なぜ彼女が僕を選んだのか、いまだにわからない。
「ほら、ぼーっとしてないで!!」
スパンと叩かれた背中をさすっていると、もう片方の空いた僕の手を引いて、彼女はずんずん先を歩き始めた。
こうしていると、よく周りから姉弟に間違えられる。
本当は同い年なのに。
恋人同士、なのに。
確かに、彼女の方が少し背が高い。
そして、彼女のほうがしっかりしている。
充分に理解してるつもりだ。
でも。
「おなか減っちゃった。喫茶店に寄ろうよ!」
「うん。そうだね」
無邪気な誘いを断る理由はない。
彼女が行きたいと言うのなら。
疲れたんじゃない? どこか寄ろうか。
僕がそうやって気を遣わなければならないはずなんだ。
喫茶店は混んでいた。
かろうじて空いていた二人用の席に案内され、彼女はさっそくメニューを開く。
本当は、人の多い場所は好きじゃない。
――あの二人、恋人同士かな?
――え~、彼女かわいいのにあんなさえない男選ばないでしょ。
いやでも聞こえてくる声。
人に合わせることしかできない優柔不断な僕は、活発でかわいい彼女に不釣合いと言われてしまうのも、当然だ。
「あ、私、チョコレートパフェにしよ」
そんな彼女の言葉に、思わず僕もと言いかけて息と一緒に飲み込んだ。
隣の席の女の子が指さすメニュー写真が目に入り、口に出した。
「僕はナタデココ」
「ナタデココ?」
いつも彼女にそろえるか、彼女の迷うものの片方を頼む僕。
意外なオーダーに、彼女は不思議そうな顔をした。
「ナタデココって、なんなんだろうね?」
頬杖ついて上目遣いに僕の顔を覗き込んだ彼女。
顔が熱くなるのを感じて、まくし立てた。
「原料はココナッツの実らしいよ。ココナッツ水に砂糖と菌を加えてできた膜がナタデココなんだって」
「菌? なんだか変な感じ」
「うん、たしかに。でもコレステロールを下げる働きがあるいいものみたいだけどね」
ふ~ん、と相槌をうつ彼女。知ったかぶりした嫌な言い方だっただろうか?
「コレステロールなんか気にしてるんだ?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「でも、詳しいじゃない」
「あぁうん、僕も前に気になって調べたことがあったんだ」
ナタデココ。
確かに、一時期ブームが起こったものの、最近はそれほど名前を聞かない。
色鮮やかな果物を引き立てるような、陰の存在。
なんだかそれって…
「僕は…ナタデココみたいなやつだな…」
彼女を引き立てるのがいやなわけじゃない。
だって、僕なんかがいなくたって、彼女は充分に魅力的なんだ。
でも、僕もできることなら彼女に並べる存在になりたい。
「ナタデココ? そっか! うん、そんな感じ!!」
彼女に言われて、僕は余計に暗い気分になった。
やっぱり、彼女もそう思っているんだ。
「すっぱい果物の間で、甘さをくれる。私の中で癒しの存在」
え?
彼女の言葉に耳を疑う。
彼女は満面の笑みを見せてくれた。
「うん、私もやっぱりナタデココ食べる」
色鮮やかな果物に飲まれるナタデココ。
やっぱり僕は、どんどん、彼女の中におぼれていくんだ。
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カップルの日常話です。