No.634019

太守一刀と猫耳軍師 2週目 第6話

黒天さん

今回は黄巾党の大軍との戦闘回になります。

2013-11-04 02:31:47 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:9151   閲覧ユーザー数:6474

「曹孟徳の領との境に黄巾党の大軍だって?」

 

実際には隣接してはいないのだが、庇護を求めてきた街を傘下に入れているため、実質的には県境、という形になる。

 

「ええ、幽州の方で追い払われた者が押し寄せてきたものかと……。問題は、こちらにくるか、曹孟徳の領へいくのか

 

というあたりですね。数は推測ですが2万ほどかと」

 

報告をしてくるのはこちらの領にきてから新たに作った忍者隊の者。

 

ここに来てすぐから、自分についてきてくれるものを募り、育てていたのだ。

 

前の世界で隊を組織した経験を生かして効率よく訓練できたため、使い物になるまでの時間はかなり短縮出来た。

 

「どちらにいくにせよ、後手を踏むわけにはいかないし、すぐ出陣する準備をしないとだな。

 

あっちに行くとは考え辛いし……」

 

黄巾党の大軍を発見したことを華歆に相談しにいけば、すぐにGOサインがでる。まぁ当然か。

 

星と天泣、天梁、桂花にもすぐに軍を編成するように指示を飛ばし、出陣の運びとなった。

 

城には防衛に必要な最小限の兵を残すのみで全てを討伐隊へ編成し、出発する。

 

数は7000。ハッキリ言って2万を相手にするには数が足りないが、援軍も望めない以上、これでどうにかするしかない。

 

桂花と天梁の策に頼ろう、効果的な策を出してもらうため、情報収集に力を入れるべく、忍者隊を走らせた。

───────────────────────

 

現地に到着してみれば、予想は外れていた。

 

黄巾党の群れは華琳の領に向かっていったのだ。

 

忍者隊からの報告によれば、大群と気付かず討伐しに来た曹操の軍が籠城を強いられているとのこと。

 

「さて、どうするか……。向こうの領に軍が入り込めば面倒が起きそうだけど……」

 

「文若ちゃんと子仲ちゃんはどう思うかしら?」

 

「ここは助けるべきだと思います」

 

「同じく、ここで恩を売っておくのはこの後を考えれば悪く無いと思いますよ」

 

「それに、ここまで来ておきながら、抵抗している者を見捨てたとあれば、世間体も良くないですからな」

 

「じゃあ方針はそれで決まりね、行きましょう」

 

華歆の言葉にうなずき、軍を進めていく。

 

しばし進めば黄色い群れに取り囲まれている街が一つ。

 

合流した隊がいるのだろう、数は報告よりも多い3万、相当厳しい数だ。

 

「報告します!」

 

駆け込んできた男が、黄色い布を頭から外しながら跪く。忍者隊の男だ。

 

「掲げられた旗は『夏』が一つのみ、黄巾党の布陣は街の東側が厚く、西が薄い。

 

ただ愚直に突撃を繰り返すだけのため、この数の相手でも持ちこたえているようですが、長持ちはしそうにありません

 

黄巾党は東側に本陣を構築している模様!」

 

「さて、どう動くか……。桂花ならどうする?」

 

「そうですね……」

───────────────────────

 

「仲達をしらないかしら?」

 

「いえ、存じませんが……。何かありましたか?」

 

「少し話したいことがあるだけよ」

 

「また鐘楼の上ではないですか? さっきはハシゴがかかってましたし」

 

春蘭の言葉にやっぱり、と、大きくため息をついた。

 

まぁ私も多分そうじゃないかと思ってたけど。

 

向かう先は城壁。案の定、鐘楼の屋根にハシゴが立てかけてある。

 

ハシゴを登り、鐘楼の屋根に登ればやはりそこに仲達が座って街の方を眺めていた。

 

私には気づいていないのだろう、風に長い髪を弄ばれながら、物憂げな様子でぼんやりと街を眺める様子は妙に絵になり、

 

声をかけるのが惜しいとすら感じた。

 

「またここにいたのね」

 

「ここまで来るなんて珍しいですね、何かありました?」

 

私に気づけば、表情はすぐに笑顔に戻る。

 

仲達はいつもこう。彼女が感情を表に出すのはここで一人でいる時だけだ。

 

「天の御遣いが現れた、という噂が立ってるわ」

 

「幽州ですか?」

 

「いえ、陳留のすぐ近くよ。華子魚という領主のもとに居るらしいわ

 

陽光を反射し煌めく武器を持ち、武に優れ、政に長けた男。

 

