No.637988

BADO〜風雲騎士〜兄弟

i-pod男さん

ララのイメージCVはアムドライバーに登場したシャシャの声優を勤めたmycoさんでお願いします。

ゲルバのCVは大塚明夫さんです。

2013-11-18 20:42:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:699   閲覧ユーザー数:694

二十分程バイクを走らせて、ようやく喫茶店でいくつもケーキを頬張っている黒いコートを着た黒髪の若い青年を見つけた。その姿は年齢不相応のあどけなさが見える。

 

「ここにいたか、銀牙。いや、今は零か。」

 

「兄さん。久し振り。食べる?ここのケーキ、凄い行けるよ。」

 

そう言って向かいの席を指し示し、重ねた皿をどけて生クリームが乗ったガトーショコラが乗った皿を差し出した。

 

「ああ、貰おう。ただし、支払いはお前が持て。」

 

「分かってるって。俺だってそれ位の分別はつくよ?あ、コーヒーもう一つ追加。」

 

通り過ぎたウェイターに注文すると、凪はフォークを取ってガトーショコラをつつき始めた。ビターチョコレートと生クリームが甘さと苦さを絶妙なバランスで絡み合い、口の中で溶けた。

 

「確かに美味いな、コレは。どうだ、東の管轄は?」

 

「ん?まあ、大丈夫だよ?兄さんこそどう?元老院はもう馴れた?」

 

「ああ、まあな。」

 

「羨ましいなあ〜、元老院付きの騎士になったら東西南北の関係無しに管轄を行き来出来るし。」

 

零はコーヒーを啜りながらそんな事を呟いた。

 

「だが、その分指令は大変だぞ。今日も黒い指令書が出た。」

 

「造反者、か。西では最強の騎士、波怒の使命はその造反者を探し、場合によっては処刑する事。確かに俺には向いてないな。でも、連中の気持ちは分からなくもないよ。誰だって自分の家族や恋人を殺したいとは思わない。たとえ中身がホラーでも、見てくれは人間なんだから。」

 

「お前は良いさ。冴島鋼牙と一緒に皆の仇を取れたんだから、さぞや満足だろう。」

 

凪はフォークを握り潰し、眦を吊り上げてそう吐き捨てた。

 

「俺に残された物と言えば、やり場の無い怒りだけだ。復讐したい相手は、もうこの世にいない。」

 

ガトーショコラの残りを口に放り込み、温くなったコーヒーを飲み干した。零も残ったケーキとコーヒーを食べ終わると会計を済ませて、肩を並べて凪とバイクを止めてある所まで歩いた。

 

「さてと、エネルギー充填も済んだし。兄さんも手伝ってよ。」

 

「エレメントの浄化か?良いだろう。ストレス解消には物足りないが、奢ってもらったスイーツとコーヒーの分の仕事はしよう。良いな、ゲルバ?」

 

「何故我に聞く?御主が決めれば良いであろう?」

 

「ゲルバも相変わらずね。やっぱり先に作られた魔導具は頭が固いのかしら?」

 

零が左手に嵌めてあるグローブの甲についたアクセサリーが呆れた様子で女の声で喋った。

 

「何を言いたい、シルヴァ?」

 

「別に。」

 

「突っかかるなゲルバ。」

 

「シルヴァも、不必要な喧嘩売らない。」

 

二人はそれぞれの魔導具に導かれるままに様々な物体の影を突き刺した。影から不定形な黒いスライムの様な物が飛び出し、それを切り裂いて行く。行く先々でこれを繰り返した。ゲートとなりうる物体にある陰我を浄化してホラーの出現を防ぐのもまた魔戒騎士の勤めなのである。

 

「ゲルバ、まだ反応はあるか?」

 

「否。もう邪気は感じられない。少なくともこの管轄ではな。」

 

「そっか、よし。これで心置き無くデートに行けるな。んじゃあねえ。元気そうで安心したよ、兄さん。」

 

