第参廻 北郷隊来たれ
月「わぁ…。」
詠「これは…。」
華雄「凄いな。」
天水の大演習場。
そこには三千人はいるだろうか、人々が整然と並んでいた。
一刀「こ、こんなに集まるとは思わなかった…。」
それは、数日前に遡る。
霞の一言で始まった。
霞「なぁ、詠?」
詠「どうしたの?」
霞「一刀は将になるんやろ?」
詠「そうね。ただ、どこから隊を分けるかだけど…。」
霞「ほんなら、『天の御遣いが兵を集めてます~』って宣伝したらえぇんちゃう?」
詠「あら、珍しく頭が回るじゃない。」
霞「いや~、こないだ黄巾の討伐行ってきたやん?
あいつらホンマに農民ばっかやねん。」
詠「えぇ、そう聞いてるわ。」
霞「それやったら、似たような方法で集めればめっさ人来るんちゃうかなと。」
月「うん、それ良いかも。
ね、やってみようよ詠ちゃん。」
詠「でも…。」
霞「どないしたん?えぇ方法思いついたと思ったんやけど。」
月「詠ちゃん?」
詠「人を集めるということはね、それだけ毒も集まるのよ。
毒は水にはならないわ。それが月にも及んだら…。」
月「詠ちゃん…。」
華雄「なら、腕試しをすれば良いのではないか?」
霞「めっさ集まったらどう試すねん!」
華雄「そ、そうか…すまん。」
詠「いえ…出来るわね。」
霞「はぁ?!」
華雄「本当か?!」
詠「えぇ、文官の募集も試験とか面接形式でしょ?
それを数日に分ければ…あとは警邏隊の治安維持にかかってるけど。」
月「それなら大丈夫じゃないかな??
警邏の皆さん、最近すごく頑張ってくださってるし。」
霞「一刀は人たらしやからな~!あれは才能やでホンマ。」
華雄「あぁ、この間も飲み屋の亭主が感謝してたぞ。町が平和になったと。」
霞「一刀がアレやってから大分変わったと思うねん。」
華雄「あの『お掃除大作戦』か?確かに町も綺麗になったし、安全にもなったな。」
詠「ほんと、よく思いつくものね。え~っと。ぶろ…ぶろ…何だっけ?」
月「ぶろ~くんういんど現象?」
詠「それそれ!よく言えるわね。」
月「えへへ…。」
詠「じゃあ、お触れを出してみようかしら。え~っと、『天の御遣いの…』」
結果がこれである。
霞「いや、それにしたって普通は五百人くらいと思うやん。」
華雄「だな。」
詠「それだけみんな、希望に飢えてるのね。」
月「そうだね…。」
一刀「じゃあちょっと行ってくるよ。」
霞「どうするん?」
一刀「ここは素直に…謝る!!」
全員が一斉にコケたのだった。
演習場の城壁に上がり、集まった人々を見渡した。
そこには農民や、賊のような出で立ちのものなど、様々な人がこちらを見上げていた。
一刀「はじめまして、北郷一刀です。天の御遣いなんて呼ばれちゃってます。」
少しばかり笑いが起こる。いい兆候だと思った。
霞「よく通る声やな…。」
華雄「あぁ、いい将になるな。」
月「一刀さん…すごいです!」
一刀「それで…情けない話なんだけど、こんなに集まってくれるとは思わなかったんだ。ありがとう!」
今度は大きな笑いが起きた。
一刀「全員とちゃんとお話が出来るまで、数日かかるかもしれない。
だから、それまで天水の町を楽しんでいってほしい。ここはいい町だよ。警邏隊長の俺が言うんだから間違いない!」
詠「みんないい顔ね…。」
月「うん!本当にすごいよ一刀さん!」
一刀「まぁ、路銀が足りなくなったら大変だから…順番待ちの間は開墾を手伝ってくれると助かるかな。
そうすればご飯は出すよ!俺発祥の天水名物"麻婆豆腐丼"とか"焼き餃子定食"とか"具だくさんおにぎり"とか献立は豊富だ!」
おぉ~、とどよめきが起こる。
詠「(人を掴むのは胃袋から、か。)」
一刀「それじゃあ、下にいる文官さん達のところに並んで、順番に名前を記入していってくれ!
