俺達が高城邸に辿り着いて一日が経過した。図らずも、仮初めとは言え安住の時が再び訪れた。リカとも定期的な連絡を取れた事によって、静香も閊えが下りていくらか元気になっている。閨の相手を毎度する必要も無い。と言うか、昨日の夜は父親を亡くしたありすに付きっきりだったな。泣き付かれるまで添い寝してやったり。年甲斐も無く子供の様に小躍りしながらありすやジークとも遊んだりしていた。
「こうして見ると、まるで母親だな。」
「そう言う圭吾さんはあの中に加わったら父親ですよ?」
そう独り言ちたのを、聞いていた孝が茶化す。俺はそれを聞いて頭を横に振った。
「馬鹿言え。俺にゃ似合わないよ、そんな事。それより、沙耶は大丈夫か?」
「あ、はい。今、静香先生が薬を背中に塗るって。結構強く撃ったみたいで、痣とかもちょっと出来てるらしいです。大した事無いと言えば大した事無いですけど。」
呆れたな、全く。
「で、お前は何でここにいるんだ?」
「何でって、俺がいたら追い出されますし・・・・」
孝、お前はつくづくチャンスをドブに捨てる様な奴だな、麗と言い、沙耶と良い。勿体無いったらありゃしない。俺は孝の襟首を掴むと静香と沙耶がいるその部屋へ案内させた。念の為ノックして入ると、ベッドでシーツ以外は全裸(の筈)の沙耶がうつぶせに寝ており、静香は瓶からどろりとしたローションの様な物を手に取り始めていた。
「あ、圭吾!小室君も!丁度良かった。どっちか高城さんを抑えててくれる?この塗り薬ちょ〜ッぴりしみるから。暴れたらシーツ汚れちゃうし。」
「え?ちょ、待って。やだ、やだやだ、痛いのイヤーーー!!」
逃げようとするが、そこはやはり打撲の痕が痛むのか、動けない。
「小室、最初抑えててやれ。静香、手に取った分塗り終わったら小室に交替な。塗る場所はお前が教えりゃ良いから。」
「え?うん。でも圭吾はどこ行くの?」
「散歩がてらでコータ探しに行くんだよ。あいつならやってるだろうからな、銃のメンテとか。俺も自分のをやらなきゃならない。んじゃ、沙耶。負けるな。それと頑張れよ、色々とな。」
ドアを閉じてからは悲鳴を上げる沙耶と戸惑いながらもそれを押さえ付ける孝の声、そして明らかに沙耶の反応を楽しんでいるとしか思えない軟膏を塗り始めた静香の声が暫く聞こえたが、歩いて行く内にそれもやがて消えた。
「ガレージは確かこっちか。」
今朝方俺のジープとハンヴィーが回収されたらしく、今はガレージで修理されている。すると、ブツブツと喋る声が聞こえた。見ると、大型の業務用テーブルで銃の分解されたパーツが綺麗に並んで手入れされていた。
「キャリア、スプリング、エジェクター、と・・・・でこれが・・・」
「精が出るな、おい。」
「うわっ!?た、滝沢さん、脅かさないで下さいよ、もう。部品落としそうになったじゃないですか。」
作業用軍手を付けてツナギの服に着替えていたコータは恨めしそうに俺を睨んだ。
「悪い悪い。俺も手伝いに来たんだよ。一応持ち主は俺だからな。それ、縁がちょっと汚れてるからもう少し磨いといてくれ。俺も自分のをメンテナンスしなきゃならない。」
「ああ、滝沢さんのだったら勝手ながら昨日の内に僕がやりました。いやー、嬉しかったな、八連リボルバー。あれ、触れたのあの時が初めてでしたよ!あのシグも、物凄いカスタマイズされてました。、サプレッサーの為にネジを切った銃身付けてましたよね?」
こうして見ると、コイツもまだガキだな。
「ああ。そうだ。分解してあるこれは、全部済ませたんだよな?」
「はい、終わってます。」
俺はコータの隣に立つと、分解された銃を再び組み立てた。まずはM1A1。銃剣はもう研いである。ナイフだけは緊急用の武器としても使えるから、こればっかりは手放せない。俺の手持ちのM-9 銃剣もそうだが、折り畳めるESPADA (Large)と機能盛り沢山のスイス・アーミーも念の為にチェックしておく必要がある。本当なら鉈でも欲しい所だが、そう都合良く見つかる筈も無い。AR10も、スコープレンズを磨いて作動桿を引くと、一度空のまま引き金を引いた。