零はスキップしながら凪に別れを告げ、バイクに乗ってどこかへ走り去った。

 

「女誑しが。俺達も帰るぞ。」

 

凪は嘆息して頭を振ると、自分のバイクに乗って車道に出た。右に曲がり、左に曲がり、塒にしている廃ビルに辿り着いた。窓ガラスは割れ、壁には罅が入り、様々な所から蔦が伸びて絡み付いていた。燕の様な鳥なども巣作りをしている。剣を少しだけ抜いて再び鞘に納めた。その金属音により空間が揺らぎ、黄金の波紋が現れた。凪はそれを潜ると、姿が波紋と共に掻き消えた。

 

「お帰り、凪。」

 

「ああ。ただいま、ララ。」

 

金髪碧眼のスラリとした細身の若いララと言う少女が民族衣装の様な出で立ちで彼を出迎えた。薄い唇が大きな笑みに広がった。

 

「また、泣いてた。」

 

「え?」

 

「凪、寝てる時、いつも泣く。」

 

語彙が乏しいのか、辿々しく喋るララ。

 

「魔戒騎士とは言え、俺も人間だ。泣く時位あるさ。」

 

ソファーに体を投げ出しながら、そう返した。

 

「今日、零に会った。土産だ。」

 

コートのどこにそんな収納スペースがあるのか、中からケーキが入った箱を取り出して渡してやる。ララは子供の様に目をきらきらと輝かせてはこの中身を凝視した。

 

「ララ、食べたい・・・・・」

 

「食べるのは後だ。バイクにこれが引っ掛かっていたから、まずはこれを片付ける。」

 

今朝方足元に落ちていた黒い封筒とは色違いの赤い封筒を見せた。

 

「指令書。」

 

何時もの様にライターの火を翳し、現れる文字を解読した。

 

「人間の愛欲に反応し、糸をゲートに出現したホラーの陰我を即刻断ち切るべし。」

 

音読し終わると、文字は虚空に消えた。

 

「愛欲か・・・・・時に人間の人格を破綻させ、歪んだ物に変貌させる。どう思う、凪よ?」

 

「知るか。」

 

ゲルバの質問を鼻で一蹴した。左腰の剣二本を抜いて一度大きく振り抜いた。風を切る刃。

 

「相手はホラー。ホラーならば、殺す。只それだけだ。器となった人間に持ち合わせる情は無い。情が移れば、判断力が鈍る。判断力が鈍れば隙が出来る。隙が出来れば弱くなる。弱くなれば攻撃が通る。攻撃が通れば、死ぬ。そして俺は死ぬつもりは無い。」

 

「私、一緒、行く。」

 

「駄目だ。直ぐに終わらせて来る。待ってろ。」

 

「行く!」

 

唇を尖らせ、頬を膨らませたララは、まるで小動物の様だった。怒っているのをアピールしているつもりだろうが、怒気よりも愛嬌が滲んでいる。

 

「・・・・・・好きにしろ。ただし自分の身は自分で守れ。」

 

ぶっきらぼうに手を振った凪は鼻を鳴らして無愛想に同行を許した。

 

「守る。凪に貰った魔導筆と、レオさんがくれた魔戒銃、ある。大丈夫。」

 

右手には青い柄の筆、左手には銃身と銃床を切り詰めた二連上下の散弾銃を見せた。

 

「行くぞ。ゲルバ、場所を教えろ。」

 

 

 

 

 

 

ゲルバに導かれるままにバイクに打ち跨がった凪とララが到着したのは、閉店の看板をガラス戸に吊ったブティックだった。だが、ドアに鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。ララは魔導筆を構えて、もう一方の手に持った鳴札と言うU字型の鉄の部品の間に模様のついた小指位の大きさの木製の札が一本の軸によって固定された法師の道具に息を吹きかけた。中心の板が回転すると、ビー玉サイズの緑色の球体が幾つも飛び出し、暗闇を照らし出した。

