No.638015

恋姫†無双 関羽千里行 第4章 39話

Red-xさん

恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第4章、39話になります。この作品は、恋姫†無双の二次創作です。設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。第一話はこちらhttp://www.tinami.com/view/490920
ココらへんが折り返し地点くらいになりそうです。って、あと40話近くあるのか...むむむ。
今回視点があっち行ったりこっち行ったりしますが、見辛い点はご了承下さい。
それではよろしくお願いします。

2013-11-18 22:20:48 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1896   閲覧ユーザー数:1641

第39話 -お人好したち-

 

 会合の場所となっている石亭は、街というより砦であった。恐らく、多種多様な人間が出入りできる街より、軍内部だけで出入りを監視できる砦の方が、機密を保持しやすいと考えたからであろう。実際、そこまで来るまでにも道は何通りかあり街もあったはずだが、呉側の提案したルートでは街は殆どと言っていいほどなかった。もう二度とは使えないだろうが、同盟目的とは言え楽に領内に侵入できるルートを教えてきたのは、それだけ相手がこちらを信頼していると見せるためだろう。

 

華雄「おかしいな。内部の動きが激しい。」

 

 石亭が徐々に見え始めた頃であった。先を食い入るように見据えていた華雄が告げる。

 

一刀「ほんと?...うーん、俺にはわからないんだけど。」

 

愛紗「確かに、華雄の言うとおりまるで戦の準備かのように兵士が慌ただしく動き回っているようです。」

 

霞「ここって呉の領内で国境近いってわけでもないやろ。てことは...」

 

華雄「おのれ孫策!我らを騙し討するつもりか!」

 

祭「馬鹿な。策殿はそのようなことをする御仁ではないっ!」

 

 呼び出されて無防備なところをというのはご遠慮願いたい。しかし、祭の言うように流石にそんな手を使ってくる人には俺にも思えないのだが...

 

一刀「雛里どう思う?」

 

雛里「騙し討の可能性は低いと思います。孫策さんほどの人物がそんな卑怯な手を使うとは思えません。」

 

一刀「だよなぁ。」

 

華雄「しかし、あれはどう説明する!?」

 

愛紗「一応、我等も警戒態勢をとったほうが良いのではないか。」

 

雛里「そうですね...一つ可能性が思い当たるのですが、まだ断言はできません。戦闘態勢で近づけば逆にあちらにも誤解を与えかねないとは言え、全く無防備というわけにも行かないでしょう。あちらを刺激しない程度に注意を払うということでいいでしょうか。」

 

一刀「わかった、そうしよう。」

 

雛里「御意です。」

 

冥琳「というわけで、我等はこの会合が終わり次第迎撃に向かわねばなりません。」

 

雪蓮「せっかく来てもらったのに、慌ただしくてごめんなさいね。」

 

 もちろん、騙し討というはずもなく、俺たちは何事も無く石亭に入城できた。どうやら、曹操軍はこちらの想像を遥か上回る早さで行動したらしい。今は迎撃すべく戦力を予想進路上にある合肥に集中しているとのことだ。兵が駆けずり回っているのもそのためで、会合が終わり次第、雪蓮さんも本隊に合流して曹操軍を迎え撃つようだ。同盟に先立ち、こちらからもすぐに援軍を出そうかという話にもなったのだが、今回どうやら呉軍はこの戦に絶対の自信があるらしい。丁重にお断りされてしまった。そもそも、今から本国に援軍を要請してこちらに着くまでに、決着がついてしまう可能性が高い。ならば、曹操を追い返した後のことを考えるのが得策だろう。軽く状況を説明した後、こちらも一応国境を警戒するよう伝令を出す。

 

雪蓮「まあこっちのことは気にしなくていいから。それと悪いんだけど、ゴタゴタしたせいで、その子のお友達までは連れてこれなかったのよね。今は建業にいるわ。」

 

 セキトたちはどうやら建業で大事にされているらしい。本人はと言えばいまいちピンときてないようだが、こちらとしては元気にやっているなら何よりだ。しかし、そこで問題がひとつあった。そもそも、恋自身がセキトたちに会わなければいけない以上、恋が自分で建業に赴くしか無い。恐らく渋るであろう恋を説き伏せるのには時間がかかると思われたが、むしろ手がかかったのは別れを惜しむ愛紗の方であった。

 

愛紗「水は持ったか?路銀はちゃんと計画的に使うのだぞ。大丈夫だとは思うが、野盗には十分気をつけるのだぞ。知らない人にはついていくなよ。」

 

恋「............(コクコク)」

 

 本当にお母さんみたいだった。全く、愛紗の恋びいきにも困ったものだ。しかし恋の微妙な間。あれは危ないかもしれない。ちょっと多めに路銀を渡しておこう。...本当にちょっとだけだぞ?