あ、順番だからね?喧嘩したらご飯抜き!!」
そこでどっと笑いが起こると、人々は整然と文官たちの指示に従うのだった。
その後、文官たちに纏められた膨大な書簡に目を通しながら、詠はため息を漏らしていた。
詠「はあ…。」
月「どうしたの、詠ちゃん?」
詠「なんだか、人を導くものとして差を見せつけられた感じよ。」
月「一刀さんすごかったもんね。」
詠「えぇ、悔しいけど完敗よ。」
月「私も一刀さんを見習わなきゃ。」
後日、演習場横の掘っ立て小屋では、日々一刀との面接会が行われていた。
一刀「ごめんね、仕事増やしちゃって。」
霞「えぇよ、一刀の頼みやからどんと来いや。」
詠「そうね。これも月の為になるんだもの。」
一刀「ありがとう、二人とも。」にこにこ
霞「な、なんや照れるやないの///」
詠「ぅっ…ふ、ふんっ///」
??「失礼致します。」
一刀「どうぞ~!」
キッチリした黒い服を来た、美しい黒髪の女性が入ってきた。
年の頃は一刀と同じくらいだろうか。
??「この度はお目通り頂き、誠に有り難うございます。」
一刀「いやいや、こちらこそ来てくれてありがとう。」
??「私は司馬懿。字名を仲達と申します。」
一刀・詠「「はっ??!!」」
霞「なんや、どないしたん?」
詠「い、いや…貴方、今司馬懿って言った?」
司馬懿「えぇ…そう申しましたが…。」
詠「まさか…名門司馬家の人が来るなんて。」
司馬懿「変でしたでしょうか…?」
詠「いえ、ごめんなさい。でもどうして?貴方ならこんな方法じゃなくても、仕官先はいくらでもあるはずじゃ。」
司馬懿「ふふっ、お家の名で言えばそうかもしれません。
でも、わたくしはこの間の演説をお聞きし、北郷一刀様の元で働きたいと思ったのです。」
一刀「うぇっ?!」
司馬懿「天の御遣いがこちらに降りたと聞き、正直申しましてわたくしは眉唾ものだと考えておりました。
ですのでこの度の募集には見聞のために参加いたしました。
まず募集に呼応すると予想される人数を計算すると、必ずや半月ほどはかかるかと。
それならば御遣い様は一体どうやってそれだけの人数を相手に選考をするのか、その数日間毒ともしれない人々をまとめ上げるのか。
わたくしには思いつかない方法でしたわ。まさか、体よく町作りに貢献させた上、胃袋まで抑えてしまうとは。ふふふっ。」
一刀「あ、あはは…。」
司馬懿「あの時、私は貴方様に天を見出しました。ですのでわたくしは今一度お願い申し上げます。貴方のもとで働かせていただけますか?
病弱な体なれど、人並みに知恵は回ると自負しております。どうか、何卒お願い致します。」
一刀「こちらこそ。君に力を貸してもらえたらすごく頼もしいよ!」
司馬懿「有り難うございます。では、わたくしの真名は時暮(しぐれ)と申します。」
一刀「え、いいのかい?」
時暮「勿論です。貴方にならばそう呼ばれとうございます。」
一刀「ありがとう。これから宜しくね、時暮。」
時暮「はい…。それでは、この度はこちらで失礼させて頂きますわ。」
一刀「あぁ、急いでるのかい?」
時暮「いえ、一度実家に戻りお父様に報告させて頂きますので。」
一刀「そうか、気をつけて帰るんだよ?」
時暮「うふふっ、一刀様ったら、わたくしは子供ではございませんよ?それでは。」
一刀「そうでした…あははっ。」
詠「す、凄い人が来たものね…。」
一刀「俺もびっくりしてるよ。でも、心強いに越したことはないしね。」
霞「せやな。ほな、次の人~!」
??「失礼するよ~。」
続いて入ってきたのは真っ赤なボサボサ頭で鋭い目つきの少女だった。
身長は170センチほどだろうか。真っ赤な胸当てを付け、下にはスケバンのようなロングスカートを履いている。
霞「こらまた正反対なのが…。」
詠「…。」
詠は絶句しているようだった。
一刀「来てくれてありがとう。名前を聞かせてもらっていいかな?」
??「あんた、強いの?」
一刀「え?」
??「強ぇのかって聞いてんだよタコ!
