No.636980

希望、再び

i-pod男さん

とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!

チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。

2013-11-15 07:18:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:566   閲覧ユーザー数:556

「さてと・・・・」

 

全員が身支度を整えると、あさみ、麗、そして孝を筆頭に最上階の通信指令室に向かった。僅かばかりの<奴ら>の残党を一掃すると、中に踏み込んだ。

 

「後ろはどうだ?」

 

「クリアです!」

 

「まだ生きてるコンピューターがあるかどうか探せ。」

 

暗い部屋の中を捜索して、たった一台画面が光を発しているのを発見した。

 

「あ、おい。沙耶、これ生きてるぞ!」

 

それを聞いた沙耶は孝を押しのけて画面を確認し、マウスを滑らせた。彼女の顔に希望の色が見えた。

 

「J-Alertシステムがまだ動いてる!」

 

「ジェイ、アラート?なんだそりゃ?」

 

「日本全土に向けてる緊急警報システムさ。地震とかミサイル攻撃とかの非常事態に警告と情報を市民に与える衛星システムだ!対EMP処置もしてある!」

 

「電力はどこから供給されているのだ?近くにまだ生きている発電所でもあったのだろうか・・・・」

 

「信じられない!」

 

素早くキーを叩きながら画面に目を走らせる。

 

「恐らくバックアップの非常用バッテリーで動いてるわ。既に警告を発信してるからかなり持つみたいね。」

 

「あら、病院と同じね。」

 

静香がいらん事を言ったんで脇腹を小突いた。

 

「あーもう!!」

 

だが暫くして沙耶はテーブルを叩く。

 

「いらない情報が多過ぎて検索が出来ない!」

 

「貸してみろ。」

 

俺が代わりにキーを叩いて、複数のスクリーンが入り乱れる。

 

「見つけた。治安維持困難地域よりの緊急住民避難計画について・・・・どうやら自衛隊は床主を捨てる事にした様だな。」

 

「避難?応援じゃなくて?」

 

「しかたねーだろ、今の状況を考えると。生存者を出来る限り助けるしか方法は無い。これによると、明後日の間、僅か数時間しか避難を行わないらしい。場所は・・・・・・・新床第三小学校。孝、確かお前のお袋がそこにいるんだったな?」

 

「はい・・・・」

 

「手間が省けましたね。」

 

冴子が微笑を浮かべた。

 

「ちょっと待って!私の家族は?!」

 

「当然探す。この建物にいるとしたらどこだ、麗?」

 

孝が麗の両肩を掴んで訪ねた。

 

「こっちよ!」

 

麗は真っ先に公安係と書かれた部屋に飛び込んだが、そこには誰もいなかった。デスクやバインダー、書類が荒らされた様にあちこちに散乱している。ん・・・・

 

「おい!このボード・・・・」

 

マジックでホワイトボードに大きくこう書かれていた。『生存者は新床第三小学校へ!』

 

「これ・・・・お父さんの筆跡!生きてる!お父さんが生きてる!生きてるよぉ、孝!」

 

感極まって泣き出し、それだけでは飽き足らず孝に思いっきり熱烈なキスをプレゼントしてやった。

 

「な、なななな何やってんのよ宮本!?」

 

「え?あ・・・・・」

 

孝は何が起こったのか上手く脳の情報処理が追い付かずパンクしている。石像の様に突っ立ったまま動かない。沙耶に関しては顔が真っ赤だ。初心だな。

 

「さてと。手掛かりも武器も手に入れた事だし、下に降りるか。・・・・あ。」

 

「どうしたんですか?」

 

「そう言えば、地下に何かあるのを忘れてた。」

 

「地下?」

 

「駐車場がある。そこで使える物が無いか探してくる。ハンヴィーで待ってろ。全員だ。」

 

「私が後衛を勤めます。」

 

「お前も待ってろ。」

 

「いいえ、行きます。」

 

全くコイツは・・・・頑固者は嫌いだぜ。言い出したらてこでも聞かない。

 

「撃ち方をまだ教えてもらってませんから・・・・」

 

「直ぐに戻る。」

 

一階に下りると、別の階段で地下に向かった。地下フロアの一部は留置所、残りは駐車場だ。EMPの効果がここまで広がっている可能性はあるが、見るだけ見ておこう。足音を殺し、息を潜め、感覚を研ぎ澄ませる。ドアを開けようとしたが、うめき声の様な物が聞こえる。<奴ら>だ。ドアの隙間から覗いて見たが、だいたい十体前後いる。まあ大丈夫だろう。

 

「通れ、ますか?」

 

「ああ。とりあえず銃の撃ち方を教えてやる。そこまで難しくはない。右側の側面に赤い点があるだろ?それが発射準備完了の意味を示す。このまま引き金を引けば、弾が出る。そのレバーを下ろして赤い点が隠れたら安全装置が作動している事になる。」

 

冴子の銃を取って簡単に説明する。レーザーポインターのスイッチを入れると、糸の様に細い赤い線がポインターから放たれる。彼女の手に銃を握らせると、後ろに回り込んで俺の手を重ねた。

 

「お前はまだ不慣れだから片手撃ちは無理だ。右手でグリップをしっかり握って、左手は添えろ。撃つ前にゆっくり息を吐き出して引き金を絞れ。」

 

「あ、あの、滝沢、さん・・・・・く、くすぐったいです。息が・・・・」

 

「はあ?」

 

見ると、濡れ羽色の長い頭髪から覗く耳が真っ赤になっていた。しかも今の俺は銃を両手で構えた冴子の両手に自分の手を重ねている。下手なあすなろ抱きみたいな物だ。

 

「おお、悪い悪い。まあ、とりあえずはそんな所だ。<奴ら>が二、三体現れたら撃ってみろ。」

 

「あ、あの。」

 

「ん?」

 

「ショッピングモールから逃げる時、こう言いましたよね?『俺は人殺しだ』と。私も、同じなんです。数年前、夜道で私は男に襲われました。無論木刀を携えていたので負けはしませんでした。ですが・・・・・『楽しかった』んです。明確な敵が得られた事、それは悦楽その物でした。あの時木刀を持っている自分が圧倒的に有利な立場にいました。躊躇う事無く逆襲しました。本当に楽しくてたまらなかった・・・・それが真実の私なんです。今となっては、益々酷くなっています。」

 

その時、俺は初めて気付いた。彼女の澄んだ眼の奥に潜む、奈落の様な底知れぬ『闇』に。傭兵時代の俺と同じだった。一つの仕事を終えてから何度も精神を死者の怨念の声によって蝕まれ、狂気の縁に追いやられた事も一度や二度ではない。

 

「それがどうした?お前は、自分を汚れた存在だと蔑んでいるが、俺だって充分汚れている。お前は人を殺しかけたが、俺はその何十倍と言う数の人間の命を奪った。俺はそれを受け入れ、受け入れてくれる人を見つけた。受け入れる事が出来る奴がいないと思うなら、お前の全てを、お前の『闇』を俺が受け入れる。だから、ありのままの自分を忘れるな。」


 
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