 

一刀「いつでも待ってるからな。」

 

恋「...(コク)」

 

 頭を撫でる。これなら大丈夫だろう。力強い恋の頷きに少し嬉しくなってまた少し小銭を握らせておく。もちろん、必要経費だ。そうして恋は皆に惜しまれて、呉の案内の人に連れて行かれた。何故か一瞬荷馬車と子牛が頭をよぎったが、問題ないはずだ。少し追いかけて小銭袋に小銭を追加し、呉の案内の人にも何回か頭を下げておく。もちろんこれも必要なことだ。

 

雪蓮「(...なにあれ?)」

 

祭「(まあなんと言いますか、独り立ちをする子どもから子ども離れできない親とでも言いましょうか...)」

 

霞「(ていうか、まんまそれやろ。)」

 

愛紗「(全く嘆かわしい...)」

 

華雄「(それはお前もだろうが。)」

 

 戻ってくると何故か苦笑い出迎えられたがなんだったのだろう。その後、なにか用事のあるらしい祭、隊の様子を見てくると口実を付けて出て行った華雄を除いたメンバーが、会議のために用意された広間へ通された。

 

 会合の方は滞り無く進行した。もともとおおまかな部分は煮詰めてあったので、細かい確認事項や、状況を想定してその対処の仕方を確認するようなことが大半だ。今後もずっと同盟していくとなれば、軍事部門だけでなく技術提供や流通の利便化なども話しあうところなのだが、今回のところはお互い様子見といった面も強い。あらかたの確認が終わった後、俺と雪蓮さんだけが残された。曹操を倒したその後、どうするのか。お互い相手のことを見極めろということだろう。

 

一刀「と言っても何から話せばいいのやら。」

 

雪蓮「それもそうね。じゃ、ちょっとついていらっしゃいよ。」

 

 雪蓮さんは奔放な性格らしい。窓枠に足をかけ、こちらに手を差し伸ばしてきた。

 

一刀「これ、絶対あとで怒られるだろ...」

 

雪蓮「後のことはまた後で考えればいいのよ。」

 

一刀「ふむ...雪蓮さんは意外と行き当たりばったりと。」

 

雪蓮「一刀は冥琳みたいに心配性みたいね♪というか、さんはいらないって前に言ったでしょ。そろそろやめないと同盟やめちゃうわよ?」

 

一刀「それは困るな。じゃあ、雪蓮、後で一緒に愛紗に怒られてくれよな。」

 

雪蓮「じゃあ、一刀は私の分まで冥琳に怒られてよね♪」

 

 割にあわないという言葉は飲み込んで。俺は雪蓮の手をとった。

 

雪蓮「前に一回見た時も思ったけど、それっておかしな剣よねぇ。こんなに軽いし細っこいのに折れないの?」

 

一刀「詳しいことはよくわからないけど、かなり丈夫にはできてるみたいだよ。」

 

 雪蓮と二人で近くの森を歩く。森は城内とは打って変わって時折風に木の葉がかすれる音がするほど静かで、まるでふたりきりの世界に放り出されたかのような感覚を味わう。

雪蓮「でもこれってこうやって使うんでしょ?刃がこっちについてたら意味ないじゃない。」

 

 貸した刀を滑らせるように振る。雪蓮には一発で使い道がわかったようだ。戦の天才という名は伊達じゃない。

 

一刀「それって向こうで有名な漫画...絵物語っていうのかな。それに出てくるやつを実際に形にしたものなんだよ。その話の主人公はそれを使ってたくさんの強敵を敵を倒したんだ。」

 

雪蓮「へぇ。一刀のいた天の国ってあんな美味しいお酒作ったり、こんな変わった武器作ったりするなんて変な国だと思ってたけど、その国のお話まで変なのね。」

 

一刀「変...かなぁ。」

 

雪蓮「だってそうじゃない。相手を倒すならどう考えても刃はこっちにつけるべきよ。こっちにつけたんじゃ武器の持ち味が全部なくなっちゃうわ。」

 

一刀「うーん。」

 

 雪蓮にあの作品の世界観を説明するのは難しいだろう。どうしたものかと唸っていると雪蓮がボソリと呟く。

 

雪蓮「武器なんて、所詮人殺しの道具でしかないのに。」

 

一刀「そうとも言えないんじゃないかな...」

 

雪蓮「あらどうして?」

 