名は北郷。下につくのは趙子龍、荀文若、糜子仲、糜子方の4名、という噂よ。

 

事実として華子魚はここ最近、黄巾党を次々に追い払い、街は活気付き、周辺諸侯に影響力を広げてると聞くわ。

 

実質的に隣国といってもいいぐらいよ」

「ふふ、孟徳さんはその天の御使いを危険視されてます?」

 

「私の敵となるなら当然危険だとおもうわ。

 

人づての噂だから真偽の程は定かじゃないけど、趙子龍、糜子方の2人は猛将と言われているし、荀文若は有能な軍師と言われてる。

 

兵の調練にも手を抜いておらず、練度はかなり上がってきているそうよ」

 

「しかしその噂、違和感がありますね」

 

「そうね」

 

おそらくその違和感、というのは、武に優れるという部分。

 

「天の御遣い」とされる男と過ごす夢を何度か見た事がある。それは仲達も同じらしい。

 

夢に出てきた天の御遣いが、武に優れるとは到底思えなかった。

 

その夢の中に度々仲達が現れたし、同じ夢を見たこともあるかもしれない。

 

「夢の中の人物と、同じ人物なのでしょうか?」

 

仲達が腰に刺した木で作られた扇子を抜いてそれを広げる。

 

絵柄は何も書かれていないが、それには真っ赤な飾り紐が3つ取り付けられ、風なびいている。

 

夢の中の男が持っていた物とそっくりなそれは、夢で見たものをもとに作ったらしい。

 

何も書かれていないその木扇をじっと眺める。まるでそこに、夢の男の顔があるかのように。

 

「北郷という男が持っている物も、それと同じように赤い紐がついているという話しだけど」

 

そう話してみても仲達は黙り込んだまま。仲達も、夢の男に心を奪われている、ということかしら。

 

「仲達、あなたは、私が天の御遣いを引き抜き、私の下に加えたいと思っている、と言ったら賛同してくれるかしら?」

 

「良いと思いますよ。ただ、どうやってこちらに引き入れるつもりです?

 

夢の中の彼と同じであれば、彼の思想は孟徳さんの思想とは合わないと思いますが」

 

「いかなる手を使ってでも、よ」

 

「ふむ、ではいくつか策がありますよ。その策を併用するのが良いと思います」

 

「その策が失敗したら、どうするかしら?」

「華琳様ー!! 仲達様ー!!」

 

仲達の答えは季衣の声に遮られる。

 

「ここよ、季衣。何かあったのかしら?」

 

「伝令です、黄巾党の討伐に向かった秋蘭様の隊が黄巾党に包囲され、現在籠城中だそうです! 相手の数は3万!」

 

城壁の下から叫ぶ季衣の言葉にさっと血の気が引いた思いがする。秋蘭がつれている兵は3000。

 

これだけ数の差があっては長くは持たない……。

 

「仲達、すぐに動かせる兵はどれだけいたかしら?」

 

「散発的に発生する黄巾党に対応するために、出陣可能で待機させている兵が3000。時間をかけずに準備させられる兵が3000。

 

すぐにでも出陣すると言うなら6000が限界ですね。二刻程待って良いのであればさらに呼べますが」

 

「6000を率いて私と仲達と春蘭で出るわよ。季衣は二刻後に追加の兵を連れて追いかけさせるわ」

───────────────────────

 

「我が名は趙子龍! 貴様らは全て、私の訓練に耐えぬいた一騎当千の兵だ、

 

賊の集まりに過ぎぬ黄巾党などに遅れを取る事など無い! 黄巾党など、敵では無いことを世にしらしめるのだ!

 

全軍突撃──ッ!!」

 

黄巾党に見えているのは正面の城のみで援軍が来ることなど考えていないらしく、容易に背後を取る事が可能だった。

 

星が担当するのは一番敵の多い東側。率いる兵は3000

 

鋒矢の陣を敷いて一点集中で本陣を打ち崩すべく、突撃を仕掛けていく。

 

「兵士の皆さん、いきますよー!」

 

何とも気の抜ける掛け声をかけながら、天泣と天梁の隊が北側に突っ込んでいく。

 

偃月の陣を敷いて天泣が先頭に立って突撃を仕掛け、兵が雄叫びをあげながらそれに続く。

 

率いる兵は2人で2000。

 

ぼんやりした様子とその容姿からか、一部の兵の間で妙に人気があり、その一部の兵で隊を固めているので

 

本人が鼓舞らしい鼓舞をしないのに兵の士気が妙に高い。

 

兵士曰く「気取らないから親しみがもてる」「不思議ちゃん萌え」「あのトロそうな所がたまらない」「戦う時と普段との落差(ギャップ)がいい」らしい……。

 

「糜芳隊を援護せよ! 前方に斉射用意、3、2、1、射て!」

 

偃月の両翼に布陣した天梁の隊が天泣の突撃に合わせるように斉射し、そのその突撃を補助する。

 

流石双子というべきか、2人の隊の連携はきっちりと取れており、危なげなく敵の数を減らしていく。

 

「我が名は北郷! 邑を襲い、暴虐の限りを尽くす黄巾党に今こそ天罰を下す!