アタイは強ぇ奴にしか興味ないね。今回だってアタイの部下どもが気になるってうるせぇから来ただけだ。」
一刀「部下?」
??「あぁ、アタイはここいらで傭兵やってんだ。
で、アンタは強ぇの?」
一刀「あ、あはは…どうなんだろうね…?」
??「あ゛ぁ?!!ハッキリしろやボケコラァ!!」
一刀「ごめんなさい?!」
??「ちっ、いいぜ。
・・・・こうすればわかるっしょ!!!」
詠「ちょっ?!」
霞「なっ?!」
少女は手に持った鎖で一刀に殴りかかった。
??「はれっ?」
少女は気がつくと宙を舞っていた。
??「ぐえっ!!」
一刀「危ないなぁ…でも中々いい腕だ。」
??「てんめぇ…死ねやコラ!!」
一刀「…。」
??「えっ?!どこ行っ…。」
またも宙を舞う少女。
??「がはっ…!!」
受け身を取れずに地に落ちる少女。
呆然と寝そべる少女に一刀は手を差し伸べた。
一刀「修行がたりないな。
でも、もっと君は強くなるよ。」
??「…。(きゅん)」
一刀「??どうしたの??」
??「…ぽ~///」
一刀「ん?お~い。」
??「…はっ!」
凄い速さで立ち上がる少女。顔は髪の色のように真っ赤だった。
高順「あ、アタイの名前は…高順っていいます…///えっと…アタイ孤児なんだ、だからその…字とか無くて。」
一刀「お、おう、そうか…。って高順?!」
高順「ひ、ひゃいっ!!」
一刀「高順ってあの…陥陣営の?!」
高順「知ってくれてるんですか!!??」
一刀「あ、あぁ、名前はね。ハハハ…」
高順「嬉しいです///そ、それで…ですね、よければアタイの真名を…焔(ほむら)っていうんですけどぉ…受け取って欲しいなって…恥ずかしいっ///」
霞「(なんやこの変り身…)」
詠「(見てるこっちが恥ずかしくなるわね…)」
一刀「良いのかい?じゃあ喜んで頂くよ。ありがとう焔。」
焔「~~~~っ///
か、一刀様!!」
一刀「はい?!」
焔「あ、アタイを…貰ってください!!(言っちゃった!言っちゃった~~!!でも、でもぉ~///)」
一刀「(貰ってって…雇って欲しいって事かな?)
あぁ、こちらこそお願いしたいな。これからよろしくね?」
焔「本当ですか?!~~~~っ///
わ、わわわわっ~~///し、失礼します~~~!!」
そう叫ぶと小屋の外へと走っていったのだった。
霞「騒がしいやっちゃな…。」
詠「…。(一刀のバーカ)」
所変わって小屋の外。
そこには陥陣営の数名が集まっていた。
焔「…。」
陥陣営A「どうでした?!頭?!」
陥陣営B「良い金づるになりそうでっか?」
陥陣営C「まぁ、頭が伸しちまったかもしれねぇけどな!」
陥陣営「「「がはははははははっ」」」
一刀『君がほしい…喜んで頂くよ。』キラキラ
焔「きゅんっ…///」
陥陣営「「「え??」」」
陥陣営A「か、頭…今なんて?」
一刀『これからも宜しくね』キラキラ
焔「きゅんきゅん…///」
陥陣営B「は、はい?」
焔「アタイ…」
陥陣営「「「???」」」
焔「お嫁さんになります///」
陥陣営「「「ええええええええええええええええええええええっ?!」」」
数刻後・小屋にて
霞「にしても、一癖も二癖もある奴らばっかやな~。」
詠「そうね。先が思いやられるわ。」
霞「でもおもろそうな奴らやん。さっきの牛輔や孟達なんかはえぇ将になりそうやし。」
詠「えぇ、馬謖も見どころがあると思うわ。」
霞「せやな~。一刀の隊が楽しみやわ!」
一刀「(やっぱり凄い人はわかるんだな…。ていうか埋もれすぎでしょ。どっかのゲームでもこんなに在野武将美味しくないよ?!)」
詠「さて、次が今日の分の最後ね?」
??「失礼します。」
入ってきたのは黒いマントで全身を包んだ美少年だった。
身長は175センチほどだろうか。左目の辺りを髪で隠し、物静かな印象を受ける。
李厳「私は李厳、字名を正方と申します。」
一刀「来てくれてありがとう。遠慮せずに座って。(ここに来てまた名将が…。)」
李厳「はい。
この度は是非、貴方方のお力になれればと馳せ参じた次第でございます。」
一刀「嬉しいよ。戦の経験はあるのかい?」
李厳「いえ…。」
一刀「ん?どうしたの?」
李厳「…私は、生来幼き頃より殺しを生業としておりました。」
一刀「な、なんと…。」
李厳「だからでしょうか。貴方の光に魅せられ、気がつけば志願しておりました。」
一刀「俺って光ってるの?マジで?」
李厳「私にはそう見えます。眩しいほどに。」
一刀「そ、そっか…ありがとう。」
霞「殺しを生業って言うとったけど、強いん?」
李厳「そうですね…。では張遼様、お座りになっている椅子の足を御覧ください。」
見てみると椅子の足にはクナイが一本に刺さっていた。
霞「な、なんやこれ!??」
詠「いつの間に?!」
一刀「入ってきた時だよ。」
李厳「っ…?!
見えてらしたのですか?」
一刀「うん。」
李厳「やはり素晴らしい実力をお持ちだ…。
是非、貴方様の部下としてお控えできれば…」
詠「ちょっと待って。」
李厳「はい。」
詠「コイツはあまりにも危険だわ。もしその殺しの腕が月に向いたら?