一刀「俺のいた世界だと、剣っていうのはそれを作った人や振るう人の魂って捉える考え方もあるんだ。だから、それを作った人も、始めにそれを考えた人も、武器に力だけを求めたくなかったんじゃないかなぁ。」

 

雪蓮「武器に殺傷力がなかったら、どうやったら殺傷力が出せるようになるか使い手が考える余地ができるってこと?」

 

一刀「いやいや、そういう話じゃなくて。戦うためには武器が必要だけど、相手を殺さなきゃいけないわけじゃないだろ?」

 

雪蓮「武器は人を殺すためのものじゃない。」

 

 話が堂々巡りだ。この世界では基本的に命の扱いが軽い。命を惜しむな名を惜しめというやつだ。そんな世界だと、相手にゴタゴタ言われるくらいならとっとと斬ってしまえという考えになるのもわからなくはない。それはこの方散々味わってきたことであったが、俺には理解はできてもどうしてもその考えに身を任せることはできなかった。その後も言葉をかわしては見たが、雪蓮の方も納得はできないようだ。

 

雪蓮「一刀、やっぱり貴方ってお人好しよ。よく今まで生きてこれたわね。」

 

 雪蓮はその結論に落ち着いたらしい。

 

一刀「それも散々言われてきたよ。でもまあこれが俺だし変わる気もないよ。」

 

雪蓮「変なとこで頑固なのね。この世界じゃ、親兄弟だって殺し合う。昨日仲良くお酒を飲んでいた仲でも明日は戦場で命を削り合ってるかもしれないっていうのに。」

 

一刀「殺し合いなんてない方がいいんだけどね。それと、出来ればそれでいきなり斬られるのは勘弁して欲しいな。」

 

 雪蓮の持っていた刀を指す。

 

雪蓮「ふふ、私はそんなことしないわよ。でも、貴方の周りにいる人が皆貴方に好意を抱くとは限らない。今後はもっと気をつけるのね。」

 

 そう言って刀を返してくる。それをしまいながら、

 

一刀「そうやって忠告してくれる雪蓮も、お人好しだと思うけどなぁ。」

 

雪蓮「あら?私は違うわよ?貴方には冷たく当たるより優しくしたほうが得かなって思っただけ♪」

 

 そう不敵に笑う雪蓮だったが、そうやって考えていることを正面から打ち明けてくれている以上、十分お人好しだと思う。

 

 その後もとりとめもない話をしながらしばらく森の中を歩いていると、

 

祭「誰かと思えば、策殿に北郷。こんなところでどうされた。」

 

 川のせせらぎが聞こえる木の影で、祭がいっぱい引っ掛けていた。

 

雪蓮「あー!ずるいわよ、祭。一人だけこんなところでいい思いして!」

 

祭「一人...ではないのだがな。策殿、覚えておられませんか?」

 

 そう言って、自分の傍らにある石を示す。

 

雪蓮「そっか、ここって母様の...」

 

祭「そう、堅殿と飲んでおったのです。墓は建業にあると言っても、あのお方のことです。戦の臭いを嗅ぎつけてこちらにも顔を出しているでしょう。策殿も話していかれるといい。」

 

 雪蓮は石に向かい、祭は状況の理解できていない俺に話しかけてくる。

 

祭「ここは堅殿...策殿のお母上が亡くなったところでな。久しぶりに話をしておったのです。」

 

一刀「そうだったんだ。」

 

祭「折角だ、北郷のことも紹介してやろう。」

 

 雪蓮が話し終えたらしく、祭が俺を石の前に誘う。

 

祭「堅殿、さっき話した北郷です。」

 

一刀「...初めまして、北郷一刀です。」

 

祭「まあまあの面構えでしょう。腕が足りずに少々頼りないのが玉に瑕ですが。」

 

 それっていいところないような気がするんですけど。

 

雪蓮「(祭の言うまあまあってことは、合格点ってことよ。)」

 

一刀「(そうなんだ。)」

 

祭「思えば、貴方の愛したあのお方も、武の方はからっきしでしたな。それでいて変なところで頑固で。少しあの方に似ているかもしれません。」

 

 酒を石にかけ、自分でも呷る。祭は先ほどまでそうして感傷に浸っていたようだ。

 

一刀「えと、祭にはお世話になってます。孫堅さんもお酒が好きなのかな。だったらお酒の一つでも持ってきたほうがよかったかも。」

 

祭「おい北郷。あんまり酒酒言うと、本当に化けて出て来られるかもしれんから程々にしておいてくれよ。これより良い酒を出せと言われたら、儂の財布が空になりかねん。」

 

