No.63398

『真・恋姫†無双』 断章「呂布と陳宮」

山河さん

PCゲーム『真・恋姫†無双』の二次創作となります。

設定としましては、もし一刀が董卓と共に行動することになったらというものを主題にしておりますが、今回は「断章」ということで、呂布と陳宮の出会いを書いております。

よろしければ、お付き合いくださいませ。

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2009-03-15 05:03:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11973   閲覧ユーザー数:10034

「やーい、貧乏公台っ。ほら、返して欲しいか? ほらよっと」

「ね、ねねの帽子を返すのですー!」

所謂いじめっ子である少年たち数人は、少女の帽子をボールを渡すかのようにし、次々と投げ渡してゆく。

ねねにとっては、もはや日常となった光景である。

陳宮、字は公台、真名は音々音。

名門の生まれであったが、出仕したその日に賂を要求した上司にちんきゅーきっくをお見舞い。

あっさり出世街道から外され、家は没落してしまう。

そしてその結果、こうして近所の子供たちからも馬鹿にされるようになってしまったのだ。

 

「今日も疲れたのです……」

ねねは砂埃で汚れた帽子をとると、冷えた床に腰をおろした。

家財道具のほとんどを売ってしまい、室内は殺風景である。

「陳宮殿はおいでか」

隙間風がもれるような薄い扉を叩く者がいた。

「……うるさい奴めなのです」

ねねはそう言って立ち上がり、

「ねねに、何か用ですか?」

と扉を開く。

すると、尊大なもの言いの使者が、

「録尚書事様よりの言伝を賜ってまいった。陳家の家宝『晏子春秋』を献上すれば、陳宮殿を尚書僕射にご推挙くださるとのことだ」

と、そう述べる。

尚書僕射と言えば、少府府尚書台の次官である。今のねねの身分からすれば、異例の出世になる。

しかしねねは、

「……とっとと帰るのです」

と、扉を閉めてしまった。

翌日。

「やーい、貧乏公台っ。ほら、返して欲しいか? ほらよっと」

「ね、ねねの帽子を返すのですー!」

いつものように、いじめっ子である少年たち数人は、少女の帽子をボールを渡すかのようにし、次々と投げ渡してゆく。

しかし、ここから先がいつもとは違った。

「…………弱い者いじめはよくない」

そう言って手が伸びてきたかと思うと、まさに電光石火の勢い。

少年はあまりに一瞬の出来事に目を丸くし、さっきまで握っていたはずの右手に帽子がないことを確認して、ようやく自分が帽子を取り上げられたのだと悟った。

「何すん……!」

怒った少年は、そう言いかけて振り返ると、

「りょ、呂布だー!」

と、一目散に逃げ出した。

他の仲間達も口々に、「りょ、呂布だー!」と叫びながら逃げ出して行く。

呂布? ……呂布といえば、前漢の李広に譬えられる天下の飛将軍ではないか!

ねねは慌てて居住まいを正し、謝辞を述べる。

しかし呂布は、黙ってねねに帽子を返すと、立ち去ろうとした。

「お、お待ちください呂布殿! な、何かお礼を……」

と、ねねは衣服を探ったが、何も出てくるはずもない。

すると呂布がおもむろに、

「………………お金」

と、言うではないか。

ねねは失望した。

飛将軍と雖も、何かあるとすぐに賄賂を要求する下劣な官吏と大差ないのか……、と。

しかしねねはすぐに、己の不明を恥じることになる。

聞けば呂布は、捨てられた犬や猫を拾ってきて、自分の屋敷で面倒を見ているそうだ。

そしてそのうちの一匹が今病気となり、薬を買うお金が欲しいとのこと。

「お待ちくだされ呂布殿。このねねが、ただちにお金を工面して参りますぞ!」

ねねはそう言うと急いで自宅に帰り、箪笥の奥にしまっていた『晏子春秋』を取り出すと、すぐさま古書店へと向かった。

『史記』の著者・司馬遷は李広を評し、このように記している。

「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」

ねねは思った。

呂布殿は、李広将軍に譬えられるに相応しい、天下の飛将軍だ、と。

そして自分は、是非とも呂布殿に仕えたい、と。

 

呂布の屋敷に薬を届けて数日後。

ねねは再び呂布のもとを訪れた。

「呂布殿! おお、張々も病気が治ったようで何よりです」

門をくぐってすぐ、ねねは張々の熱烈な歓迎を受けた。

すると呂布が奥からセキトと共に現れ、

「…………ちんきゅーは張々の恩人。恋でいい」

と、言った。

ねねは最初は何のことかわからなかったが、

「…………真名」

との恋の言葉で、その大切な意味を理解する。

「何と!? 真名を許してくださるのですか!? 感激ですぞぉ~!」

と、ねねは涙を流して喜んだ。

「恋殿、ねねの真名は音々音、です」

すると恋は、

「…………ねね」

とさっそく呼んでくれるではないか!

ねねはさらに感激して涙を流す。

「…………ともだち」

と言って差し出された恋の手をしっかりと握り締めながら、ねねは心の中で「どこまでも恋殿について行こう」と誓ったのだった。【続】


 
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