、質問には答えてもらうわよ?」

 

 そういうところはちゃっかりしているな。恐れ入るよ。

 

「……陸遜を助けたのは俺だ。補足すると劉備のとこの諸葛亮、曹操の軍師である郭嘉の救出にも協力した」

 

 曹操のと続いたところで蓮根は驚いた顔をしていた。たぶん知らなかったんだろうな。

 

「へぇ~。劉備ちゃんのところは知ってたけど、あの曹操も……。道理で違和感が……」

 

「気付いていなかったんだ?」

 

「そりゃそうよ。あの子、全然弱みを見せないし情報もほとんど入ってこないんだから」

 

 周泰がいる孫呉でさえ情報をなかなか手に入らないほどか。さすがは覇王曹操だな。その分、部下は癖のある人材が多そうだったが。

 郭嘉を助けたときの様子を思い出して苦笑した。

 

「笑ったわね! 仕方ないでしょ。あの子はほんとにやりづらいんだからー!」

 

 どうやらさっきの苦笑を自分達に向けられたものと勘違いしたらしい。ちょっと不貞腐れているようだ。

 

 百面相のようにころころと表情を変える蓮根を見ていると、これが本当に江東の虎と云われる人物なのかと疑いたくなる。

 次の瞬間にはそんな疑念など吹き飛ばされたが。

 

「劉備と話をしてきたわ」

 

 突如として蓮根の纏っていた空気が変わった。町人のような朗らかな雰囲気から、王としての厳格なモノへ。

 呼応するようにして俺も意識を改める。

 

「……どう感じた?」

 

 蓮根は一度深く息を吐き、話し始めた。

 

「あの子の思いは純粋だったわ。

 苦しんでいる人がいる、だから助けたい。

 それは、今の民衆にとって縋りたくなるほどの救いに見えるし、希望となるわ。

 この大陸から争いが無くなるまで続くものとして……ね」

 

「…………」

 

 劉備の事を肯定しているはずなのに、蓮根の顔は憂いを帯びたものになっていた。

 

「ただ……理想を叶えるための力が足りていない。

 これから彼女に縋る民衆は増えていき、あの子はそれを拒まないでしょうね。

 そして……急速に増える民《たみ》を守るはずの力が追いつかなくなる。

 杯に水を注ぎ続ければ溢れるように、守りきれない者達が必ずでてくるわ。

 それらはやがて爆発し、暴動や叛乱となり襲い掛かる。

 あの子に待ってるのは、破滅よ」

 

 全てを伝えた蓮根は深い溜息を吐いた。それでいて目で訴えてくる。あなたはどうするのか……と。

 

『月を争いから遠ざけて欲しい』

 

 それが霞と華雄、そして詠の願いだった。

 

 この戦いを終え、無事に生き残ることができれば可能性がないわけじゃない。

 劉備に預けることができれば一時的には争いから遠ざけることができるのだろう。

 でも、蓮根の言っていた破滅が訪れた際、その危害は月に及ぶ可能性がある。

 かといって曹操に預けるという手段は考えられない。

 覇道を目指す彼女が扱いの困る人物を預かる可能性は低いし、なにより月を政治の道具に使う可能性もある。それは誰も望んでいないことだ。

 そして、孫堅。最も適しているかのように思えるが、いまは袁術の配下に甘んじている身だ。いずれ独立を果たすだろうが、この大事な時期に不安要素を抱えたくは無いだろう。リスクが大きすぎる。

 袁紹は敵対している立場なので論外だ。

 

 なら、俺が取れる手段は……。

 

 

 

 夜が明ける前にと、話が終わり静かに立ち去ろうとした俺に、背後から蓮根が声をかけた。

 

「……本当に、本当にそれでいいの?」

 

 何度も繰り返された問答だ、返す言葉は決まっている。

 自分を納得させるために発せられたその言葉に、俺は

 

『仕方ないさ。それが最善なんだから』

 

 空を見上げ、そう心の中で呟くしかなかった……。

 

 

 

 翌朝、虎牢関から煙が出ていると曹操の兵士より報告があった。曹操は即座に突入を図るがすでにもぬけの殻であり、汜水関と同様に物資は焼き払われていた。

 唯一残っていたのはやけに綺麗な天幕一つのみ。その中には書簡が開かれた状態で置かれていた。

 

『洛陽で待つ』

 

 そして書簡の端には、つい先日曹操が目にしたものが押されていた。

 『黒』という一文字の印である。

 

 

【あとがき】

 

お初の方は初めまして。

常連の皆さん、こんばんわ。

お久しぶりです、九条です。

 

急に寒くなったり、地震が多発したりと身体にも心にも良くないことが起きていますが

無駄に元気でいますよー

 

なんとか一月一話の投稿が続けられているのでセフセフ(?)

投稿できてない間にも応援メッセが来てたりしていて、嬉しさ8割、申し訳なさ4割(あれっ?10割超えてry

閲覧、支援、コメントたちが増えることに一喜一憂であります!

 

本編は#40までに終わらせたいな~と。

その後に放置されていた拠点パートで〆の予定。

そこまで投稿が終えたら、本編以外(コラボは除く)の作品を一旦削除して、改めて投稿し直します。

※1、投稿順、内容ともに変更なし。

※2、本編を続けて読めるようにする配慮だと思ってください。

※3、その際、お気に入り限定は解除します。

 

そして全てが終わったら偽√を暇なときに投稿しつつ、新作の執筆になります。

ここまでいくのに何ヶ月かかるか分かりませんが、長い目で見てもらえればと思います~。

 

ではでは、あとがきはこれぐらいにして

また次回まで『あでぃおす!』


 
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