俺達は急造のバリケードを張っている所に向かって全力で走った。既に一体が侵入してしまっている。いつの間に付けたのか、鋭利な針の様な銃剣が付いたイサカを突き出し、喉を貫いた。だがやはり紛い物の悲しさだ、一度使っただけで直ぐに折れてしまう。二体目が一体目の後ろから現れ、大口開けて孝に噛み付こうとした。だが俺が銃剣を突き出すよりも早くあさみが三段式警棒を引き抜き、野球のフルスイングよろしく二体目の<奴ら>の顔面に叩き付けた。
「こんな風に人を殺すのに馴れるなんて絶対嫌よ!」
階段に背を向けたあさみの背後から襲いかかる<奴ら>の口に麗が銃剣を突っ込んで押し返した。
「案ずるな・・・・・少なくとも私よりはマシだろう?」
好戦的な笑みを浮かべた冴子が止めに首を刎ねた。だが、何故かその瞳の奥に何かしら陰惨な物を感じた。
「あー・・・・聞いても良いか?」
静香を犯そうとして俺がシメた奴が恐る恐る訪ねて来る。
「何だ?」
「お前ら、何なんだ?」
確かに、尤もな疑問だろう。日本では規制が厳しい重火器や刀を引っ下げた高校生数名と同じく武器を持った男一人、そして医者である女一人。統制の取れ方は即興のコンビネーションとは思えない。正直俺も驚いている。
「・・・・・聞かない方が良い。」
「僕も同感です。」
俺の言葉に孝が苦笑いを見せる。
「あ・・・・向こうからも来てる!撃つわよ!」
向かいの通路からも<奴ら>が集まって来る。ルガーを構えて撃つ体制に入ろうとする。
「駄目!駄目です!待って!」
「何よ、デブちん!?他にいい方法があるの?!」
止められた事が気に入らないのか、体を射抜かんばかりの鋭い眼光を自分の邪魔をしたコータに浴びせる。途端にコータは蛇に睨まれた蛙の様に竦み上がってしまった。
「そうじゃない。お前は銃を一度も撃った事が無いし、その上目測でしかないが、向こう側から来る<奴ら>は五十メートル前後離れている。ストックがあっても、ライフルでもない限り一発ずつで確実に仕留めるのは難しい。それに、」
「リーダーの小室から撃つ命令が下りてません!」
俺のバックアップが功を奏したのか、息を吹き返したコータが後を続けた。
「分かったわよ!悪かったわね!」
「謝る必要は無いさ。沙耶が言うまで俺は気付かなかった。ありがとな。」
孝が沙耶の肩をポンポンと叩いて笑顔を見せてやる。
「分かったわよ・・・・でも、あっちはどうするの?すぐに追い付かれるわよ?」
そう、俺達の後ろからも<奴ら>はやって来ている。距離は十メートルも無い。
「滝沢さん、お願い出来ますか?」
「リ—ダー直々のご指名か。良いぜ。」
マシンピストルを引き抜いて、トリガーを絞った。銃口から吐き出される弾は<奴ら>を引き裂き、窓ガラスを貫いた。床にも穴が幾つか開いていた。
「キリがねーな・・・・」
まだ<やつら>の数は一向に減らない。俺はゆっくり前進して引き金を引き続けた。二分程してからようやくある程度の<奴ら>を一掃する事に成功した。
「俺はバイクを取って来る。バックアップ頼める奴いねえか?」
「では、私が行きます。」
「オッケー。孝、俺と冴子はバイクで暫く奴らを引き離す。非常口を押さえたらハンヴィーで合流する。誰を活かせるかはお前次第だ。良いな?」
「はい!」
「冴子、行くぞ。」
「はい。」
俺は冴子と一緒にバリケードを乗り越えると、<奴ら>を切り刻みながら前進を始めた。エスカレーターの影に防水シートがチラリと見える。あれだ。鍵を差し込んでエンジンをスタートさせると、冴子の頭にヘルメットをかぶせる。
「刀しまっとけ。掴まらねえと振り落とされるぞ。」