 

「上か。」

 

凪はそう呟くと、ライターを頭上に掲げた。ライターから出る火とは思えない様な凄まじい緑色の炎が吹き出し、天井を焼き焦がし始める。刹那、明らかに人間の物ではない叫び声が聞こえた。針を通した十数本の細い糸が蛇の様に凪に襲いかかったが、抜刀一閃、糸を全て一撃で叩き斬った。加えて緑色の炎が糸を伝って行き、出所まで火が回って行く。

 

「凪よ、あのホラーはストリピードだ。」

 

「女食いか。」

 

「ナサリシチ、アデヤメヤメヨエマル(魔戒騎士、何故我々を狙う?)」

 

ブティックの外に飛び出したムカデの胴体が頭に引っ付いた————ゲルバがストリピードと呼んだ———赤い化け物が聞き慣れない言語で喋りながら無数の付属肢をうねらせる。

 

「俺にとってお前は只の獲物でしかない。ここで死ね。」

 

「凪、ララ、遠くから遊撃。足、狙う。」

 

「分かった。」

 

左腰の剣二本を引き抜いた。空に掲げた両腕を交差させ、右腕を右に、左腕を左に旋回させた。その軌道の通りに、剣の切っ先が弧を描いた。半円を描いた弧が繋がり、一つの巨大な円に変わる。その瞬間、窓ガラスに何かをぶつけたかの様に空間が割れ、スポットライトの様な白い光が溢れ出た。銀色の狼の鎧がそこから現れ、凪の体に纏わり付いて行く。体中に鋭い突起がついたその鎧は恐ろしく、雄々しく、そして神々しいオーラを放っていた。

 

「俺は、風雲騎士波怒。お前達ホラーが大嫌いな男だ。行くぞ、害虫。」

 

地面が数センチ減り込む程の踏み込みで地を蹴ると、更に豪奢に、更に大きくなった剣鉈、風雲剣を振り被り、斬り掛かった。糸を通した巨大な針の様な付属肢が絡み合い、一つの大きな物となって波怒に襲いかかって来る。が、後ろで待機しているララが散弾銃の一撃でそれを破壊した。

 

「遅い。」

 

波怒も擦れ違い様に両手の剣を振るって残りの足を全て切断する。次に軸足で回転して、振り向きながら腹の底からわき上がる気合いの籠った声と共にホラーを腰辺りで真一文字に叩き斬った。トーンが高い断末魔の悲鳴を上げ、ホラー・ストリピードは死んだ。

 

「終わり。帰って、ケーキ食べる。」

 

ホクホク顔で帰ろうとするが、ララが着ていたローブ————魔法衣と言う———のフード部分を掴んで引っ張った。

 

「うにゅうっ?!」

 

「飛び散ったホラーの血を消滅させる。食べるのはその後だ。」

 

間抜けな声を上げて引き戻されたララを窘め、凪はコートを脱ぎ捨てた。下に着ていたタンクトップから覗く首筋、そして肩から下の両腕には奇怪なトライバルの刺青が彫ってある。両手を重ねて地面に当て、下腹に力を入れると、口を半開きにしたまま一機に肺から息を吐き出した。その瞬間、刺青が一瞬光り、青白い雷電が両腕から指先へと迸って広がって行く。半径五メートル近くの地面から煙が立ち上って腐った肉の様な嫌な臭いが鼻孔をついた

 

「終了だ。」

 

「食べる。苺のショートケーキ。」

 

その場で何度か小さく飛び跳ねながら両手を顔に添えるララ。

 

「手を治してからだ。魔戒銃はお前には反動がきついと言っただろう?」

 

「術と札で、両手強化。問題無い。」

 

白い肌をした両手を広げ、傷一つ付いていない事をアピールした。

 

「まあ、問題無いなら別に構わない。帰るぞ。」


 
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