雪蓮「ふふっ、母様なら普通にありそうね。」

 

 それからしばらく、三人...ではなく四人で祭の持ってきた酒を回して飲んでいた。心なしか、祭は楽しそうにしながらもいつもより飲むペースが遅いように感じられた。酔いが回ってきたせいか皆テンションが高めだ。

 

祭「(貴方との約定。近いうちに叶えられるやもしれません...)」

 

 その時、ここにいる誰もが、自分たちを見つめる視線があることに気づかなかった。

 

兵士A「まさかこんなに簡単に事が運ぶとはな...」

 

兵士B「あれは黄蓋だろ?あいつは今呉を出ているはずだが、なんでこんなところにいるんだ?それにもう一人変なのがいるぞ。」

 

 遠くの茂みから様子を伺う一団。彼らは孫策によって蹴散らされた地方領主、許貢の子飼いの部下たちだった。その許貢も、孫策を謀殺しようとして失敗し処刑されてしまった。残った部下たちは逃げ延び曹操軍にはいったのだが、ずっと主君を殺された復讐の機会を狙っていたのだった。そこに来ての呉進行。ここで動かない手はない。そう思って孫策の動向を探っていた結果、孫策が主力のいる合肥ではなく、ここ石亭にいると突き止めた。主力から離れていれば、戦場より孫策を自分たちの手で倒す機会があるかもしれない。そう思って石亭の近くに張っていたのだった。

 

兵士A「まあ、孫策がこんな手薄になってくれてるのなら好都合だ。おい、狙いを間違えるなよ。」

 

兵士B「ああ、わかってるさ。許貢様の仇の顔だ。間違えるわけがねぇ。」

 

 矢を引き絞る音は風音と川のせせらぎにかき消される。男はこれから見れるであろう、敵の死に様を思って下卑た笑いを浮かべる。そしてそれをたっぷりと堪能した後、矢尻から手を離した。

 

 しかし、射る時の音は隠せても、矢そのものを隠せるわけではない。石の周りで酒瓶を囲んで座る三人の中で、一刀は一瞬だけ森の中に光るものを見た。一瞬、川面に反射した光か何かかとも思ったが、今自分が川を瀬にしている以上それはあり得ない。そこに来て数日前の思春とのやりとり。ひとつの可能性に思い至った瞬間、何故か急激に身体が重くなった。二人はそちらに背を向けていて全く気づいていない。今ここで動かなければ目の前で楽しそうに微笑む彼女がどうなってしまうかは想像に難くない。一刀は渋る身体に鞭を打ち、身体を前に投げ出した。

 

一刀「雪蓮っ!」

 

 結果、矢は雪蓮を貫くことはなかった。その代わり、振り返った雪蓮の前には右腕を赤く濡らした一刀が、地面に横たわっていた。一瞬で状況を理解した雪蓮はすぐに指示を飛ばす。

 

雪蓮「祭!」

 

祭「大丈夫、腕に矢があたっただけじゃ。策殿、ここはお任せする。儂は、」

 

雪蓮「絶対に逃すんじゃないわよ。」

 

祭「御意っ!」

 

 走りだした祭を見送った後、雪蓮は一刀に向き直おる。腕にあたっただけなら命に別状はないだろう、そう思っていたのもつかの間。

 

雪蓮「かず...と?」

 

 腕に矢を受けただけのはずの一刀は、ありえないほど大量の汗をかいていた。

 

雪蓮「これは...毒!?」 

 

 服の裾を破り、傷をおった右肩の直ぐ下をきつく結び止血する。しかし、既に毒はかなり染みこんできているのか、矢を打ち込まれたそこは赤黒く変色していた。そんな中、

 

一刀「雪蓮さん...無事...っ、だった?」

 

 目の前の瀕死男はそんなことをのたまいやがった。

 

雪蓮「アンタ...」

 

雪蓮「アンタなにやってんのよ!!」

 

 口にしたのは命を救われたことに対する感謝などではなく、自分を救うために自ら命を投げ出したものに対する叱責。

 

雪蓮「アンタだって王でしょ!?アンタの元にはたくさんの家臣や民がいて、アンタのことを信じてついて来てくれてんのよ!だからアンタは自分命を、何より大事にしなきゃいけないの!それが王ってもんでしょ!そのアンタがっ!なんでそんなに簡単に命投げ出してんのよ!」

 

一刀「ええ...?」

 

 矢の刺さった箇所に口をつけ、血を吸い出し、直ぐに地面に吐き捨てる。しかし、本来傷を受け固まるはずの血はドロドロと流れ出すばかりであった。

 