冴子を後ろに乗せてアクセルを捻ると、ガラスを突き破って駐車場に飛び出した。だが、ここで俺は致命的なミスを犯した事に気付いた。それは<奴ら>の数。駐車場にはざっと数えても百体以上はいる。全部を引き離すのは恐らく無理だろう。高威力のダネルMGLとその弾はハンヴィーの中に入っている。
「糞・・・・」
「どうしますか?このままでは」
「出来る限り<奴ら>をハンヴィーから引き離して始末する。まずお前をハンヴィーまで届ける。」
「その必要はありません。私も」
「駄目だ。近距離での戦闘はチームの中じゃお前は上位だ。お前が死ねば後々チームの行動に支障を来す。ハンヴィーで下ろしてやるから中に籠ってろ。俺は<奴ら>の数を少しでも減らす。」
バイクのエンジン音をワザと響かせ、<奴ら>ショッピングモールから引き離した。カーブし、ドリフトをかますと、冴子をハンヴィーの上に登らせる。
「良いか?俺に何があっても絶対に助けに来るな。」
「貴方は何故そこまで自分の命を捨てようとするのですか?!貴方は私達のチームの一人・・・・仲間です!貴方を死なせれば、鞠川校医がどれだけ悲しむか!」
俺の捨て身の行動に遂に堪忍袋の緒が切れたのか、冴子が怒鳴った。滅多に見れる様な物じゃないが、中々威圧的だ。
「分かってる。だが、俺はお前が思ってる様な人間じゃない。俺は、今まで何人も人を殺して来た。静香と関係を持つ事で過去を忘れ、逃げてただけなんだよ。だが、もうやめた。俺は人殺しだ。その事実を、今は受け入れるしか無い。俺はこうして<奴ら>を殺すこの戦いに身を投じた。殺されても文句は言えないし、今更死は恐れない。ハッチから中に入れる。行け。」
この時何故冴子の手からヘルメットを奪い取り、バイザーを下ろして再びエンジン音を轟かせた。
「This way, motherf●●●ers!!」
ハンヴィーから離れた所でエンジンを暫く吹かすと、かなりの数の<奴ら>がやって来た。
「さてと。」
ガードチェイサーのハンドルのボタン二つを押してスコーピオンを取り出し、サラマンダーに変える為のアタッチメントを銃口に取り付けた。腰撓めに構えて少しだけ上に傾けると、フォアエンドを一往復させ、引き金を引いた。大砲の様な音と共に銃口からグレネード弾が飛び出し、前方にいた<奴ら>が多数吹き飛んだ。すげえ威力だな・・・・一度アタッチメントを外すと、スコーピオンを両手で構えてスコープを片目で覗きながら息を吐き出し、引き金を絞った。バスゥン、と普通の銃では聞かない様な銃声が木霊し、奴らの頭を貫いた。続けて引き金を引き続け、マガジンの半分位を撃った所で二つを収納スペースに押し込んだ。右端のボタンを押すと、荷台のロックが外れた。コードを入力すると、
『解除シマス』
ケースみたいな形をしていた物が巨大なガトリングに変わった。これがかなり重く、ズシリと来た。これも腰撓めに構えて引き金を絞ると、銃身が回転を始める。回転の速度が上がり始め、銃弾を吐き出し始めた。<奴ら>は体中に穴が開くどころかスイカを454カスールで撃ったみたいにバラバラに弾け飛んだ。そのマガジンの弾が尽きる頃には、かなりの数の<奴ら>の破片が辺りに散乱していた。使う前に幸い耳栓をしていたから突発性の難聴にはなっていないが、あまり上手く聞こえないし、更には両腕が痺れている。
「これじゃあバイクの操縦も出来ねえな。糞・・・・・」
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滝沢圭吾
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