 

兵達よ! お前たちには天が味方をしていることを忘れるな!

 

全軍構え! 突撃──!!」

 

星にやり方を習い、以前に聞いた将の鼓舞を参考にし、一刀が兵達に叫び、天泣達と同じように偃月の陣を敷き、先頭を駆けていく。

 

それに呼応するように、兵が雄叫びを上げて突撃を始め、背後から華歆と桂花の隊が弓で援護を始める。

「報告します!」

 

「何だ!」

 

「援軍です! 援軍が現れました!」

 

華琳様が来てくれたか、街中で指揮をとっていた秋蘭が安堵の息をつくが、ふっと違和感に襲われる。

 

いくらなんでも来るのが早すぎる……。

 

伝令に出した兵が陳留についてすぐに出陣したとしても、もう半刻はかかるだろう。

 

「旗は!?」

 

「華、趙、糜、荀、さらに丸に十文字! 隣国の領主が救援に来てくれたと思われます!

 

現在、北、東、南の3方の敵と交戦中! 数は西に6000 南に4000 北に4000!」

 

兵士の数の誤報は旗の数の偽装によるもの、一刀の発案で、以前にも効果があったこの策をまた用いる事にしていた。

 

「残念ながら我らに今できることは街の防護を維持し続ける事だけだ。だが、ただ守るだけというわけにはいかんな……。

 

弓兵隊に攻勢を強めるように伝えろ。それだけの大群を率いて救援に来てくれたのだ、じきに勝機は見える。

 

今はそれを待ってじっと耐えるんだ!」

 

この旗による偽装は華琳の兵にも影響した。大軍が味方についたと認識することで士気が向上したのだ。

 

3方向からの突然の敵襲に黄巾党は慌てふためき、指揮官らしい指揮官も居ない集団は混乱に陥る。

 

その混乱が収まる前に、どれだけ数を減らせるかが鍵だった。

 

それぞれが、鋒矢の陣、偃月の陣を敷いたのは、相手に数をより多く見せるため。

 

「ハァ────ッ!!」

 

星が叫び、槍をふるえばその度に敵の首は鞠のようにはねとび、一撃毎に確実に敵の命を刈り取っていく。

 

その姿を見た兵が奮い立ち、さらに士気を上げて敵陣へと切り込んでいく。

 

「やぁー!」

 

敵を引きつけて大剣を横薙ぎに振りぬけば、一度に数人の敵が弾き飛ばされる。

 

進む先を切り開くように弓の斉射が行われ、敵陣深くに天泣の隊が食い込んでいく。

 

衣服を返り血で真っ赤に染め上げながら大剣を振るう天泣の姿はそれだけで敵を大いに恐怖させた。

 

それは雄叫びなど上げずとも、十分に威圧として機能していた。

 

「数に怯むな! お前らは多くの黄巾党を倒し、厳しい訓練を耐えてきた精鋭だ!」

 

(どちらか分からないけど、殺させたりしない……、華琳が悲しむから!)

 

口にこそ出さないものの心のうちで夏侯姉妹の無事を祈り、一刀は敵をその鉄扇で打ち倒していく。

 

本人に自覚はないが、周囲の兵が言うには赤い飾り紐をなびかせ、敵を打ち倒すその姿は、まるで舞でも舞っているかのようだったという。

───────────────────────

 

「何なのこれは……!」

 

兵を急ぎに急がせ、戦に支障が出ないギリギリまで急がせてここまで来たと思えば、街を包囲する黄色い集団の外側にそれを攻め立てる軍の姿。

 

この状況は華琳も予想していなかった。

 

「華、糜、荀、丸に十文字……。隣国の軍ですね。

 

ここからは見えませんが、この状況で趙子龍が居ないとは考えづらいので、逆側でしょうね。

 

孟徳さん、どうします?」

 

「もう黄巾党は混乱に陥り、崩れる間際と見えるわ。このまますぐに突撃をかけ、止めを刺すのよ。

 

くれぐれも華歆軍との同士討ちには気をつけて頂戴。正面は私が受け持つ、春蘭は右翼を、仲達は左翼を担当。」

 