「作動は良好と。」
「こっちも、異常なしです。」
「弾薬は?」
「ショットガンはまだなんとか大丈夫だと思います。滝沢さんが僕達と合流する前に拾ってくれたお陰で少しはマシですけど、7.62mm NATO弾は微妙な量です。使い所さえ間違えなきゃ大丈夫だとは思いますけど、いざとなったら自衛隊員の死体とか警察署からでも拾わないと。」
「まあな。毎度思うんだが、何で日本が使う武器はここまでしょぼいんだ?テキサスに行ってみろ、種類問わずで一家に二丁は銃が置いてあるぞ。あそこなら生存率は高そうなんだがな。銃弾もそこら中に転がってるし。屋敷の中は探したのか?銃弾の箱はあるだけ頂くって訳には行かないだろうが、少し位頂戴してもバチは当たらないだろ?」
「ちょっとは見つけたんですけど、大量にはそう都合良く見つからないですよ。幾ら高城さんと一緒に来たからと言って、あんまり不用意にうろうろしてたら・・・・」
まあ、高校生ならポン刀引っ下げてる強面の連中を怖がるのも無理は無いな。銃を全て組み立てると、俺は自分の物を全てホルスターに納めた。内側にもマシンピストルをしまいこみ、ジャケットを着た。
「おいおい。兄ちゃん、それ本物だろ?子供が弄っていい物じゃないぞ。」
首に赤いスカーフを巻いた中年のおっさんがコータに注意する。まあ、そりゃ当然の反応だろうな。
「良いんだよ、この銃は俺のだ。メンテを手伝ってくれてるだけだし。それに、銃の扱いなら一級品だ。コイツのお陰で俺も沙耶も、チーム全員が生きてる。」
「マッドさん、用はそれだけかしら?」
「高城のお母さん・・・・!」
赤いドレスに白いストールを纏った百合子さんが現れた。ガレージと言う場違いな所にいる為、より一層彼女の美貌が目立つ。
「お、奥様。いや、乗って来られた車二台の整備が終わった事をお伝えしようと・・・・」
マッドさん、だっけか?一変して歯切れ悪くなったな、おい。まあ、見かけによらず強気なこの人だったら引くのも頷けるが。
「分かったわ。ありがとう。」
マッドと呼ばれた男は頭を下げると、去って行った。
「平野君、だったかしら?ごめんなさいね、こんな怖い所で。」
「いえ、その、自分は別に・・・・」
「コータ、とりあえず長物の銃は隠しとけ。」
「何でですか?」
「今のあいつのリアクションで分からないか?まあ、俺は一応大人だから文句は言われないだろうが、お前らは別だ。俺以外の大人から見れば、お前らは情緒不安定、予測不可能。暴走したら最も危険視される年齢層にある。そんな奴らが銃振り回してるの見せてみろ、怖がるのは当たり前だ。何時自分に凶器の矛先が向けられるかビビッてるからな。」
「あ、いたいた。平野君、圭吾!ちょっと来て!会議があるからって高城さんが。」
「会議?」
その言葉に俺は顔を顰めた。それも沙耶からとは、これは結構重大だろうな。銃を片付けると、コータにも来る様に言って静香に客室の一つに通された。沙耶は相変わらずうつぶせに寝たままである。塗り薬の所為で背中と腰の一部がテカっている。
「ここでするのか?その格好で。」
「し、仕方無いでしょ、小室!背中と腰打ったんだから、無理して動けないのよ!」
「でも、孝が塗ったんだからその内治るだろ?愛の力って奴で。」
「う、うううううるさいわね!」
兎に角、と沙耶は強引に話を戻した。
「これから重要な話があるから皆ちゃんと聞きなさいよ。」
「重要な話?何?」
「これから先も私達がチームでいるか否かって事よ。
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オリ主の設定です。
名前:滝沢圭吾
年齢:26歳
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