俺は、読み終えた本を静かに閉じた。
線路を走る総武線が、身体に心地よい揺れをもたらしてくれる。
……そう言えば、あの夜もこんな夜だっただろうか。
俺は電車から降り、遠くの喧騒を耳にしながら夜空を見上げる。
……いや……違ったな……。
あの小川から聞こえた喧騒は本当に賑やかで、喜びと希望に満ち溢れたものだった。
それに夜空の月は、もっともっと琥珀色に輝いていた……。
俺は、その月よりも遥かに輝いていた少女に思いを巡らせる。
……大陸の覇王は、元気にしているだろうか。
「……華琳……」
俺は静かに、しかしはっきりと彼女の名前を口にする。
いつも自信に溢れ、そのくせ寂しがりやでもあった少女の真名を……。
だが俺は心配していない。
あの華琳のことだ、きっと俺がその場に居なかったことを死ぬほど後悔させてくれるような国を作ってくれるだろう。
それに……。
俺はさっき読み終えたばかりの本を取り出す。
『三国志』、だ。
でも、その内容は俺が知っていたものとは全く違う。
歴史は大きく変わったのだ。
……覇王曹孟徳を頂点とする、魏・呉・蜀の三国連合。
大陸はこの連合のもと、長く平穏な時を迎えることになっている。
俺はゆっくりとした動作で、この本を月にかざした。
覇王の物語が月の光を浴び、燦然と輝く。
「愛しているよ、華琳――――」
俺はしっかりとした足取りで、歩みを進めた。【了】
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魏ルートの、一刀視点エンディングという設定で書かせていただきました。
一話完結です。
よろしければ、お付き合いくださいませ。
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