「御意!」

 

「分かりました、では行きましょう」

 

華琳達は偃月の陣を敷き、一気に黄巾党の群れへ接近していく。

 

そして手始めに布陣の薄い西の門へと突撃をしかけた。

 

それから半刻も経つ頃には黄巾党の一団はすっかりと崩れ、壊滅させられていた。

───────────────────────

 

「礼を言うわ、華子魚。

 

もしあなた達が救援に来てくれなければ、私は大事な将を一人失っていたかもしれないわ」

 

黄巾党を壊滅させた後、華琳は本陣へとやってきていた。

 

俺は少し離れた所からそれを眺めている。

 

「私は何もしていないわよ。ただ県境を行く黄巾の大軍を見つけたとの報があったから討伐に駆けつけただけ

 

苦戦しているようだったから、少し手を貸しただけよ。

 

申し訳ないけど、兵をほとんど連れてきてしまっているから早く戻らなければいけないの」

 

「確かにこうしている間に、領地に他が現れないとも限らないわ。でも少しぐらい話しをさせてくれてもいいんじゃないかしら?

 

噂に聞く天の御遣い……、北郷一刀とも話してみたい所だし……!?」

 

ああ、やってしまった……。俺が止めようとしたときには、天泣と天梁が華琳に武器を向けて、

 

天梁に至っては即座に華琳の足元へ2本、警告といわんばかりに矢を撃ちこんでいた。

 

絶対面倒臭い事になるぞコレ……。

 

華琳の言いようだと初対面だって言っちゃってるようなもんだから天梁も反応したんだろうけど……。

 

「貴様! 華琳様に武器を向けるか!」

 

「待ちなさい春蘭」

 

臨戦態勢に入る春蘭を華琳が片手で制する。

「……、あなたの真名なのね?」

 

短い問いかけに俺が頷くと、華琳はゆっくりと頭を下げた。

 

「ごめんなさい、訂正するわ。武器を収めてもらえないかしら? 他意あってのことではないの」

 

「天泣、天梁。俺は怒ってないから大丈夫だよ。ほら、武器を収めてくれ。

 

ここで曹操を殺したりしたら全面戦争になるぞ?」

 

そこらの外交上の事は天梁なら分かってるとおもったんだけど、やっぱり真名の持つ意味って重いんだなぁとしみじみ思う。

 

俺がそういって武器を収めてくれたのを確認すれば華琳の方に向き直る。

 

「姓は島、名は津、字は北郷。真名は一刀なんだ、気をつけてくれると助かる。

 

多分次は後ろの2人が殺しにかかっちゃうと思うから」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。それにしても迂闊だったわ……、まさか真名だったなんて……」

 

華琳は何だか随分と落ち込んだ様子に見える。俺の真名を呼んでしまった事がショックだったらしい。

 

別に俺は構わないんだけど、武器こそ収めてくれたけど、まだなんか怒ってる気配を背中にヒシヒシと感じる……。

 

「引き止めて悪かったわ、春蘭、引き上げるわよ」

 

「御意」

 

そう、俺は取り敢えずそれで終わったと思っていた。

 

……数日後、曹操がやってきて、その話しを聞くまでは……。

「まず、この前の礼よ」

 

そういって華歆に華琳が持って、いや引き連れてきたのは兵を1000ばかり。

 

華琳の兵の事だ、そこらの弱小諸侯の兵2000には匹敵するんじゃなかろうか。

 

でも、いいのか? こういう人間のやりとりって……。

 

糜竺が劉備に2000人の下僕を分け与えたって話しもあるし、この時代だと普通なのかなぁ。

 

「この間の戦いであなた達はかなりの兵を失ったはずよ、そのせいで街が黄巾党に落とされた、なんてことになったら夢見が悪いもの。

 

人のやりとりが気に入らないなら、また兵が揃ったら返してくれればいい、それまで出向という形で預けるとするわ」

 

「ではありがたく借り受けるわ」

 

「今日の用件はそれだけではないの」

 

そういって華琳は俺の方を見て。

 

「島津北郷、あなたが欲しいわ」

 

と、以前桂花に言ったような台詞を言い放ったのだ。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

少し話しが進んで黄巾党との大軍と戦う事になりました。

 

今回第三勢力として登場するのは、位置関係的に、白蓮ではなく華琳の軍ということになりました。

 

そして毎度おなじみ華琳さんのおまえが欲しい発言。

 

今度は一刀が欲しいと言ってみてもらいました。

 

夢の事もあるだろうし、政と武の両面で力を発揮する一刀を欲しいと言ってくるだろうなーとおもいまして……。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
59
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択