No.636957

閉ざされた希望

i-pod男さん

とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!

チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。

2013-11-15 02:44:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:592   閲覧ユーザー数:586

命辛々ショッピングモールに辿り着いた俺達は輸血パックや医療器具を設置し、老婆に輸血の処置を施した。一先ずどうにかなった。俺は手近な椅子に体を投げ出し、深く息を付いた。シガーケースから葉巻を取り出して着火した。深呼吸するかの様にゆっくりと小さく、少しずつ吸い込み、吐き出した。サングラスを外して、天井を見ると、さっき吐き出した煙が立ち上って消えるのが見える。

 

「けーいーごー。」

 

静香が俺の顔を覗いて来る。

 

「おお。あの婆さんは大丈夫なのか?」

 

「今は、ね・・・・・」

 

静かの表情が曇る。そう、最早輸血は延命処置でしかない。週間的にやっていると言う事は、また七日後に輸血をしなければならないと言う事、つまり使える輸血パックを探す為に危険を冒す事になると言う事だ。

 

「すまない。今は俺達を死なせずに済む事で手一杯なんだ。」

 

俺は立ち上がると、オープンカフェにいる孝、あさみ、そしてコータの所に向かった。丁度何か話しているが、沙耶、冴子、そして麗の三人が聞き耳を立てていた。

 

「どうした?」

 

「次のステップの会議中よ。彼女の先輩の松島、だっけ?彼女が来るまで待つか、準備が整い次第この場を脱出するか。あの巡査は良いとして、残りの人達はどうするべきか、って事もあるし。」

 

沙耶が胸の前で腕を組んで目を細めた。

 

「平野君は人がどれだけ野蛮になっているか理解し始めている。私達以外の人間も、また然りだ。」

 

冴子が静かに口を添えた。

 

「それに、人を殺すと言う事がどう言う事か、あいつは分かっている。死への恐怖、生き残る為に繰り返す殺戮、どれだけ強固な精神を持っていようが、いずれは壊れる。それがPTSDを引き起こす。」

 

人間の脳は鉄板みたいな物だ。トラウマと言う名の折れ目が付いたら、それは中々消えない。

 

「でも、私達はまだ」

 

「あれは<奴ら>よ。人間じゃないわ!」

 

麗の言葉を沙耶が力強く遮った。

 

「少なくとも、私達はそう割り切って来た。自分の正気を保つ事も、<奴ら>になるのを避けるのと同じ位大事よ。誰だか知らないけど、<奴ら>と呼ぶアイデアを思い付いた人に感謝しないとね。人に似た人ならざる『モノ』を殺し続けなきゃ行けないんだから!」

 

「だが、それだけじゃ無いだろう?お前は両親と再会してから、完全に、百パーセント全ての変化を受け入れた。お前らは全員、支えとなってくれる存在がある。そうだろ?」

 

意味ありげに俺は麗と沙耶を見やる。二人は孝を支えとしていると言う事は最早確定だ。さっさと押し倒してやる事をやってしまえば良いだろうに。男は『そう言うこと』に関しては流れに身を任せるしか無い。

 

「コータの支えは俺達意外に、あさみがいる。彼女がメインの支えだ。お互いの為になる。俺は静香がいるから当面は大丈夫だが。一番の問題は男子二人だ。あいつら、何時プッツンと切れるか分からんぞ。」

 

「その時は私達が『仲間として』やれるだけの事は全てやるべきでしょうね。」

 

俺の言わんとする事が分かったのか、冴子が妖艶な微笑を浮かべた。

 

「ど、どう言う意味よ、それ!?」

 

「ただ、私が女であると言う事を忘れたくないだけの事だ。」

 

「それでこそ本当の女だな、お前。」

 

「あさみもやれるだけの事は全部やります。少なくとも松島先輩が本部から戻るまであさみはここに残ります。」

 

いつの間に来たのか、ひょっこりと俺達が立っている所に頭を突き出したあさみが拳を作った。

 

「あさみはもう安心です。まだ警察学校にいた頃、酷い現場から戻って来た後は必ず上司と話す様にって言われました。でも、」

 

あさみの目が潤み始め、そしてコータに向き直った。

 

「コータさん、まだ高校生なのにそう言う事はもう知ってるし・・・・あさみは警察官なのに、何も出来なくて・・・・」

 

「そ、そんな事無いですよ!あさみさんは本当に凄いです。何も出来ない人に、今まで生き残る事なんか出来ません!」

 

自分を卑下するあさみの両肩にコータが手を置いた。

 

「あさみさん、僕達と一緒に来て下さい。」

 

「え、でも・・・・あさみは」

 

「おい。」

 

痺れを切らした俺は大股で歩み寄った。

 

「使命感に捉われ過ぎだ。確かに、お前は警察官だ。だが、お前は本当にここにいる奴らを救う為に自分の命を投げ出すのか?警察官である以前にお前は一人の人間だ。お前だって生き残りたいだろう?Yes か No で答えろ。コータが大事か?」

 

「・・・・・・はい。」

 

「生き残りたいか?」

 

「・・・・はい。」

 

「ならここを出ろ。はっきり言って今この場に残るのは自殺行為だ。<奴ら>が侵入するのが先か、物資が底を突くのが先か、どちらにせよ死ぬのは時間の問題なんだよ。」

 

「あれは・・・・・警察官だ!」

 

孝の声に、あさみは窓の方に走り寄った。まさか・・・・

 

「そんな・・・・・先輩!!嫌・・・嫌嫌嫌!!こんなの嘘!松島先輩!何で?!どうして!?」

 

気が狂ったかの様にガラスを何度もバレーボールのアタッカーの様に叩き始めた。止めど無く涙が溢れ出す。

 

「警察署にたどり着けなかった・・・・・出て行った後に死んじゃった!!」

 

元より期待はしていなかったが、あさみに取って彼女は唯一の一筋の希望だったんだろう。それが消えた今、何をするか分からない。

 

「誰も・・・・誰も助けに来ない!!!」

 

彼女の悲痛な叫び声がショッピングモールに木霊した。


 
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