近くに置くことは絶対に出来ないわ。」
李厳「っ…。そう、ですか。
仕方がありません。では、失礼させて頂きます。お手間を取らせてしまい申し訳ございません。
(やはり…ここでも忌み嫌われるのですね。分かっていたこと。慣れていること。
出来ることならば我が生涯に一度…一度でいいから光に身を委ねたかった。)」
一刀「待った待った!」
詠「一刀?!」
一刀「俺は君が欲しいよ。」
李厳「なっ…?!」
詠「一刀!わかってるの?!月に危険が及ぶのは…」
一刀「大丈夫だよ。」
詠「どうして!」
一刀「殺しが生業だったってだけでしょ?別に殺人鬼じゃない。」
詠「それは…そうだけど…」
一刀「李厳さん、君はきっと自分の考えを人に伝えるのが苦手なんだね。」
李厳「ど、どうして…。」
一刀「ずっと悲しそうな目をしてるのにおクビにも出さないじゃない。」
李厳「宜しいのですか?…伝えても。」
一刀「もちろん。」にこっ
李厳「私も光の側へ…お日様のもとへ、いかせてください。…お願いします!お願い…します!」
そう言うと、ポロポロと涙をこぼした。
詠「あっ…。」
霞「詠の負けやな。」
一刀「李厳さん、たまにはいっぱい泣くのも大事だよ。
泣き止んだらいっぱい笑おう。これから宜しくね?」
李厳「はい…!ありがとう…ございます!
私の真名は心(しん)と申します。どうか、お受け取り下さい。」
一刀「ありがとう、心。」
詠「ごめんなさい、私…。」
心「良いのです。誰もが思うことですから。貴方様は悪くございません。」
詠「…ありがとう。」
一刀「さぁ、湿っぽくなっちゃったから飲みに行こう!
今日の仕事はもう終わりだしね!心も行くぞ、ほら!」
霞「お~っ!さっすが一刀、わかっとるな~!」
心「わ、私もですか?!」
一刀「当たり前だろ?」
心「…。(来て、良かったな。)」
一刀「男同士、仲良くしようぜ!」
心「…。」ピシっ
一刀「ん?どうした?」
心「男…同士…?」
一刀「あぁ、ほら、行こうぜ。」
心「…はい。(え、私…これからどう接すれば…?)」
時暮「爺や、お父様に火急の手紙を。」
爺や「はっ。してお嬢様、どういったご内容で?」
時暮「文面はこうです。
『わたしの旦那様を見つけました!キャピッ』」
爺や「…大旦那様…おいたわしや…。」
焔「んふふふふ~、君がほしい~だって///
あ、アタイ困っちゃう~///」
陥陣営「「「か、頭…」」」
焔「あ゛ぁ?!何見てんだコラァ?!」
陥陣営「「「この温度差理不尽だ?!」」」
焔「にゅふふふ~…一刀様~///」
陥陣営「「「(可愛いから…いっか)」」」
一刀「ほらほら、男ならグイッと行っとけグイッと!」
心「えっと私…(どうすれば良いんですか~?!)」
数日後、北郷隊は無事結成した。
副長には司馬懿・高順らを据え、別働隊隊長に李厳を。
天にその存在を示すように、彼らは盾を打ち鳴らした。
その頃、洛陽では---
張譲「董卓の小娘の元に天の御遣いとやらが現れたそうじゃ。なんともけしからん!」
趙忠「ホホ、これは陛下にご報告差し上げねば。」
段珪「天は二つに非ず。陛下の及び腰もこれまでよ。呼び寄せて始末しようぞ。」
張恭「どちらを…かな?ふふふふふっ」
劉宏「御遣い様、どうか…この偽りの天の願いをお聞き届けください。
我が子を、我が子をどうか…!我が身などどう滅ぼうとも構いません、どうか我が子を蔓延る毒よりお救いください…!」
劉弁「zzz…。」
劉協「ん…ははうえ…zzz」
ギィィ
劉宏「ひっ…!」
李儒「おやおや陛下、起きておいででしたか。ひひひひひっ。」
劉宏「…!」
毒は確かに、侵食していた。
今回もお読み頂き、誠に有り難うございます。
オリキャラの登場シーンでした。
皆さんの好きな武将たちは登場したでしょうか。
数話後に、キャラ紹介を投稿しますので、そちらもお読みいただければと思います。
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オリキャラが登場・登場・登場です!
※この作品の趣旨として、あまり戦闘描写などはありません。むしろ、いかに馬鹿っぽく敵を倒すかが肝ですね。あくまでコメディー路線ですので…。