「数え役満☆シスターズ!」
「ねぇねぇ、まだ着かないの?」
「もう少しだ・・・」
「全く、天和姉さん、浮かれ過ぎよ?」
「ちぃ姉さんも浮かれてると思う・・・」
「期待はしてるけどね~。やっぱ自分たち専用の舞台が出来るなんて聞いたら、浮かれない方が嘘でしょ!」
あの戦から数日が経ち、大分、周囲が落ち着いた頃であった。
政宗は張三姉妹に頼まれていた舞台と事務所を準備して、今日それが完成したとの報告が有り、三人を伴って向かっているのだ。
「どんなのかなー、楽しみだね~♪」
「広さとか、設備とか、どんなのかな?」
「あんまり期待すんなよ・・・」
「え~、なんで~?」
天和が不思議そうに首を傾げてくる。
その可愛らしい仕草に、普通の男ならイチコロであろう。
だが、政宗はそんな仕草よりも、もう少し頭を使って欲しいと、ため息をつく。
「・・・お前ら、華琳がここらを治め始めて、治安が良くなってんのは知ってるよな?」
「もちろん、ちぃだってそれくらい分かるわよ・・・」
「そりゃそうか・・・。まぁ、俺が言いたいのは、治安が良いとこには人が集まるって事だ。人が増えりゃ、その分の土地がいる。そうなりゃ、自然と使える土地を用立てるのが難しくなるんだ」
「それで、随分と時間が掛かったのね・・・」
「That's right と・・・。ほら、着いたぞ」
政宗は目の前の建物に指差す。
ウキウキ気分の三人は政宗の指差す方向を見て言葉を失う。
「・・・・・・」
「・・・これが、私達の舞台・・・?」
「・・・兼事務所・・・?」
「Ah~、まぁそう言う事になるな・・」
その建物は、舞台と言うよりは見世物小屋と言った方がしっくり来る作りだ。
三人が唖然とするのも無理は無い、不満げな表情を隠そうともしない彼女らに政宗が告げる。
「まぁ、これがテメェらの今の評価だ。悔しいだろうが、ここからのし上がって見せろ」
「そうね・・・最初はこの程度の小屋で十分だわ」
「くぅ~、ちぃ達の力でデッカイ舞台を立ててやるんだから!」
「そうだね~! 頑張ろうね!」
「その意気だ、少なくともお前らはこんなちっぽけなStageに収まる器じゃねぇと思ってる。すぐにデカい舞台も持てんだろ」
政宗の言葉に頷く三人であったが、天和が不安な表情で呟く。
「それにしても、こんな所に本当に皆来てくれるのかなぁ・・・」
「来てくれるじゃなくて、来させるのが天和姉さん達の仕事でしょう?」
「そうよ! ちーちゃんの魅力に掛かればイチコロコロリでしょ!」
「まぁ、足りねぇ所は宣伝なり、なんなりで補えば良いだろ」
「じゃあ、これ・・・」
キラリと目を光らせた人和が政宗に書簡を手渡す。
怪訝な顔で受け取る政宗であったが内容を見て度肝を抜かれた。
「・・・おい、これマジか・・・?」
「宣伝に使った瓦版の請求費。必要経費なんだから・・・、もちろん払ってくれるんでしょ?」
「払ってって・・・。軍馬が百は買えるくらい使うなんざ、聞いてねぇぞ・・・」
「こういうのは、最初に大きく風呂敷を広げる方が効果があるの」
「そう、そう、要はハッタリだよね!」
「うん、うん!」
確かに人和の言う事にも一理ある事は政宗も理解していた。
しかし、使った金額が金額である。
華琳にどやされる事が今から目に浮かぶ。
「まぁ、良いか・・・。なんとかなるだろ」
「じゃあ、早速、出来た瓦版を配らないとね!」
「そうだね~!」
「ああ、それは俺でやっとくからお前らは舞台の準備をしてろ」
「良いの?」
「応援してやると約束したからな・・・」
そう言って三人に背を向け瓦版屋に向けて歩きだすのであった。
「やれやれ、華琳の方は何とかなったか・・・」
政宗の目の前には瓦版屋で引き取ったチラシが大量に積まれている。
華琳には、久しぶりにあんなに怒られたが、気を取り直してチラシをどうするか思案する。
この量を自分一人で配るのは無理があるし、正直、強面の自分が配っても人が寄って来ないだろう。
八方ふさがりになりかけていた時であった。
「お腹すいたー!」
「今日は何を食べようかなー・・・。あれ、マサ兄様?」
「おう、季衣に流琉じゃねぇか。飯の時間か?」
そうだよと元気良く返答する二人を見て政宗に妙案が浮かぶ。
「なぁ、お前らに頼みたい仕事があるんだが・・・」
「ん、何かあるの?」
「マサ兄様の頼みなら、喜んでお手伝いしますよ!」
「助かるぜ・・・。それで、これなんだが・・・」
大量のチラシを二人に見せる。
興味津々で眺める二人であったが、季衣が疑問を口にする。
「ねぇ、マサ兄ちゃん。これ、何て読むの?」
「Ah? 数え役満姉妹か・・・・。なんかこれじゃCoolじゃねぇな。そうだな、数え役満シスターズって所で良いんじゃねぇか?」
「しすたーず・・・? 何それ?」
「英語で、姉妹って意味だな」
「ふーん」