一刀「だって...友達が困ったことになってたら、助けるのは当然...だろ?」

 

雪蓮「はぁ!?...もういい、アンタは黙ってなさい。」

 

 この男はそんな自分のお節介が招いたことで、もうすぐ死ぬということを理解しているのだろうか。そうして毒を吸い出していると、祭が戻ってくる。

 

祭「すまん策殿、何人か取り逃したが装備から奴らの正体はわかった。曹操の手のものじゃ。...どうした、北郷!?」

 

 周囲を警戒しつつ戻って来た祭が、異常な事態に気づいて駆け寄ってくる。

 

雪蓮「毒矢よ。ここじゃまともな手当はできない。かと言って、向こうまで戻ってる余裕もなさそうだわ...」

 

祭「おい北郷、しっかりしろ!」

 

一刀「祭か...うっ...ちょっと、だめかも...こりゃ...後で愛紗に怒られるな...ははは...」

 

 どんどんと青くなっていく一刀の顔色。毒のせいで気分が高まってしまっているのか、その声は若干高い。破って巻いた裾も、毒の全てはとどめきれていないのだろう。このまま放置すれば、最低でも右腕はだめになるかもしれない。いや、暗殺するために毒を用意したのなら、それだけはおそらく済まされない...

 

 賊を追いかけて行って治療法を聞き出す?

 

 あり得ない。祭が取り逃したといった以上、今から追いかけて追いつけるわけがない。

 

 このまま血を吸い出し続けるべきか?

 

 毒について詳しいわけでもない自分には、どれだけすればいいのかわからない。

 

 やっぱり急いで城に帰る?

 

 いや、毒の周りが早ければ着く前に死んでしまうかもしれない。

 

 ならどうすればいいのか...

 

 雪蓮は手を止めただ一刀を抱きかかえたまま、それ以降沈黙を保ち続けている。

 

雪蓮「許さないわよ...」

 

祭「...策殿?」

 

雪蓮「許さないわよ!私をかばった人間が代わりに死ぬなんて、私は絶対に許さないわよ!なんで、なんでこんな優しいだけが取り柄みたいなやつが他人の代わりに死ななきゃいけないのよっ!」

 

 それは誰に対する怒りなのか。矢を放った者か、自分より弱い者に守られてしまった我が身の不甲斐なさか。雪蓮は王だ。この程度の不条理など星の数ほど知っている。この程度の不条理など当たり前だと、軽く流して今まで歩んできた。それは自分の母親が死んだ時だってそうだ。支える者がいなくなった呉を立て直すため、涙を流すことさえ許されなかった。強かに生きて前に進み続ける、それが王、それが国だ。だがこの男はどうだろう。一兵士にも頭を下げ、他国の王に無防備にその身を晒し、子どものような理想を語った挙句、他人の身代わりに死のうとしている。こんなものが王であってたまるものか。

 

 そう、雪蓮は矢を放った者でもなく、油断した自分でもなく、この場で誰より一刀に怒りを覚えていた。王は、簡単に死んではならない。そんなこともわからない馬鹿なんて放っておけばいい。だが...

 

 一刀の差していた刀が転がっているのが目にとまる。鞘から取り出してみると、その刀身は陽光を受けて眩しいまでに輝いていた。

 

雪蓮「孫伯符の名にかけて、一刀は絶対に死なせないわ!どんなことをしてもっ!」

 

 鞘を横向きにし、無理矢理一刀の口に挟ませる。これからすることを思えば、その拍子に下を噛んで死んでしまうという馬鹿な展開は避けねばならない。

 

雪蓮「アンタのなんだから、絶対に離すんじゃないわよ。」

 

祭「策殿何を?!」

 

雪蓮「ごめんね、一刀。ちょっと痛むわよ。」

 

 一刀と一刀の腕を地面に横たえる。そして自分は正眼に刀を構える。

 

雪蓮「はああああああっ!」

 

 雪蓮は両手で握ったそれを一気に振り下ろした。

 

 本来人を斬ることのできない逆刃刀。その逆刃刀が初めて啜った血は、自身の主人のものだった。

 

-あとがき-

 

 読んでくださった方は有難うございます。

 

 シリアス書こうとするとなんか臭くなってしまうのは仕方ないのだろうか。やはり私の厨二心がいつまでたっても抜けないせいなのだろうか。そして、焼き芋屋が近所をまわりに来ないのが寂しいのは私だけなのだろうか。

 

それでは、次回もおつき合いいただけるという方はよろしくお願いします。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
17
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択