No.635978 真剣で私たちに恋しなさい! EP.24 葉桜清楚の章(2)元素猫さん 2013-11-11 01:31:19 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:4656 閲覧ユーザー数:4377 |
川神学園の保健室のベッドに身を横たえ、項羽は天井を眺めながら思いに沈んでいた。隣のベッドには、京極彦一がぼんやりと座っている。
(何を考えているの?)
もう一人の項羽ともいえる、清楚が問いかけた。
(自分の事について、色々と記憶を探っていた。朧気だが、思い出しつつある)
(昔の記憶?)
(苦々しい記憶だ……。むしろ、忘れたままの方が良かったのかも知れないがな)
人心を失い、疑心暗鬼の中で転落してゆく様など、思い出したところで懐かしさの欠片もありはしない。ましてやその最後はあまりにも無残で、自分でも情けなくなってくるほどだ。
(それでも、忘れたままよりはいいと思うよ)
(ああ、そうだな)
かつての野望を思い出すことができた。それだけでも、意味はある。
「よっ!」
項羽は勢いを付けて起き上がった。
「あれこれ考えるのは性に合わない。やるべき事が思い出されたのだ。行動あるのみ!」
(でも、どうするの? 今、街は大変だし、結界みたいなものがあって項羽でも外に出られないんでしょ?)
「簡単だ。強い奴を探して倒す。そうすればいずれ、天下を取れるはずだ!」
(そんなに簡単にいくのかなあ)
清楚は不安そうな声を漏らした。だが項羽は特に理由もなく自信満々に笑っている。
と――。
「さっそく誰かが来たようだ」
項羽が強い気配を感じて、にやりと笑った。
フラフラとした足取りで校内に入ってきたのは、榊原小雪だった。廊下で待ち構えていた項羽にもわかるほど、明らかに眠そうである。
「我に戦いを挑みにきたか?」
「……誰?」
「覇王・項羽だ」
「ふーん……」
そう応えた直後、小雪の瞼は完全に閉じて膝から崩れるように倒れてしまった。やがて、静かな寝息をたて始めたのである。
(寝ちゃったみたいね)
「そのようだな」
(……)
「……」
(……)
「……チッ!」
舌打ちを漏らした項羽は、仕方がなさそうに小雪を抱え上げた。放置すると、清楚がうるさそうな気がしたからだ。離れることが出来ないので、色々と厄介である。
小雪を保健室の空いたベッドに寝かせ、自分は椅子に腰掛ける。
(ふふっ)
「何だ?」
(いいえ、何でもありません)
どこか嬉しそうな清楚に、項羽は不機嫌そうな顔で視線を窓の外に向けた。照れ臭い気持ちと同時に、うまく言葉に出来ない気持ちが溢れた。
それから数十分ほど過ぎた頃だろうか、肘を付いてぼんやりしていた項羽の耳に、苦しそうなうめき声が聞こえ始めた。
視線を向けると、ベッドに横たわった小雪が悪夢にうなされているようだった。
「うぅ……」
何かを追い払うように、寝たままの小雪が両手を振る。
(起こしてあげた方がいいんじゃないかしら?)
「まったく……」
愚痴りながらも立ち上がった項羽が、小雪を起こそうとベッドに近づいた時だ。
「ああっ……!」
突然、隣のベッドに座っていた京極彦一が頭を抱えて苦しみだしたのである。
「何だ、いったい?」
「ああっ……やめろ、やめろ!」
「おい、京極!」
項羽は彦一の肩を掴み前後に揺らした。だが彦一は白目を剥き、苦しそうに口をパクパクさせながら天を仰いでいる。
「起きろ!」
暴れる彦一を抑えつけ、仕方なく項羽はその頬を軽く何度か叩いた。すると急にガクッとうなだれるように首を倒したかと思うと、白目を剥いていた目がぐるりと動いて項羽を見たのだ。その瞬間――。
「眠りに落ちろ!」
再び頬を叩こうと手を振り上げた項羽に向かって、彦一はそう言霊を飛ばしたのだ。とたん、項羽は膝から崩れ落ち、言霊通りに深い眠りに落ちてしまった。しかし言霊が効いたのは表に出ていた項羽の意識のみで、清楚の方は何事もなかったため倒れる寸前で入れ替わる事ができたようである。
「危なかったぁ」
ゆっくり立ち上がった清楚は、安堵の息を吐く。
「……何が、起きたんだ?」
「あっ、意識が正常に戻ったんだね?」
頭を押さえながら周囲を見渡す彦一に、清楚が嬉しそうな声を掛ける。
「君は……」
「私は葉桜清楚、よろしくね」
「葉桜君……朧気だが、少し思い出した。気がついた時、身の危険を感じてつい言霊を飛ばしてしまったようだ」
「うん。それで項羽が眠っちゃったみたい」
「項羽? そういえばそんな話をしていた気がするが、あの歴史上の項羽のことだろうか?」
「あ、そっか。片方の声しか聞こえないから、事情がわからないよね」
そう言うと、清楚は自分の素性について説明を始めた。そしてこれまでの出来事、彦一が正気を失っていたことなどを話して聞かせたのである。
「武士道プランか……相変わらず、九鬼のやることは想像を超えるな」
「でも、どうして突然、京極君が正常に戻ったんだろう?」
「意識が流れ込んで来たようだ……彼女の夢、実の母親に首を絞められる光景だった。憎しみと悲しみが溢れ、心が壊れそうなほどの痛みが襲った」
二人は小雪を見る。落ち着きを取り戻し、静かな寝息を立てているが、寝汗がひどい。
「何だか、可哀想だね」
慈しむように清楚は、保健室のきれいなタオルで小雪の額の汗を拭った。その寝顔は、とても穏やかに微笑んでいるようにも見えた。
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真剣で私に恋しなさい!の無印、Sを伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
楽しんでもらえれば、幸いです。