「まぁ、そんな事は良いから、これをさっさと配っちまわないとな」
「うん!」
「頑張りましょう!」
「はーい! みっなさーん! 西の外れの小さな小屋で皆、大好き「数え役満☆姉妹」が歌に踊りに大活躍だよー!」
「皆さん、寄ってくださいねー! あ、どうぞ」
政宗の策通りに季衣と流琉の元気いっぱいの掛け声に興味を引かれた人たちが、どんどん寄ってくる。
「なんだ、なんだ?」
「へぇ、面白そうだな。行ってみようかな」
「是非! 絶対、楽しいよ!」
「良い席は早い者勝ちですよー! お早めにー!」
人が人を呼び、チラシは飛ぶように配られていった。
しかし、その量が量だったため、全て無くなる頃には、すっかり夜になっていた。
「季衣、流琉、Thank you 助かったぜ!」
「うー・・・手伝ったのは失敗だったなー。お腹減った・・・」
ちょくちょく、休憩は入れていたものの、流石にご飯を食べている余裕は無かった。
二人には少し悪い事をしたと思った政宗は懐に手を入れる。
「悪かったな・・・。ほら、手伝って貰った礼だ」
「うわー! こんなに良いの?」
「相応の対価って奴だ。今日はマジでありがとな」
「じゃあ、季衣。これで晩御飯でも行こうか!」
「うん! こんなにあるならお腹いっぱい食べられるね!」
「それでは、マサ兄様・・・」
「おう、夜道にゃ気をつけろよ」
走り去る二人を見送った後、政宗は張三姉妹のいる小屋へと足を向ける。
もう終わっているかもしれないが、それならそれで、労をねぎらう事くらいは出来るだろうと途中で手土産でも買いつつ暗い夜道を進むのであった。
件の小屋に近づくにつれて、何やら歓声と色とりどりの光が見えてくる。
「みーんなー! まだまだいけるよねー!!」
「「「「「いぇーーーーい!!」」」」」
「でもぉ、そろそろ、お仕舞の時間だよ~!」
「「「「「ええぇ~~~!!」」」」」
「大丈夫! また、会えるから!」
「「「「「おおぉーーーー!!」」」」」
「それじゃあ、最後の一曲、聞いてくださいね!」
三人は満面の笑みで、大きく手を振りながら舞台の上で舞い踊っている。
見ている客も誰一人として、目を逸らしている者はいない。
離れた所にいる政宗にも、会場の熱気が感じられた。
舞台の大小なんて彼女らの歌と踊りを前にしたら小さな問題だ。
三人がいるだけでこんなにも華やかになるのだから。
「最後まで聞いてくれてありがとー!!」
「次回もまた見に来てねー!」
「さようならー!」
最後の曲を歌い終わり、三人が舞台から下りる間も、観客の歓声と拍手が途切れる事は無かった。
そして、三人の姿が消えた後も、興奮冷めやらぬ様子で、しばらくの間、熱気が小屋の周りを包んでいた。
「♪~ 大したモンだな、あいつら・・・」
三人の力を改めて実感した政宗は、彼女らがいる控室に向かうのだった。
「あー、疲れた~」
「ちぃもへろへろ~」
「天和姉さんにちぃ姉さんもお疲れ様」
舞台の疲れでヘトヘトになっている三人の所に政宗がやって来る。
「おう、お前ら、最高のPartyだったじゃねぇか! 頑張った褒美に。ほら、差し入れだ」
「うわ~、杏仁豆腐だー!」
「やっぱり、疲れた時には甘い物よね!」
「ありがとうございます。政宗さん」
ヘトヘトだった体のどこにそんな力が残っていたのかと思うくらいに、素早い動きで差し入れの杏仁豆腐を取り出して食べ始める。
「それにしても、初演でこの盛況ぶりとはな・・・。やるじゃねぇか」
「へへん、これがちぃ達の実力よ!」
「少しは見直した~?」
「ああ、これなら、大陸を取るのも夢じゃねぇだろうな」
キャッキャッと喜ぶ二人を尻目に、杏仁豆腐を食べ終えた人和は箒を取り出して舞台の掃除を始めた。
「人和、何してるの?」
「何って、掃除に決まっているでしょ?」
「そんなの明日にでもすれば良いのに~!」
「ダメよ、こういう事はすぐにやらないと・・・」
黙々と掃除をする人和に政宗は感心する。
この末っ子が一番責任と言う物を知っていると。
「人和の言う通りだ。ここは、腐ってもお前らの舞台、つまりは城だ。お前らで守らなきゃならねぇ場所なんだから掃除くらい文句言わずにやれ、俺も手伝ってやる」
「うう~。あなたにそう言われたらやるしか無いじゃない・・・」
「そうだね~。皆でやろうか~」
掃除をしつつ政宗は思った。
始めは面倒な事を押し付けられたと感じていたが、この姉妹たちの成長を近くで見るのも悪くはないと。
はい、忘れない内に張三姉妹のお話でした。ウチの張三姉妹は原作より幾分か素直仕様(政宗限定)になっております。
それでは、ここまで読んで下さった方には最大級の感謝を!
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今回から拠点話が何本か続きます。ゆるーい感じで御付き合いください