No.63531

恋姫†無双 朱里、雛里SS 物語

途中から雛里の空気具合が異常www
展開急ぎすぎるのは悪い癖ですねw

2009-03-16 01:10:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:12717   閲覧ユーザー数:10944

その日、朱里と雛里は2人で市に遊びに来ていた。

目的はと言えば、流れてきた商人から諸国の戦術書や艶本などの書物を手に入れる為だが。

「雛里ちゃん、良さそうな本あった?」

「ううん、大概一度は目を通した物ばかりかな」

両手にいくつかの荷物を抱え、2人は顔を見合す。

これ以上の収穫はないと判断し、市を離れようとした時に一冊の本が目に入った。

「どうしたの、朱里ちゃん?」

「あの本の表紙、見える?」

雛里は朱里の視線を追った。

その先に見えた露店の一角に見える本、雛里はその表紙の文字を理解して目を剥いた。

「天の御使い!?」

「どう考えても、ご主人様の事だよね・・・」

驚いてばかりいるわけにもいかない、2人は露店の店主に声をかけた。

「なんだい?お嬢ちゃん」

「えっと、その本なんですけど、どこで?」

「あぁ、これね。都の方じゃ天の御使いがこの世界に降りてきたって噂が立ってるんだ、夢物語みたいな話だが、物書きには魅力的なんだろうよ」

朱里は納得した様子で頷いた。

「それ、ください」

「まいど!」

 

朱里と雛里は自室でその本を開いた。

中身といえば、天の御使いとされる男ととある女の恋愛ものである。

ありがちな話とはいえ恋愛経験の薄い2人である、展開一つ一つに息を呑み、ページをめくっていく。

そして次第に自分達と女を、御使いと一刀を重ねていく。

物語も終盤に差し掛かったところでページをめくる手が止まる。

「朱里ちゃん・・・」

不安な様子で雛里が声をだす。

「うん・・・、大丈夫だよ」

そのページには御使いの男と引き裂かれ、泣き崩れる女がいた。

いわゆる悲恋、物語としては綺麗な終わり方かもしれない。

しかし、自分達を重ねていた朱里達の心は大きく揺れた。

「ご主人様も・・・、いつか天の国に帰るのかな?」

「これは唯のお話だよ、雛里ちゃん。そんな事あるわけないよ」

冷静に、自分に言い聞かせるように口を開く。

しかし、一刀は元より常識で測れる人間ではないのだ。

自分の知らない世界などが存在している時点で絶対という朱里の自信は揺らいだ。

 

「朱里達の様子がおかしい?」

一刀は軍議の直後、愛紗に呼び止められていた。

「えぇ、表面上はいつも通りなのですが、どこか上の空なんです」

「具合でも悪かったのかな?」

「それ位ならいいんですが・・・、ご主人様の方でも少し気にかけてあげて下さい」

「わかった」

 

一刀は朱里達の部屋の前で躊躇していた。

(なんて言ったらいいんだ?『何かあったの?』とでも聞いてなんでもなかったら気まずいしな~)

扉に手をかけては止めるを幾度となく繰り返していた。

「ちょっと!邪魔なんだけど!」

「おわっ!」

後ろからの怒声に一刀は飛びのいた。

「あの・・・、大丈夫ですか?」

月と詠が水の入った桶を持ち、並んで立っていた。

「掃除して回ってるんだから、邪魔しないでよね!」

「詠ちゃん、駄目だよご主人様にそんな事言ったら」

「月が甘すぎんのよ」

いつもの2人のやり取りを横目に一刀は思考を走らせた。

(これだ!)

「なぁ、この部屋の掃除手伝わせてくれないか?」

「はぁ?女の子の部屋にあんたみたいなの入れられるわけないでしょ」

「そこを何とか!」

「仕方ないわね・・・、床だけ磨きなさいよ?それ以外のものに手を触れたら追い出すからね」

その2人のやり取りを月がニコニコしながら見ていた。

「な、なによ、月」

「詠ちゃんとご主人様、やっぱり仲がいいなぁって」

「や、やめてよ!ほらさっさと始めるわよ」

詠は扉を開いた。

「掃除に来たんですが・・・」

月が部屋の主に声をかける。

が、返事はない。

「あの~・・・」

朱里と雛里は黙々と読書に勤しんでいた。

ペラペラと凄い勢いでページがめくれていく。

そしてページの残りが少なくなっていく毎にその速度は落ちていく。

「はぁ」

最後のページで指が止まり、朱里が小さく溜息をついた。

「お~い、朱里さ~ん、雛里さ~ん」」

一刀が手のひらを朱里の目の前でひらひらさせる。

「はわわっ!ご、ご主人様」

「あわわっ!すみません」

驚いた2人が椅子から飛び上がる。

「何読んでたんだ?」

「あ、それは・・・」

一刀は本を手に取る。

「え~と、天の御使・・・、えぇぇぇぇぇ!?」

「うるさ~~~い!掃除しないなら出てけ!」

詠は一刀を部屋の外に放りだした。

 

「元気がなかったのって、この本のせいなのか?」

中庭の木陰に腰を下ろした一刀は両隣に座る2人に問いかけた。

「・・・はい」

雛里がすまなさそうに頷いた。

一刀はペラペラとその本に目を通す。

「ふ~む、俺はこの男みたいに帰らなきゃいけない理由もないし、方法も分からないんだ。どこかに行きようもないよ」

「でも、これから・・・どうなるかは分からないんですよね?」

朱里の言葉に反応するように雛里が一刀の袖にしがみつく。

「2大名軍師を言葉で納得させるのは無理か・・・」

それならと一刀は立ち上がる。

「どうしたんですか?」

「何か書くものある?」

 

掃除の終わった部屋で一刀は何かを書き出した。

「一体何を?」

「見てれば分かるって」

さらさらと文字を書き綴っていく。

「これって・・・」

「そ、続き。この終わりで納得できないなら、自分の手で物語を続ければいい、納得できるまでね」

「自分で・・・」

これから何が起きるかなんて分からない、物語を紡いでいくのはいつだって自分達。

そんな言葉を朱里と雛里は頭に反芻させる。

「俺がもし帰る時が来たなら、2人の力で俺の物語を続けさせて欲しい」

「はい!」

2人の顔から憂いが消えた。

 

 

 

 

「朱里、雛里、そろそろ軍議を始めるぞ」

「はい、すぐ行きます」

愛紗の声を追って、2人は本を置いて部屋を出た。

風でめくれたページには数々の苦難を乗り越え、結ばれた男女の姿が書かれていた。


 
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